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最終更新日:2023.11.27
※本記事は、ブレインパッドが運営する人工知能ブログ「+AI」に掲載されている記事の転載版になります。
ここ数年、製造業の「品質」にまつわるニュースを見かける機会が増えてきました。
相次ぐ不祥事やトラブルからは、製品の製造プロセスが複雑化の一途をたどる一方で、人手不足が深刻な影を落とす様子が見て取れます。かつて機能していた品質改善のアプローチは、いまや通用しないと言っても過言ではないでしょう。
このような状況下で新たな価値を見出されているのが、AIを活用した品質改善の取り組みです。
今回は、具体的な事例紹介を交えて、品質改善に寄与するAI活用の施策について見ていきます。
品質改善を考えるにあたっては、そもそも「品質が何を意味するのか?」をきちんと捉えることが大切です。
本記事をご覧いただいている製造業の皆さまにとってはすでにご存知のことと思いますが、製造業の現場では次の2つの観点から「品質」というキーワードを考えることが求められます。
設計品質は、製品開発のプロセスにおいて「市場における製品の価値」を決定するプロセスで決定します。
消費者のニーズや顧客要件を仕様書(開発要件)に落とし込み、魅力的な製品を実現することを目的とします。
製造品質は、製造した製品の出来栄えで決定します。
不良品を発生させない、また仮に不良品が発生してしまっても不良品を流通させない、ということを目的とします。
では、それぞれの品質改善に向けて、どのような施策が考えられるのか、見てみましょう。
設計品質の改善施策を改めて整理させていただくと、次の4つの施策が必要といえるのではないでしょうか。
いずれも設計段階からあらゆるケースを想定することが欠かせないため、柔軟性に富んだ思考プロセスが求められます。
法令で定められた基準を満たすことはもちろん、それを上回る取り組みを継続的に追及することが必要ですよね。
例えば、消費者への安全に関する説明や情報提供を、より正確で、理解しやすいように、設計段階から配慮するといった取り組みが考えられます。
例えば、長期的に信頼できる材料の選定を意味します。
劣化・摩耗・腐食などに関わる要素技術を生かすなど、設計段階だからこそできる工夫が求められます。
生産工程におけるロスや無駄を徹底的に排除する、といった観点です。
作業員がより集中できるように考慮した設計を行うことが求められます。
製造段階で求められる要件を設計段階から考慮し、曖昧さを排除するための取り組みを意味します。
あらかじめ製品の品質改善点を洗い出しておくなど、常に次の改善プロセスを想定した設計が重要な意味を持ちます。
続いて、製造品質の改善施策を見ていきましょう。
こちらも、本記事をご覧いただいている製造業の皆さまにとってはすでにご存知のことと思いますが、設計品質の改善では、「100%良品を顧客に納める」という前提に立った考え方が求められます。
具体的には、次の5つの観点に基づいた施策展開が効果的です。
製造工程を自動化することで、ヒューマンエラーなどの発生を最小化するアプローチです。
不良率を始めとする指標の改善を追求し、地道なプロセス改善を重ねます。
センシングやAIを活用し、リアルタイムに生産機械を検査する取り組みが考えられます。
AIをすることで、機械の故障が発生する前に予測を行う、といった取り組みが可能です。
不良混入防止だけではなく、不良品の発生原因の究明を行う、といった観点を意味します。
発生時点の対策に重点を置いた対策が有効です。
熟練者の能力だけに頼るのではなく、良品・不良品の判断基準を学習させたAIを活用し、検査制度の底上げを図る取り組みが考えられます。
従来のシステムでは判別できなかった傷の発生や形の違いも、AIの機械学習を活用すれば可能です。
▼不良品の検査工程AIを活用した、キユーピー株式会社の事例▼
ネック工程を減らすために、需要予測を活用した生産計画を立てるなどの取り組みを意味します。
センシングを活用して機械の稼働状況を一元管理し、各工程における徹底排除(例:各工程の同期化、ラインの停止要因の排除など)する、といった施策の検討が有効です。
今回、2つの観点から「品質」について述べてきましたが、長らく消費者から選ばれ続けるためには、絶え間ない改善を図ることが欠かせません。では、熟練技術者の高齢化や引退、人手不足といった様々な制約がある中で、どのような取り組みが考えられるのでしょうか。
そもそも品質低下を引き起こす一番の原因は、作業員が関与する人為的な過失や失敗(ヒューマンエラー)によるものです。そして、ヒューマンエラーの多くは、「人間が本来行うべき作業を適切に行わない」ということが原因となり、発生します。だからこそ、この点に注力した品質改善アプローチが最も成果に繋がりやすいといえるでしょう。
ヒューマンエラーが発生する原因を深堀すると、その問題は人間、もしくは失敗を誘発する環境にあります。もしも作業者の技能が不足しているのであれば、機械化によって業務に求められる工数を省力化するなどの工夫が求められます。また、業務を自動化し、より創造性が求められる業務に作業員を集中させる、といった取り組みもできるでしょう。
いずれのケースにおいても重要なことは、「業務の定型化が可能か?」という点です。定型化が可能な業務であれば、AIにそのプロセスを学習させ、絶え間ない品質改善を図ることが可能になるからです。
では最後に、AI・機械化による具体的な品質改善事例を見てみましょう。
例えば、電子機器のプリント基板(電子部品が取り付けられた絶縁体)を製造するメーカーが、設計工程にAIを導入することで、そのプロセスを20%短縮化した事例。
通常、電子機器の新製品を設計するにあたっては、そこに搭載する部品の数やサイズを元に、部品配置や配線パターンを決定します。
この過程では、プリント基板の層数を必要最小限に押さえ、コストを最小化することが求められますが、様々な条件を考慮する必要があるため、最適解を導くまでに多くの時間を要していました。
そこで、同社はプリント基板の生産機械にAIを搭載し、設計に関わる膨大なデータを投入。その中からAIが最適なパターンや規則性を導き出し、設計品質の向上を図ったというわけです。
他にも、あるタイヤメーカーでは「タイヤ成形システム」に数百個のセンサーを取り付け、そこから送信される情報を元に機械を制御することで、生産工程を最適化しています。
センサーから得られるデータをAIがリアルタイムに処理しながら、最適な条件を割り出すため、人間では再現が難しい高度な技術も実現可能になったということです。
事実、タイヤの完成度を示す真円性(=いかに円に近づいたか)という指標は、AI導入前よりも15%向上したとされています。
もちろん、長年の経験と勘を備えた熟練工ならば、高い製造品質を実現することは可能でしょう。
しかし、そのような人材の希少性が増している現代、作業員への技術継承(教育)を不要にするAIの存在は、企業の競争力向上に直結する大きな武器になっています。
今後、少子高齢化にともなってますます人手不足が深刻化し、これまで品質を担保してくれていた熟練者たちが退職していくと予測される現在、製造業にとってAI活用はもはや他人事ではなくなりました。
いま、製造業に求められているのはAI活用による品質改善と、業務効率化の2つです。
これを実現するために、製造業では工場のスマートファクトリー化を実施することが求められています。
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