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2021年5月12日、デジタル庁の設置を主眼とする「デジタル改革関連法」が参議院本会議で成立しました。同年9月1日に予定されているデジタル庁の設置に向けて、準備が加速することになります。また、菅内閣の掲げるデジタル改革の具体的な内容が法律として定まったことにもなります。
今回の記事では、デジタル改革関連法の全体概要および目的、今後の見通しについてご説明します。これから数年間で進むと思われる「日本版DX」の内容について、ご理解いただければ幸いです。
(DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧下さい)
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デジタル改革関連法は、デジタル庁設置法をはじめ6本の法律から構成されています。法律の全体像と、それぞれの目的・内容について簡単にご説明します。
菅総理大臣は、2020年10月26日に行われた所信表明演説で「デジタル庁」の設置を表明していました。デジタル改革関連法のうち、「デジタル庁設置法」が具体的なデジタル庁の機能・位置づけなどを定義した法律となります。
デジタル庁は、内閣府に設置される組織です。デジタル社会形成に向けた各種の調整業務を内閣官房とともに支援(内閣補助事務)しつつ、遂行を図ること(分担管理事務)がその任務です。行政の縦割りを排して、行政サービスを向上させる「司令塔」としての役割が期待されています。
分担管理事務にはさまざまなものがあります。その例として、デジタル社会の形成に関する重点計画の作成・推進、マイナンバーに関する総合的な企画立案など、行政(中央省庁・地方自治体)や民間のデジタル化推進に向けた各種事務を担当します。
なお、デジタル庁の長であり主任の大臣は内閣総理大臣。その補佐としてデジタル大臣を置き、加えて全国務大臣などを議員とする「デジタル社会推進会議」を設置します。デジタル改革に向けて行政全体で取り組むという意思が反映されたものです。
デジタル庁設置を含めた基本理念・基本方針などを定めた法律として、「デジタル社会形成基本法」があります。同法律では、国、地方公共団体、各種事業者の責務などを規定。これまで存在していたIT基本法(正式名称は「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」)を廃止することなどを定めています。
このデジタル社会形成基本法で定められた、関係法律の規定の整備について具体的に示したのが「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」です。個人情報保護に関する法律を統合し、地方公共団体の個人情報保護制度についての全国的な共通ルールを策定すること、マイナンバー法をはじめとしたマイナンバー関連の法律の改正などが規定されています。
さらに、コロナ禍における給付金制度で浮き彫りになった行政制度の改善についても定められています。
「公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案」では、給付金をスピーディーに支給できるように、預貯金口座の情報をマイナンバーとともに、政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」へ登録できるようにします。また「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」では、国民の手続き負担軽減のためにマイナンバーを預貯金口座と紐付け、災害時や相続時などに迅速に口座照会できるように設計されています。
加えて、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」は、地方公共団体の基幹系システムに関する基準を国が定め、行政運営の効率化と住民の利便性の向上を目指す法律です。
デジタル改革関連法は、さまざまな法律の改正を必要とするのみならず、社会・経済などに多大な影響を与える可能性のある法律です。現時点で考えられている国民にとってのメリットと、懸念点について以下から見ていきましょう。
デジタル改革関連法が成立した背景には、新型コロナウイルスの感染拡大対策として注目された10万円の給付金の支給に伴う行政手続きの遅滞があります。マイナンバー関連のシステムが未整備だったことで自治体窓口が混乱するとともに、情報を把握しきれない層(ホームレスなど)には給付金が行き渡らないという例もありました。法律が成立したことでマイナンバーを軸としたデータ連係がより円滑になり、国民にとって行政サービスの利便性が向上すると考えられます。
また、各種機関や地方公共団体などが保有するデータが共有されることで、データを活用した民間ビジネスや行政サービスの創出にも期待が寄せられています。行政および民間のDX推進を加速させることも、このデジタル改革関連法の目的であり国民のメリットです。
国民データの活用の推進には、常に個人情報保護の課題がついて回ります。このデジタル改革関連法も例外ではありません。
国会でもこの問題が議論され、法案成立時には附帯決議としていくつかの留意点が挙げられています。例えば、この法律によって国民に新たな義務を負わせるものではないこと、デジタル化推進が国民監視を目的とする思想信条・プライバシー・表現などの情報収集に用いられないようにすることなどが強調されています。
さらに、個人の権利を守るために、以下の3つの留意点が挙げられています。
個人情報保護の観点からの問題に加えて、地方公共団体や事業者への負担についても議論されています。地方公共団体ごとのシステムの規格を標準化するとなると、そのシステム改修に伴う調整作業や財政負担は大きなものとなることが容易に予想されます。システムの標準化と地方自治は両立しなければならず、地方行政のDX化が独自の自治事務の遂行を妨害するようなことはあってはなりません。
また、適切な財源措置を講じる点についても記載されています。システム改修作業の期間が特定の短い期間に集中すると、改修を担当する事業者へ予算面でもスケジュール面でも過度な負担がかかるため、計画的に作業を推進することも必要不可欠です。
成立した6つの法律のうち、デジタル庁設置法を含む3法は2021年9月1日に施行予定です。デジタル庁が同日に業務を開始する予定で、その準備に向けた組織作りが進んでいます。今後の予定と見通しについてご説明します。
2021年の1月に、民間人材の中途採用活動を開始しました。その後4月から5月にかけて第2弾、6月には第3弾の採用が行われており、ここで採用した人材がデジタル庁の設置に先駆けて実施される各種プロジェクトをリードすることが求められています。チーフアーキテクト(CA)や最高技術責任者(CTO)、あるいはグループ長や次長といった幹部職員が募集対象です。
さらに、2022年4月の新卒国家公務員採用を目的として、5月以降に業務説明会も開始されました。9月のデジタル庁業務開始に向けて、組織作りが急ピッチで進んでいます。
デジタル庁の創設を記念するとともに、デジタルについて定期的に振り返り・体験し・見直すための機会として、デジタルの日(Japan digital days)が創設されます。「デジタルの日ホームページ」では、「日本社会全体でデジタルに触れ、デジタルを感じる、国民全員のための祝祭を目指す」としています。
2021年は、10月10日と11日に実施される予定です。2022年以降も実施される構想はあり、日程については今後改めて決定されます。少なくとも2021年は、デジタル庁の認知度を高める催しが数多く開かれるでしょう。2022年以降も、日本社会および行政のDXを後押しするような日になることが予想されます。
こうした広報活動は、デジタル庁の重要な業務の一つです。デジタル庁は、デジタル社会形成の原則として「国民への説明責任を果たす」「国民にデジタルの成果を実感してもらい、置いてけぼりを作らない」などと記載しています。デジタルの日以外にも、周知のための施策が進められるでしょう。
行政や内閣がデジタル化を掲げる背景には、前述のように新型コロナウイルス感染拡大の対策である給付金支給の手続きに伴う混乱がありました。しかし、それ以外にも民間企業のDXの遅延に対する政府の危機感があります。
経済産業省は、2018年に公表した「DXレポート」の中で「2025年の崖」というキーワードを打ち出しました。同レポートでは、民間企業のDXの遅れがこのまま取り戻せないでいると、2025年以降に毎年約12兆円もの損失が発生すると指摘しています。競争力の低下、既存システムの管理維持費の高騰、人手不足など、構造的な課題が日本経済に大きくのしかかっており、その解決策としてのDX・デジタル化は待ったなしの状況なのです。
デジタル改革関連法は、「2025年の崖」を回避するための施策でもあります。法律で規定された各種施策を滞りなく実施していけるのか、行政・政治・民間事業者が連携して取り組む必要があるでしょう。
関連:DXを実現できないと転落する「2025年の崖」とは?政府の恐れる巨額の経済損失
デジタル改革関連法案は、2021年の通常国会における目玉法案の一つでした。法律の成立とともに、行政のデジタル化を急ピッチで進め、民間のDXを強力に促進することが求められています。法律の内容がどのように実現していくのか、社会変革に本当につながるのか注目されます。
(参考)
内閣官房「国会提出法案(第204回 通常国会)」
衆議院「第204回国会閣法第30号 附帯決議」
内閣官房IT総合戦略室・デジタル改革関連法案準備室・総務省自治行政局「デジタル改革関連法案について」
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