DOORS DX

ベストなDXへの入り口が
見つかるメディア

政府は「DX銘柄」をなぜ選んだのか?DX銘柄2020の内容と選定企業の傾向

公開日
2021.02.03
更新日
2024.06.06
政府は「DX銘柄」をなぜ選んだのか?DX銘柄2020の内容と選定企業の傾向

政府では、企業による戦略的なIT投資を促進するために数々の調査・施策を実施してきました。その一つに、2020年から開始された「DX銘柄」の選定があります。選定基準や企業の取り組み内容は、他の企業にとっても参考になるものが少なくないでしょう。

そこで今回は、政府の選定する「DX銘柄2020」および「DX注目企業2020」の概要を説明するとともに、選定された企業の取り組みをいくつかご紹介します。

▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント

DX銘柄選定の背景

まずは、政府の選定するDX銘柄の概要と、その選定の背景にある危機感についてご説明します。政府は、DX銘柄を選定することで、企業に対してDXを強く促そうとしています。

DX銘柄とは何か

経済産業省は、東京証券取引所と共同で2020年から毎年「DX銘柄」および「DX注目企業」を選定しています。2019年までは、同じような選定基準で「攻めのIT経営銘柄」を毎年選定していました。

そのDX銘柄について、以下のように説明されています。

2020年からは、デジタル技術を前提として、ビジネスモデル等を抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていく「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に取り組む企業を、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」として選定します。

東京証券取引所が関与しているため、選定対象となるのは東京証券取引所(一部、二部、ジャスダック、マザーズ)上場会社、さらにはその中からDXに関する調査へエントリーしてくれた企業に限られます。DX銘柄に選定されるのは、日本を代表するような大企業が中心となります。

経済産業省が懸念する「2025年の崖」とは?

DX銘柄を選定する背景には、経済産業省が日本企業に対して抱く懸念があります。2018年にまとめられた「DXレポート」によると、日本企業でもDXの必要性に対する認識は高まっているものの、ビジネス変革に関する具体的な方向性を模索する段階にとどまる企業が多いとされています。そんな中で、経営者から「AIで何かできないか」といった曖昧な指示だけが出され、ビジネス変革につながらない小規模なPoCだけが繰り返される事例も少なくないとのことです。

DXが思うように進まないと、一企業や業界を超えて日本の経済競争力を大幅に損ねるとの指摘もされています。日本企業がITシステムの課題を克服できずDXを推進できないと、2025年以降に最大で毎年12兆円もの経済損失を招く恐れもあるというのです。経済産業省は、これを「2025年の崖」と呼んでいます。

関連記事:DXを実現できないと転落する「2025年の崖」とは?政府の恐れる巨額の経済損失

DX銘柄選定による経済産業省の思惑

DX銘柄を選定し、DXに力を入れる企業を表彰することにより、他の企業にもDX推進を波及させたいという思惑があります。選定対象がネームバリューのある大企業に偏っているのは、そういった思惑も関係あると考えられます。

また、DX銘柄選定に際して評価の枠組みを構築し、DX推進のステップや基準を公表することで、他の企業がそれを参考にしやすくなるとも考えられます。IT活用の重要性について、経営者の意識変革を図ることも目的に挙げられています。


DX銘柄の内容

DX銘柄、そしてそれ以外の注目企業である「DX注目企業」にはどのような企業が選ばれているのでしょうか。ここでは、選定企業の内容と主な取り組みについてご紹介します。

DX銘柄2020の35社とは

2020年にDX銘柄として選定されたのは、以下の35社です。

建設業・食料品・各種製造業から金融、小売、各種サービス業などに至るまで、幅広い業種からそれぞれ代表的な企業が主に選定されています。2020年になって初めてDX銘柄に選定された企業も13社ある一方で、2015年から連続して選定され続けている定番企業も5社存在します。

DX注目企業2020の取り組み

DX銘柄とは別に、2020年には「DX注目企業」も21社選定されました。DX銘柄には選定されていないものの、総合評価が高く、注目されるべき取り組みを実施しているとされています。その内容は以下の通りです。

DX銘柄と同様に、幅広い業種から選定されています。

グランプリに選ばれた2社

2020年にグランプリに選定されたのは、株式会社小松製作所(コマツ)とトラスコ中山株式会社の2社です。

コマツは、「日本の製造業のデジタル化の魁的企業」として高く評価されました。工場内や離れた拠点の機械を一括管理しインターネット上で稼働状況を閲覧できる「コムトラックス」に加え、中期経営計画でもDXと顧客価値創造を通じたESG課題の解決を掲げており、顧客のみならず社会にまで目を向けているところが評価対象となっています。

トラスコ中山は、機械工具や作業用品などの卸売企業です。在庫の自動補充や定番商品のストックなどを行うことで短納期での納品を可能にした「MROストッカー」、AI見積もり「即答名人」など、テクノロジーとデータの活用でサプライチェーン全体の商習慣変革に貢献したことが高く評価されています。

こちらの2社は、どちらもDXが企業のビジネスモデル変革につながっていることはもちろんですが、業界や社会の課題解決にまで至っているところが共通しています。


選定されたDX銘柄の評価基準と傾向

グランプリ2社だけではなく、DX銘柄として選定された35社にはある程度の共通点が存在しています。そこから、DXのメリットやDX推進に必要な条件が見えてきます。

経営体制にまで踏み込んだ評価基準

DX推進の評価基準となる要素として、以下の3点が挙げられています。

1、革新的な生産性向上

業務そのものの自動化・不要化、働き方の変革等により、革新的な生産性の向上を目指す取組

2、既存ビジネスの変革

顧客との関係の強化、新地域、新セグメントへの展開、商品・サービスの質改善等により、既存の事業ドメインを変えずに収益における成長を目指す取組

3、新規ビジネス創出

これまでになかった価値を創出したり、これまでになかった顧客・市場を創造することで、新たなビジネスモデルを実現したり、新たな事業分野へ進出する取組

いずれも、単なるITシステムの変革にとどまらず、経営そのもののあり方にまで踏み込んだ評価要素であることが分かります。

DX銘柄はROEもDXスコアも高い

DX銘柄紹介レポートによると、DX銘柄に選定された企業のROEおよびDX評価スコアは高い傾向にあるとされています。ここでのスコアとは、選択式の設問に対する回答をスコア化したものです。スコアの高い企業ほどROEが高い傾向にあることも確認されました。

以上を踏まえ、レポートではDXの積極的な推進がROEの向上につながっているととらえています。

DX銘柄を分析すると「何がDX推進に必要か」が分かる

DX銘柄に選ばれた企業の特徴から、DX推進に必要な要素が見えてきます。レポートでは、ビジョン・ビジネスモデル、戦略、組織・制度等、デジタル技術の活用・情報システム、成果と重要な成果指標の共有、ガバナンスという6点から整理しています。

<ビジョン・ビジネスモデル>

  • DXがもたらすリスクを踏まえた方針・ビジョン等を掲げている。
  • DXを競争優位・維持の源泉として位置付け、成果をすでに獲得している。

<戦略>

  • 企業価値向上のためのDX推進計画があり、具体化している。

<組織・制度等>

  • DXを推進する、組織上位置付けられた専任組織がある。
  • DX推進のため、他の予算に影響されない一定の予算枠を常に確保している。

<デジタル技術の活用・情報システム>

  • 定期的・継続的に、情報資産全体の課題について、分析・評価を実施している。

<成果と重要な成果指標の共有>

  • 企業価値向上に関係するKPIをステークホルダーに開示している。

<ガバナンス>

  • 経営トップがDX推進についてのメッセージを社内外に発信している。
  • 経営トップが企業価値向上のためのDX推進について、強くコミットしている。
  • 経営者がサイバーセキュリティリスクを認識し、管理体制の構築及びリソース(予算、人材)の確保を行っている。

このように、経営層の関与とリーダーシップがDX推進には欠かせないと経済産業省はとらえています。「AIが流行しているから自社でも何かやろう」ではなく、自社の経営課題や業界の課題を明確化し、自社のIT資産を評価して、目指すべき方向性を定め、推進に必要な人員・予算・時間を設定することが求められます。

繰り返しになりますが、DX銘柄の選定内容や評価対象からは、政府のDXに対する危機意識と経営層に対する意識改革の2点が強くうかがえます。レポートを一読していただき、自社のDX推進に活用することが望まれます。

関連記事

※ガバナンス関連記事はこちらもおすすめです

参考


このページをシェアする

株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

メールマガジン

Mail Magazine