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DX推進のための基幹システムの要件とSAPユーザーの対応方法

公開日
2021.01.15
更新日
2024.06.06
DX推進のための基幹システムの要件とSAPユーザーの対応方法

レガシーシステムを早急に刷新する必要性

「2025年の崖」という言葉を聞いたことがあると思います。経済産業省が主催した「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」が2018年(平成30年)9月7日に公開した『DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』(以下、DXレポート)で取り上げた問題につけた名称です。

※2025年の崖についてはこちら:DXを実現できないと転落する「2025年の崖」とは?政府の恐れる巨額の経済損失

DXレポートでは、IDC JapanのDXの定義を引用しています。

”企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること”

【関連】「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDXとは?意義と推進のポイント

DXを推進するためのIT要素についても、DXレポートではIDC Japanの見解を引用して説明しています。以下にそれらを箇条書きにします。

・ 分散化や特化が進むクラウド2.0(※)
・ エンタープライズアプリケーションでAIが使用されるパーベイシブAI
・ マイクロサービスやイベント駆動型のクラウドファンクションズを使ったハイパーアジャイルアプリケーション
・ 大規模で分散した信頼性基盤としてのブロックチェーン
・ 音声やAR/VRなど多様なヒューマンデジタルインターフェース

※IDCが提唱した概念で、DXを推進するために必要な機能が諸々含まれている新しいタイプのクラウドのこと

これらのテクノロジーと親和性の高いシステムを持たないとDXは実現できないということです。そのようなシステムと真逆の「技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステム」(DXレポートより、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会による定義)は、「レガシーシステム」と呼ばれています。

DXレポートでは、このままでは基幹系システムを21年以上継続している企業の割合が2025年には6割程度に達すると指摘しています。21年以上継続されているシステムはレガシーシステムと考えていいでしょう。つまり「このまま放っておくと、2025年には、日本企業の半数以上がDXに対応できないレガシーシステムを抱えることになる」ということなのです。

出典:『DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』(経済産業省、平成30年9月7日)27ページ

もしこのまま推移したときの経済的損失もDXレポートでは算出しています。その額は日本全国で「最大12兆円/年」だそうです。2019年の日本のGDPが561.3兆円ですから、GDPの2.1%に相当します。2.1%というとわずかに感じる人もいるかもしれませんが、2019年の日本の実質経済成長率(すなわちGDPの伸び率)が0.5%ですから、かなり大きな損失といえるでしょう。


SAPの「2027年問題」とは?

注目すべきことは、DXレポートでは「基幹システムの刷新」を求めているということです。以前は何となく、基幹系システムはそのままで、その周辺に「攻めのIT」システムを構築すればいいという考え方が支配的だったように感じます。しかし、それは違うとDXレポートは指摘しているのです。

それで思い出すのが、もう1つの「2025年」に関する問題である「SAPの2025年問題」です。これは「SAP ECC」のサポートが2025年末に終了するため、これらのユーザー企業は何らかの対応を余儀なくされるというものです。ただし2020年2月にサポート終了が2027年末に延長されたため、現在では「2027年問題」と呼ばれるようになりました。

SAPの次バージョンは、「SAP S/4HANA」(以下S/4HANA)と呼ばれるシステムです。SAPは当然ながら、SAPユーザーはもちろん、他の方式を採用している企業にもS/4HANAへ移行することを推奨しています。S/4HANAについては次の項で簡単に説明しますが、DXに対応した次世代のERP(ポストモダンERP)とSAPは主張しているからです。


SAPの次バージョン S/4HANAの特徴

S/4HANAは、SAPのホームページによれば、”AI、機械学習、高度なアナリティクスなどのインテリジェントテクノロジーが組み込まれた、将来を見据えたエンタープライズリソースプランニング(ERP)システム”です。同じページからS/4HANAの特徴をまとめると、従来のSAP ECC同様、幅広い業種に対応する各種機能とベストプラクティスを提供しつつ、さらに以下のメリットがあるといいます。

・ オンプレミスはもちろん、パブリック、プライベート、ハイブリッドの3形態のクラウドで導入可能
・ DXの実現に向けて、AI、アナリティクス、プロセスオートメーションが組み込み済み
・ インメモリーデータベースとシンプルなデータモデルによる高速なデータアクセス
・ 消費者向けアプリ並みに使いやすいユーザーエクスペリエンス

前述のDXを実現する技術でいえば、「クラウド2.0」、「パーベイシブAI」、「ヒューマンデジタルインターフェース」などに対応していると評価できます。

これまでERPに関しては、機器のリプレースのタイミングで何らかの修正対応が発生していました。これはシステム部門の大きな負担になっていましたので、今後ERPをクラウドで利用したいと考える企業が増えることでしょう。その意味で3形態のクラウドで導入可能であることはS4/HANAの大きなセールスポイントです。

ERPをクラウド上で利用できることによる大きなメリットは、クラウド上のさまざまな機能と容易に連携できることです。たとえばクラウド上で提供されている学習済みAIとERPを連携させて、さまざまな自動化を実現したり、データ分析による知見を得たりすることが容易にできるようになるのです。

また機能拡充や改善などもされているため、従来は各企業がカスタマイズで対応していた部分も標準機能に置き換えることができる可能性も大いにあります。

一般的なレガシーアプリ刷新方法

ここで一般的なレガシーシステム刷新の方法について少し解説しましょう。大きく4つの方法があります。

  1. 既存のアプリケーション実行環境をそのままクラウドのIaaS(Infrastructure as a Service)に移行
  2. アプリケーション設計を一部変更して、クラウドのPaaS(Platform as a Service)を利用
  3. アプリケーション設計とコードベースを大きく変更し、クラウド向けに最適化
  4. クラウドネイティブテクノロジー(マイクロサービス、サーバレスアーキテクチャー、コンテナなど)を使い、アプリケーションをゼロベースで再構築

上に行くほど移行のための期間とコストはかかりませんが、DXからは遠ざかっていく傾向があります。また下に行くほどできあがってからの機能変更対応が容易になり、運用・保守コストが削減される傾向があります。したがって長い目で見ると下に行くほどトータルコストは抑制できる可能性があります。

以上は一般論です。SAP ECCユーザーにとって「2027年問題」への具体的な対応方法は大きく4つ考えられます。

SAP ECCの継続
現状業務への影響が最小で、2027年を期限とせず、時間をかけて新システムへ移行することが可能です。しかし2028年以降は正規保守が受けられなくなりますし、DXの実現も先延ばしになります。その間に競争力が低下するおそれが多分にあります。
・ 他のERPパッケージへの移行
現状業務にとらわれず、新たな業務運用に移行でき、最新ソリューションを享受できます。ただし1から再構築となるため期間もコストもかかります。データ移行もかなり大変です。
・ フルスクラッチでの基幹システム再構築
ERPパッケージへの移行と比較すると柔軟性はさらに高まりますが、期間とコストはさらにかかるのが一般的です。ただしクラウドネイティブテクノロジーを上手に使うことができれば、再構築完了後の運用・保守コストを低く抑えられる可能性があります。
・ S/4HANAへの移行
前述のS4/HANAの4つのメリットをすべて享受できるうえ、期間もコストも4つの方法の中で最小になると考えられます(ただしカスタマイズの質と量次第では他の方式のほうが有利になる可能性もあります)。

S4/HANAへの具体的な移行方法

DXの実現が待ったなしの状況であることを考えますと、SAP ECCユーザーにおいては、まずS/4HANAへの移行を検討することが賢明でしょう。その方法は大きく2つあります。システム・コンバージョンと再構築(ニュー・インプリメンテーション)です。

システム・コンバージョンは、現状SAP ECCをそのままS/4HANAに置き換える方法です。確立された手順に従って実行するだけなので最も低コスト・短期間で移行できます。ただしデータ移行の際に長いダウンタイムが発生します。24時間365日の運用が必要な業種・業態では現実的ではありません。

再構築は、基幹システムをS/4HANAで1から作り直す方法です。この方法でもデータ移行は当然発生しますが、構築した新環境にDBレベルでデータを直接移行するため、現状システムと並行稼働できます。データ抽出のためのダウンタイムは発生しますが、短い時間で済ませることが可能です。

再構築は、SLO(System Landscape Optimization)というSAPのコンサルティングサービスとセットになっています。このサービスを利用することで確実性の高い移行が可能となります。しかし料金はかなり高くなるため、自社で独自の移行ツールを開発する企業もあります。その際にはデータが正しく移行されたかどうかはユーザー責任で確認することになります。

おわりに

SAPのサポートベンダーは数多く、S/4HANAへの移行に協力してくれるパートナー企業を探すのは比較的容易です。ただし着手が遅くなるとサポート技術者が払底してしまうおそれがありますので、早めの着手が安全です。

ただしDXの実現という観点で考えると、SLOサービスを利用するかどうかはともかくとして、再構築を選択すべきでしょう。そうなると対応できるコンサルタントや技術者はさらに少なくなります。

また移行がゴールではないことにも注意が必要です。移行後にはDXの実現に向けた組み込み済みのAI、アナリティクス、プロセスオートメーションなどを使いこなしていく必要があります。特にデータ解析や機械学習などデータ活用の推進には専門家の支援が必須です。

移行だけでなく、移行後のDX推進まで支援してくれるパートナーを選定する必要があることを忘れてはなりません。

DX推進支援パートナーを選定する際に参考になる記事も是非ご覧ください。
ベンダーとのワンチームで“トランスフォーメーションの壁”を突破する

(参考)
・経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」
・SAP S/4HANA 今日のビジネスをサポートするインテリジェントな ERP システム
・SAP 2027年問題、S/4HANAへの移行方法について考察


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