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政府では、企業による戦略的なIT投資を促進するために数々の調査・施策を実施してきました。その一つに、2020年から開始された「DX銘柄」の選定があります。選定基準や企業の取り組み内容は、他の企業にとっても参考になるものが少なくないでしょう。
そこで今回は、政府の選定する「DX銘柄2020」および「DX注目企業2020」の概要を説明するとともに、選定された企業の取り組みをいくつかご紹介します。
▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント
まずは、政府の選定するDX銘柄の概要と、その選定の背景にある危機感についてご説明します。政府は、DX銘柄を選定することで、企業に対してDXを強く促そうとしています。
経済産業省は、東京証券取引所と共同で2020年から毎年「DX銘柄」および「DX注目企業」を選定しています。2019年までは、同じような選定基準で「攻めのIT経営銘柄」を毎年選定していました。
そのDX銘柄について、以下のように説明されています。
2020年からは、デジタル技術を前提として、ビジネスモデル等を抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていく「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に取り組む企業を、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」として選定します。
東京証券取引所が関与しているため、選定対象となるのは東京証券取引所(一部、二部、ジャスダック、マザーズ)上場会社、さらにはその中からDXに関する調査へエントリーしてくれた企業に限られます。DX銘柄に選定されるのは、日本を代表するような大企業が中心となります。
DX銘柄を選定する背景には、経済産業省が日本企業に対して抱く懸念があります。2018年にまとめられた「DXレポート」によると、日本企業でもDXの必要性に対する認識は高まっているものの、ビジネス変革に関する具体的な方向性を模索する段階にとどまる企業が多いとされています。そんな中で、経営者から「AIで何かできないか」といった曖昧な指示だけが出され、ビジネス変革につながらない小規模なPoCだけが繰り返される事例も少なくないとのことです。
DXが思うように進まないと、一企業や業界を超えて日本の経済競争力を大幅に損ねるとの指摘もされています。日本企業がITシステムの課題を克服できずDXを推進できないと、2025年以降に最大で毎年12兆円もの経済損失を招く恐れもあるというのです。経済産業省は、これを「2025年の崖」と呼んでいます。
関連記事:DXを実現できないと転落する「2025年の崖」とは?政府の恐れる巨額の経済損失
DX銘柄を選定し、DXに力を入れる企業を表彰することにより、他の企業にもDX推進を波及させたいという思惑があります。選定対象がネームバリューのある大企業に偏っているのは、そういった思惑も関係あると考えられます。
また、DX銘柄選定に際して評価の枠組みを構築し、DX推進のステップや基準を公表することで、他の企業がそれを参考にしやすくなるとも考えられます。IT活用の重要性について、経営者の意識変革を図ることも目的に挙げられています。
DX銘柄、そしてそれ以外の注目企業である「DX注目企業」にはどのような企業が選ばれているのでしょうか。ここでは、選定企業の内容と主な取り組みについてご紹介します。
2020年にDX銘柄として選定されたのは、以下の35社です。
建設業・食料品・各種製造業から金融、小売、各種サービス業などに至るまで、幅広い業種からそれぞれ代表的な企業が主に選定されています。2020年になって初めてDX銘柄に選定された企業も13社ある一方で、2015年から連続して選定され続けている定番企業も5社存在します。
DX銘柄とは別に、2020年には「DX注目企業」も21社選定されました。DX銘柄には選定されていないものの、総合評価が高く、注目されるべき取り組みを実施しているとされています。その内容は以下の通りです。
DX銘柄と同様に、幅広い業種から選定されています。
2020年にグランプリに選定されたのは、株式会社小松製作所(コマツ)とトラスコ中山株式会社の2社です。
コマツは、「日本の製造業のデジタル化の魁的企業」として高く評価されました。工場内や離れた拠点の機械を一括管理しインターネット上で稼働状況を閲覧できる「コムトラックス」に加え、中期経営計画でもDXと顧客価値創造を通じたESG課題の解決を掲げており、顧客のみならず社会にまで目を向けているところが評価対象となっています。
トラスコ中山は、機械工具や作業用品などの卸売企業です。在庫の自動補充や定番商品のストックなどを行うことで短納期での納品を可能にした「MROストッカー」、AI見積もり「即答名人」など、テクノロジーとデータの活用でサプライチェーン全体の商習慣変革に貢献したことが高く評価されています。
こちらの2社は、どちらもDXが企業のビジネスモデル変革につながっていることはもちろんですが、業界や社会の課題解決にまで至っているところが共通しています。
グランプリ2社だけではなく、DX銘柄として選定された35社にはある程度の共通点が存在しています。そこから、DXのメリットやDX推進に必要な条件が見えてきます。
DX推進の評価基準となる要素として、以下の3点が挙げられています。
1、革新的な生産性向上
業務そのものの自動化・不要化、働き方の変革等により、革新的な生産性の向上を目指す取組
2、既存ビジネスの変革
顧客との関係の強化、新地域、新セグメントへの展開、商品・サービスの質改善等により、既存の事業ドメインを変えずに収益における成長を目指す取組
3、新規ビジネス創出
これまでになかった価値を創出したり、これまでになかった顧客・市場を創造することで、新たなビジネスモデルを実現したり、新たな事業分野へ進出する取組
いずれも、単なるITシステムの変革にとどまらず、経営そのもののあり方にまで踏み込んだ評価要素であることが分かります。
DX銘柄紹介レポートによると、DX銘柄に選定された企業のROEおよびDX評価スコアは高い傾向にあるとされています。ここでのスコアとは、選択式の設問に対する回答をスコア化したものです。スコアの高い企業ほどROEが高い傾向にあることも確認されました。
以上を踏まえ、レポートではDXの積極的な推進がROEの向上につながっているととらえています。
DX銘柄に選ばれた企業の特徴から、DX推進に必要な要素が見えてきます。レポートでは、ビジョン・ビジネスモデル、戦略、組織・制度等、デジタル技術の活用・情報システム、成果と重要な成果指標の共有、ガバナンスという6点から整理しています。
<ビジョン・ビジネスモデル>
<戦略>
<組織・制度等>
<デジタル技術の活用・情報システム>
<成果と重要な成果指標の共有>
<ガバナンス>
このように、経営層の関与とリーダーシップがDX推進には欠かせないと経済産業省はとらえています。「AIが流行しているから自社でも何かやろう」ではなく、自社の経営課題や業界の課題を明確化し、自社のIT資産を評価して、目指すべき方向性を定め、推進に必要な人員・予算・時間を設定することが求められます。
繰り返しになりますが、DX銘柄の選定内容や評価対象からは、政府のDXに対する危機意識と経営層に対する意識改革の2点が強くうかがえます。レポートを一読していただき、自社のDX推進に活用することが望まれます。
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