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ここ数年の間に、DXに取り組む企業は大幅に増えてきています。しかし、すべての企業が効果をあげているわけではありません。こうしたまだ成果をあげられていない企業には、いくつか共通した課題があります。その課題を解消してDXを推進していくためには、なにが必要なのでしょうか。ここでは、日本能率協会の調査をもとに、日本企業のDXの現状と、DXを進めるうえでの経営課題について解説します。
一般社団法人日本能率協会(JMA)が企業経営者を対象に行った「当面する企業経営課題に関する調査」をまとめた「日本企業の経営課題2021」では、日本企業のDX(Digital transformation、デジタルトランスフォーメーション)の取り組み状況や課題が整理されています。同調査は2021年7~8月に実施され、517社からの回答を得て「日本企業の経営課題2021」は作成されました。この「日本企業の経営課題2021」をもとに、日本の企業のDX推進の現状をみてみましょう。
「日本企業の経営課題2021」によると、日本の企業のDXへの取り組みは、着実に進んでいることがわかります。すでにDXに取り組んでいる企業は45.3%。昨年の28.9%より大幅に増加しています。
また、大企業では65.5%、中堅企業では45.0%、中小企業では27.7%がすでにDXに着手しています。企業規模が大きいほど、DXへの取り組みが進んでいるようです。
しかし、成果をあげられていない企業も多いようです。「おおいに成果が出ている、成果が出ている」と回答している企業は全体のわずか18.3%で、「ある程度の成果が出ている」と回答した企業は40.6%。DX推進を実感している企業は、半分にも満たないのです。大企業でも「ある程度の成果が出ている」と回答したのは47.5%にとどまっており、この傾向は企業規模に関わらず、あまり変わりはないようです。
すでにDXに取り組んでいる企業がなにを重視しているかという質問でも、回答は偏りがちです。
「既存の商品・サービス・事業の付加価値向上」を「非常に重視している・重視している・やや重視している」という企業が91.4%と最も多く、次に重視されているのが「営業・マーケティングプロセスの効率化・高度化」、「生産プロセスの効率化・高度化」、「人材・組織マネジメントの効率化・高度化」などです。
つまり、DXに取り組むことで既存の業務プロセスをそのまま効率化・高度化することを目指している企業が多いようです。この結果に対し、DX推進の最大のポイントのひとつである「抜本的な事業構造の変革」を重視している企業は74.4%と、それより低くなっています。
このレポートからもわかるように、DXへの取り組みは着実に進んでいることはたしかですが、まだまだ推進しきれていないのが、今の日本の企業の現状のようです。この問題が浮き彫りになっているのが、最後の結果といえます。なにが問題なのか、詳しくみていきましょう。
なぜ、日本企業ではDXの推進が進んでいないのでしょうか?理由としては、次の3つの経営課題があります。
多くの企業では「DX 推進に関わる人材が不足している」ことが課題にあげられています。すでにDXに取り組んでいる企業への質問でも、この項目が「おおいに課題である・課題である・やや課題である」との回答が合わせて88.5%にもなっています。どの企業でも、DX人材の獲得・育成が急務の課題になっているのです。
DXを推進するときには、自社のビジネスをデジタル技術で改革していきます。そのため、自社のビジネスをよく知り、かつデジタル技術にも詳しい人材が不可欠です。
次に大きな課題が「DXに対するビジョンや経営戦略の不足」です。企業への質問では「DXに対するビジョンや経営戦略、ロードマップが明確に描けていない」という項目について「おおいに課題である・課題である・やや課題である」との回答が合わせて66.2%にもなっています。
また「具体的な事業への展開が進まない」も67.1%です。
DXの推進には、企業全体を見据えて将来のビジョンや経営戦略を描くことが必要です。しかしこの結果からは、DXでなにを実現したいのか、どのような価値を生み出すのかを考え、そこから生まれるビジョンや経営戦略、具体的な事業の構想が、多くの企業でまだ確立されていないことがわかります。
そして3つめの課題が「戦略的なIT投資に資金・人材を振り向けられていない」ことです。
経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討 ~ ITシステムに関する課題を中心に ~」によると、日本企業では現在、IT関連費用の80%が現行システムの維持管理に使われています。何度もシステム改修を繰り返すことでプログラムが複雑化したり、担当者の変更が続いてブラックボックス化したりすることで、IT関連費用は長期的に保守・運用費が高騰する「技術的負債(Technical Debt)」となっているのです。
これがDX推進の大きな足かせになっています。DXの実現に必要なレガシーシステムの刷新と、新しいアプリケーションの導入や開発に予算を振り向けることができなくなるからです。
では、この3つの経営課題を解消するためには、どうすればよいのでしょうか。
DXの推進を阻んでいる、3つの経営課題を解消するポイントを解説していきます。
DXの推進には、DX人材の確保と育成が不可欠です。業務をデジタル化すれば、ハードウェアだけでなく、自社に合わせたアプリケーションや先進技術を使いこなす人材を確保しなくてはなりません。そのためには、デジタル技術だけでなく自社のビジネスにも詳しいDX人材が必要です。
また、それらのハードウェアやアプリケーションを運用管理する人材も必要になります。
さらに、DXを推進したビジョンや経営戦略をきちんと描き、それを具体的な事業の構想にまで落とし込まなくてはなりません。そのためには、デジタル技術を理解しながら、経営戦略や事業の構想などの意思決定に関われる人材も必要です。
このように、ひと口でDX人材といっても、さまざまな職種と階層で異なる業務を担当するDX人材が必要になります。たとえば、次のような人材です。
これらの人材を確保するためには、デジタル技術を持つ社員を採用するか、既存の社員にデジタル教育を行うかの2つの方法があります。
デジタル化のスピードをあげるには、技術を持つ社員の採用も有効です。しかし、自社のビジネスを理解したデジタル人材を確保するためには、やはり既存社員の教育による人材育成が欠かせません。
DXは単なる「既存業務のデジタル化」ではありません。それよりも進んだ段階で、企業全体をデジタル化して企業文化まで変革し、社会や顧客のニーズに合わせた新しい価値を生み出していきます。
それを実現するためには、DXを推進するうえでのビジョンや経営戦略、それを実現するための事業の構想を描く必要があります。ビジョンや経営戦略がなければ、ただのデジタル化で終わってしまうでしょう。
DXでは、デジタル技術を使って企業全体を改革し、それを具体的な事業へ落とし込んでいくことが求められます。そのためには、企業がDXによってなにを実現したいのかというビジョンや経営戦略を明確にする必要があります。
さらに、企業のビジョンや経営戦略にまで踏み込むためには、経営層が積極的にDX推進にコミットメントしていくことが必要です。
レガシーシステムを刷新して新しいシステムを導入するためには、一度、現在の情報資産を分析・評価する必要があります。それによって、どれが使えないのか、なにが新しく必要なのかが明確になり、戦略的なシステム刷新が可能になるからです。
まずは、現在の情報資産やIT資産を評価し、必要なものと不要なものを分けましょう。必要なものでもそのまま残すのではなく、業務プロセスから整理することもできます。
システムの分析・評価に必要なのは次の2点です。
それによって、予算が少なくても、戦略的に必要最小限のシステム刷新を行うことができ、運用管理費用の削減、新しい技術への対応などが可能になります。
日本企業の多くがDXに取り組んでいます。しかし、大きな成果をあげられていない企業が多いのが実情です。なぜ成果があがらないのでしょうか。そこには、人材不足、ビジョンや経営戦略の欠如、IT関連予算の不足など、共通の経営課題があります。DXを推進するには、DXを停滞させているこれらの課題を解決することが必要です。そうすればDXもよりスムーズに推進でき、より大きな成果をあげることができるでしょう。
▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント
DX人材に関しては下記の記事も是非ご覧ください。
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