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バロックジャパンと考えるパーソナライズとUGC活用

公開日
2023.06.02
更新日
2024.06.25

大手企業を中心にアパレル業界ではEC化が進んでいます。各社でさまざまな仕組みが構築され、独自の取り組みも積極的に行われている現状で、Web施策のトレンドは黎明期から一巡を迎えたといえるでしょう。

一方で、さまざま手法やツールが出てきている中で、どれを選んでいいのかわからない、フル活用ができていないといった課題を持たれている事業会社も少なくありません。

今回のセミナーは、株式会社visumoとの共同企画として「MOUSSY(マウジー)」「AZUL BY MOUSSY(アズール バイ マウジー)」などの幅広いブランドを持ち、全国に367店舗(※2022年2月時点)を展開する国内アパレル大手の株式会社バロックジャパンリミテッドから、さまざまなマーケティングテクノロジーを駆使してEC施策を推進されている飯村氏、久保木氏をお招きし、「パーソナライズとUGC活用」というテーマで、これまでの取り組みや今後の展望についてお伺いしました。



■登場者

  • 飯村孝太郎 氏
    株式会社バロックジャパンリミテッド
    経営企画本部 情報システム部 ECシステムグループ グループ長
  • 久保木理冴 氏
    株式会社バロックジャパンリミテッド
    営業統括本部 EC事業部
  • 井上 純 氏
    株式会社visumo 取締役
  • 近藤 嘉恒
    株式会社ブレインパッド
    執行役員CMO (Chief Marketing Officer)マーケティング本部長

※所属部署・役職は取材当時のものです。

写真左から、株式会社ブレインパッド・近藤嘉恒、株式会社バロックジャパンリミテッド・飯村孝太郎氏、同・久保木理冴氏、株式会社visumo・井上純氏

<こんな方にオススメ>

  • アパレル業界で今後ECの強化を考えられている方
  • EC施策を行う中で、他部署との連携に課題感を持たれている方
  • UGCの活用方法を模索されている方
本記事の登場人物
  • 経営
    近藤 嘉恒
    YOSHITSUNE KONDO
    会社
    株式会社ブレインパッド
    役職
    執行役員 CMO(Chief Marketing Officer)|DXメディア「DOORS」編集長
    2016年7月に、データ分析企業のブレインパッドに参画し、主プロダクト「Rtoaster」の事業統括を牽引。2019年7月に、分析・基盤構築・SaaS全ケイパビリティを束ねたマーケティング部門を立上げ、全社ブランディング・プロモーション戦略活動を指揮。 2023年7月より現職。外交活動を中心に国内大手企業のCxOたちと議論を重ね、「データ活用の日常化」を目指し、啓蒙活動を行う。 当メディアの編集長として、DXに纏わるニュース、トレンド記事やお役立ち資料の編集を担当。

ECと情報システム。部署の垣根を超えた連携

ブレインパッド・近藤 嘉恒(以下、近藤) 皆さん、こんにちは。本セッションはバロックジャパンの飯村さん、久保木さん、そして株式会社visumoの井上さんをお招きし、「パーソナライズとUGC(User Generated Content)活用」というテーマでお話をお伺いしていきたいと思います。

株式会社ブレインパッド・近藤嘉恒

パーソナライズにおける重要なポイントは、いかに仕掛けていくか、そして、いかにお客様に寄り添っていくかということになろうかと思います。一方、UGCの活用という点では、「コンテンツをどう生み出していくのか?」「いかに先回りしたアクションを起こしておもてなしをし、接客体験を作り出していくのか?」というところが肝になるかと思います。

より良い接客体験を生み出すためのポイントやデータの活用方法などをバロックさんにご共有いただきます。また、visumoさんにはビジュアルデータの専門家として「今何をすべきか?」「この先何をしていけばいいか?」といったところをお聞きできればと思います。

まずは、今回のセミナーの共同開催者である株式会社visumoの井上さんより会社概要を紹介していただきます。

株式会社visumo・井上 純氏(以下、井上氏) 株式会社visumoでは、Webに使う素材を有効活用するためのSaaS型サービスを世の中に展開しています。各事業者様においては、自社のブランディングや商品・サービスを訴求する際に、写真や動画などのさまざまな素材を使われるはずです。

株式会社visumo・井上純氏

しかし、目的となる素材が見つからず、「あのとき、作った素材はどこにあるのかな?」「確かこんな素材があったはずなんだけど…」と悩まれている担当者の方も少なくないかと思います。実際に弊社でも素材がうまく管理できていない、活用できていないといった声を多くのお客様からいただいております。こうした課題を解決したいと考え、visumoを立ち上げました。

例えば、バロックさんにおいては、インスタライブでライブ配信を行うだけではありません。オンラインメディアでの接客コンテンツとして有効活用していただき、ブランドが発信しているコーディネートブックやSNSの運用で生まれてくるさまざまなクリエイティブをECサイトのコンテンツとして活用する際など、幅広いシーンでvisumoを駆使されています。

近藤 ありがとうございます。バロックさんは弊社のRtoaster(アールトースター)やProbance(プロバンス)も非常によく活用されています。visumoさんのサービスと、どのようなシナジーが生まれるかについても楽しみですね。

続いては、バロックジャパンさんについてご紹介します。まずは、情報システム(以下、情シス)の部門の中のECグループに所属されている飯村さんです。こちらのグループは、バックオフィス的な情シスとEC事業の間の溝を埋める立ち位置という理解でよろしいでしょうか?

株式会社バロックジャパンリミテッド・飯村 孝太郎氏(以下、飯村氏) はい。弊社がECに力を入れ出したのが、ちょうど私が入った頃です。情報システム側としてもECの知識を持つ人間がいた方がいいということと、専門のグループがあれば一気通貫での対応が可能になるということから、グループが結成されました。

株式会社バロックジャパンリミテッド・飯村孝太郎氏

近藤 ありがとうございます。続いては、営業統括本部でEC事業に携わられている久保木さんです。バロックさんのECサイトやアプリを幅広く担当されています。どういう形でコンテンツを出すのか、どんな施策を打っていくのかといったECの総合的な施策を考えて推進されている立場です。

バロックさんには施策立案の部分を総合的にプロデュースされている方と、ITの部分で仕組みを俯瞰されているという方がいらっしゃいますが、こうした体制を取られている会社はアパレル業界ではそれほどないと思うのですが、いかがですか?

井上氏 そうですね。アパレルに限らず、ここまでの体制が取れている会社は少ない印象です。ビジネスサイド側の方たちは、ツールの営業を受ければ「こういうことをやりたい」といったイメージは持つことはできますが、それを会社として最適化できるかどうかというところまではなかなかハンドリングできないんです。

本来、情シスの方がヘルプに入っていただけると、形にしていただきやすくなるんですが、情シスの方も幅広い業務に携わっていて忙しいのが実情です。WebやECの部署となかなか連携が取れていない会社も多いのですが、バロックさんは隙間がないよう二人三脚で対応されていますよね。

近藤 飯村さんと久保木さんは、部署は違いますが、毎日頻繁にやり取りをされているそうですね。

飯村氏 そうですね。同じグループのメンバーよりもやり取りが多いと思います(笑)。

近藤 会社全体でデジタル戦略に取り組んでいく、もしくはそれを基軸に組織の壁を超えていくという姿を体現されているということですね。この辺りのことも後ほどお聞きできればと思います。

バロックさんは創業が2000年ということなんですが、今は転換期として「ニューリテールの実現をしましょう」「OMO(Online Merges with Offline)を強化していきましょう」という指針を掲げられているかと思います。お二方ともその具現化にチャレンジされているお立場だと思うのですが、実際に現状をどのように感じていらっしゃいますか?

飯村氏 システム側の観点からするとちょっと難しいというのが正直なところです。店舗が持っているデータとECの持っているデータは異なるので、それをまず一元化するにはどうすればいいのかという課題があります。

OMOにおいては、やはり店舗のお客様がECに、逆にECのお客様が店舗に、どう渡り合ってくれるのか、どのような施策を組んでいくのがお客様にとって最適なのかというところが、一番ミッションとしては重たいですね。

近藤 お客様に心地よく来ていただくことと、それをシームレスなサービス体験として提供することを実現させるためには、やはりシステムと施策の両輪がないとやっていけないということなんですね。久保木さんはいかがですか?

株式会社バロックジャパンリミテッド・久保木 理冴氏(以下、久保木氏) 逆に私の立場としてはやりやすくなっていますね。「OMO」という単語によって、社内全体がECにすごく目を向けてくれるようになりました。ちょっと前までは、店舗とECに分かれており、やりづらい部分もあったんですけど、今はもうどちらも関係なく、お客様が買いやすいようにみんなで協力する体制になってきています。ツールの導入についてもスムーズに話が進められるようになりましたね。

株式会社バロックジャパンリミテッド・久保木理冴氏
「売上・客数予測による販促計画策定」など
5つの成功事例を収録。

OMOの起点となるフラッグシップショップをオープン

近藤 ありがとうございます。2023年3月3日に「The SHEL’TTER TOKYO」という、OMOを体現するフラッグシップショップがリニューアルオープンされましたが、今回フラッグシップをリニューアルされた狙いはどこにありましたか?

飯村氏 基本的に商品を並べる今までの店舗とは、全く異なるお店になっています。ゆったり商品やコーディネートを見て、楽しんでいただき、そしてお客様にSNSで色々なところに発信していただきます。お客様にとっては発信源に、弊社としてもDXやOMOの起点となる店舗にしたいという想いで今回のリニューアルに至りました。

近藤 「今までと真逆の店舗にしよう」「新たなものをここに投げ込んでいこう」というお店なんですね。カリスマ店員さんのような方がいて、その人たちに会いたいから来店されるお客様も多いとお聞きしましたが。

久保木氏 はい。スタッフがオンライン接客のため、地下にある撮影ブースで撮影している風景を外から見ることができます。「その場で配信を見たい!」「私がインスタで見た人がいる!」「インスタで見たスタッフとおしゃべりしたい!」という目的でいらっしゃるお客様も多いですね。そういった意味でも楽しい場所になっていると思います。

近藤 もはや普通のフラッグシップショップじゃないですよね。来店目的が購入ではなく、「視聴」になっていると思います。それで、お店で見たことが、またSNSで発信されていくという循環が生まれますよね。

久保木氏 そうですね。配信していた商品もその場で買うことができるので。


ストーリーベースでECを設計する

近藤 OMOの機能の源泉となる店舗ですね。今後も楽しみです。

さて、次はディテールのお話に移りたいと思います。パーソナライズのこれまでから現在についてお伺いしていきますが、バロックさんのデータ活用やEC戦略を2つの観点で深掘りができればと思います。

1つ目は「仕組みと仕掛けの構築」、もうひとつが「注力の3本柱」という点です。前者は「表示枠」「セグメント」「シナリオ」の自動化と運用定着化がポイントになります。後者は表示枠も含めたレコメンドの強化、店頭顧客のEC利用、LINE活用の部分についてお伺いしたいと思います。

表示枠については、トピックスから新着ピックアップ、ランキング、レコメンド、カタログ、閲覧履歴、コーディネート、スタッフスナップ、ビデオ、フォト、ポップアップのバナーとなっています。トップページでもこれだけのパーソナイズが作られています。アパレル業界の中でも結構多い方であり、しかも意図、目的を持ったパーソナイズのコンテンツの場所を用意されているという印象を受けました。

一方、ECのフロントでは見えない部分では顧客の属性や購買情報、そこにひもづく閲覧、行動情報、商品のマスター関連、トリガーのシナリオとしてのセグメントもパーソナライズの一つの起点になされていると思います。

マーケティングオートメーション(MA)は、主にメールマーケティングを基軸にして、ウェルカムのコミュニケーション、カートフォロー、再来訪訴求、店舗起点でのシナリオを作られています。

ここまで来るのにこの数年かかって色々と取り組まれていますが、今の状況はいかがですか?

飯村氏 そうですね。これまではいろいろな方に協力いただきながら、「まずは色々なことをやろう!」「勝ちパターンってなんだろう?」と一通り模索してきた段階だったと思います。

ただ、表示枠については正直まだわからないですね。我々としてはお客様に対して「どういうふうに見えるか?」を意識しては作っているのですが。

近藤 そうなんですね。順序もそうですけど、スクロールすればするほど、「こういう意図を持って、こういうことを伝えたいんだろうな」というのがちゃんとわかるような表示枠の設計になっていると思います。ただ、単に何かを増やすとか、よくある効果測定のためのものではなく、シナリオがあるというような、意思を感じたんですよね。

一方、今、レコメンド、店頭顧客のEC利用、LINE活用などに取り組まれていますが、難しいと思われている点はありますか?

飯村氏 今まで来られたことがない方や、買ったことがない方に1回買っていただくという目的はある程度できたのかなと思います。そこからF2転換していくのが結構ハードルが高いですね。1回目は、まぐれかもしれません。

「いかに気に入っていただくか」「2回目に買っていただくか」といったことを探りながら、今、色々と施策を打って出ようかなという段階だと思っています。

近藤 久保木さんはいかがですか?

久保木氏 弊社はブランドが19あって、それぞれに世界観があるので、それらを「いかにうまく見せるか」が、今後の肝になると思っています。うまく伝わればF2にもつながり、顧客にもなっていただけるので、そこは非常に意識していますね。データをもとに、「どこまでお客様を理解できるか」ということもすごく肝になると思っています。

先ほど「サイトトップにコンテンツが多いよね」という話がありました。「ここから来た人はこういうマインドだから、こういうコンテンツが欲しいよね」「こういう気持ちの変化があるよね」というストーリーがあるのですが、色々な情報やデータを見つつ、一つひとつ設計していく点が難しいと感じます。でも、それがすごく重要なポイントだと思っています。

近藤 効果測定で「この部分が悪いから改善だよね」というよりも、ストーリーベースで考えられているということですよね。

久保木氏 そうですね。年齢層が広いのとブランドの世界観もそれぞれにあるので、それに沿いながら「ここのブランドだったら、こういう想いを持ってサイトに来てくれているのかな?」ということをすごく考えますね。

近藤 確かにブランドが19もあれば大変ですよね。ユーザー層も客単価もブランドによって全然違いますから。

井上氏 私もバロックさんと数年間、一緒にお仕事させていただいて、本当にブランドによって見せたいコンテンツは変わってきます。それをどうまとめ上げていくかということが、本当に難しいというのを感じています。

あと、トップでは、ブランドの世界観は表現できるものの、商品詳細ページだとレイアウトが限られるので、それぞれの世界観が出しづらいというのもECサイトの辛い点ですね。

近藤 最大公約数的な考え方でコンテンツを準備するという考え方もあれば、最小公倍数的に「このブランドでうたっているものを他のブランドでも展開する」といった考え方もあって、この塩梅が難しいですよね。

飯村さんはこれまで苦労された点は何かありますか?

飯村氏 「SHEL’TTER WEBSTORE」には複数のブランドが入っているので、例えばMOUSSYを買ったお客様が、果たして「他のブランドも見ていただけるのか?」っていうところのレコメンドロジックを組み立てる点ですね。

逆にシンプルにMOUSSYを買った方に、またMOUSSYをすすめればいいというわけでもないので、そういう部分はブレインパッドさんといろいろ共有しながら進めていく中でも結構苦労したと感じました。

これに関しては、その時々で変わると思うし、人の好みもあるだろうし、「こうする!」といった正解はないと思います。ただ、少しでも最適化できるよう、常にブラッシュアップしていくことがこれからの課題です。

近藤 確かに商品の相関は、レコメンドの概念的にはそれほど難しくなく、既成能力でもできることではあると思います。ただ、お客様の心理はシーンや季節、あるいは朝と夜といった時間帯でも変わるはずです。「買いたい」という気持も段階的だと思います。その中で「いかにECで接していくのか」というところに照準を合わすレコメンドって非常に奥深いですよね。

飯村氏 そうですよね。例えば出勤している時間なのか、家で寝る前なのか、そのシーンによって、時間によって、多分見たいものは変わってくるはずです。その時々にお客様が今思われていることを反映できるようなレコメンドというのが最後の答えかとおもいますが、少しずつ読み取っていくことが大切ですね。

近藤 ありがとうございます。OMOという部分についてはいかがですか?

飯村氏 店舗をご利用いただいているお客様がECサイトに訪れたときに、店舗での行動がECサイトに反映されているかどうかが課題ですね。「これ、前に見たやつだ!」というふうになったら、やはりテンションは上がると思います。

例えば、店員の接客をECにそのまま反映するのは難しいのですが、「いかにお客様の思考や行動ペースに合わせられるか」がチャレンジングなところですね。

あとは移り変わりが激しいアパレル業界なので、データを蓄積してそれを反映させるスピードも大切にしています。ゴールを明確に設定し、そこに突き進むためのデータを持っておきたいなと思います。

近藤 確かにそうですよね。事業会社側が「こんなデータが取りたい」というよりも、お客様をハッピーにするためや、商品を欲しいと思ってくれる何かしらの情報還元をするためにデータを収集していかないとあまり意味がないと思います。一方的にデータを収集のためにポップアップを出しても邪魔と感じるじゃないですか。店舗へ来たときにどういう形でモーメントを出すかは、とても大切ですね。

井上氏 今、ラインナップの幅が化粧品や、ライフスタイル系の商材にも拡がってきている中で、洋服のレコメンドだけでは済まない状況になっていると思います。

商品展開やデータが入ってくるのが早くなってきても、シナリオの精度を上げなければならない、スピード感も持って取り組まなければならないというアパレルならではの要素がある中で、御社はどのようなことを意識されていますか?

久保木氏 それでいうと嗜好性ですね。やはりトレンドもすごく重要だと思います。それってシーズンとかブランドとかの情報だけを見ていても取れていません。飯村さんが話していたみたいに「どういうシーンで、どういうTPOでうちを見てくれているか」といった、その人となりの嗜好をいかにデータで取っていくかがすごく重要だと思います。たくさんあるコンテンツの中で、visumoさんのビジュアルデータなども活用して、「どうやって取る?」「どれで取る?」みたいな話を社内ですごくしていますね。

飯村氏 やはり施策としてはバナーを設置するなど、やはり静的なものの方が早いんですよ。静的に当てたコンテンツをRtoasterに入れて、嗜好性と結びつけて、素早くお客様の好みに合うようなものを、より早く出していくということは常に繰り返しているところですね。

近藤 人の脳でしか考えられないし、シナリオを作るという行為だけは手動ですよね。「こういうシーンで、こういうTPOで使って欲しいんです」という想いは持っておいていただきたいところですね。こればかりはシステムでどうにかできることではないので、人が引き受けるしかないですよね。

まず、シナリオのレールを作ってABテストをする。A、B、C、Dというレーンは作るから、そのパターンをシステム化するとか、RtoasterでABテストを行い、自動的に最適解でAのバナーをずっと出し続けるとか、その部分はシステムを使ったパーソナライズの最終的な極みになるかもしれないですね。やはり人とシステムが動くハイブリッドなんでしょうね。

井上氏 まだChatGPTでシナリオは作れないと思うんですよ。そこは、なかなか置き換えられない要素だと思っているので、そういう意味ではシナリオを作るノウハウをいかに内部でためられるかですよね。

そのノウハウ化するためにはデータに基づいた根拠が必要なので、そういう意味ではブレインパッドさんに頼るのがいいですよね。

近藤 バロックさんの場合、施策をする際には「なぜやるのか?」「この施策にはこういう目的があるんだよ」ということを、ブランドの方々と会話をするのが大切になりますよね。そして、その会話の中の「根拠」の部分にはデータが使われるわけなので、やはりただシナリオや施策を考えるだけではなくて、そこにひもづくファクトをどう持つかというのがすごく重要なんですね。

久保木氏 とても大事ですね。ツールを導入するにしても、私たちは「どうやって商品価値をお客様に提供したいか?」というところまでイメージして導入を考えるんです。

また、ツールを使う側にも導入意図を説明しないと、「なぜこれが導入されたのか?」がわからないまま運用することになります。「手間がかかってよくわからないけど使ってます」では、すごく不毛な時間になってしまい、誰のためにもなりません。「こういう目的があって入れるんだよ」「このツールを使うことでこういういいことがあるんだよ」ということを、一番はじめに説明するようにしていますね。

あと、使っていく中で「こういう使い方があるんだ!」みたいな新しい発見とか、逆に「もっとどうにかならないですか?」「こういうことがしたいんですけど」といった意見も現場から挙がってきます。こうしたやり取りを積み重ねていくのも、非常に重要だと実感しています。

井上氏 ツールを入れて「はい、よろしく」というスタンスではなく、現場に近いという姿勢は、お二人を見てすごく感じますね。現場の意見をちゃんと吸い上げて、我々のようなツールベンダーにも要望をいただけるし、我々ももちろんそれにお応えします。こうしたパートナーシップがあるからこそ、スピーディーに色々な物事が進められていると感じます。

本部、ブランド担当者、店舗スタッフ、ベンダー…ワンチームで一つのメディアを作り上げる

近藤 ありがとうございます。OMO戦略を展開するにあたって一翼を担うものとしてシェアドメディアが挙げられます。SNSの投稿や投稿に関するデータをオウンドメディアに活用する流れがトレンドとしてあり、それをUGCの施策として展開しているケースも多いかと思います。

バロックさんではこの部分に関しても非常に目的を明確にして展開されているという印象があるのですが、いかがですか?

まずは間近で見られている井上さんからご意見をお伺いできればと思います。

井上氏 そうですね。新聞でもメディアでもUGCあるいはファンマーケティング、アンバサダーマーケティング、スタッフマーケなど、色々な言葉を見かけるようになりました。

弊社では5年前からUGCを活用する施策が打てるツールを開発してきたのですが、当時はまだユーザーの投稿、消費者の投稿を活用して何かやろうというという考えは、まだ一般的ではありませんでした。

でも、それが今はすごく変わったという実感があります。今までUGCは消費者のInstagramやTwitterの投稿をうまく活用しようというように捉えがちだったのですが、バロックさんでは店舗のスタッフの方のリソースやノウハウ、ナレッジを使っています。店舗のスタッフがコーディネートを発信し、それが一つのコンテンツになる。店舗スタッフもユーザーの一人なので、UGCという枠組みに入っていると思いました。

さらに、店舗スタッフだけでなく本部のスタッフやインフルエンサー、アンバサダーなど、ブランドに関わる方たちがSNSやYouTube、TikTokなど、さまざまなチャンネルに登場してくるんです。そういった方々もユーザーであることには変わりないので、こういったものもUCGなんですね。「自分たちのブランドを支えるコンテンツを誰が作れるんだろう?」そして「それをどう活用できるんだろう?」と考えられているから、こうしたUGC施策ができるのだと思います。

近藤 ありがとうございます。飯村さん、いかがですか?

飯村氏 どうしてもECが大規模になってくると“作っている人間”“運用している人間”というように分かれがちになりますが、今お話があったようにスタッフがインスタライブでコーディネートを発信するにしろ、本部の人間がバナーを作るにしろ、やはりみんなが一つの「SHEL’TTER WEBSTORE」を作り上げているという意識が強いと思います。

また、その部分ができると形成化され、さらに大きいものになっていくと思います。店舗スタッフ、本部の人間、運用している人間、私らのようなシステムの人間、さらにはツールベンダーさんも、「全員が一つのサイトを作っている」という意識を持つことが、UGCを拡大するにあたって大切なことだと思います。

近藤 ワンチームですね!

井上氏 「ブランドが作ったクリエイティブを絶対に発信しないといけない」みたいなレギュレーションを設けている会社もあると思うんですけど、それがなくなってきている傾向も強くなってきているんですね。その背景には消費者が求めているものとのギャップがあると思うんです。

情報を仕入れる消費者の行動はSNSの閲覧が中心です。インスタの発見タブやYouTubeでは自分に合った、パーソナライズされたコンテンツが出てきます。でも、オウンドメディアに行くと、ブランドが言いたいコンテンツしかない。これからはSNSのようなパーソナライズがオウンドメディアにも求められてくると思います。

お客様を取り込んで、消費者にとってリアルなコンテンツを作っていく、そしてブランドでフィルターをかけながら出していく。これがこれからのあるべきコンテンツの作り方だと思っています。

近藤 最終的にお届けするのは一つの商品ということになるのですが、それにまつわる情報の伝え方は非常に多岐にわたって、まさにvisumoが展開するビジュアルデータといったものをどういうふうに見せていくのかを突き詰めていくことで、コンテンツの力と、ブランドの力を強くすることにつながるんですね。

極端な話、ECはITや制作など限定されたメンバーだけで進めていけば形になると思うんです。店舗スタッフやブランドの人たちを巻き込むとなると相当な数になる。19ブランド、約350店舗の人たちの気持ちを形にしていくことって、とても難しいことだと思うんです。

その部分で心がけられていることや意識されていることはありますか?

久保木氏 「どういう情報があったら意図やツールの良さが伝わるだろう?」と考えて情報を伝えたり、必要な資料があれば提供したりといったことを心がけています。

目的を明確にすること、現場でやりづらさを感じさせない、一緒にやっている感を出すということが大切だと思います。

近藤 例えば、システムを導入する際にも「こういう運用フローを形化したいから!」という内部都合ではなくて、「あなたたちに使ってほしいから」「この目的を私たちも一緒にかなえたいからやるんだよ」というように、ちゃんと使ってもらうためにメリットや目的を明確にして、現場でつまずいたところはしっかりと回答できるようにされているということですね。

久保木氏 私も現場側にいた経験もあって、一方的に「システムを入れました」って言われて「よくわからないな」と思ったこともあったので、そういうことをしたくないなと思っています。やはりシステムを入れるからには使ってほしいし、良さをわかってほしいし、それによって結果も出してほしいのです。

その人が得られるメリットを感じて目的を達成する手助けのためにツールがあるので、「これを持っておいてくれたら役に立ちます」と最初にお伝えしますね。

データを細かく分解し、ストーリーのピラミットを作り上げる

近藤 ありがとうございます。次にビジュアルデータの可能性についてお伺いしたいと思います。活用することで施策が非常に拡がっていくと思うのですが、その裏側ではデータの取得や連携をしなければなりません。飯村さんの観点でビジュアルデータのシステム実装において重要な部分と、ポイントはどこにあると思いますか?

飯村氏 当然の話なんですけど、購買だけでなく大切なのは「そのお客様がどういう行動を起こしたか?」ということです。閲覧だったり、離脱だったりとか、もしくはカートに商品を入れてくださって離脱しちゃったという行動データは当たり前に取得し、さらに5分間悩んだけど帰っちゃった、2分間見てすぐ来てくれたとか、データをさらに細かく分解していくことですね。

そして、これらを「どう施策に活かしていくか?」「こういう層には何ができるのか?」を、一つひとつピラミットのように積み上げて、それを施策に落とし込むのが一番重要かと思っています。

近藤 オウンドメディアで言うトップ、商品詳細ページ、カートイン、コンバージョンみたいな当たり前の流れよりも、ショールーミング的なものですよね。店舗でいえば、「この人はこの商品が目的で来店した」というのが、ECではインスタの投稿であったり動画だったりする。それを探りに行けるということ、それを手元に残せることに価値があるということですね。

コンバージョンレートは100以上がないわけで、おそらく平均的には10%以下ですよね。残りの90の人たちの心理、コミュニケーションのタイミングを私らは探りに行っているわけですね。

飯村氏 「お客様がどういう行動をとって、どういう風に悩んで、どういう風に楽しんでいただけたか?」ということが見られると、次は「お客様が本当に喜んで買っていただくためには、喜んで店舗に行ってもらうには、喜んで動画を見てもらうにはどうしたらいいか?」というところが考えられるかなと思います。

データはどんどん貯まってくるのですが、それを活かさないと意味がありません。「いかに活かせるか?」というところ、先ほど話したゴールを明確に持つことが重要だと思います。

近藤 ありがとうございます。ここからは、「これから何をすべきなのか?」「何をしていくのか?」未来のことについてお伺いしていきたいと思います。

お二方の中でもイメージがいくつかあると思うんですが、ポイントになるのはビジュアルデータも含めたパーソナライズのトリガーをどう作っていくかということだと思います。

「お客様がその体験でハッピーになったのか?」ということを起点に考えること、押し売りのコミュニケーションということではなく、最善の情報選択を促していきます。昨今は情報が氾濫している状況なので、オウンドメディア以外も含めて、いかに最善の情報選択を促していくのかということがポイントであり、そのためにどういうデータを用いて実現していくのかが重要になってくると思います。

今3本柱の一つでもありますが、購買予測、つまり、次買ってくれそうなお客さんは誰なのかというところを、データの力を駆使しながらチャレンジされていますが、いかがですか?

飯村氏 道はまだ半ばです。多分、ゴールはいつまでも先にあると思うんですよ。なので、次買っていただけるような「購買予測をできるのか」「その枠を拡げていけるのか」が、大きなテーマですね。ちょっとずつ探っている状況です。

近藤 買ってくれるお客様を探すということは効率化にもつながりますが、お客様にとっても無駄な情報が届かないというメリットも得られますよね。IRにも書かれていますが、サステナビリティとは、無駄なものを作らないことにもつながると思います。「ちゃんと買っていただけるものを、徹底的にいいものを作っていこう」みたいなものです。購買予測ができれば商品開発とか在庫最適化など、他の部分においてもサステナビリティが実現できるかもしれません。

今、購買予測はシステム上で精度を高めている段階なのですが、マーケティングコミュニケーションの情報のゴールデンパスを作っていくことが本来のゴールかもしれません。

今取り組んでいる施策の中で、今後将来的に面白くなりそうな取り組みはありますか?

久保木氏 行動データがどうやってCRMの施策に反映できるのかいう点は、面白い反面、難しさも感じますね。データがたまっているので、それらを使って引き算をし、いかに結果に反映できるかというところを取り組んでいます。

飯村氏 ECだと分析ツールでトラッキングをすれば行動データが蓄積できますが、実態である店舗に来てくださったお客様が「どういう行動をしてくださったのか」「何を見てどう感じてどのように見比べて買うのを止めたのか」「なぜ試着したものとは別のものを買ったのか?」というデータが取れるといいですね。

それがわかれば、「こちらはどうですか?」という提案が、それこそ押し売りでなく、新しい提案ができるようになるのかなと思います。

近藤 ありがとうございます。動画データなども今後の活用の幅が拡がっていくと思っているのですが、いかがですか?

久保木氏 今は動画データが活用しきれていません。早くデータが使えるよう、設計に力を入れていきたいです。

飯村氏 こういう画像を見ているお客様に、これをおすすめするみたいなことができるといいですね。

UGCやパーソナライズの未来とは?

近藤 ありがとうございます。私たちツールを提供している立場としても、「こんなことができますよ」という提案から思考を生み出していくところがポイントになっているかと考えています。「こういうようなレコメンドを踏んでいる人は、こういう思考があるんだよ」というところに行き着いていくと思います。

SNSやUGC、スタッフのジェネレートコンテンツにおいて、今後どのような未来があるのでしょうか?

井上氏 ユーザーの投稿、アンバサダー・インフルエンサーみたいな第三者的な方の投稿、スタッフの投稿、いろいろあると思います。特にスタッフの投稿は、今までは一部署で施策があって、予算があって、それを達成するために作ったクリエイティブという面がありました。

そこから、今では「会社の中で持っているアセットを活用しよう」という流れになってきていると思います。ブランドやその商品に基づくビジュアルデータが多岐になり、それぞれの計測ができるようになったのが現在地だと思っています。

次はオウンドメディアなどお客様とのタッチポイントにおいて、どの写真に「興味を持ったのか」「スタイリングに興味を持ったのか」「動画のどこを観たのか」といった細かいデータが取れる時代になってくると思います。

先ほど、嗜好というお話がありましたが、商品の写真やスタイリング、動画など、さまざまなメタデータが取れるようになり、それを今までの行動ログやCDP(Customer Data Platform)にあるようなログと組み合わせれば、ビジュアルを起点としてパーソナライズできるエッセンスが増えてくるはずです。さらに、その精度を上げる取り組みが中心になるのではないかなと思います。

我々はビジュアルを集める、そして活用するという立ち位置で、パーソナライズの専門であるブレインパッドさんとうまく組みながら、今後もバロックさんのお客様に、よりよい顧客体験が作っていけるよう、チャレンジしていきたいと思っています。

近藤 色々なマーケティングツールが出ていますが、使いこなせていないという事業会社様も多いですね。我々から見ると奥にいらっしゃるブランドの方、店舗スタッフの方の想いを通訳してくださるお二方がいらっしゃるからこそ、我々もその目的をかなえたいと思えますね。チーミングが非常に大事なのだなということが、今日強く感じました。

あとは、ベンダー同士のつながりも大切ですよね。「他社のこのツールを使えばできるけど、私らの領域ではありません」という時代は終焉を迎えつつあると思います。今まではクライアントの情シスの方がベンダーを束ねていたのですが、私たちベンダー同士ももっと強くつながっていかなければならないと感じました。

「visumoとブレインパッドでこんなことができる」ということを発信していかなければ生き残れない時代になってきています。クライアントさんたちがやりたいことを超えるくらいのものを提供するといったアライアンスを私たちはやっていかないといけないと改めて強く感じました。

最後にまとめます。マーケティングテクノロジーの本質的な活用は非常に難しいのです。色々な人たちの情報資産が、社内、お客様側、それぞれ存在します。それらの情報をどのようにお届けするかを考えていくことが重要なポイントとなり、それがパーソナライズ、UGCのあり方であるといえます。特に「スタッフの人たちの力を用いてブランドをお届けしていこう」ということを考えていくことが重要だと感じました。

一方、情報が発信できる枠は有限なので、その使い方は思考を凝らしていかなければいけないという印象を受けています。

あと、私たちvisumoとブレインパッドのように、もっとベンダーが連携をして、新たな機能開発を進めていくことも重要かと考えています。 本日はありがとうございました。


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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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