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コロナ渦の東京五輪のマーケットリサーチ【外国の意識の変化】

 我々ブレインパッドはビッグデータを解析し、ビジネスや社会に役立てていくことをビジョンとして掲げています。
その対象は、既存の企業内にあるデータに限らず膨大な量が増え続けるソーシャルメディア上のデータも含まれます。
当社はこの領域を、世界最大手の一社であるBrandwatch社とのパートナーシップで進めているのですが、いわゆる「ソーシャル・リスニング」と言われるソーシャルメディア上に残された生活者の声を集めて分析する行為だけでは分からないこともあり、課題となっていました。
そこでBrandwatch社では、能動的にアンケートを掛けることで、ソーシャルリスニングで得た気づきを確認し、確信に変えることがが可能になる新しいサーベイ機能を新サービスとして開発し(Qriouslyといいます)、海外では既に提供が開始されています。

 当社としても、これを日本で紹介する準備として、その活用ノウハウ蓄積に取り組んでいます。

先日紹介した「新型コロナウイルスに伴う活動自粛に関するマーケットリサーチ ~自粛生活が引き起こす人々の意識の変化~」もその一環です。
前回は、調査対象を日本に絞って行いましたが、今回は、逆に海外の声のみを集めるというチャレンジをしました。アンケートという手段を使うことで、今回の中国のようにSNSでの生活者の声が集め難い(あるいはその声に偏りが想定される)エリアでの一定量の声を取れるというメリットもあります。

 せっかくやる以上、日本にとって参考になる調査になればと思い、延期されたオリパラの来年開催にむけて、「沈静化した日本の新型コロナの感染状況拡大状況が海外に伝わっているのか?」という問題意識で取り組んだのですが、生憎、調査実施が日本の感染再拡大の時期と重なってしまい調査結果は評価が難しいものにはなってしまいました。
ただ、それでも一定の示唆はあるかと思い公開させていただきます。

 

 

 
 

世界における新型コロナの影響

 新型コロナウイルスの感染が拡大し、先進国から新興国、途上国にまで広がっています。多くの国々が入国制限を緩和するなか、これから感染のピークを迎えようとしている国も多く、依然として不透明な状況です。

 大規模イベントの開催については、感染状況に応じ、中止、延期、規模縮小の措置がとられ、東京五輪も2021年に延期されました。1年での再準備には、感染対策、競技体制の調整、選手・観客の安全、スポンサーの意向などを考慮する必要があります。政治的・経済的にもインパクトもある、東京五輪という重要なスポーツの祭典の開催に対して多くの課題があります。

 オリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典として、その目的は世界平和と国家間の相互理解の促進です。東京五輪についても、この目的にそって、海外の意識や意見を理解することが、今後の決定を下すために重要なポイントになります。今回の調査では、GDPも総人口も日本より大きいアメリカと中国という二つの大国に焦点を充て、意識調査を実施しました。 

 

Brandwatch Qriouslyについて

 マーケットリサーチではBrandwatch Qriously を活用しました(※2)

 この仕組みはデジタル時代の市場調査で、スマートフォンのアプリ内の広告スペースを使用して調査を行うことで、世界20億人の潜在的な回答者にリーチでき、以下のような特徴があります。

  • 「広告ネットワークを介して、リアルタイムで調査を実施し、結果を確認」
  • 「アプリ広告を介して調査し入手困難な市場・国からもデータを収集が可能」
  • 「回答へのインセンティブが発生しないため、調査結果に偏りがでない」  
  • 「回答者のエリアをから回答内容の関係性などの調査が簡単に行える」

 ※2:現在、Qriouslyサービスの提供はおこなっておりません。

 

Brandwatch Qriouslyの調査収集方法について

 Qriouslyでは、リアルタイムに回答を収集することができます。以下は、中国での調査をモニタリングしている動画となります。

 回答を求める広告がアプリに表示されていることが黄色のマークで表示され、回答済みは赤色のマークになり、濃いほど回答者が多くなっています。
このように、中国では、北京、香港、上海、成都のエリアが多くなっていることが分かり、収集後はエリア別での集計も可能です。

 

アンケートの内容について

Brandwatch Qriouslyのサーベイについては以下のような条件で行われました。

  • 対象:18歳以上
  • 場所:アメリカ、中国
  • サンプル数:2051(※3)
  • 設問数10問(うち3問は年齢、性別、職業などの属性に関する質問)
  • 期間は2020年7月2日~7月20日までの結果です。

Qriouslyでは機能として、米国国勢調査局のデータベース(International Data Base)を用い、性別と年齢からアンケート結果のウェイトバックを行う事ができます。今回はこの機能を使いアメリカ、及び中国全体の推定を行いました。

このアンケートの収集中に、アメリカ・日本ともに感染が拡大し、アメリカや東京でも再度新規感染者が増加し、状況が大きく変化しています。今回はそのような状況の中でアンケートを収集し、アメリカと中国における日本や東京オリンピックに対する印象を、Brandwatch Qriouslyを活用して調査を行いました。

※3 Qriouslyは個人が特定できる情報の収集などは行っておりません。

 

アンケート結果

今回のアンケートを行った各設問の回答は以下のような内容となります。

 

質問:日本全体の新型コロナウィルスの感染状況についてあなたの認識を教えてください。

日本の死亡率や感染率は、アジア圏で比較してみると最も低いわけではないですが、感染者数の絶対数は先進国の中でも少なくなっています。3月の頃には「東京は第2のニューヨークになる」 と言われましたが、それほど劇的な感染者・死者数は増加せず、この状況は「日本モデル」が海外からも注目されているという報道が流れていました。

そのような状況において、この両国からみる日本のパンデミックの深刻さのイメージは以下のようになっています。

この結果を見ると両国とも「非常に深刻(7)」という回答がアメリカで、37.9%、中国で29.2% と最も多くなっています。「深刻ではない(1~2)」の回答は、アメリカが16.9%、中国が27.4%であることから、中国よりもアメリカの方が日本の感染状況を深刻に考えている傾向にあると思われます。アンケート収集期間中にも日々、7万人以上の新規感染者が発生しているアメリカ国民の心理的な影響があるとも考えらます。日本は新規感染者数が日々500名前後であったとしてもかなり深刻な印象を持たれているのかもしれません。

日本の感染状況を把握するための情報量や日本に対するイメージの差が、影響していると考えられ、年齢・世代別にみると以下のような結果となりました。

年齢・世代別に確認するとアメリカ及び中国は、共に高齢者の方が日本の感染状況を深刻に考えている結果がでています。

以下のグラフは、55~64歳と65歳以上に焦点をあてています。

 

 

 

 

 

 

中国の高齢者においては、「深刻ではない(1)」と「非常に深刻(7)」の2極化されています。アメリカでは、世代別で似たような傾向がありますが、中国では世代別にその印象が大きく異なっており、認識の違いがあるようです。

 

質問:主に何から日本の感染状況の情報を取得しましたか?

現在はメディアが多様化する中で、様々な媒体から情報を得ることができますが、両国が日本の新型コロナの感染状況に関する情報の入手先を調査しました。

 

 

 

 

 

 

 

アメリカでは36.2%がテレビから情報収集しています。中国ではテレビが突出してはおらずソーシャルメディア、オンラインニュースからも情報を収集していることがわかります。「知らない」の回答は、中国よりアメリカの方が多くなっていることから、中国の方が、日本の情報をより多く収集し興味を持っていると思われます。

以下のグラフではこの情報の入手先と、感染状況の深刻さを掛け合わせて見ました。

 

 

 

 

 

 

両国とも、感染状況を深刻と捉えているのは、テレビ、新聞/雑誌、政府・研究機関からの発表から情報を得た層であると考えられます。感染状況を深刻ではないと捉えている層は、ソーシャルメディアやネットニュースから情報を得ていました。

テレビのような情報ソースは状況を劇的に伝えたり、報道機関の報道姿勢などの影響を受けている可能性があります。逆に深刻ではないと考えている人は、ソーシャルメディアのようなフィルターを通さない情報を直接目にしたり、ネットニュースは複数のサイトへのアクセスが簡易的なため、多面的に情報を収集して、比較されていると考えられます。

 

質問:東京五輪は2021年に開催して欲しい?

新型コロナウィルスの感染収束が見通せないなか、東京五輪は来年の夏に延期が決定しました。これにより、先日行われた東京都知事選では、東京五輪の開催の是非を巡り開催、再延期、中止が論点としていました。

朝日新聞社が6月下旬に東京都民を対象に実施した世論調査(電話)で、来年夏に延期された東京五輪開催の是非について、都民の意見を聞くと、6割が「再延期または中止」を望んでいるという世論調査の結果が出ていました。

この都民向けの質問に対し、アメリカ、中国における開催の是非を質問した結果が以下となります。

 

 

 

 

 

 

両国とも、半数近くの回答者が開催を望んでいることが分かりました。また、「開催してほしくない」と答えた回答者は1~2割であったため、基本的に「開催してほしい」という意見が多いことが分かります。

 

質問:東京五輪のための日本への旅行に興味はありますか

東京五輪の経済効果は30兆円を超えるとも言われ、特にインバウンド消費を狙う企業にとっては、開催の動向が気になるところです。

今回とは異なる調査機関のため、直接的な比較はできませんが、株式会社日本政策投資銀行(DBJ)と公益財団法人日本交通公社(JTBF)の共同調査の「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(2019年度版)」では、国・地域別での東京2020大会の訪日観戦意欲を調査されていました。

この調査に対し、弊社がBrandwatch Qriouslyで調査したアメリカと中国における現在の訪日観戦意欲は以下のようになりました。

 

 

 

 

 

 

 

訪日観戦意欲に関する「はい」「多分」の回答者は、アメリカでは21.0%、中国では58.4%となりました。前述のように異なる調査の結果であるため、直接的な比較は出来ませんが、アメリカの下落が著しいものになっているのかもしれません。

 

質問:日本で行う東京五輪は開催するにあたって配慮すべきことはなんですか?

東京五輪についてはアメリカと中国の約半数が開催を望んでいる一方で、訪日観戦に前向きな回答はアメリカは約20%、中国は約60%の結果となりました。

東京五輪の開催については、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長は、東京オリンピックの開催について無観客での開催に否定的な意見を示しております。その様な中で、東京五輪の開催にあたり配慮すべきことが何かを調査した結果が以下となります。 

 

 

 

 

 

 

両国とも、選手の感染対策、観客の感染対策、混雑の解消などが上位に出てくる結果となりました。開催地の日本としては、感染対策(選手と観客の両方面で)を配慮すべきだということが伺えます。アメリカでは「現地入りする選手の感染対策」の回答が多く、中国は「観客の感染対策」の回答が多くなっています。これは前述の「訪日観戦意欲」の調査結果から、「選手を送り込む意識のアメリカ」、「自分が観戦しに行く中国」と考えられて納得がいきます。

 

質問:2021年に日本に少しでも旅行したいと思いますか?(訪日観戦について、回答が いいえ を回答した方のみに表示されます。)

新型コロナウイルスのワクチンの早期完成を目指して開発が進んでいますが、臨床試験の完了までには時間がかかる見通しです。しかし、各国でとられていた渡航制限措置が、緩和の方向へと動き始めています。必ずしも東京五輪の観戦を目的としていなくても、普通の旅行で日本に来る意識があるのかを調査しました。

 

 

 

 

 

やはり、東京五輪の訪日観戦で「いいえ」と答えた層は、一般的な日本への旅行についても、アメリカは約92.2%、中国は82.8% がその意向がありませんでした。そもそも日本に旅行をするという意識が高い層がどの程度までいるかという点はありますが、割合から見ると日本の旅行に対しては厳しい目が向けられているかもしれません。

しかし人口を考えると、アメリカは約3.29億人、中国は約14.41億人(Wikipediaより)となっており、このような状況でも絶対数を考えるとそれなりの人数がいると思われます。

 

質問:2021年 日本に旅行をしたとしたら何がしたいですか?

前述の通り、割合としては少なくても、日本の旅行について興味を持っている層は絶対数としては多く、新型コロナの状況によってはさらなるインバウンド需要が見込めるかもしれません。その際に、日本への旅行に期待することは何かを聞いてみました。

 

 

 

 

 

両国とも、日本食や日本のカルチャーに触れることに興味を示しています。中国は「グルメ・食事」「温泉・スパ」「ショッピング」など、具体的な活動をイメージし、楽しみにしています。しかし、アメリカは「観光」「特に決まっていない」という層が多くなっています。このことからも、アメリカでは日本での観光についてのイメージが漠然としており、具体的な情報が正しく届いていないようにも思われます。このような状況の国に日本の魅力や正しい情報を発信・広報を積極的にしていくべきだと考えられます。

”Withコロナ時代”に向けた訪日インバウンドを考える

これまで日本は、官民を挙げてインバウンド市場の拡大に注力してきました。2016年から訪日外国人数は年々増加し、2020年の東京五輪には更に増加すると期待が高まっていました。またポスト五輪では、リピーターとしての訪日外国人が増えるのか、それとも熱が冷めて減少してしまうのか議論されてきました。

今回の調査結果では、少なくとも両国共に東京五輪の開催を望んでいることが分かりました。また来日観戦についてアメリカは消極的であり、逆に中国は積極的な回答でした。その理由は、コロナウィルスの感染に関する認識の違いではないかと考えられます。日本の感染状況を深刻だと捉えている層はテレビ・新聞/雑誌などからの情報獲得が多くなっており、この認識の違いの一つの要因かもしれません。

オリンピック・パラリンピックは単なるスポーツの祭典という位置づけだけではなく、海外からの日本に対する興味・関心を向けさせる良い機会です。そのオリンピック・パラリンピックの放送の主たる媒体はテレビであり、このようなメディアを通じて日本の安全性・魅力を認識してもらうのも効果的かもしれません。このような広報活動も訪日客を増やすための良い方法とも考えらえます。

国や媒体によって情報のとらわれ方が異なるため、ペイドメディア(広告)やアーンドメディア(ソーシャル)のどちらでも正しい情報を発信していく必要があることがわかりました。東京五輪及び日本の安全性に関する広報を行い、日本の状況について各国に正しい理解を発信することが、”Withコロナ”・”Afterコロナ”時代のインバウンド回復に繋がると思います。

ブレインパッドとBrandwatchは、リアルタイムのサーベイによる情報収集と、ソーシャルメディアの膨大なデータ解析により、重要な意思決定のための情報提供を今後も行っていきたいと考えております。
 
 
 

 

 

マーケティングリサーチツールBrandwatchについて

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