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2021年版ものづくり白書が示す製造業の課題とデジタルの可能性とは?

公開日
2022.06.23
更新日
2024.02.19

2021年版ものづくり白書から、デジタル技術について取り上げた箇所を要約しつつご紹介します。経済産業省は、近年DX支援に力を入れるようになっており、日本企業の維持・発展のためにデジタル技術の活用が不可欠であることを繰り返し主張してきました。

今回のものづくり白書では、製造業の現状と今後の見通しについて多く触れられています。デジタル技術についての記載をまとめてご紹介しますので、自社の取り組みの参考にしていただけますと幸いです。

※2020年版のものづくり白書を読み解いた記事と、関連する記事を一覧にしました。合わせてご一読ください。
2020年版ものづくり白書を読み解く

※「そもそも製造業DXとは何か?」を知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
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製造業DXとは?導入の進め方と4つの成功事例をご紹介

製造業が生き残るための3本の柱「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」とは?

ものづくり白書では、「ニューノーマルでの生き残りに向けて」と題して3つのテーマを掲げています。ここでは、「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」の各テーマの概要をご紹介します。

レジリエンス – 不確実性に備えるサプライチェーンの強靱化

レジリエンスとは、災害後にいち早く機能回復できるよう平時から備えようという考え方です。白書では、特に製造業のサプライチェーンに対するインパクトの大きさと対策の重要性を示すためにレジリエンスという言葉が使われています。

2010年代は、東日本大震災の経験を踏まえ地震や津波などの自然災害への対策が重要視されました。しかし2020年になって新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、白書でも影響と要因、対策などについて企業へのアンケート結果が示されています。

ただし、白書では「調達先の把握に関する取組は、東日本大震災以降も大半の企業において進展していない」と指摘されています。特に半導体や蓄電池など「グリーン」「デジタル」の領域でも、重要な分野のサプライチェーン構築・強靱化は、今後の課題とされています。

グリーン – 経済と環境の好循環を実現するために

グリーンとは、CO2や温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを指しています。日本政府は、世界各国の潮流に合わせるように2050年までの完全なカーボンニュートラル実現を目指すと宣言しています。

カーボンニュートラル実現のためには、政府の宣言のみならず企業のイノベーションが必要不可欠です。白書では、米Appleや独BASFといった巨大企業のカーボンニュートラルを目指す取り組みが紹介されています。自社のみならず、サプライチェーン全体を巻き込む動きである点が共通した特徴となっています。

また、民間資金動員に向けた「グリーンファイナンス」の手法が紹介されています。これは、気候変動対策の状況を資金供給の判断材料のひとつとするものであり、かねてから温室効果ガス削減に取り組んできた製造業にとっても効果的な資金調達のチャンスとされています。

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デジタル – DXの取り組み拡大に向けて

ここでは、経済産業省が近年力を入れているDX支援の取り組みや、製造業を含めた日本企業のDX推進事例や課題などが整理されています。

経産省が繰り返しDXの重要性を主張してきたにもかかわらず、多くの企業において取り組み未着手や一部部門での実施にとどまるなど、その進捗は十分とはいえません。DX推進に必要な取り組むべき内容をまとめた「デジタルガバナンス・コード」の実践の必要性が改めて主張されています。

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一方で、デジタル化が進むことによるサイバー攻撃への対応の必要性も白書に記載されています。事業者がサイバー攻撃の対象になりうるリスクの減少へ適切に対処できるよう、サプライチェーン全体で対策を講じる必要があります。

デジタルについては、経産省の過去の取り組みと現在の課題意識、今後の取り組みについて次の見出しでもう少し詳しくご説明します。


デジタル化の構想を具体化するための政府施策は?

3つのテーマのうち、「デジタル」について深掘りします。特に、これまで政府(経産省)が掲げてきたデジタル化の構想がどんなものだったか、その実現のためにどんな支援があるのかをお伝えします。

政府が掲げた「Connected Industries」コンセプトとDXの有効性

政府は、2017年に開催されたドイツ情報通信見本市において「Connected Industries(コネクテッド・インダストリーズ)」という概念を提唱していました。これは製造業を中心にデータの共有と利活用によって新たな価値創出と社会問題の解決を目指そうという考え方です。

自動走行・モビリティサービス、バイオ・素材など5つの分野を「重点5分野」と位置づけ、税制優遇措置による投資の促進が図られました。こちらの措置は2020年3月をもって廃止されましたが、データによる産業改革という考え方自体はDX推進にも引き継がれているとみることができます。

実際2020年版のものづくり白書でも、DXの重要性についてページを割いて説明が行われていました。2021年版では、未だに政府が期待するような企業でのDXの進展がみられない現状が指摘されており、今後の課題としてDX投資や人材育成のあり方、政府の支援、先進事例などが盛り込まれています。

ダイナミック・ケイパビリティの強化とは

DXの重要性を説く際に、「ダイナミック・ケイパビリティ」という用語が用いられています。ダイナミック・ケイパビリティは、急激な環境変化に対応するための企業変革力を意味します。

ダイナミック・ケイパビリティは、以下の3つの能力に分類できます。

  1. 感知 
     脅威や危機を感知する能力。
  2. 捕捉
     機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成・再結合して競争力を獲得する能力。
  3. 変容
     競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力。

いずれもデータやデジタル技術の力によって増幅することができるというのが経産省の見立てであり、だからこそ企業はDX推進を加速させるべきであると考えられています。

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【ものづくり白書から読み解く⑤】ダイナミック・ケイパビリティとは?

製造現場における無線通信技術活用への期待

白書では、DX関連技術のひとつとして無線通信技術の活用が挙げられています。5Gの本格普及に伴い、製造現場でも活用が進んでいくことを見込んで、期待されるユースケースや活用の現状について説明があります。

製造現場で無線通信技術が本格的に活用されるようになると、ダイナミック・ケイパビリティが向上すると考えられています。

例えば、配線がなくなることから状況に応じた製造ラインや工場全体のレイアウト変更が容易になります。また工場内各所に設置されたセンサーからデータを取得し、不良品検知や生産設備の予知保全などのクオリティが向上します。これらは、いずれも感知・捕捉・変容というダイナミック・ケイパビリティの向上に資すると考えられます。

一方で企業に対するアンケートの結果からは、経産省の期待とはやや異なり、「保守点検・メンテナンス」や「機会の段取り時間短縮」など、ダイナミック・ケイパビリティとはそれほど関係の深くない部分への期待が多かったとも記載されています。

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官民一体のサイバーセキュリティ対策

DXが実現してデジタル技術が製造業現場に浸透すると、生産性向上が見込まれる一方でサイバー攻撃のリスクも上昇することになります。前述のレジリエンス強化の観点からも、サプライチェーン全体のサイバーセキュリティ対策を官民一体で推進することが必要とされています。

経産省は、2019年に「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク」(CPSF)を発表しました。これはサプライチェーンを「ソシキ/ヒト/モノ/データ/プロシージャ/システム」の6つの構成要素に分解し、それぞれの要素において講じるべき対策を検討するためのフレームワークです。

このフレームワークをベースに、業界横断的な団体設立や人材育成プログラムの策定など、企業を支援するための取り組みが進められています。

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製造業における人材確保・育成の課題とデジタル技術の影響

製造業では就業者の減少傾向が続く一方で、デジタル技術の活用が進むことによって労働生産性や働き方の改善が進んでいるともいわれています。雇用・労働の現状と、デジタル技術の影響についてご説明します。

製造業における雇用・労働の現状

国内の製造業就業者数は、2002年の1202万人から2020年の1045万人と、20年弱で157万人減少しました。若年(34歳以下)就業者数もこの20年弱で3割以上(125万人)減少しており、就業者数の減少に加え高齢化傾向がみてとれます。

また新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、製造業の雇用や労働環境は大きな影響を受けました。例えば、製造業における休業者数が2020年4月には前年同月比で33万人増加し57万人に達したほか、2020年には新規求人数が前年同月比でマイナス40%を超える月もありました。

その一方で、企業アンケートによれば新型コロナウイルス感染症の拡大を理由とした解雇や雇い止めは少ないという結果が出ています。企業規模によらず、一時休業や残業の抑制・停止のような手段で雇用調整を進める企業が多かったとのことです。

製造業でデジタル技術はどう活用されているか

経産省のアンケートによると、デジタル技術を「活用している」と回答した企業が全体の54.0%、「活用を検討している」を含めると7割以上の企業がものづくりデジタル技術の導入・活用に前向きであるという結果でした。

また、デジタル技術を活用している企業が活用する理由や狙いについてみてみると、「在庫管理の効率化」「作業負担の軽減や作業効率の改善」、「開発・製造等のリードタイムの削減、「生産態勢の安定」が上位に入っています。

こうした回答内容を踏まえると、製造業の多くはデジタル技術の必要性を意識しているものの、企業全体の変革というよりは業務効率化を図る傾向にあることが伺えます。

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デジタル技術の活用と人材育成の進め方

デジタル技術を活用している企業のほうが、人材育成に積極的な傾向があるようです。アンケートによると、「作業標準書や作業手順書の活用」「OFF‒JTを実施している」など、人材育成や能力開発のための取り組みは、デジタル技術を活用している企業のほうが多く行っているという結果が出ています。

一方、デジタル技術を活用するうえでの課題として、「ノウハウの不足」「人材の不足」「予算の不足」を挙げる割合が多くなっています。さらに企業が活用推進に際して先導的な役割を果たした社員として、「経営トップ」を最も多く挙げていました。

以上を踏まえて白書では、デジタル技術の導入・活用に際して経営トップのコミットメントの重要性を強調しています。導入時には経営トップがトップダウンの形でデジタル化を進める必要があり、その後デジタルに精通した人材や現場のリーダー層が中心となって活用を進める必要がある、としています。

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【ものづくり白書から読み解く④】製造業DXを推進する人材の条件は?
DX時代に不可欠な、データ活用人材を育成するコツとは~累計7万人以上の育成経験を通して見えてきたこと~

まとめ

近年のものづくり白書では、製造業におけるデジタル化に多くのページが割かれるようになっています。デジタル技術の導入によって作業効率化につながるのはもちろん、ビジネスモデルや製品・サービスを変革するポテンシャルを秘めています。製造業においても、「DX推進は待ったなし」の時代が訪れているといえるでしょう。

▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント

参考

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