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最終更新日:2023.11.24
※本記事は、ブレインパッドが運営する人工知能ブログ「+AI」に掲載されている記事の転載版になります。
現在、人工知能(AI)は人びとの生活や産業に革新をもたらす技術として世界中で注目されています。本ブログではこれからビジネスにAIを活用する方に向けて、ブレインパッドの入社1年目が先輩社員から学んだAIの“基礎”を連載形式でお届けします。最終回は「人工知能(AI)が導く未来」をわかりやすく解説します。
本連載『入社1年目が教わる「はじめての人工知能」』の最終回では、AIの概観を理解するためこれまでの連載の要点をまとめた上で、AIや周辺の技術進化が近未来にもたらす影響について考えていきます。
昨今、ビジネスシーンではAI活用が叫ばれています。では、「AIとはなにか」という問いに明確に答えることができるでしょうか。そこで、まずはAIの正体について説明していきます。
実はAIには技術的な定義はなく、その解釈は研究者や研究機関によってバラバラです。いま世間で騒がれているAIの正体は、「人間の知能・知性を代替する機械の総称」に過ぎない「概念的なもの」です。
人間の知能・知性とは、「情報処理」のことです。人間は、入力・処理・出力の3つの情報処理を行っています。五感(感覚器)で受け取った情報(入力)から、必要な情報を選択、理解し(処理)、情報をつなぎ合わせて判断し、行動につなげている(出力)のです。
これを機械にあてはめると、AIとは「大量のデータを入力し、高度な情報処理を行い、識別・予測・実行/生成を行う機械の総称」となります。
高度な情報処理は、大量のデータを扱うことを可能にした高性能の計算機を生み出したコンピュータサイエンス(計算機科学)と、機械学習アルゴリズムなどのデータサイエンス(情報科学)の発展のもとに成り立っています。
これまで、AIは「ブーム」と「冬の時代」を繰り返してきました。約60年に及ぶAI研究の歴史において3回のブームがありますが、それらは決して断絶したものではありません。過去に研究・開発された技術や概念が受け継がれ、それらがもとになって今日のブームが起こっているのです。
そして、今起きているAIの盛り上がりは「すでに実社会に数多く実装されている」という点で、過去のブームと大きく異なります。
興隆の背景には「データ量の増大」「計算資源の進化」「アルゴリズムの進化」があります。とりわけ、アルゴリズムの進化の一つである「ディープラーニング」の登場により、AI研究は急速に発展しました。
AIを実社会に実装している代表的な企業として、世界の企業時価総額ランキングTOP5を占める、Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft(通称「GAFAM」)があります。
彼らは、AIやそれを支える機械学習を戦略の中心に据え、莫大な研究開発費を投じ、機械学習を用いた数々の事業を展開しています。具体的な事例は、第3回「トップ企業にみる人工知能(AI)活用の取り組み」にて紹介しています。
AIやビッグデータなどの技術革新が、生産、販売、消費といった経済活動や健康、医療、公共サービス等の幅広い分野、人々の働き方、ライフスタイルにも影響を与えている現代は、第4次産業革命と称されます。
その第4次産業革命における第1幕、ネット空間から生じる「バーチャルデータ」のプラットフォームでは、日本はGAFAMなどのテクノロジー企業に大きく水を開けられました。
世界から出遅れた日本は、第2幕の健康情報、走行データ、工場設備の稼働データといった「リアルデータ」でプラットフォーム獲得を目指しています。
高い技術力と整備された社会制度によって産業を発展させ、リアル世界を主戦場とする多くの日本企業にとっては、リアルデータを巡る競争では勝機があると考えられています。
既に国内企業において、リアル世界のデータを活用し世界のプラットフォーマーになる可能性を手にした事例も出てきています。詳細は、第4回「人工知能(AI)をめぐる国の政策動向とAIに取り組む意義」をご覧ください。
ここまで見てきたように、GAFAMや一部の日本企業などが、AIを活用して大きな成果をあげています。ところが、AI関連の市場規模に目を向けると、近年の成功事例は、これから拡がる未来の序章に過ぎないことがわかります。
富士キメラ総研によると、2015年には1,500億円であったAIビジネスの国内市場規模は、2020年に1兆20億円、2030年には2兆1,200億円にまで成長すると予測されています。
またコンサルティング会社PwC(Price waterhouse Coopers )がまとめたレポートによると、AIが世界経済に与える影響は2030年に15.7兆ドルにもなるとされています。
市場規模の拡大だけでなく、周辺を取り巻く環境の変化もAIの社会への実装を後押ししています。
その一つが、法整備です。今日の急速なテクノロジーの進化とともに、それを支える法律や基準づくりが世界各国で進んでいます。
たとえばEUでは、個人のデータを企業が容易に取得、活用ができるようになったことを踏まえ、個人データやプライバシーの保護に関して厳格に規定したGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)を2018年5月に施行しました。
このように法制度などの社会基盤が整うことでビジネスの舵取りが比較的容易になり、様々な企業がテクノロジーを活用してビジネスを促進することが可能になります。
また法律だけでなく、AIを取り巻く技術革新もAIの社会実装を後押しします。たとえば、5G の実現により世の中のデータ量が増加したり、量子コンピューターの実用化により機械学習における計算処理が急激に早まることが期待されています。
今後AI関連の市場は大きく拡大していくこと、周辺を取り巻く環境がその成長を後押しすることはもはや確実です。このように来たるAI時代に向けて、いち早くAIや機械学習に取り組むことで大きなリターンが見込めます。
逆にこの潮流に乗り遅れてしまうと、第4次産業革命の第1幕のように、他国・他社のエコシステムに組み込まれ、データを吸い上げられ続けるという状況が待ち受けています。
この歴史的な分岐点にある今こそ、変革を恐れず、未来への舵を切るときであると言えます。
ではここからは、実際に未来への舵切りをしていく上での、ポイントをみていきましょう。
上述した通り、機械学習とは、データからパターンやルールを見つけ予測・識別・実行/生成を行う仕組みです。
そのため、どのような目的、課題解決のためにAIを活用し、どのようなデータを学習させるかは、現在のところほぼ人間に委ねられています。また学習データに存在しないもの、すなわち過去にないものを機械が生み出すことは困難です。
だからこそAI活用においては、どんな問題を解きたいのか、どんな未来を創りたいのかという意志や発想力が重要になります。
「課題解決という目的」と「手段としての技術」について、1997年にSteve Jobsは次のような言葉を残しています。『ユーザーの体験からスタートして技術へさかのぼらなければならない。逆ではいけない。(You have to start with the customer experience and work backwards to the technology.)』
革新的なテクノロジーが世界を変えていく姿を目の当たりにすると、多くの人や企業は、そのテクノロジーを使って何ができるのかを考えがちです。しかし、繰り返しになりますが、目的は社会やユーザーを変革することです。
言い換えれば、AI活用自体を目的にせず、AIや機械学習という強力な手段を用いて未来を創っていくことが重要なのです。
本連載では、ブレインパッド入社1年目の私がAIやデータとビジネスに橋を架けるべく、AIにまつわる基礎知識を先輩社員に学び連載形式でまとめてきました。AIの定義からプロジェクトの進め方までを体系的に学ぶことで、いま世間で騒がれているAIとはなにか、そしてどのようにビジネスに落とし込んでいくのかを、一連のストーリーとして掴むことができました。
これらの知識を学んだことにより、実際のプロジェクトにおいても、クライアントや社内メンバーとも視点を揃えてコミュニケーションを図れています。また1年目ながら数多くのプロジェクトに関わったり、他のプロジェクトの話を聞いていると、業界・業種問わず、AIやデータが今後あらゆるビジネスの中核を担っていくと確信させられます。
一方で、データやモデルだけではビジネスを変革することはできないということも実感しました。データが取得された経緯なども含めたデータの意味理解、そしてビジネス、ユーザーへの深い理解があってはじめて、データに命が吹き込まれるのです。
このように、実際のビジネスで価値を創出するためには、データの扱い方一つをとっても、これまで学んできた基礎知識だけでは及ばない深遠な世界が拡がっています。そこに達するためには、仮説立て、実行、改善のサイクルをひたすら繰り返すしかありません。
私自身は、まだ未来に向けて舵を切り始めたばかりです。ここからは、荒波に挑みながら、まだ誰も見たことのない未来を創っていきたいと思います。
・PwC(2017)「Sizing the prize. What’s the real value of AI for your business and how can you capitalise」
・独立行政法人情報処理推進機構(2017)「AI白書2017」株式会社KADOKAWA
・韮原祐介(2018)「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」株式会社インプレス
・松尾豊(2015)「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」KADOKAWA
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