「市場調査のやり方って、どうやるの?」
このような疑問をお持ちかも知れません。
新商品・サービスの開発や改善には、的確な市場調査が欠かせません。
しかし、市場調査の手法は多岐にわたるため、何から手をつけてよいかわからないのが実情ではないでしょうか。
そこで本記事では、市場調査の目的・手法・進め方を体系的に解説します。
最後までお読みいただくと、調査のプロセス全体が把握でき、自社に最適な手法を選択して、効果的に実践できるようになります。
市場調査のスキルを身につけ、企画立案や施策実行の成功確率を高めるために、お役立てください。
1. 初心者でもわかる市場調査の基本
まずは「初めて市場調査に取り組む」という方にもわかりやすく、基本事項から解説します。
2.マーケティングリサーチとの違い
3.市場調査でわかること
4.市場調査の費用と期間の目安
1-1. 市場調査とは?定義と目的
市場調査とは、企業が商品開発や販売戦略を決定するために、市場の動向や顧客ニーズを収集・分析することです。
【市場調査の主要な目的】
・商品開発:売れる新商品のアイデアを見つけ、市場性を検証する目的で行います。ターゲット顧客のニーズを深く理解し、それを満たす商品コンセプトを創出します。
・販売戦略の策定:商品の価格設定、プロモーション施策、販売チャネルの選定など、効果的なマーケティング戦略を立案するために市場調査を活用します。適切な戦略により、販売機会の最大化を図ります。
・競合分析:競合他社の動向を調査し、自社の強みと弱みを把握します。差別化要因を明確にし、競争優位性を築くための施策を検討します。
市場調査を通じて、企業は変化する市場環境や顧客ニーズに迅速に対応できます。データに基づく意思決定により、リスクを最小限に抑えつつ、事業の成長を加速できるでしょう。
1-2. マーケティングリサーチとの違い
市場調査とマーケティングリサーチは混同されがちですが、マーケティングリサーチのほうが包括的な概念であり、市場調査はその一部に位置付けられます。
【市場調査とマーケティングリサーチの違い】
・対象範囲:市場調査は市場の動向や顧客ニーズの把握に重点を置きます。一方、マーケティングリサーチは、商品開発からプロモーション、価格設定まで、マーケティング活動全般を対象とします。
・時間軸:マーケティングリサーチは、短期的な施策の効果測定から長期戦略の立案まで幅広く活用されます。市場調査は、中長期的な市場環境の変化予測など、戦略的意思決定に用いられることが多くなります。
・活用方法:マーケティングリサーチは、個々の施策の最適化からマーケティング戦略の策定まで、活用シーンが多岐に渡ります。市場調査は、経営戦略の意思決定などに反映されるケースが多いでしょう。
このように、市場調査は市場環境の理解に特化している点が特徴的です。両者を適切に組み合わせれば、マーケティング活動全体の有効性を高められます。
1-3. 市場調査でわかること
市場調査を行うと、自社を取り巻く市場環境を多面的に把握できます。具体的には、以下のような情報を入手できます。
【市場調査で得られる情報の例】
・市場規模:商品・サービスの潜在的な需要を金額や数量で把握できます。市場の成長性を見極め、事業機会を探るために有用です。
・購買行動:顧客の意思決定プロセス・情報収集の方法・購入頻度・利用シーンなどを調査します。顧客の行動原理を解明し、効果的なアプローチ方法を編み出すために役立ちます。
・競合動向:競合他社の市場シェア・製品特性・価格帯・販売チャネル・顧客の評価などを分析します。自社の立ち位置を客観的に把握し、差別化のポイントを見出すために活用します。
・トレンド:新たな価値観の台頭・技術革新・規制環境の変化など、市場の潮流をいち早くキャッチアップします。先を見据えた商品開発や事業展開につなげていきます。
市場調査により得られたデータがあれば、自社の強みを活かした商品開発、的確なターゲティング、競合との差別化など、戦略的なマーケティング意思決定が可能です。
1-4. 市場調査の費用と期間の目安
市場調査を実施する際には費用と期間を見積もることが重要です。調査の規模や手法によって大きく異なりますが、一般的な相場感は以下のとおりです。
【市場調査の費用感】
調査手法 | 概算費用 |
---|---|
アンケート調査(サンプル数1,000件) | 50万円~150万円程度 |
インタビュー調査(対象者数10名) | 30万円~80万円程度 |
ホームユーステスト(サンプル数50件) | 80万円~200万円程度 |
デスクリサーチ(公開情報の収集・分析) | 10万円~50万円程度 |
・調査目的:新規市場参入、競合分析、顧客満足度調査など
・調査規模:サンプル数、対象者数(多いほど高額になる)
・調査手法:アンケート調査、インタビュー調査、グループインタビューなど
・調査対象:消費者、企業、専門家など(接触が難しい対象ほど高額になる)
・調査地域:国内(例:全国、首都圏)、海外(例:アメリカ、東南アジア)など
・分析レベル:基本的な集計、複雑な統計分析など
【市場調査の所要期間】
調査手法 | 概算期間 |
---|---|
アンケート調査 | 準備期間2~4週間、実査期間1~2週間、分析期間1~2週間 |
インタビュー調査 | 準備期間2~4週間、実査期間2~4週間、分析期間2~3週間 |
ホームユーステスト | 準備期間1~2カ月、実査期間1~2カ月、分析期間2~3週間 |
デスクリサーチ | 情報収集1~2週間、分析・レポート作成1~2週間 |
注意点として、上記はあくまでも一般的な目安であり、実際の費用や期間は、個々のプロジェクトによって大きく異なります。社内リソースで対応できる範囲を見極めつつ、必要に応じて複数の会社から見積もりを取り、比較検討することをおすすめします。
2. 目的別に使い分ける13種の調査手法
続いて、市場調査の手法について、見ていきましょう。
市場調査には、さまざまな手法が存在します。調査目的や対象に合わせて、適切な手法を選択することが重要です。ここでは、代表的な13種の市場調査手法を目的別に解説します。
2.ソーシャルリスニング:生活者の声をリアルタイムに捉える
3.アンケート調査:顧客の意見を定量的に把握する
4.会場調査(CLT):試作品への反応を直接確認する
5.ホームユーステスト(HUT):長期間の試用で商品の評価を得る
6.郵送調査:居住地が限定された人を対象とする
7.電話調査:直接対話で回答を得る
8.インタビュー調査:顧客の深層心理を探る
9.グループインタビュー調査:複数人の意見から多様なインサイトを得る
10.行動観察調査:顧客の無意識の行動を捉える
11.覆面調査(ミステリーショッパー):顧客視点でサービスを評価する
12.訪問調査:顧客の生活環境も含めて観察する
13.デスクリサーチ:公開情報を収集・分析する
2-1. ネットリサーチ:多くの意見を効率的に収集する
ネットリサーチは、インターネット上でアンケートやインタビューを行う手法です。調査会社のモニターを活用し、短期間で大規模なサンプルを収集できるのが特徴です。
【ネットリサーチの特徴】
・迅速性:調査実施から集計まで、一連の工程をスピーディーに進められます。リアルタイムの市場把握に適しています。
・効率性:全国の対象者にアプローチ可能で、1件あたりの単価を抑えられます。コストを重視する案件に最適です。
・回答品質:インターネット調査の特性上、回答者の属性や回答の真剣度にばらつきが出ることがあります。調査結果は傾向を把握するためのものとして扱い、ほかの調査手法と組み合わせて精度を高めるとよいでしょう。
ネットリサーチは、新商品のコンセプト評価や広告表現の好感度調査など、定量的なデータ収集に活用されるケースがよくあります。
ネットリサーチで全体感をつかんだうえで、精度の高い調査手法と組み合わせるのが適切です。
2-2. ソーシャルリスニング:生活者の声をリアルタイムに捉える
ソーシャルリスニングは、SNSをはじめとしたソーシャルメディア上の発言を収集・分析する手法です。リアルタイムに生活者の声を拾い上げ、市場の反応を素早く把握できます。
【ソーシャルリスニングの活用法】
・評判分析:自社製品やサービスに対する評価や要望、不満の声など、ユーザーの生の反応をダイレクトに感知できます。潜在的な課題の発見や、クレーム対応に役立ちます。
・トレンド予測:ソーシャルメディア上で話題になっているキーワードを分析すれば、新たなトレンドの兆しをいち早くキャッチできます。先を見据えた商品開発や、プロモーション施策の立案に役立ちます。
・インフルエンサー発掘:その商品カテゴリで影響力を持つインフルエンサーを特定します。SNS上の口コミの波及構造を見える化し、効果的な情報拡散戦略を描くために役立ちます。
ソーシャルデータは膨大かつ非構造的であるため、高度な分析技術やツールの活用が不可欠です。収集したデータの解釈次第では、恣意的な結論に陥るリスクもあるため、注意したいところです。
おすすめしたいのは、ブレインパッドの「Brandwatch」の活用です。
Brandwatchは、世界中のソーシャルメディアやオンライン上の膨大なデータを収集・分析し、企業のブランド戦略やマーケティング活動を支援するソーシャルリスニングとソーシャルアナリティクスの両方を兼ね備えたツールです。
詳しくは、以下のリンクより資料をダウンロードできます。
2-3. アンケート調査:顧客の意見を定量的に把握する
アンケート調査は、質問票を用いて大規模なサンプルから回答を得る手法です。製品の利用実態や満足度、ニーズなど、顧客の意見を定量的に把握できます。
※ネットリサーチの中にも含まれますが、わかりやすさを優先してここでは個別に取り上げます。
【アンケート調査の留意点】
・対象者の選定:調査目的に合致した条件(性別・年齢・利用経験など)で、適切な対象者をスクリーニングすることが重要です。母集団の代表性を担保するサンプリング設計が求められます。
・設問設計:選択肢の設定、言葉遣い、設問順序など、回答に影響を与える要素が数多くあります。仮説検証型のアプローチで、ロジカルに設問を組み立てましょう。
・インセンティブ:謝礼の設定は、回答意欲を大きく左右します。調査の所要時間や難易度に見合った報酬を用意することが大切です。
アンケート調査は、定期的な顧客満足度調査や、商品別の利用実態調査など、大規模な定量調査に適しています。統計的な分析を行うためにも、一定のサンプル数を集めることが重要となります。
2-4. 会場調査(CLT):試作品への反応を直接確認する
会場調査は、特定の会場に対象者を集め、試作品の評価や意見交換を行う手法です。実際の利用場面を想定したリアリティのある反応を引き出せるのが強みです。
【会場調査の特徴】
・没入感:会場の設営により、店頭での陳列イメージや使用感を具体的に再現できます。モニターの購買意欲を刺激し、臨場感のあるフィードバックが得られます。
・インタラクティブ性:参加者同士の議論や意見交換を通じて、多面的な評価を引き出せます。モデレーター(進行役)がその場で掘り下げて的確な質問を投げかけることで、深いインサイトを獲得できます。
・即時性:試作品に対する率直な反応や、利用シーンごとの課題感などを、リアルタイムで把握できます。その場で改善案を練るなど、機動的な対応が可能です。
会場調査は、パッケージデザインの評価、店頭販促物の選定、ユーザビリティの検証など、商品の具体的な仕様を決定する局面で活用されます。
一方で実施コストや会場確保の手間など、実務的な負荷にも留意が必要です。
2-5. ホームユーステスト(HUT):長期間の試用で商品の評価を得る
ホームユーステストは、対象者の自宅で実際に製品を使用してもらい、一定期間後に評価を聴取する手法です。日常生活に溶け込んだ状態での率直な反応を引き出せる点が魅力です。
【ホームユーステストのメリット】
・自然な利用環境:普段の生活リズムの中で製品を使用してもらえるため、リアルな評価が期待できます。モニターの自由な意見を引き出しやすくなります。
・長期的な観察:数日~数週間にわたり継続的に使用することによって、習慣化の度合いや満足度の変化を時系列で追跡できます。商品改良の重要ポイントを見出しやすいでしょう。
・他者影響の把握:家族や友人など、周囲の反応もヒアリングできます。口コミの広がり方や、購入決定に影響を及ぼす要因の理解が深まります。
ホームユーステストは、消耗品や家電など、日常的に使用される製品の評価に適しています。一方で、対象者の選定基準の設計や、モニタリングの継続管理など、運用面での工夫が求められます。
2-6. 郵送調査:居住地が限定された人を対象とする
郵送調査は、質問票を郵便で送付し、回答を得る手法です。インターネット環境が整っていない高齢者層や居住地が限定された対象者への調査に効果的です。
※前述のアンケート調査と重複する部分もありますが、ここでは個別に解説します。
【郵送調査の留意点】
・回収率:調査票の返送には一定の手間がかかるため、回収率が低くなる傾向にあります。期限の明確化や謝礼の提供など、回収率を高める工夫が必要です。
・回答品質:自記式のため、設問の誤読や回答漏れが発生しやすい点には注意が必要です。わかりやすい設問表現を心がけましょう。
・費用対効果:調査票の印刷・発送にコストと手間がかかります。大規模調査には向きませんが、狙いを定めた少数サンプルの把握に適しています。
地域限定の商品ニーズの把握や、高齢者向けサービスの利用実態調査など、対象者の属性に合わせた調査設計がポイントとなります。回収データの精度管理にも十分な配慮が求められます。
2-7. 電話調査:直接対話で回答を得る
電話調査は、調査員が電話で対象者に質問し、回答を聴取する手法です。音声を通じた直接の対話により、リアリティのある回答を得られるのが特徴です。
※前述のアンケート調査と重複する部分もありますが、ここでは個別に解説します。
【電話調査の活用シーン】
・即応性:新製品発売直後の反応調査など、緊急の課題に対して迅速にデータを収集する必要がある場合に有効です。 スピード重視の案件に適しています。
・深堀り:曖昧な回答に対して、その場で掘り下げ質問ができるのが強みです。定型の選択肢では把握しきれない本音の部分まで探索できます。
・サンプリングの柔軟性:電話帳や顧客リストを母集団として、属性に応じたサンプリングが可能です。少数の対象者に効率的にアプローチできる点も魅力です。
一方で、着信拒否の増加やプライバシー意識の高まりから、調査環境は年々厳しくなっています。倫理規程の遵守や、オペレーターの教育・管理など、運用体制の整備が欠かせません。
2-8. インタビュー調査:顧客の深層心理を探る
インタビュー調査は、対象者と1対1で対話し、製品体験や購買心理を深く掘り下げる手法です。数値化しづらい定性的な反応を引き出し、インサイトを獲得するのが狙いです。
【インタビュー調査の進め方】
・信頼関係の構築:対象者との信頼関係を築くことがまず重要です。自然な会話の流れのなかで、本音を引き出すことを心がけます。
・柔軟な質問設計:大まかな質問の流れを用意しつつ、状況に応じて柔軟に質問を変化させます。対象者の反応を見ながら、ダイナミックに深掘りしていきます。
・仮説と発見の融合:事前の仮説をもとに、それを裏付ける具体的なエピソードを聴取します。一方で、仮説に反する意外な事実が判明する可能性もあるため、先入観にとらわれすぎないことも大切です。
インタビュー調査は、製品コンセプトの開発や、ブランド戦略の立案など、深い洞察が求められる局面で威力を発揮します。高度なスキルを要するため、ベテランのインタビュアーを起用することが推奨されます。
2-9. グループインタビュー調査:複数人の意見から多様なインサイトを得る
グループインタビュー(グループディスカッション)は、複数の対象者を一堂に集め、互いの意見を引き出し合う手法です。単独インタビューでは得られない相乗効果による発見が期待できます。
【グループインタビューの特徴】
・多様性:参加者同士の刺激により、思いもよらない意見が飛び出すことがあります。個人の回答の殻を破り、本音の部分に迫れる可能性があります。
・本音の引き出し:モデレーター(進行役)が議論をうまく進行させることで、参加者は自分の意見を自由に表現しやすくなります。ほかの参加者の意見に触発され、より深い洞察が得られることもあります。
・コンセンサス形成:議論を通じて、参加者間である種の合意形成がなされるケースがあります。市場の価値観やトレンドの兆しを読み取る手がかりとなり得ます。
グループインタビューは、新商品のネーミングの評価や、広告コンセプトの選定など、複数のアイデアを比較検討する場面で活用されるケースがよくあります。
モデレーターには、議論を活性化しつつ、脱線を防ぐ高度なファシリテーション能力が求められます。
2-10. 行動観察調査:顧客の無意識の行動を捉える
行動観察調査は、顧客の実際の行動を客観的に観察・記録する手法です。アンケートなどでは把握しづらい無意識の行動パターンを捉えます。
【行動観察調査の種類】
・店頭観察:購買行動や商品選択の基準など、売り場での具体的な行動を分析します。陳列や販促施策の効果検証に役立ちます。
・他店舗観察:競合他社の店舗における顧客の行動を観察し、自社との差異を把握します。売場レイアウトや接客方法の工夫を参考にできます。
・ユーザー観察:自宅などの私的空間での製品の使用実態を観察します。使い勝手の評価や、新たな活用法の発見など、示唆に富む結果が得られます。
映像や録音による記録、専用アプリでの行動ログの取得など、データ収集の手法は多岐にわたります。行動観察の専門性を有するリサーチャーなど、経験豊富な調査員の起用が有効です。
2-11. 覆面調査(ミステリーショッパー):顧客視点でサービスを評価する
覆面調査は、調査員が一般客に扮して店舗を訪問し、サービス品質を評価する手法です。利用者の立場から見た課題や改善点を浮き彫りにしやすいのが特徴です。
【覆面調査の活用場面】
・競合調査:競合他社の店舗を調査員が利用し、自社との比較を行います。他社の優れた点は自社の改善に活かし、弱点は差別化要素として活用します。
・価格設定の妥当性検証:競合店の価格水準と顧客反応の観察を通じて、自社の価格設定が適切かどうかを判断する材料を収集します。
・店舗オペレーションの確認:覆面調査により、店舗運営の実態を第三者の目で確認します。課題を発見し、改善策へとつなげていきます。
調査実施には、調査シナリオの設計や、調査員の教育など、周到な準備が欠かせません。調査で得られた示唆を、店舗運営の改善に確実に反映させるためのフォローアップも重要な要素となります。
2-12. 訪問調査:顧客の生活環境も含めて観察する
訪問調査は、顧客の自宅や職場に直接赴き、インタビューと行動観察を組み合わせる手法です。顧客を取り巻く環境も含めて、総合的に実態を把握できるのが強みです。
【訪問調査の留意点】
・信頼関係の構築:プライベートな空間に踏み込むため、事前の丁寧な説明と同意取得が不可欠です。調査員の人選も慎重に行う必要があります。
・自然な振る舞いの観察:自宅での何気ない会話や、普段の生活習慣まで観察の対象となります。調査の存在が意識されすぎないよう、自然体で接することが大切です。
・周辺情報の収集:家族構成や居住環境など、顧客を取り巻く周辺情報にも目を配ります。ライフスタイルや価値観を多角的に理解する手がかりとなります。
訪問調査は、一般的に調査コストと手間がかかるため、大規模な実施には向きません。ターゲットを絞ったうえで、一定の調査期間を設けるなど、戦略的な計画が必要です。
2-13. デスクリサーチ:公開情報を収集・分析する
デスクリサーチは、各種の公開情報を収集・分析する手法の総称です。統計資料、業界紙、学術文献など、社外の情報リソースを活用するのが特徴です。
【デスクリサーチの種類と特性】
・統計分析:政府統計などの2次データを用いて、市場規模の推計やトレンド分析を行います。マクロな視点で市場を把握する際の基礎となる手法です。
・文献調査:専門書や学術論文など、信頼性の高い情報源から知見を得ます。体系的な理論枠組みに依拠した分析を進めやすいでしょう。
・競合情報の収集:競合他社の公式サイトやIR資料、特許情報などを調査し、他社の戦略や技術動向を探ります。自社の立ち位置や差別化の方向性を見定める助けとなります。
デスクリサーチは、2次情報に依拠するため、1次情報に比べてリアリティに欠ける面は否めません。一方で、低コストかつ短期間で俯瞰的な理解が得られる利点は大きいといえます。
3. 失敗しない市場調査のやり方 5つのステップ
続いて、どのようなプロセスで市場調査を進めていけばよいのか、流れを確認しましょう。ここでは、5つのステップに分けて解説します。
・ステップ2:調査手法を選定する
・ステップ3:調査を設計・計画する
・ステップ4:調査を実施しデータを収集する
・ステップ5:データを分析・活用する
3-1. ステップ1:目的・課題を明確にする
まず、市場調査の目的と課題を明確に定義することが、調査プロセス全体の土台となります。曖昧なままでは、調査の方向性が定まらず、有益な結果は得られません。
【調査課題設定の視点】
・経営課題との関連づけ:経営における意思決定や、事業戦略の策定に役立つ調査テーマを設定します。調査結果を経営に活かすことを念頭に置きましょう。
・マーケティング上の論点:STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の設計など、マーケティング戦略の論点を調査課題として落とし込みます。
・仮説の設定:調査を通じて検証すべき仮説を明示的に設定します。単なる実態把握ではなく、仮説検証型の調査設計を心がけましょう。
市場調査に先立ち、社内の関係部署を巻き込んだ議論を重ねることが大切です。各部署の問題意識を集約し、調査課題として明文化していくプロセスの有無が、調査結果の質を左右します。
3-2. ステップ2:調査手法を選定する
明確化した目的・課題をもとに、最適な調査手法を選び出します。前章で解説した13種の手法は、それぞれ一長一短がありますので、目的に応じて使い分ける必要があります。
【手法選定の際の留意点】
・定量調査と定性調査の使い分け:市場規模の推計など、数値化できる事項は定量調査で押さえ、深層心理など、言葉で表現する内容は定性調査で探ります。
・母集団と標本の設計:調査の正確性を担保するため、母集団を適切に定義し、偏りのない標本抽出を行う必要があります。統計的な妥当性にも留意しましょう。
・コストと時間のバランス:調査の規模や手法によって、コストと所要時間は大きく変わります。予算や納期との兼ね合いを考えて、現実的な計画を立てましょう。
専門性が求められる領域ですので、社内のリソースだけで判断が難しい場合は、外部の調査会社に相談を求めるのも一案です。総合的な観点から、自社に最適な調査設計を行いましょう。
3-3. ステップ3:調査を設計・計画する
選定した調査手法をもとに、具体的な調査の設計と計画を練り上げます。調査の目的が確実に達成できるよう、細部にわたる検討を行います。
【調査計画のチェックリスト】
・調査対象:性別・年齢・居住地・ライフスタイルなど、調査目的に応じたスクリーニング条件を定めます。ターゲットとずれた回答者を選ばないよう注意しましょう。
・サンプル数:統計的な信頼性を確保できる標本数を設計します。母集団の大きさ・調査手法・コストとのバランスを考慮して、最適なサンプル数を割り出します。
・調査スケジュール:調査票の設計・実査・集計・分析・報告書作成に至る一連の工程を、時系列で詳細にスケジューリングします。予定の遅れが生じないよう、十分な余裕を持った計画とします。
場合によっては、小規模な事前調査(プリテスト)を実施し、調査設計の妥当性を確認することも有効です。本調査に入る前の入念な準備が、円滑な調査の実施につながります。
3-4. ステップ4:調査を実施しデータを収集する
いよいよ調査を実施し、データの収集を行います。ミスなく確実にデータを集めるため、細心の注意を払う必要があります。
【調査実施の際の注意点】
・調査会社との連携:外部の調査会社に委託する場合は、緊密なコミュニケーションを図ります。調査の進捗状況を常に把握し、問題が生じた場合はすみやかに対処します。
・データクリーニング:収集したデータをチェックし、明らかな誤記入や無回答などを取り除きます。データ品質の向上は、分析の精度に直結します。
・回収状況のモニタリング:調査の途中段階で回収状況を点検し、回収率が低い場合はフォローを行います。サンプル数が不足すると、調査の精度が落ちる恐れがあるため、注意が必要です。
調査結果を早期に共有し、関係者からのフィードバックを得られる体制を整えておくことも大切です。
たとえば、中間報告の場を設けてプロジェクトメンバーや経営陣の意見を取り入れながら進めれば、集計・分析の軌道修正をスムーズに行えます。
3-5. ステップ5:データを分析・活用する
集められたデータを分析し、調査の目的に照らして有益なインサイト(深い洞察)を引き出します。ここからが、市場調査の真骨頂といえるでしょう。
【データ分析のポイント】
・単純集計と分析軸の設定:性別、年代など、基本的な属性による単純集計を行ったうえで、仮説検証や課題解決につながる切り口での分析軸を設定します。
・クロス集計とセグメント分析:アンケートの場合、複数の設問を組み合わせたクロス集計により、回答の傾向を多角的に把握します。セグメント特性の違いを浮き彫りにし、ターゲティング戦略への示唆が得られるでしょう。
・定性データのコーディング:インタビューなどで得られたテキストデータを、意味内容に応じてカテゴリ分けする作業です。定性データを定量的に扱っていくと、説得力のある結論を導き出せます。
調査の目的に立ち返り、単なるデータの羅列に終わることなく、具体的な示唆や提言を打ち出すことを追求しましょう。
分析結果を、経営や事業の意思決定に直接的に活かせるようにすることが最重要です。
4. 調査の質を高める設計・実施のポイント
いかに適切な手順を踏んでも、調査の設計や実施が不適切では意味がありません。最後に、信頼性の高い市場調査を行うための、重要なポイントを確認しましょう。
2.調査目的に適した調査項目・調査票を作成する
3.データの信頼性と妥当性を確認する
4.定量データと定性データを組み合わせて分析する
5.調査結果をわかりやすくレポートにまとめる
4-1. 調査目的に合致した対象者を集める
調査目的に合致した対象者を集めることが、正確なデータを得るための大前提となります。母集団からの標本抽出を適切に行わなければ、せっかくの調査が台無しになりかねません。
【対象者選定のチェックポイント】
・スクリーニング条件の明確化:調査の目的や対象商品に照らして、回答してほしい対象者の条件を明文化します。性別・年齢・居住地のほか、ライフスタイルや価値観など、きめ細かな条件設定を行います。
・サンプリング手法の選択:母集団から偏りのないサンプルを抽出するため、確率論に基づくサンプリング手法を採用します。単純無作為抽出・系統抽出・多段抽出(*1)など、状況に応じた手法の選択が重要です。
・回収率への配慮:調査への協力率が低いと、回答者の母集団代表制が損なわれます。調査協力依頼の方法や、インセンティブの設計など、回収率を高める工夫を凝らしましょう。
対象者選びを誤ると、偏ったデータしか得られず、市場の実態から遊離した分析に陥る危険性があります。調査対象の設計は、調査の成否を左右する重要な局面です。
*1:サンプリング手法については、統計データ利活用センターの「標本抽出の諸方法」が参考になります。
4-2. 調査目的に適した調査項目・調査票を作成する
調査票は、調査の目的を達成するための重要なツールです。ここでは、いかに正確で有益な情報を引き出せるかが問われます。
【調査票作成の留意点】
・設問の網羅性と独立性:調査の目的を達成するために必要十分な設問を用意します。一方で、1つの設問に盛り込む内容は1つに絞り、わかりやすさを心がけます。
・選択肢の設計:選択肢の設定により、回答の傾向が大きく変わることがあります。選択肢の網羅性・具体性・バランスに配慮しつつ、意図的な誘導と取られないよう中立的な表現を用います。
・設問の配列:質問の順序によって、回答が影響を受ける場合があります。関連する設問をまとめつつ、前の設問に引きずられないようにするなど、配列のロジックにも気を配ります。
事前に小規模なプリテストを実施し、設問の妥当性を検証しておくことが望ましい進め方です。可能であれば専門家の意見を仰ぎつつ、社内での入念な検討を重ねることが大切です。
調査票の作成方法については、総務省統計局サイトの「調査票の作成」にてわかりやすく解説されていますので、参考にしてみてください。
4-3. データの信頼性と妥当性を確認する
せっかく集めたデータも、信頼性と妥当性が担保されていなければ意味がありません。データの質を見極める目を養うことが、マーケターに求められる重要なスキルのひとつです。
【データ品質のチェックポイント】
・回答の整合性:矛盾する回答がないか、データの論理的な整合性をチェックします。たとえば、「商品を使ったことがない」と回答した人に、「商品の満足度」を尋ねるなどの不整合がないかを確認します。
・外れ値(異常値)の精査:ほかと大きくかけ離れた極端な数値が含まれていないか注意します。誤入力や異常値の可能性を考慮し、場合によってはデータから除外することも検討します。
・サンプルの偏り:回答者の属性分布が、母集団の構成と乖離していないかを点検します。特定の属性に偏ったサンプルでは、調査の代表性が損なわれます。
分析結果がデータの誤差や偏りに影響されていないか、結果を一般化できるのかどうか、常に意識しながらデータを慎重に扱いましょう。データの読み間違いによる判断ミスを減らすために、重要です。
4-4. 定量データと定性データを組み合わせて分析する
定量データと定性データは、それぞれ独自の役割と限界があります。両者の特性を理解したうえで、組み合わせて分析することが重要です。
【定量データと定性データの関係】
・定量データの限界:数値化された定量データは、統計的な分析に適していますが、回答の背景にある心情や文脈までは捉えられません。数字の意味を解釈するには、一定の慎重さが求められます。
・定性データの限界:インタビューなどの定性データは、個人の主観や経験に基づいているため、一般化には注意が必要です。サンプル数が少ないことによるバイアスにも留意が必要です。
・両者の相互補完関係:定量データの分析から浮かび上がった課題を、定性データで掘り下げていくと、より深い考察が可能となります。逆に、定性データから得られた仮説を、定量データで検証することも有効です。
数字の背景を探るためのインタビューや、インタビュー結果を数量化するアンケートなど、定性と定量を意図的に組み合わせた調査設計を考えましょう。
両者の長所を相互に活かしていくと、説得力のある結論が導き出せるはずです。
4-5. 調査結果をわかりやすくレポートにまとめる
優れた分析結果も、的確に伝えられなければ、その価値は活かされません。調査報告においては、明快かつ説得力のある説明が鍵を握ります。
【レポート作成のポイント】
・結論の明示:冒頭で調査の結論を簡潔に述べ、読み手の関心を引き付けます。そのうえで、データに基づいて論理的に結論を導いた過程を説明します。
・ストーリー性の構築:調査の背景・目的・方法・結果・考察・提言を、一連のストーリーとして展開します。単なるデータの羅列ではなく、読み手を納得させる論理的な流れを意識します。
・図表の活用:数字の羅列では伝わりにくいので、グラフや表を効果的に用いて、視覚的にポイントを訴求します。ただし、情報過多な図表は逆効果となるため、単純明快なシンプルさも大切です。
レポート作成のスキルは、継続的なトレーニングによって磨かれるものです。優れたレポートに数多く触れながら、そのポイントを学んでいきましょう。
5. まとめ
本記事では「市場調査のやり方」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。
最初に基礎知識として以下を解説しました。
・マーケティングリサーチの一部であり市場環境の理解に特化する
・市場規模、購買行動、競合動向、トレンドなどの情報が得られる
・費用と期間は調査規模・手法により大きく異なる
目的別に使い分ける13種の調査手法として、以下を解説しました。
2.ソーシャルリスニング:生活者の声をリアルタイムに捉える
3.アンケート調査:顧客の意見を定量的に把握する
4.会場調査(CLT):試作品への反応を直接確認する
5.ホームユーステスト(HUT):長期間の試用で商品の評価を得る
6.郵送調査:居住地が限定された人を対象とする
7.電話調査:直接対話で回答を得る
8.インタビュー調査:顧客の深層心理を探る
9.グループインタビュー調査:複数人の意見から多様なインサイトを得る
10.行動観察調査:顧客の無意識の行動を捉える
11.覆面調査(ミステリーショッパー):顧客視点でサービスを評価する
12.訪問調査:顧客の生活環境も含めて観察する
13.デスクリサーチ:公開情報を収集・分析する
失敗しない市場調査のやり方を5つのステップで解説しました。
・ステップ2:調査手法を選定する
・ステップ3:調査を設計・計画する
・ステップ4:調査を実施しデータを収集する
・ステップ5:データを分析・活用する
調査の質を高める設計・実施のポイントは以下のとおりです。
2.調査目的に適した調査項目・調査票を作成する
3.データの信頼性と妥当性を確認する
4.定量データと定性データを組み合わせて分析する
5.調査結果をわかりやすくレポートにまとめる
市場調査は、経営判断や事業戦略立案に不可欠な取り組みです。本記事の知識とノウハウを活用し、意義ある市場調査の実行につなげていただければ幸いです。