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グーグル・クラウド・ジャパン と ブレインパッドとのコラボレーションがもたらす「まったく新しいデータ利活用」のかたち

公開日
2022.12.20
更新日
2024.06.04

ブレインパッドは、2015年に Google Cloud パートナーとなって以来、Google Cloud を単なるITインフラとしてではなく、企業の課題を解決し、ビジネス価値をもたらすプラットフォームとしてお客様を支援してきました。2022年7月にはプレミア パートナーに認定され、サプライチェーンマネジメント、データ利活用内製化、クラウドモダナイゼーション、リテールおよびCPG(消費財)向けソリューションの4分野における強固な協力体制を推進することを公表しています。

本発表の内容とその狙いについて、グーグル・クラウド・ジャパンの寳野雄太氏とブレインパッドの西村順に対談形式で語ってもらいました。

■登場者紹介

  • グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 ソリューション&テクノロジー部門 統括技術本部長(Analytics/ML, DB) 寳野雄太氏
  • 株式会社ブレインパッド 執行役員  プロフェッショナルサービス事業統括 ビジネス統括本部長 西村順

写真左から、株式会社ブレインパッド 西村 順、 グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 寳野 雄太氏

本記事の登場人物
  • コンサルタント
    西村 順
    会社
    株式会社ブレインパッド
    役職
    常務執行役員 COO(Chief Operating Officer)アカウントユニット統括
    早稲田大学政治経済学部卒業。アクセンチュア株式会社に入社後、戦略コンサルタントとして、通信キャリア、製造メーカー等を中心に事業計画策定、新規事業立案、組織改革、営業改革、SCM改革、BPR、DX等のさまざまなテーマに従事。その後、物流ソリューションベンチャー企業の上席執行役員を経て、2021年6月よりブレインパッドに参画し、コンサルティング部門を統括するとともに、自らも大規模プロジェクトの企画・実行責任者を務める。2023年7月より現職。

両社の関係は 2011 年にさかのぼる

DOORS編集部(以下、DOORS) 簡単に自己紹介からお願いいたします。

グーグル・クラウド・ジャパン合同会社・寳野雄太氏(以下、寳野氏) グーグル・クラウド・ジャパンでソリューションを担当する組織におります。アナリティクス、機械学習およびデータベース――社内では併せて「データクラウド」と呼んでいる分野の技術と事業開発を統括しています。

株式会社ブレインパッド・西村順(以下、西村) ブレインパッドのビジネス統括本部でプロフェッショナルサービス事業の責任者をしています。グーグル・クラウド・ジャパンさんには、データを活用するという面でとても強い親近感を持っており、共同でお客様に対して価値を提供しながら、これからも面白い仕事ができることを願っています。

DOORS ではグーグル・クラウド・ジャパン(以下 Google Cloud)とブレインパッドのこれまでの歩みについて教えてもらえますか。

西村 Google Cloud さんとのお付き合いは、2011年から当社が Google Cloud さんのデータサイエンスのケイパビリティを支援するという形で始まりました。2015年からは、Google Cloud さんがある食品メーカーの工場における不良検知のソリューションを提供する際に、ブレインパッドが支援したことをきっかけにパートナー契約を結ばせていただきました。その後共同の案件を通じて、少しずつ関係を強化していったと認識しています。

寳野氏 私がブレインパッドさんと関わり始めたのは2016年からでした。その頃は世の中全般が機械学習の話で盛り上がっていた頃で、機械学習領域のリサーチで様々な成果やサービスを発表していた Google Cloud にお声がけをいただく機会が爆発的に増えていました。日本を代表するようないくつかの企業とも、機械学習をきっかけにお付き合いが始まりました。

グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
ソリューション&テクノロジー部門
統括技術本部長(Analytics/ML, DB)寳野 雄太氏

ただブームがいったん沈静化して、「機械学習にはやはり効果がある」という評価が固まる一方で、「何でもかんでも機械学習ではないだろう。適材適所でいろいろなAI技術を適用すべきだ。そのためにはしっかりとしたコンサルティング能力が必要だ」という論調になりました。それならばブレインパッドさんとより広いエリアで一緒に仕事ができればという気運が社内でできあがったことをよく覚えています。


Google Cloud とブレインパッドの4分野での取り組み

DOORS 今回は、Google Cloud とブレインパッドの取り組みについて読者の方々にもっと知っていただきたいという意図でこのような対談を企画しました。両者における取り組みのテーマとしては、以下の4つが挙がっています。

  1. サプライチェーン マネジメント
  2. データ利活用内製化
  3. クラウド モダナイゼーション
  4. リテールおよびCPG向けソリューション

これらの概要と意義について聞かせてください。

西村 今回の両社の取り組みのテーマはいくつかのレイヤに分けて考えることができると考えています。一つが企業がどのようなデータ基盤を持つべきか、といったデータ基盤に関するレイヤ、二つ目にそのデータ基盤を活用するために必要な人材であったりケイパビリティに関するレイヤ、そして三つ目がデータ分析を扱っていくためにどのような業務プロセスで実行すべきか、といったレイヤ、です。
この3つ目のレイヤの具体例として、「サプライチェーン」という具体的な項目が最初に挙がっています。サプライチェーンという領域は、さまざまな部門や多くの関係会社が関わっていたりすること、またデータで判断する部分と人間が判断する部分がバラバラに存在していたりして、データドリブンに関わるさまざまな課題感やニーズがあると考えたからです。

株式会社ブレインパッド 執行役員
プロフェッショナルサービス事業統括
ビジネス統括本部長 西村 順

またDX推進という文脈の中で、ただデータ基盤を構築するというより、「何のためにどんなデータベースが必要かを考えなければいけない」という観点から「クラウドモダナイゼーション」といった話が出てきています。これが前述の一つ目のレイヤの話です。また昨今はデータ分析の能力そのものを自社内で強化したい、強化すべき、という問題意識が高まり、「内製化」という経営アジェンダを多く耳にするようになり、私たちもお客様に伴走する形で人材育成しながら内製化の支援をしています。これが前述の二つ目のレイヤの話になります。

最後の「リテールおよびCPG向けソリューション」は、私たちのレコメンド・パーソナライズ基盤である「Rtoaster」を Google Cloud のISV支援と組み合わせて提供するというものです。

寳野氏 データを活用したいというのは、やはりビジネス目標を達成したいという目的があるからです。その観点でデータ基盤を考えると、「いざデータを使いたいと思っても、BIツールを接続したら全然動かない」とか、「別のデータを付加しないといけないのに、それが存在するデータベースとつながっていない」といったことがあると使われなくなります。足回りとなるデータ基盤はとても重要なのです。

その重要な基盤を作る際には、「データをどう整理すればいいのか」、「使える形にするにはどうすればいいのか」という話になり、さらには「必要なプロセスを構築するにはどうすればいいか」、「必要な人材を育成するにはどうしたらいいのか」という話に発展していきます。それぞれのタイミングでブレインパッドさんのサービスメニューをお客様に紹介させてもらう機会が多く、いつも助けられていると感謝しています。


クラウドでしかサポートできない価値を提供することが使命

DOORS 今回 Google Cloud とブレインパッドが協力してソリューションを提供する意図はどういったところにあるのでしょう。

寳野氏 我々は、単にクラウドを提供しようとは言っていないのです。たとえばクラウドでコスト削減しましょうというのは、もはやあたりまえの話ですよね。そこだけではなく「クラウドでしかできないこと」でお客様の改革をサポートするのが我々のミッションなのです。そういった文脈の中でこの「データクラウド」という領域は極めて重要です。ほとんどのCxOレベルの方々が、その重要性に同意してくださるでしょう。

そうした期待がある中、Google Cloud の提供するソリューションを使いこなしてもらうために、ブレインパッドさんのようなパートナーと一緒に取り組むことは、我々にとって非常に心強いことなのです。

西村 4つのテーマの中でも特に「内製化」というのが、1つの大きな前提になってきています。内製化と一言で言っても、さまざまな視点があります。中でも私たちはビジネスプロセスをどう整理すべきか、とか、実際のデータモデルをどう作るか、とかいったノウハウやケイパビリティをお客様の組織の中に埋め込んでいくことを得意としています。

その私たちが、今回 Google Cloud さんと一緒に進める狙いをお話しします。
これまでデータに関係する問題は、それがそのままイコールビジネスプロセスの「サイロ化」、組織の縦割りの問題と直結してしまっていました。
縦割りの組織構造が結果的に社内で保有しているデータの断絶につながるから、データを連携させるには組織の政治的な利害関係を乗り越えないといけなかった。
それが昨今、データをGoogle Cloud 上に乗せ、Google Cloud のソリューションをうまく活用することで、これまでの組織的背景、政治的背景によるデータの断絶を、テクノロジーやイノベーションで解決できるのではないかという期待を持てるようになりました。
だからこそCxOクラスの方々が注目しているのだと思いますし、そこに我々がパートナーとして協力する意味があるのだと考えています。

寳野氏 今のお話、すごくよくわかります。データを一元化して利活用しましょうなどという話はそれこそ30年前からあった話です。ではビジネスの現場でなぜ難しい場合が多いかと言えば、そこにテクノロジーの制約があったからなのです。データを全部集めれば理論上はできることが、性能が伴わないために求められる時間内にできませんでした。それが今では Google Cloud のテクノロジーを使えば、クラウド上にデータを集めることさえできれば、後はどうにでもなるようになりました。

しかし一方で、「お互いのデータを読み込んで何か問題が起きたら誰が責任を取るんだ」といった政治的な話や、「どちらが予算を持つのか」といったお金の話が相変わらず障壁となっています。

西村 確かに「どっちがどれだけお金を持つの」とか、「うちのデータをそちらでも使えるようにすることでうちにどんなメリットがあるの」といった話になりがちですね。

寳野氏 話を内製化に絡めると、今まではシステムの構築をワンタイムの投資と捉えていたのが、今後は変わってくるのかなと思うのです。事業部ごとに「こういうデータの見方をしたいからこういうシステムを作ります」という企画があって、それに対して「SI費用とハードウェア代です」と会社がお金を渡してきたんですよね。ところがクラウドに置くことで、ワンタイムではなく、常に改善していくことを考えるようになります。運用プロセスもそれに伴って変わるはずなんですよね。

西村 日本企業では、業務プロセスに対して1個のシステムと1個のデータベースがあるのがけっこう当然のこととされていますよね。倉庫には倉庫のためのシステムがあり、調達には調達のためのシステムがあり、販売には販売のためのシステムがあり、それぞれにデータベースがあるという状況です。したがって、システムやデータを連携させようとしてもつなげるためのキーがなく、同じ商品なのに同じように扱えないということになりがちでした。

Google Cloud とブレインパッドが協力する大きな理由

DOORS ブレインパッドとしては、他のクラウドではなく Google Cloud でこれらのテーマに取り組む理由はあるのでしょうか。同様に Google Cloud として他の分析会社ではなくブレインパッドとパートナーとして組む理由は何なのでしょうか。

西村 私たちはデータ分析の会社なので、コーポレートミッションとして「データの利活用」という言葉をよく使うわけですが、奇しくも Google Cloud さんも同じく「データの利活用」ということに主軸を置いている会社です。その企業文化というかDNAの部分、すなわち「データを使って価値を生む」という思想が共通していることが、とても重要なポイントだと思っています。

寳野氏 私たちの連携のベースに今、西村さんが言ったような共感があるのは間違いありません。ブレインパッドさんのようなデータの専門家集団と一緒にビジネスをするのは我々にとって大きなメリットがあることだと思いますし、ぜひ今後も拡大していきたいと思っているところです。

特に先ほどお話しした「システムは1回作って終わりではない。継続して改善するものだ」というふうに考えが変わっていくのだとしたら、ブレインパッドさんのようなデータに専門性のある会社以外ではなかなか対応が難しいのではないかと思っています。というのは、システムをこのように捉えると、「そのためにはこういう組織を立ち上げる必要があります」と提言したりとか、そのための極めて高度なデータサイエンスを適用する場面が出てきたりするからです。しかしこれらはニッチな専門領域で、一般的な企業に必要とされている技量ではありません。市民データサイエンティスト(※1)や市民アナリストを自前で育成した上で、ニッチな部分は専門家にやってもらえばいい。そういったニッチな部分を全て任せられるのがブレインパッドさんだと私は考えているのです。この分野に関して代わりとなる会社はなかなかありません。

DOORS Google Cloud と言えば、分散処理がものすごく速いとか、大量データに強いとかテクノロジーの側面が強調されることが多いと認識しています。しかし会社と会社が協力するとなると、技術面のアドバンテージは当然の前提として、それ以上にミッションやコンセプトが一致するもの同士で組むことが大切であり、それが両社で一致しているということなのですね。

SCM~業界を横断するサプライチェーンマネジメントの支援を視野に

DOORS それでは個別のソリューションについてご説明をお願いします。まず1番目のサプライチェーンマネジメントから。

寳野氏 Google Cloud で“ Supply Chain Twin ”というソリューションを提供しています。サプライチェーンだと、まず管理のシステムが必要ですよね。また主な処理システムとしてERPツールもよく使われます。そういった複数のシステムのデータをリアルタイムに統合するだけではなく、それをデータ分析に使えるデータに変換する仕組みが“ Supply Chain Twin ”です。テンプレートのようなものを提供していて、極めて迅速にデリバリーできます。

現実世界のサプライチェーンをデジタルの世界に反映するから“ Twin ”なのですが、それだけでは価値はありません。リアルタイムで状況が把握できるので打ち手がすぐに打てるとか、同じくリアルタイムに学習データが集まるので、すぐに機械学習にかけて将来的な傾向を把握するなど<価値を生む判断>につなげてこそ意味があるわけです。そのような判断をする業務に落とし込む部分で、ブレインパッドさんのケイパビリティに大きな期待を寄せています。

西村 Supply Chain Twin を活用してどんなことしたいかと言えば、先に述べた「同じ社内なのに販売側と生産側と調達側でデータが揃わない」といった課題を解決して、データを統合していくためのきっかけにすることです。ただ最近はどちらかと言うと、個社のサプライチェーンだけではなく、業界横断でサプライチェーンを管理したいという案件が増えています。

たとえば物流業者が小売業者全体に対して付加価値を提供するといった計画があります。データが統合できていれば、1個の製品の生産からユーザーに渡るところまでが見えている状態になりますので、提供できる付加価値のレベルが全然変わってくるんですね。川中の業者が川上・川下の業者に対して付加価値を提供していくことが今後飛躍的に進展すると思うので、私たちはその後方支援をすることで個社はもちろん、業界全体の付加価値向上に貢献したいと考えています。

DOORS 以前はできなかったことが Supply Chain Twin でできるようになるだろうという具体例はありますか。

西村 1つはシミュレーションの高度化ですね。変数を変えて結果を予測するといったことが簡単にできますから、たとえば災害が起こったらどうなるかとか、価格を変えたときの販売傾向はどう変わるか、その結果調達にどう反映されるかといったことを素早く「見える化」することができます。

従来の価格分析だと「価格を変えることでどのぐらい売上に影響があるか」を推測することはできましたが、「生産計画に反映したときに1個あたりの生産コストはどう変わるのか」といった分析はできなかったのです。それが可能になることで、経営者としては勘と経験に頼っていた判断をデータに基づいて実行するきっかけになるのではと期待できます。

寳野氏 まさに最近の事例ですが、 紛争によってサプライチェーンが世界レベルで至るところで分断されています。その際にどこにどんな影響があるかを、実は多くの会社が手作業で分析しているんですよ。企画部門の人たちが事業部門に号令して、CSVデータを集めて、どの取引先が大丈夫でどこが駄目なのかを全部ヒアリングしています。そうすると分析できるようになるまでに1カ月から2カ月ぐらいすぐにかかってしまいますが、そのときにはもう状況が変わっているわけですね。しかし Supply Chain Twin を活用すれば、状況がリアルタイムに把握できる可能性が出てくるわけです。

それから業界横断のサプライチェーンという分野はパートナー企業と一緒に進めていこうと考えているのですが、単一の業界であれば、BigQuery にデータを入れると業界別のAIモデルがとても簡単に作れる機能もあるのです。

例を2つ挙げると、1つは需要予測です。小売のPOSデータとその日のイベント情報、さらに天候などのデータを入力すると、ディープラーニングで自動的に精度の高い需要予測モデルを作成してくれます。ただ入力データを整理して学習に使えるデータにする必要はあって、そこはブレインパッドさんと協力しながら進めたい部分です。こうした精度の高いモデルを短期間でデリバーできるソリューションを持っているのが私たちの強みと言っていいと思います。

もう1つは、配送ルートの最適化です。Google マップのデータを使って、ラスト・ワン・マイルの配送ルートにおけるCO2排出量をシミュレーションできるのです。

DOORS なるほど。Google Cloud の既存のソリューションを Supply Chain Twin と絡めることでさらに大きな付加価値が提供できるということですね。

「2024年問題」で日本の物流になにが起きるのか、より深く知りたい方はこちらもご覧ください。
運送業界の「2024年問題」とは?業界の現状から考える解決法

データ利活用内製化~テクニカルな支援だけではなく組織化や人材育成もサポート

DOORS それでは2番目のデータ利活用内製化についてお願いします。

寳野氏 先日パートナー企業を集めて一緒に発表したのが、データ利活用内製化のトータル・プログラムです。これには企業のユースケースに合わせたいくつかのコンポーネントがあります。この間発表したばかりなのが、「アプリケーションのモダナイゼーション」です。プロトタイプを用意して、我々とパートナー企業がお客様に伴走することでクイックにアプリケーションを開発し、その後もパートナーが伴走しながら内製化組織を作るといったプログラムです。

Google Cloud 社内にも内製化支援のための専用ルームを用意していて、「データがこうあって、だからこうすればこうなります」といったことを説明するのですが、お客様からすると「そんなことは体感的にわかっている」となって、なかなかデータから価値を生もうという気運になりません。そこから先に踏み込んでもらうには、ドメイン知識を持った人たちにどうやってデータの価値を理解してもらうかが鍵で、データ基盤をうまく活用するテクニカルな部分の支援はもちろん、組織の立ち上げやトレーニングもできるパートナーが必要です。

西村 私たちにとってもこれは大きなチャレンジです。今までは「3カ月ぐらいのスパンで分析して、検討結果をレポートを納品してください」という発注内容が多かったのですが、それとはまったく仕事の内容も質も異なるサービスになります。
経営者は「おまえたち、ちゃんとブレインパッドに教えてもらうんだぞ」と言うわけですが、教えてもらう人たちからすれば、そんな仕事のやり方は今までになかったのです。
当然当社も最大限の努力はさせていただくわけですが、これからはサービスを提供される側の企業、特に経営者の覚悟やコミットメントが必要だと心底感じます。

もう1つ、内製化というと技術の話に陥りがちですが、分析結果からインサイトを導き出すためには、やはり現状のビジネスプロセスをどれだけ理解しているかが肝心要のポイントになります。「この特徴量でこういう結果が出ました」といっても、それがあたりまえのことなのかそうでないのかは、ビジネスプロセスの理解があってはじめて判断できることです。だからビジネスプロセスの理解がないまま技術だけ学んでも、結局「おまえたちは何を勉強してきたんだ」と経営者から叱られることになりがちです。

何のためにデータ分析をするかと言えば、ビジネス成果を出すためにするわけで、技術とビジネスの両輪で学んでいかないとなかなか成功につながりません。そこを理解してもらうことが最も重要ですが、実際にお客様に理解してもらうのは苦労します。ですから内製化を進めたいのであれば、まず技術とビジネスが両輪であることを留意してもらえるだけでも、かなり進めやすいなと感じます。

寳野氏 ビジネスドメイン知識がまずあって、次にデータリテラシーがあって、最後にデータ分析ができるようになる――その段階を踏んでいればテクニカルスキルは最小限でかまわないのです。

わかりやすい例だと、「先週ECサイトの売上が爆発的に増えているけど、これはなぜ?」と聞かれたときに、「実はその時期にセールを打っていました」とざっくり答えてくれるほうが簡潔でわかりやすい。しかし同じことをデータとドメイン知識で説明するとなるとけっこう長くなってしまいます。「ある俳優をCMに採用していたのですが、彼が出ているドラマが先週ネットでバズりまして、それが売上増に結びついていまして……」などとなるわけです。

西村 気の短い経営者だと「説明が長い」と一喝する事態になりがちですが、データで説明するというのはこういうことなんですね。「説明変数がいくつあって、その中のこれとこれが影響している可能性が高いとデータが指し示しています、云々」となる。その説明変数を列挙するのに、ビジネスドメイン知識が必要となる。

いずれにしても説明は長くなるわけで、判断する側の経営者も「その時期、セールを打っていました」といったざっくりした説明ではなく、データに基づいた長い説明を聞くリテラシーというか我慢強さを持たないといけないわけです。いくら良い分析ができたとしても、聞く側がざっくりしたことしか要求しないのであれば、分析の質は下がっていってしまいます。

だから分析する側と分析結果を聞く側、つまり現場と経営者も両輪で成長していっていただかないといけないのです、

DOORS 内製化に関する事例はありますか。

西村 ゆうちょ銀行様の事例があります。概要を簡単に紹介します。金融業界は他の業界と比較して、デジタル化やデータ活用で後れを取っていると言われています。そのため「デジタルをやりたい」という若い人が金融業界に入ってこないという危機感がまずありました。ゆうちょ銀行様ももちろんながら、データを分析して得られたインサイトに基づいてビジネスを展開していきたいと考えていますから、デジタル人材が社内に来ない/いないというのは致命的な問題なのです。

一方、少子高齢化で人材が取り合いになるのは火を見るより明らかです。ならば何とか今いる人材でまかなえるようにしたい。いわゆるリスキリングですが、窓口業務をされている人を分析官に育成しようというチャレンジを始めたんですね。そして、まずは小さく始めたいとのことで、先方からは3名、私たちも同じく3名で伴走支援を開始しました。翌年は先方が6名で私たちは変わらず3名と、徐々にブレインパッド側の比率を下げる形で先方の人数を増やしていっています。

先ほど述べました「ニッチ」な分析については私たちが引き受けますが、ベーシックな分析に関してはゆうちょ銀行様で自走できるようになるまで横で見守りながら、それと並行して一緒に分析組織を立ち上げながら、一体となってプロジェクトを進めています。

こういった内製化の伴走支援のニーズが金融業界を中心に、全業界で非常に高まってきています。私たちが既に経験した案件から得られたアセットや知見を、内製化支援のメニューとしてまとめて、Google Cloud さんと一緒に提供していこうとしているところです。

クラウド モダナイゼーション~ただデータ基盤を提供するだけはなく、ここでも伴走支援

DOORS では次のクラウドモダナイゼーションについてお願いします。

寳野氏 データクラウドにおいては、データ基盤をモダナイズするサービスです。先ほども述べましたが、以前は情報システムといっても1つの目的で構築し、1つのデータベースを持つという形でよかったわけです。出力も月1回といった定期的なスパンで、定まったフォーマットの帳票があればよかったのでした。

ところがデータを分析するとなると、目的がその都度違ってきますから、さまざまなデータを組み合わせて自由自在に処理する必要が出てきます。月1回のバッチでの帳票出力とはかなり趣が違ってくるわけです。

バッチ処理でデータマートを用意してそれを分析することもありますが、その他にテキストなどの非構造化データも使いたいですし、「俳優がCMに出てそれがきっかけで売上が増えた」ことを検証するならその動画や一緒に配ったチラシなども分析したくなります。

またリアルタイムのデータを扱いたいケースもあります。あるコンビニエンスストアで取り組んでいるのですが、リアルタイムでPOSデータを集めて、今の売上の状況を把握したり、在庫切れになりそうだから急いで追加の仕入れをしたりといったことをやっています。

そうなると DWH やデータレイク、データマートなどさまざまなデータを蓄積する入れ物が必要だったのですが、Google Cloud ではこれらを統合した入れ物を用意していて、そこに入れてもらえればどんな使い方をしてもいい、データの整形など人手作業もほぼ要らなくなるサービスを提供しているのです。柔軟性が評価されて、多くのお客様に選んでいただいていますが、入れ物だけでは価値はありません。そこで、入れ物から価値を引き出すためのコンサルティングをブレインパッドさんにやってもらうことにしたのです。

西村 さまざまな切り口で分析ができる非常に使い勝手がよいデータ基盤なのですが、データリテラシーの向上が伴っていないと、「宝の持ち腐れ」になってしまいます。先ほどの内製化とも絡んできますが、「システム構築も自分たちでやりたい。自分たちでできるようになるために、まずは一緒にやってもらいたい。そのためにはある程度時間がかかっても構わない」というお客様のほうが結果として得るものが大きい。そこでデータ分析内製化支援と同様に伴走支援という形でやらせてもらうことにしました。単なるデータ基盤の構築とは一線を画す内容になっていることが特長です。

「30年来、毎月決まった帳票を見て議論するのがうちの社風だ」という会社で、「好きにデータを使って何でも分析してかまいませんよ」と言われても途方に暮れるだけだと思うんですね。その点、私たちは数多くの分析案件を経験してきたので、マーケティングであればこういう見方、サプライチェーンであればこういう見方をすればいいというユースケースとノウハウが蓄積されていますし、最新の技術を活用すればどんなことがどこまでわかるかも伝えることができます。

そうした内容をワークショップのような形で見せながら、お客様から「それはいいね」「それはあまり役に立たないね」といったフィードバックをもらって、それぞれの参加者のレベルに応じた居場所を見つけて、私たちと一緒に成果を出しながら学んでいく――こういうサービスが提供できるのがブレインパッドの1つの価値かなと思っています。

寳野氏 データ活用は、具体例を見せるとお客様のアイデアが広がるところがあります。ですので、さまざまな業種で多様な分析経験を持つブレインパッドさんとの提携は我々にとってとても力強く、下駄を履かせてもらった状態になる」とお客様に言われることがあります。どういうことかと言うと、ちょっと前まではデータサイエンスの基本的なことを学んだ後で、TensorFlow などを使ってコードを書いて分析処理を流すといったことをしないといけなかったのが、今はSQLやGUIを使えばいいだけなので、劇的に楽になったと言うんです。

だから Google Cloud で「スキルに下駄を履かせた」状態で、さらにブレインパッドさんにデータ活用のアイデアを広げてもらえれば、お客様がデータから価値を得られるようになるまでの時間が大いに短縮できるのではないでしょうか。

DOORS なるほど。Python やRのコードをゴリゴリ書くのとはやり方が変わってきていて、アイデアがあれば誰でもデータから価値を生み出せるようになった。そこでアイデア出しを支援できるパートナーが求められているのですね。

リテールおよびCPG向けソリューション~インダストリー向けのメニューも展開

DOORS では最後のリテールおよびCPG向けソリューションについて説明をお願いします。

寳野氏 クラウドを使ってコストを最適化するというのはとっくにあたりまえのことになっており、「Google Cloud を使えばビジネスが変わって、高い価値を生むことができるようになりますよ」とならないと、他のクラウドサービスやオンプレミスのシステムに対して優位性を持つことができません。

そこで Google Cloud では、インダストリー別のソリューションを強化しており、ISV Connect というインターフェースで、それらのソリューションを容易に組み込むことができるようにしています。その中でブレインパッドさんと一緒に強化したい分野がリテールとCPGなのです。

Google Cloud には「リテールサーチ」というファンクションがあります。これは企業のECサイトに簡単にグーグル検索を取り込めるサービスで、お客様のデータに基づいて、検索結果を最適化して出力します。ただヒットしたワードを出すだけでは売上にはつながりませんが、検索した人が欲しがる可能性が高い商品を候補として表示すれば、売上につながります。こういう自動レコメンドの機能を持った検索サービスです。これがブレインパッドさんのレコメンド・パーソナライズ基盤である Rtoaster と連携させるとさらにサービスレベルが向上するのです。したがってリテールサーチと Rtoaster を組み合わせて、コンサルティングからインプリメンテーションまで提供できれば、お客様から非常に喜んでもらえると思うのです。

西村 こちらの分野についてはコンサルティングだけでなく、私たちもレコメンドエンジンやメール配信サービスを持っていますので、それを Google Cloud の動画や検索などと組み合わせることで、お客様により高い価値が提供できます。そのために ISV Connect を活用させてもらうということです。

寳野氏 我々にもインダストリー別の営業部隊があります。彼らもブレインパッドさんの Rtoaster というサービスがあることを理解していて、提案に組み込ませてもらっています。

DOORS 実績はあるのですか?

西村 ISV Connect と Rtoaster 、さらにMAツールである Probance を組み合わせて、近鉄不動産様のECサイトに訪問されたお客様に最適なレコメンドを実現している――という事例があります。この案件も今まさに寳野さんがおっしゃったように、グーグルさんの営業の方が Rtoaster の特性をよく理解した上で提案してくださいました。そのおかげで、一緒に同社の仕事をさせていただくことになった次第です。

両社の協力により日本経済全体の活性化に貢献したい

DOORS Google Cloud とブレインパッドのコラボレーションにおける今後の展望を聞かせてください。

西村 今までになかったような画期的なサービスを通じて、大きなことを言わせてもらえれば、日本経済全体への貢献につながっていくのではないかと感じています。

寳野氏 データが活用され始めていると言われていますが、まだまだベーシックなレベルでも意外と活用が進んでいないと感じています。もちろん高度な活用に関してはまだまだで、ベーシックと高度なレベルの両方ができるようになったら、何しろ伸びしろが大きいので日本は爆発的に成長できるのではと考えています。とてもやりがいを感じていますので、今後もぜひよろしくお願いしたいと思っています。

DOORS 最後にユーザー企業様に向けてのメッセージをお願いします。

西村 テクノロジーの進歩があって、もちろんそれをうまく活用すれば、今まで遅れていた部分のキャッチアップができるチャンスはいくらでもあります。ただ従来とまったく違うのは、外注業者にやってもらって効果を出すだけでは駄目で、自社が変わっていかないといけないということです。

やり方を抜本的に変えないといけないということで、慣れ親しんだ業務がなくなって別の業務を覚えないといけないといったことも起こるでしょう。痛みを伴うことが多く、人によっては抵抗感もあるかもしれません。しかし現場の方々も経営者も、何のために会社が成長していかないといけないのかをもう一度確認し、新しいことにチャレンジする気持ちで変革に向き合っていただければと思います。

そのためのご支援も、また成功のためのエッセンスの提供など、いくらでも協力させていただきますので、共に成長していければ本当に嬉しく思います。

寳野氏 今すぐ自社を変革したいと考えているCxOレベルの方がいらっしゃると思うのですが、変革にはワクワク感もありながら、同時に怖さもあると思うんですね。その怖さと向き合って覚悟を決めたお客様とブレインパッドさん、そして我々グーグルの3者が共に力を合わせて歩んでいけば、必ず道が開けると私は確信しています。ぜひ一緒に貴社の改革に携わらせていただけたらと願っています。

DOORS 力強いメッセージ、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

注釈

(※1)ガートナーによると「市民データサイエンティスト」(Citizen Data Scientist)とは、統計や分析の専門家ではなく高度なデータサイエンスの専門知識を持っていないものの、ビジネスプロセスに関する独自の専門知識と技能をもちつつ、ある程度の分析作業までこなすことができる「パワーユーザー」と定義しています。https://blogs.gartner.com/carlie-idoine/2018/05/13/citizen-data-scientists-and-why-they-matter/


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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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