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人手不足や労働者の高齢化が指摘される中で、建設業および建築現場でもデジタル技術やデータを活用することで課題解決を目指す取り組みが次々と生まれています。政府も、こうした「建設DX」や「建築DX」の動きを加速させるべく、環境整備や社会実験の支援などを行っています。
今回は、建設DX・建築DXの概要理解のために、国土交通省の取り組みや代表的な企業の事例について紹介します。
▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント
従来、人の判断や操作によって行われてきた現場業務について、ロボットやAIなどのデジタル技術やデータを活用する流れができています。国土交通省の資料(「インフラ分野のDXに向けた取組紹介」)から、その取り組みを見ていきましょう。
現場の安全性・効率性を向上させる目的で、デジタル技術を活用する動きが広まっています。もちろん、従来も機械施工を実施してきたわけですが、デジタル技術によって機械が自ら考え、施工を進める可能性が見えてきました。このことにより、飛躍的に省力化・生産性向上が図れるでしょう。
たとえば、AIを搭載した建設機械による自動施工の導入に向けた技術基準や実施要領などの整備が進んでいます。建設機械に搭載されたAIが掘削位置を判断するため、建設現場の省人化が可能になります。
このほか、コロナ禍を受けて遠隔・非接触の働き方への転換をスピードアップさせるべく、5Gを使用した無人化施工の導入促進に向けたロードマップも進行中です。無人化施工の技術自体は以前から存在していましたが、4Gでは通信容量の不足や通信の遅延、同時接続機器数の制限などにより、操作性や視認性が悪いという課題がありました。5Gを使用すると、より大容量で低遅延、多数同時接続が可能です。より遠隔からの操作、より多数の建機投入、より解像度の高い映像などを実現でき、生産性や安全性が大きく高まることが期待されています。
建設現場におけるデータ活用の動きも、多方面で見られます。前述のAIを搭載した建築機械や無人化施工についても、AIの学習に用いる形でデータを活用することが可能です。しかし、それ以外の領域でもデータ活用の可能性は高まっています。
たとえば、建設プロセスにおける「構造物の出来形管理」です。これまでは担当者が現場に立ち入って足場を組み、ロッドやリボンテープなどを用いて測定する手法が一般的でした。担当者が現地へ赴く時間・コストがかかるとともに、どうしても事故リスクはついてまわります。そこで、ドローン(UAV)や地上レーザースキャナ(TLS)を遠隔操作して構造物を測定し、3次元点群データを用いたヒートマップで出来高を管理する方法の開発・試行が進んでいます。
2021年度に試行とデータ取得が行われ、2022年度から2024年度にかけて実施要領が策定される予定です。2024年度から現場への実装を目指すというロードマップを描いています。
建設業のDXのために、前述のロボット・AIやデータ活用以外の面で環境整備が進められる予定です。資料では、事例が3点挙げられています。
まず、IT企業を始めとした他業種と中小建設業が連携して、ウェアラブルセンサーやタブレットを活用した検査など、施工管理においてデジタル技術を活用したモデル事業を実施しています。中小建設業は生産性向上に関するノウハウが不足しているため、こうしたモデル事業で得られたノウハウを横展開できるよう検討中です。
また、熟練労働者の高齢化と退職の増加に伴う、技能継承や人材育成も大きな課題です。これまで暗黙知の形で継承されてきた技能を可視化するために、モーションセンサーの活用が検討されています。作業員の身体にセンサーをつけての、効率的な人材育成手法の構築を目指しています。
最後に、建設キャリアアップシステム(CCUS)のデータ活用について紹介されています。CCUSは、建設作業員の就業履歴や保有資格などの情報を蓄積するシステムです。作業員にICカード(キャリアアップカード)を配布し、現場に入る際にカードリーダーで読み込ませれば就業情報が登録されます。また、本人情報や社会保険加入情報、建退共(建設業退職金共済)手帳、保有資格、研修受講履歴などを別途、手動で登録します。
CCUSは作業員の技能を業界統一のルールに則ってシステムに蓄積し、処遇改善や技能の研さんに役立てることを目的として構築されました。今後は、単にデータを蓄積するにとどまらず、施工体制データベースや労務管理・顔認証機能、建退共データベースなどと連携させることにより、諸手続きの簡略化や新たなサービス(顔認証、勤務時間管理など)の創出へつなげることを目指します。
「DX銘柄2020」、「DX銘柄2021」に選ばれた建設業の事例を紹介します。いずれの企業も政府と連携しながらDXを進めており、今後の建設業の趨勢を見る上で重要な施策ばかりです。
鹿島建設はDX銘柄の前身である「攻めのIT経営銘柄」には2019年まで選定されておらず、2020年のDX銘柄に初めて選定されました。DX銘柄2020にゼネコンで選ばれたのは鹿島だけです。高く評価されたのは、DXに関わるビジョン・ビジネスモデルと戦略でした。
特に、AIやIoTといったデジタル技術を活用した「鹿島スマート生産ビジョン」が注目を集めました。「作業の半分はロボットと、管理の半分は遠隔で、全てのプロセスをデジタルに」をコンセプトに、建設プロセスのDX化に取り組んでいます。建設業界が長年悩まされている労働力不足や、新型コロナウイルスの感染拡大といった課題の解決に有効であると評されています。
また、日本初のスマートエアポートシティ「HANEDA INNOVATION CITY」に、鹿島建設の構築した空間情報連携基盤を活用。人やロボットなどの位置情報をリアルタイムで表示し、施設管理の効率化を実現しています。このプロジェクトは、国土交通省スマートシティモデル事業に認定されています。
近年の建設業界では、「i-Construction」がキーワードの一つになっています。デジタル技術を活用して生産性を向上させることを目指す取り組みで、各社が業界内の地位向上、ビジネスモデルの変革に向けてi-Constructionの名がついた施策へチャレンジしているところです。
電気設備工事業のダイダンは、鹿島建設同様、DX銘柄に初選出されました。評価された取り組みは、「現場支援リモートチーム」とクラウド型ビル監視制御システム「REMOVIS」の2つです。
現場支援リモートチームとは、各地の現場に対して本社や支店から効率的に支援できるよう編成されたチームです。Web会議ツールやクラウド上のファイルサーバー、共通CADソフトを活用して、工程管理や図面作成支援などを遠隔で実施しています。経験の浅い若手や時短勤務の技術者など多様な人材の活用が可能です。
REMOVISは、設備の稼働状況やエネルギー消費状況を遠隔監視するためのシステムです。クラウド上で制御・監視機能が稼働しており、さまざまなIoT機器との連携も可能です。遠隔監視であるため、エンジニアが現地へ赴く頻度を減らせます。ダイダン自身がREMOVISを活用するとともに、サブスクリプションサービスとして他社にも提供しており、建設業界の課題解決に貢献していると評価されました。
なおi-Constructionについては、以下の記事も参照ください。
【関連】建設現場の趨勢を占う「i-Construction」とは?建設業におけるDX推進の方法論と目的
清水建設は、鹿島建設に代わってゼネコンの中で唯一、DX銘柄2021に選出されました。「ものづくりをデジタルで」、「デジタルな空間・サービスの提供」、「ものづくりを支えるデジタル」の3点に取り組んでおり、これを実現する建設会社を「デジタルゼネコン」と定義し目標にしています。デジタルゼネコンという経営ビジョンに基づいて、組織作りや人材育成、社内業務のデジタル化などを進めている点が高く評価されました。
また、建物運用のDXを支援する建物OS「DX-Core」の商品化を進めています。DX-Coreは、建築設備やIoT機器、各種アプリケーション同士の相互連携を容易にするソフトウェアです。ベンダーや設備機器メーカーら19社との協業により、さらに広い建物設備システムとの連携を図るAPIを開発しています。こうしたデジタルプラットフォームの整備も、DX銘柄選定にあたって高く評価されました。
構造的な課題を抱える中で、建設業界でもDXによって既存業務の安全性・効率性向上、さらにはデジタル技術やデータを活用した新規ビジネスの創出へ積極的に取り組む企業が増えています。国土交通省は投資体力やノウハウの少ない中小企業向けの支援策も進めています。中小企業の方も、「大企業でないとDXはできない」と諦めることなく、DXに取り組んでみてはいかがでしょうか。
DXの本質について改めて知りたい方は、こちらの記事もぜひご一読ください。
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