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『DXは大企業が取り組むもの』と思われるかもしれませんが、政府(経済産業省)では新たに中小企業向け支援を強化しつつあります。そのひとつが、「中堅・中小企業等向けデジタルガバナンス・コード 実践の手引き」です。今回の記事では、こちらの資料を参考に中小企業にとってのDXの意義や推進方法、またデジタルガバナンス・コードの中身について解説します。
DX推進は大企業だけが必要とするものではなく、規模の小さい企業が成長・存続するためにも求められるものです。ここでは、DXの概要と中小企業における必要性についてご説明します。
経産省は、これまでDXに関する資料や手引きなどをいくつも作成してきました。そうした経緯を踏まえて、今回の「中堅・中小企業等向けデジタルガバナンス・コード 実践の手引き」では、DXを以下のように捉えています。
❞DXとは、顧客視点で新たな価値を創出していくために、ビジネスモデルや企業文化の変革に取り組むことです❞
経済産業省「中堅・中小企業等向けデジタルガバナンス・コード 実践の手引き」
ここには、「DXは単にデジタル技術やAIを導入するということではない」「DXは企業変革なのだ」という主張が存在します。なぜなら、DX推進に際して次のような課題が存在するためです。
必ずしも中小企業に限ったことではありませんが、DXを誤解したまま取り組みだけ進めたり、あるいは意義を理解していなかったりするケースが多く、機会損失につながっているというのが経産省の認識となります。
中小企業においても、経営者が自社の理念や先々のビジョンを明確にし、現在の状況との差分を課題として整理してから、その解決のためにどんなデジタル技術が役立つのかを理解したうえでDXに取り組むことが求められています。
「デジタル技術を活用した新しいビジネスモデル・サービス」は、大企業に限ったことではないのですが、中小企業にはデジタル技術に関心を持つ余裕がないと疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。
しかし、大企業中心にDX推進に挑む企業が増えたことで、先行者のやり方を参考にして取り組みを素早く的確に進めやすかったり、先行車が整備してくれたプラットフォームを利用しやすかったりといったメリットがあります。この点を踏まえると、中小企業であってもDXに取り組むための素地はできたと経産省は考えています。
また中小企業は、経営者の即断・即決によって組織を動かしやすいため、大企業よりスピーディーに動ける強みを持っていると考えられます。資料で紹介されているなかにも、小さい企業ながらPC1台でDXに取り組み、売上や利益を飛躍的に伸ばしたという事例がありました。
中小企業もDXに取り組む意義があり、取り組むための参考事例・技術は揃いつつあるといえます。
意義があるとはいっても、「大企業ならともかく、人手も資金も少ない中小企業でDXなんて不可能」と考える人は多いかもしれません。ここでは、そんな中小企業でDXを進める方法を資料から抜粋してご紹介します。
中小企業がDXを進めるには、経営者やDX担当者が多くの役割をこなす一方で、適切な外部人材を活用すると共に、取り組みを通じてノウハウを蓄積し人材の育成を同時並行で進めることが求められます。
こうした取り組みのロードマップを、経産省は4つのプロセスに分けて整理しています。
このうち、「意思決定」と「全体構想・意識改革」のフェーズでは経営者、そして「本格推進」「DX拡大・実現」のフェーズではDX推進担当者が主たる担い手となります。
中小企業のDXでは、経営者のリーダーシップが大きな役割を担います。特に、DXの必要性を意識するきっかけや気づきを得る機会は重要であり、だからこそ外部人材との交流が必要となります。
手引きのなかでも、外部のITコーディネーターとの対話を通じて自社のビジョンを明確にした企業や、外部セミナーでの出会いからDXに取り組む決意をした経営者が紹介されていました。
自社が目指すべき将来を描き出し、その将来像と現在との差を課題として明確にしたうえで、課題解決のためにどのように業務のあり方や組織文化を変革していくかを検討することが経営者には求められます。そして、その変革のためにデジタル技術をどのように活用していくか、といった流れでDXの要件定義を行うことになります。
これが、逆にデジタル技術ありき、すなわち「AIを使って何か新しいことはできないか」といった考えでDX推進を始めると、自社のニーズに合わない「デジタル技術導入のためのデジタル技術導入」に陥りかねません。
資料では、「まずは身近なところから」のDX推進を推奨しています。身近な業務のデジタル化や、既存データの収集・活用、アカウント作成だけで利用開始できるクラウドサービス活用のように、実行しやすく効果の出やすいところから開始するほうが望ましいと考えられます。
特に中小企業の場合は、普段の業務内容や関連情報をデータとして入力するだけでも有効なデータを蓄積できるケースが少なくありません。資料では、天気や売上などの身近なデータをPC入力するところから始めて、バックオフィス業務をクラウドサービスなどによって省力化した事例が紹介されていました。
こうした「身近なDX」の推進過程で、成功体験を積むことができます。そこでノウハウを蓄積し人材確保・育成に取り組み、必要であれば組織全体に拡大するという流れで進めると成功の確率を上げることができるでしょう。
DX推進には、デジタル技術に対する専門的な知見が求められます。もちろんそうした人材を採用できればベストですが、優秀な人材は大企業に採用されてしまい、中小企業にとっては採用が難しいという現実があります。
したがって、取り組みを迅速に推進するため外部の人材の力を活用しながら不足するスキルやノウハウを補う方法が考えられます。資料に記載されている事例では、地域の産学官連携で外部の視点を蓄積したり、あるいは外部のITコーディネーターによる全社ヒアリングによって業務プロセスの洗い出しをしたりといったものがありました。
デジタルガバナンス・コードは、企業規模を問わずDX推進に取り組む企業を支援する目的でつくられた手引きのような資料です。デジタルガバナンス・コードの概要と、中小企業がどう活用するのか事例を参考にしながらご説明します。
デジタルガバナンス・コードは、企業価値向上を目的としてデジタル技術の導入に取り組む際に実践すべき事柄を取りまとめた資料です。ビジョン・ビジネスモデルから戦略、成果と重要な成果指標、ガバナンスシステムの4点について、「柱となる考え方」「認定基準」「望ましい方向性」「取組例」を記載しています。
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2020年11月に公表されたものの、参照されている事例が大企業に偏っており、中小企業には参考にしづらいとの声があったようです。そこで中小企業の事例を盛り込みつつ、規模の小さい企業でも参考にしやすいデジタル技術導入プロセスをまとめ直したのが今回の「中堅・中小企業等向けデジタルガバナンス・コード 実践の手引き」です。
デジタルガバナンス・コードは、大きく組織づくりや人材、企業文化といったアナログ部分の取り組み、そしてITシステムやデジタル技術といったデジタル部分の取り組みに分けられます。
組織づくり・人材・企業文化の面については、経営者のリーダーシップとコミットメントが重要です。経営者が経営ビジョンを具体的に描いており、そのビジョンはビジネスモデルをどう変革すれば達成できるか検討して、デジタル技術の導入の必然性へ落とし込む必要があります。
経営者が重要である一方で、経営者だけではDXを実現できません。体制の構築と人材の確保・育成は中小企業においても重要な課題であり、「どんな人材が不足しているか」「どこから人材獲得するか」などを検討しなければなりません。
知名度の面から見ても中小企業のDX人材採用は難しいものがありますが、資料の記載事例では社長がDX関連のコミュニティに入り込み、関係を深めるなかで人材獲得に成功したというものがありました。
新技術を導入するだけでDXを実現できるわけではありません。昨今は中小企業であっても何らかのITシステムやデジタル技術をすでに導入・活用していることも多いため、そうした既存システムの最適化が必要となります。
特に、既存のITシステムが部門ごとの個別最適に陥っていたり、老朽化・複雑化してメンテナンスすらできなかったりと、深刻な課題を抱えていることもあります。経営者自らがそうした現状を把握し、システム刷新や新技術との連携構築などに取り組むことが求められています。
さらにITやデジタル技術について戦略を策定し、その戦略の達成度を測る指標を定めて適宜自己評価を行う必要性についても記載されています。例えば、業務効率化を目標にするなら、問い合わせ対応時間や運用工数の削減など定量的にチェックできる指標を定めることになるでしょう。
中小企業も、大企業と同じようにDXに取り組む必要があります。政府も中小企業向け支援を強化しており、紹介されている先進事例を参考にしながらの推進がしやすくなってきています。外部の専門家の力を借りながら、ぜひデジタル技術による企業変革に乗り出してはいかがでしょうか。
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