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伊藤忠商事はインドネシアで、子会社のPT.ITC Auto Multifinance(IAMF)を介して、中・低所得者層に向けた携帯電話の割賦販売サービスを展開しています。同国では銀行口座を持たない人々が多く、分割払い販売を実現するには、機械学習モデルなどの分析技術を利用してリスクを抑える必要があります。
ブレインパッドと伊藤忠商事は、信用審査モデルの開発と運用を共同で行いました。これにより、消費者はスマートフォンを容易に購入することが可能となり、メーカーや小売業者もスマートフォンの販売がしやすい環境を確保できます。
本記事ではこの取り組みについて、IAMFとブレインパッドの主要なメンバーが一堂に会し、サービスの実装とその意義について語り合いました。
■登場者
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DOORS編集部(以下、DOORS) 中・低所得者層向けのスマートフォンの割賦販売サービスのリスク管理が必要とされる背景について、インドネシアのファイナンス状況を教えていただけますか?
PT.ITC Auto Multifinance(IAMF)・笹生朋樹アイザック氏(以下、笹生氏) インドネシアは日本と異なり、多くの国民が銀行口座を持たず、金融サービスを利用できない状況です。そのため、日本で一般的な携帯電話の割賦購入がインドネシアでは実現されていませんでした。
スマートフォンはインドネシアではかなり高価で、日本よりは少し安いものの大体5万円程度します。これはジャカルタの平均月収と同等で、日本の感覚ではスマートフォン1台が20万円程度です。生活費に見合わない価格のため、分割払いのニーズはあるものの、金融包摂が未進行で利用できない背景が存在します。
DOORS なるほど。銀行口座を持たない人が多く、割賦での購入ニーズがあるにもかかわらず割賦販売ができなかったということですね。与信審査を改善することで、金融包摂が未進行の人々へ割賦販売の道を開いた、それが今回のプロジェクトがもたらした価値ということですね。
DOORS では、今回のプロジェクトが始まった経緯を教えてください。
笹生氏 伊藤忠商事とブレインパッドはもともと資本業務提携関係にありました。その関係性の中で、伊藤忠商事の100%子会社であるIAMFが業績を向上させるためにデータ活用を考えていました。
そこで当時、伊藤忠商事に出向していた押川さんに相談したところ、ブレインパッドから2021年5月にご提案をいただきました。それがきっかけとなり、最初はコンサルティングをお願いしたところ、今持っているデータを最大限に活用するためには、AIを用いた与信審査システムが有効だとの結論に至りました。そのため、IAMFとブレインパッドの間で2021年10月から正式に契約を結び、AIシステムの構築とBIの構築を進めることとなりました。
PT.ITC Auto Multifinance(IAMF)・松原弘貴氏(以下、松原氏) さらに詳しい経緯をお伝えすると、私が最初に押川さんに相談したのは2021年の4月下旬でした。その後、5月には別の企業にも相談しましたが、最終的に6月にブレインパッドに依頼を決め、7月には契約を交わしました。
今回のプロジェクトは「携帯電話割賦販売与信改善プロジェクト」と呼んでいましたが、2021年6月時点では与信を改善するという具体的なテーマはまだ設定していませんでした。それより一歩手前の、意思決定をデータドリブン化したいという目標が当初のテーマでした。
IAMFは元々自動車販売金融を行っていましたが、ちょうどコロナ禍の頃、2019年から2020年の間にスマートフォン販売金融へと転換しました。
既存の業務システムは自動車金融時代のもので、新しいビジネスモデルに適応していませんでした。スマートフォンの販売では、車よりも単価が低く、お客様数が多く、債券期間も短いため、これらの事情を踏まえ、データをより詳細に分析できる状態にしたいと考えていました。データをしっかり見られていないという課題感があり、データを基に施策を決定し、その結果を分析し、分析結果をもとに改善を進める仕組みを作り出したいと考えていたのです。
実はIAMF以外にも、伊藤忠商事には他国に展開するにあたりデータウェアハウス(DWH)を構築したいと考えている部署がありました。そのため、2021年の6月の段階では、伊藤忠商事グループ全体としてデータドリブンを推進することを目指し、その一環としてDWHを構築しようとしていました。
株式会社ブレインパッド・押川幹樹(以下、押川) そのような背景から、最初はBIによるデータの可視化を進めようと考えていました。しかしその過程で与信モデルを作ってみたところ、これが有効に機能する可能性が見えたため、与信改善に注力する方向に舵を切りました。
松原氏 5月から6月にかけては、データを見せながら、ブレインパッドから迅速に提案を受けました。私自身、データ活用やデータドリブンといった分野について詳しくなかったため、何をすべきか、またそれがデータドリブンな体制につながるのかを具体的に理解していませんでした。また、私たちが何を問うべきかすら分からない状態で議論を進めていた中で、ブレインパッドなら我々の問いをより本質的なものに転換してくれ、より優れた提案を出してくれるだろうと感じました。それがブレインパッドをパートナーに選んだ理由でした。
初めはDWHの構築がテーマでしたが、初週で機械学習を実施してもらい、与信改善の可能性を定量的に示していただいたことが、「与信改善を進める」という決定に繋がったのです。これが8月でした。この経緯は、当初の目的から与信改善プロジェクトへと「進化」したと感じています。
DOORS 「進化」とはより具体的にはどういうことでしょうか。
松原氏 当初のテーマはデータドリブン化でしたが、機械学習の結果から与信診断システム作成の可能性が示されたため、与信改善に取り組む方向に「進化」したという表現がふさわしいと思っています。
押川 IAMF様にはデータをハンドルしているスタッフがいて、彼らが意思決定できるようにBI等を整備しようという話でしたが、アルゴリズムそのものを作ってみると意外と効果がありそうなことがわかった、というのが私が記憶している経緯です。既にいるデータ活用スタッフをどうエンパワーメントするかが当初の目的だったと思います。
松原氏 おっしゃる通りです。私が最初に作っていた資料は、かなり概念的なものでした。そこから、機械学習を使った与信審査という話に変わったのです。能動的な提案をしてもらったおかげで、目的が進化したと感じています。
DOORS 次に、プロジェクトの概要――体制・スケジュール・完了基準、そして現在地について教えてください。
伊藤忠商事株式会社 ・林 遼氏(以下、林氏) 松原の説明にもあった通り、当初はデータドリブン体制の構築を目指してスタートし、途中で機械学習を活用した高度な与信審査にシフトしました。プロジェクトの主な目標は、データ分析基盤の構築と与信審査機能の改善と言っていいと思います。
体制としては、ブレインパッドからはコンサルタント、データサイエンティスト、エンジニア等をアサインしてもらい、データ分析からシステム構築まで、最初の要件定義やプロジェクト管理も含めて実施してもらいました。
IAMFからは笹生と松原がマネジメントを担い、システムのあるべき姿を描き、現場スタッフは業務オペレーションと業務データの情報を提供しました。
伊藤忠商事の本社からも、デバイス・ファイナンス事業全体への適用を視野に入れた要件管理を行うスタッフが参加しました。ブレインパッド、IAMF、伊藤忠商事の3社が協力体制を築きました。
スケジュールは2021年の夏から始まり、秋にPoCを実施し、現場で与信審査のエンジンを試用しました。その結果、返済率が向上したため開発に着手し、2022年3月末に完了して以降は本番運用を行っています。
その後、継続的な審査精度の改善作業を2022年6月から2023年の3月末まで延長してブレインパッドに支援してもらいました。データサイエンティストのメンバーを中心に、改善可能な点を探るコンサルティングを続けてもらいました。
プロジェクトの完了基準について、当初予定していたデータ分析基盤の構築については、DWHの構築とBIツールによる可視化が契約内容で、2022年3月の納品をもって完了しています。
もう1つのゴールである与信審査機能の改善においては、具体的な数字は伏せさせてもらいますが、初回返済率をKPIとして、ある値を安定的に超えることが完了基準となっています。いったんそのラインを達成できたのですが、それは一時的なものであり、安定的な達成に向けて改善を続けている途中です。
現状、与信審査では、初回返済率と承認率はトレードオフの関係で、一方を上げると他方が下がります。両方上昇させないと事業が成り立たないため、マーケティング戦略の変更も含め、その方法を模索しているのがIAMFの現在地だと認識しています。
DOORS 伊藤忠商事様とのパートナーシップから始まったこのプロジェクトですが、他の会社も候補に上がったと聞きました。パートナー選びの条件は何でしたか?
松原氏 臨機応変な柔軟性、スピード感、そしてデータ分析分野の知見――この3つが選定条件の中で大きなウェイトを占めました。先ほど述べた通り、自分たちの問いが正しいか不確かだったので、データに基づく意思決定が重要だと理解していたものの、データ分析の専門知識を持つ会社からのアドバイスも欲しかったのです。また、それ以上のことをしてくれそうだという期待感をブレインパッドには感じたのです。
DOORS 3つ挙げられた中でMUSTの条件は何だったのでしょうか。
松原氏 柔軟性とスピード感の2つです。柔軟性については先ほど述べました。スピード感については、これは良いところでもあり悪いところでもあるのですが、伊藤忠商事という会社は極めてせっかちで、やり始めたらすぐに結果を見たいという文化があるのです。
DOORS ブレインパッド側で、今の松原様の話に思い当たるところはありますか。
押川 伊藤忠商事様の文化としてリスクへの許容度が高いところは我々ブレインパッドとしては感謝すべきところです。理論的には成功しそうでも、現場で試さないと分からないことが多いので、一部のクライアントでは躊躇することも多いからです。そうすると失敗は少ないですが、成果を得るのが難しくなります。しかし伊藤忠商事様の場合、「やると決めたらやるぞ!」と、現場で積極的に試す姿勢がありました。実際にいろいろなことが起きたのですが、スピード感を持ってアグレッシブに進めていただいたことで良い結果が出ましたし、我々も頑張って食らいついていったことで様々な経験を得ることができました。
株式会社ブレインパッド・櫻井洸平(以下、櫻井) 当時担当していた者から聞いていた話が2つあります。まず、スピード感は私たちも重視していたので、その点に気をつけて進行しました。もう1つは、ビジネス適用です。「ただ環境を作り、導入するだけ」ではなく、「ビジネスを変革し、お客様のビジネスに貢献する」という意識を、ブレインパッドのスタートメンバー全員が持っていました。これらをプロジェクト内で達成できたことは、私たちブレインパッドにとって貴重な経験になりました。
DOORS 続きまして、現在進行形でのプロジェクトの全体図をブレインパッド側から説明をお願いします。
株式会社ブレインパッド・西澤輝彦(以下、西澤) 企画フェーズの話は既に出ていますので、それ以降について説明します。2021年11月半ばから要件定義が始まり、年明け早々には要件を確定させました。セキュリティ要件やシステム構成などを松原さんへ説明し、それがインドネシアのメンバーへ伝えられました。1月半ばから3月までに、コード化されたデータ基盤であるSSPの導入と、そのうえでモデルが運用できるAPIとMLOps環境を別部署と一緒に検討・構築しました。そして4月からの3ヶ月間で、運用保守のサポートと引き継ぎを行い、7月以降はIAMF様が運用保守を行っています。
株式会社ブレインパッド・井出大介(以下、井出) 私の関わりは2022年6月からで、モデルの精度モニタリングの部分です。精度が低下したとの報告から、原因調査を行いました。新しいデータが反映されていないことが原因と判明し、新しいデータを用いたモデルの再学習や学習・評価方法、特徴量の見直しなどを実施しました。
それ以外に、2022年11月からは、新しい特徴量を追加してモデルを検証するといった単純なモデルの改善にも関わっています。
先ほど初回返済率というKPIが出ましたが、それ以外にも大事な指標がありました。伊藤忠商事様のノウハウに関わる部分なので具体的な指標名は出せませんが、2022年の12月以降、その指標を予測するためのモデルを別に作成し、既存のモデルの予測結果と組み合わせての審査を担当しています。
モデルの改善と並行してIAMF様では内製化を目指されていたので、そのためのナレッジのトランスファーと、トランスファーした相手がご自身で運用していくために必要な機能の拡充も担当しました。それらを2023年の3月まで実施し、4月以降はIAMF様の運用保守担当の問い合わせ対応をしています。
DOORS ずっとリモートで対応していたと思うのですが、海外企業とのリモート対応において苦労した点はありましたか?
井出 距離的な問題は特にありませんでしたが、ナレッジトランスファーのために英語でのコミュニケーションが必要となりました。そのため、資料の英語化や対面での英語での説明に苦労しました。
DOORS 9カ月でスピーディーに導入できた背景として、伊藤忠商事様ではスピードを重視する文化があり、それが一番大きな理由だったと思います。もう少し詳細に、ビジネスとしてのプロジェクトの進め方、内製化、エンジニアリングの3つの観点で教えてください。
まずプロジェクトの進め方の観点でブレインパッド側から説明をお願いします。
押川 先ほど説明したことと重なりますが、コンサルタント側もスピーディーに結果を出し、すぐにフィードバックをもらい、現場でのトライアルを行い、PDCAサイクルをお互いに高速に回せたことが勝因だと思っています。また、企画フェーズでも現地の方々と高頻度でミーティングを行い、要件やリスクについて深く議論させていただけたことが良かったと思っています。
また、アルゴリズムが一定の形になったら、すぐに現場で適用するという意思決定を伊藤忠商事様に速やかにいただけたことが大きかったと感じています。エモーショナルな話になりますが、お互いにわからないことや決まらないことがあっても、前に進んでいこうという気持ちで議論が進められたことが良かったと思います。
もし伊藤忠商事様が「ブレインパッドが何か言えばやってくれる」という受動的な立場だったら、進行は難しかったでしょう。双方が能動的に議論を行ったことが、我々がコンサルタントとして能力を十二分に発揮できた一つの要因だったと思います。
松原さんのお話と重なるのですが、ただ与信モデル自体を開発するだけでなく、それを使ってビジネスをどう発展させていくかまでを一緒に話し合えたことも大きな成果だったと感じています。
このようなお話ができる環境にセットアップできたのが大きいと思っていて、私が言うのも何ですが、一緒にビジネスを進めていくパートナーとして認めてもらえたということではないでしょうか。
DOORS 内製化の観点ではいかがでしょうか。
櫻井 内製化については、従来の、ベンダーがシステム導入と運用保守を行う方法ではなく、現地チームが自分たちで運用し、モデルを実装していくアプローチが当初からあったのは良かったと思います。
押川 IAMF様にはすでにデータを扱うチームがあり、内製化に向けた下地があったことが大きかったです。モデルのメンテナンスにはテクニカルな知識が求められますが、たまたま林さんがそういうことができる人材だったことは幸運でした。
松原氏 先ほど、お互いスピーディーだったという話がありました。その他に、チームアップが上手くできたと感じています。Teamsを使い、関連情報を全員で共有し、活発にコミュニケーションを取りながら、全てのファイルを共有することを心がけていた結果、スムーズに進められたと思います。
もう一つ内製化について、これは偶然なのですが、もともとのプロジェクト体制図の中に今日参加している林の名前はなかったのです。私も彼がデータサイエンティストの資質を持っていたことは知らなくて、彼が大学で実はそういう勉強をしていたとプロジェクトに入ってから聞きました。押川さんからの指摘もありましたが、内製化のためのリソースがたまたま揃っていたことも大きかったです。
林氏 私はデータサイエンティストではないですが、大学で関連する勉強をしていて、2年前にIAMF本社の事業管理を担当していたときにこのプロジェクトがあることを知り、Pythonの経験があると伝えたら、すぐにプロジェクトに参加することになりました。縁があったということでしょう。
DOORS 先ほど押川から「PDCAサイクルをお互いに速く回していった」とありましたが、具体的にはどういうことでしょうか。
笹生氏 多くの工夫をしましたが、要するにリーンに実践したということです。システム化に時間がかかるので、人手で可能なことは人力で行い、エラーハンドリングが難しいかもしれないが、急いでいるので一時的には許容しよう、といったことです。PDCAを速く回すためには、多少のコストやリスクを割り切ることも大事です。
押川 フィードバックを受けたらすぐにモデルを作り、その結果から再度フィードバックを受ける、というサイクルを繰り返しました。その結果がうまくいくこともあれば、そうでないこともありましたが、ブレインパッドのコンサルタントもなるべくすぐにフィードバックを返せたことが、PDCAサイクルを速く回せた要因でした。
DOORS ブレインパッドの伴走支援の内容やその良かった点についてコメントをいただけますか。
林氏 1回聞いただけだと実際に自分が運用するときに手が動かないことが多かったのですが、その都度相談すればタイムリーに的確に疑問点に答えてもらえたことが、スムーズな運用につながっています。
DOORS 支援に関する具体的なエピソードはありますか。
林氏 契約終了後、伴走支援の期間中に、与信審査モデルの特徴量を自分で組み換える機会がありました。ナレッジトランスファーのセッションで全体的な流れは聞いていましたが、エラーが出たりするとつまずくので、その都度相談して解決に導いてもらいました。リモートでの支援でしたが、自社で無事にローンチできました。
DOORS 次のエンジニアリングに移ります。今回SSP(Smart Strategic Platform)を導入していますが、SSPありきで話を進めたわけではなく、最適なツールを検討した結果SSPが選ばれたと伺っています。どのような点が評価されてSSPを採用することになったのでしょうか。
【関連】【シリーズ】データガバナンスがもたらすもの-第5回 データ基盤構築とデータガバナンス(前編)
松原氏 SSPについては、初めてのコンサルが終わった2021年の10月か11月に知りました。その時、データ基盤構築の相談を3社にしていましたが、最終的にブレインバットに決めました。
インドネシアでデータ基盤を作る際、ただ発注するだけで完成しない可能性もあるということを大いに感じていました。そのような不安があった中で、SSPがパッケージ化されていて、完全にローカライズすることは難しいかもしれないけど、とにかく動くものが作れそうだと想像できたのが一番の理由です。他社の提案はSSPより低価格でしたが、稼働しない可能性もあると感じました。
DOORS ここでSSPについて簡単に説明してもらえますか。
株式会社ブレインパッド・秦健浩(以下、秦) SSP(Smart Strategic Platform)とは、ブレインパッドが提供するデータ分析基盤パッケージです。データ分析事業におけるブレインパッドのノウハウや最低限必要な機能が標準搭載されています。低コスト・短期間でクラウド上のデータ分析基盤を構築できるというメリットがあり、運用保守、追加開発、改修も継続してブレインパッドが支援するサービスも提供しています。
素早く構築するための「ドキュメント一式」「コード化された基盤」、必要最小限のデータ基盤の機能である「データマート」「データ連携・ETL機能」、フィット&ギャップで要件定義を進めることが可能な「標準化されたセキュリティ」「標準化された運用保守」という6つの要素で構成されているのが特長です。
【関連】ブレインパッド、データ活用の民主化と内製化の高速化を支えるソリューションを発表、第一弾としてデータ活用基盤「Smart Strategic Platform」(SSP)を提供開始
DOORS SSPの活用について、ベンダー視点での期待や工夫を教えてください。
西澤 SSPが採用されたのは、導入期間が短かったからです。PoCの終了後、スクラッチでのデータ基盤構築を検討しましたが、期間が短く、難しいと判断しました。そのときちょうどSSPがローンチされるタイミングでしたので、「ファーストユーザーにはなりますが、短期間で基盤を構築できます」と提案したところ、採用いただきました。
BIで可視化したいとか機械学習モデルの活用と運用がしたいというように目的が明確な上、拡張性が必要なことと、コード化された基盤なのでデプロイが比較的容易というSSPの特長が合致したということでしょう。
DOORS ファーストユーザーになるのを嫌がる会社も多いと思います。ファーストユーザーとなるのを気にされることはありましたか。
松原氏 製品紹介時、検討すべき項目や選択肢が明確だったため、それらを決定すれば大丈夫だと考えました。
西澤 要件定義書や設計書などのドキュメントの雛形がコード化された基盤に合わせて作られており、それらをベースに進めれば最低でも稼働する基盤ができると判断しました。
DOORS SSP導入のメリットは何でしたか。
西澤 SSPの存在があったからこそ、2カ月半という期間でMLOpsのベース、API、データ基盤を含めて構築ができたと、手前味噌ながら評価しています。
DOORS MLOpsの最適化にSSPが役立ったと聞いていますが、MLOps自体は初めから考えていたのでしょうか。
【関連】MLOpsの現状とこれから~機械学習の継続的な精度向上と様々な課題~
西澤 2021年11月の要件定義の時点でMLOpsの話は出ていましたし、業務フローも描かれていました。SSPが直接MLOpsに役立ったわけではなく、データ基盤を先にデプロイできたことでMLOpsへの取り組みを早めることができたと考えています。
押川 松原さんに確認したいのですが、もともとビジネスが変化していく中でモデルもそれに高速に追随する必要があるという話がありましたよね。それで、ただ単にモデルを導入するのではなく、動的に更新できる環境が必要ということでMLOpsを採用しようという話があった記憶があるのですが。
松原氏 おっしゃる通りです。ビジネスが変化するにつれてモデルも迅速に更新する必要があるという視点は初めからありました。インドネシアのお国柄として、突如データが取れなくなったり新しいデータが取れるようになることもありますので、説明変数も頻繁に更新する必要があると考えていました。その話とSSPをどこまで結びつけて考えていたか定かではありませんが、MLOpsの構想が当初からあったのは事実です。
DOORS SSPの責任者である秦さんの視点で、このプロジェクトでのSSPの採用および導入結果を俯瞰的にまとめてもらえますか。
秦 SSPを提案した背景には、迅速な構築が可能であることはもちろん、他にも様々な理由がありました。それらを列挙します。
まずデータドリブンを実現するうえで、拡張性や柔軟性が必要となります。現状は与信の改善で機械学習モデルを使いますが、今後プラスアルファで何かやりたいということも十分考えられます。
ただし、インフラや通信環境が不十分なため、パフォーマンスを確認するための事前検証が必要でした。先ほど西澤からコード化しているのですぐにローンチできるという話がありましたが、実は裏では、実際にクイックに基盤を立ち上げた上でパフォーマンスを見て検証していました。
運用保守の引き継ぎドキュメントについては、プロジェクト内で一から作ると大変で、コストもかかります。しかし、SSPでは必要なドキュメントが初めから提供されているため、それに従って説明するだけでほぼすべての作業が完了します。
またセキュリティの明確なガイドラインがなく、セキュリティポリシーが厳格に定まっていなくても、SSPにはブレインパッド社内の標準化をベースとしたセキュリティ対策が実装されているので、セキュリティを担保する仕組みも整っています。
このセキュリティ仕様をガイドラインとして利用していただけると考えました。
したがって以上のポイントをすべて考慮すれば、我々としてはご要望を全て満たしつつ短期間で開発・導入できると確信を持って提案することができました。これらの弊社内での諸々の考慮が、松原様の最終的なジャッジにつながったのだと思います。
DOORS 続いて、先ほど少しお話が出ましたが、本プロジェクトはインドネシアと日本の間でフルリモートで進められました。そのための工夫があれば教えてください。Teamsの活用など具体的なツールの話もありましたが、補足することはありますか。
押川 最初は週に2回のミーティングを行っていました。これは、Teamsなどのツールを用いた日々のやり取りを補完するためのもので、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを重視していました。
林氏 最初の頃に頻繁にコミュニケーションを取ったのは良かった面もありますが、我々にとっては反省点もありました。IAMFのITチームにとってはDWHやAWSなどは初めての経験で、それを自社で運用するのは初めてのことでした。
そこでブレインパッドのITチームによるデータベースやSSPなどの講義を週に1回程度行い、IAMFのITチームと通訳を交えて「ナレッジトランスファーセッション」と呼ぶ形で知識を共有しました。
しかし、オンラインでの会議では、参加者のリアクションを直接見ることができないため、「ここは理解が浅そうだから、もう少し詳しく説明しよう」というようなフォローが難しかったです。それを乗り越えるためには、伊藤忠商事やIAMFの日本人メンバーが個別にフォローアップするなど、コミュニケーションの方法を変えることで対応しました。それでも、もっと早くにそのような対策を取ればよかったと反省しています。
DOORS それをどのように克服したのでしょうか。
林氏 最終的には、ナレッジトランスファーセッションをもう一度実施してもらいました。ただし、今回はまず日本語で私に教えてもらい、その内容を私がIAMFのメンバーに共有する形で進めました。
DOORS IAMF様の視点からみると、今回のプロジェクトは日本企業とのオフショア開発となります。既にSSPの採用について少し触れましたが、改めてインドネシアでオンショア開発をしなかった理由を教えてください。
押川 過去の会話で「信頼できるプロジェクトマネージャーを探すことの難しさ」について松原さんと話したことがありますが、これはインドネシア特有の事情でしょうか。
松原氏 インドネシア特有の事情ではないと私は思っています。過去の仕事の中でコンサルタントを起用することが多かったので、やはりパートナーとして対面で進めてもらっている方との波長が合うかどうかがとても大事だということを感じていました。
インドネシア特有の事情といえば、エンジニアの質はあると思っています。データ関連の仕事ができるITエンジニアはインドネシアでは極めて高単価です。平均月給が4万円の国でデータサイエンティストは100万円程度となります。この点がインドネシア特有の事情かもしれません。
押川 一般的なITエンジニアは日本の単価よりも低価格で、しかしクオリティのリスクが大きいです。これも我々を選んでいただいた理由の一つかもしれません。
松原氏 インドネシアにはやったことのないことにはどんどん挑戦しようというネイチャーがあり、積極性はすばらしいです。ただ、依頼する側からするとデリバリーに不安がありました。
DOORS では、最後に今後の展望についてお話しいただけますか。
笹生氏 インドネシアに関わらず、新しいビジネスを海外で推進することは、内外の環境が劇的に変わることを意味します。商品の内容やカスタマージャーニーを変える観点からみても、今回のシステムは我々の変化する要求に柔軟に対応してくれています。そして内製化チームがしっかりしているので、ビジネス要件が急速に変わってもそれに追随できると思います。新規事業を外国で推進するためには、今回のようにシステムや運用体制を可変的にすることが重要であり、今後もそうであると考えています。
押川 まだ道半ばで、目の前の目標に向けて進行中ですが、安定した成果が出ると、インドネシアだけでなく他国でも同様のビジネスの横展開が現実的になると思います。システム展開だけでなく、PDCAをどう回すかというノウハウも含めて展開できれば理想的です。
松原氏 金融商品の範囲を広げることも考えられます。現在はスマートフォンの販売金融を行っていますが、これを足掛かりとして、キャッシュ・車・家のローンへステップアップさせることも候補にあります。これらを金融商品としてインドネシア国内で展開することも一つの選択肢です。
DOORS 本日はお忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
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