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サプライチェーンDXについて、具体的にどのような課題があり、どうやって解決していくべきなのか、そして解決した先に見える「サプライチェーンDXの未来」とはどんな世界なのかについて、最前線でコンサルティングに取り組んでいるビジネス統括本部の面々に聞いた話の後編です。
前編では、サプライチェーンDXが求められる背景とその課題について話してもらいました。後編では、これらの課題に経営と現場はどのように対応していくべきなのか、課題解決において何が重要で、どのようなアプローチが必要なのか、そしてサプライチェーンDXの未来はどうなるのかについて話してもらいます。
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DOORS 「ノウハウのマニュアル化」「業務の標準化が経営のアジェンダになった」という話が出てきました。サプライチェーンDXの課題の解決にも経営の関与が重要だと思うのですが、いかがでしょうか。
西村 モノを売る営業部門とモノを作る生産部門があって、その間にサプライチェーン部門や物流部門と呼ばれる組織があります。営業部門は「お客様が欲しがっているので、早くモノを作って」と言い、生産部門は「サイクルに則って生産計画を立てているので、そんな対応はできない」と言います。双方の言い分を調整するのがサプライチェーン部門・物流部門となるわけです。
そうするとサプライチェーン部門は、営業が顧客のために急げというなら、バイク便を飛ばしてでも輸送するし、供給が不足しないように一定の在庫を確保するし、生産部門が作りすぎてしまったら外部倉庫を調達してそこに搬送したりといった調整をすることになります。加えて昨今の人件費の高騰やガソリン代の高騰による輸送コストの上昇もある。
涙ぐましい努力をしているにも関わらず、サプライチェーン部門はコストセンターと捉えられがちなので、「輸送費が多すぎる」とか「在庫量を適正にせよ」と経営部門から言われることがあります。しかしこれはサプライチェーン部門の努力が足りないわけではなく、構造的な問題であって、現場で解決できることに限界があるのです。
サプライ「チェーン」というのであれば、横串で解決すべきことであり、それには経営が関与しなければならないのですが、関係する部門が多くなることに加え、データ活用への理解も部門によってバラバラ、同じ社内でも同じ言葉を違う意味でつかっている会社もザラにあります。明らかに経営マターになるわけですが、この難局を推進できるリーダーは極めて少ないと言えます。
DOORS 中にはサプライチェーンに詳しい経営者もいると思うのですが。
西村 たとえば「現場はデータがないというが、うちは上場企業だから毎年IR情報を出している。データがないなんてことはあり得ない」というのが多くの経営者の認識です。
しかし実際には過去3年前に遡ってとある商品がどこでどれだけいくらで売れたかがわからないという会社はたとえ一部上場企業であっても珍しくありません。よくあるのは価格が変更されると、商品マスターの価格が最新の値に置き換えられるというものです。そうなると販売数が残っていても、単価がわかりませんから、商品のライフサイクルでの売上高はわからないことになります。また、SCM関連で必要になるデータは、工場のシステム、基幹システム、倉庫システム等多岐にわたり、データベースの構造がまるっきり違うのでそのデータを紐づけして分析するだけでも大変な労力がかかるのです。
こういう勘所を経営者がしっかり理解しているかどうかで、その会社におけるサプライチェーンDXプロジェクトの難易度は大きく変わってくるのです。
小林 データと言ってもいわゆるFACTデータだけではなく、報告者に都合の良い形に積み上げたデータもあります。それをKPIの達成度を見るのに使っているケースもあり、本当に業務改革ができるのかと疑問に思うこともあります。それぞれのデータが何を基にしてどうやって作られているのかということに関心のある経営者と、そうでなくてデータがあるんだからそれでよいと考える経営者の差が年々大きくなってきていると感じます。
DOORS データに対する関心が低い経営者が多いということでしたが、原因はあるのでしょうか。
小林 過去の失敗体験からデータ分析に不信感を持つ方が多いのかもしれません。たとえば需要予測という技術は2000年代からあるわけです。統計的な手法を使って予測していたわけですが、データに表れない変化もあります。そもそも予測が100%当たることもあり得ません。ただ需要予測が外れると在庫が山積みになるなど大きな問題が発生しますから、需要予測の失敗は記憶に残りがちなんです。
もう1つは、予測の精度が上がったといっても100%ではないわけで、人間とAIの役割分担がどうしても必要になります。しかしAIに任せておけば大丈夫だろうという過度な期待をする経営者もいて、これはこれで問題です。
西村 もう1つ、レポートラインにおける納得感が優先されているという問題もあります。
どういうことかと言うと、どこの会社でも「あの人、あの部門が予測して間違えたのなら仕方ない」という人がいたりします。一方で「AIが予測して結果外れたら、上に説明できない」という理由でAI導入が止まっている会社もあるのです。計算はAIに任せて、私たち人間は、予測できない部分をどこまで考慮に入れるか、外れたときにどういう対応をするかを考えることが大切です。また失敗したらしたでそこから学ぶことも人間だからできることです。議論すべきことを、時代に合わせて変えていかなければなりません。
ただ私たちブレインパッドが恵まれているなと思うのは、「需要予測をやってくれるんでしょう?高い精度を出してね、よろしく!でも精度が出ないと怒るよ」といったベンダー任せのクライアント企業様はほとんどいないということですね。そういう会社から仕事をいただいた場合、成功する確率は限りなくゼロに近いと思います。私たちは「DX推進ベンダー」ではなく「DX推進パートナー」だと標榜しているのですが、これは重要なポイントだと思っています。
パートナー的な進め方をするとなると、クライアント企業様側にもコミットメントが必要になります。その1つが、自社のデータをしっかり理解することなのです。最初はデータを操作できるようになるための支援を受けるが、最終的には自社で操作できるようになることを目指す会社であるべきです。
DOORS ブレインパッドは「自走したい会社に伴走するパートナー」ということですね。
西村 そのとおりです。
DOORS そうすると営業としては、そういう会社を探してこなければいけないとなり、ハードルが上がると思うのですが。
小林 難しい面はあります。ただ見分けるのは難しくなくて、引き合いをいただくタイミングで「予測は何%当たるものなのですか?」「どうやれば成功しますか?」とすぐに出口を求める会社は失敗する確率が高いと言えます。
一方で、危機感を持つリーダーがいて、自分の部署以外もリサーチして課題を見つけだし、それを何とかクリアしたいという熱意を持っている会社はうまく行きます。たとえば、生産のリーダーがサプライチェーンを横串で通すという観点で、販売計画をベースに生産計画を組み立てるにはどうしたらいいかといったことを真剣に考えているケースです。
ただこの数年で、標準化やノウハウの共有を図って持続可能な会社を作っていかないと優秀な人材が集められないという危機感を持つ会社が増えてきているのも事実です。
西村 私たちがここまで強調してきたとおり、サプライ「チェーン」と言うからには横串を通してつながないとDX、すなわち変革にはならないのです。横串で考える会社と個別機能のパッケージで済まそうとする会社とでは発想が全然違います。
DOORS 横串を通していくという観点から最も大切なことは何でしょうか。
西村 社内や同業他社だけでなく、業種をまたがった連携が出てきていると述べました。そうなるとあらゆる関係者とデータをやり取りする必要が出てくるので、何よりも重要なのは「標準化」だと思います。たとえばトラックの発送費用のことを、ある人は輸送費といい、他の人は配送費という。じゃあ配送費を共通語にしましょうとなったとしても、今度は同じ「配送費」なのに人によって意味が違うということもあります。
多数の関係者が参加するサプライチェーンを実現するためには、みんなが乗れる「プラットフォーム」が必要です。プラットフォームというからには右と左で交換可能でないといけません。そうなると今挙げたような用語の標準化も必要ですし、最終的に業務プロセスも標準化していかないといけません。
東 単一業務を改善しても今ではほとんど効果が出ません。例えば需要予測だけ行っても、在庫も配送費も減らないのです。需要予測をトリガーにして、在庫や配送計画をコントロールしないと大きな効果が出ないわけです。需要予測が当たった、当たらないで一喜一憂するのではなく、どのぐらい当たることを前提に後の業務につなぐのか、外れたらどう対応するのか、こうした考え方についても標準化が必要でしょう。需要予測だけやってほしいという会社も多いのですが、私たちとしてはやはり配送や発注、在庫管理など、サプライチェーン全体での最適化に繋がる提案をさせてもらうようにしています。
DOORS 標準化といえば項目名などももちろんですが、コード体系の標準化という問題もあるかと思います。1990年代には同じ社内でも部署によってコード体系が違う企業が多く、コードの統一ができているだけでもすごい会社だという認識がありました。その後全社DWHなどが整備され、コードの統一は進みましたが、サプライチェーンとなると他社データとの連携も必要となります。このあたり、実際の現場ではどう対応しているのですか。
東 コードも含めてデータの標準化となると、これは下流だけではどうにもならないところがあり、上流のデータが生成されるタイミングにまで踏み込んで整備する必要があります。しかしいざデータを活用しようという段階になって、このことに気づくのが現実です。そこで調べると、品目レベルでは集計できないが、カテゴリレベルなら集計できるといったことが出てきます。できることにまず着手し、コツコツとできる範囲を広げていくというアプローチを採るしかありません。
DOORS 地道で長期的な取り組みが必要ということですね。
東 はい。DXでは先進企業と評価されている会社でも、データを活用しようとした際にそもそもデジタル化されていない部分が多いのが現実です。Excelや紙の帳票に入っているデータをデジタル化するという作業に多くの時間を取られます。入力はアルバイトの方にお願いしますが、入力チェックや作業進捗の管理などは私たちがしないといけません。やりたいこと/事業的な成果創出を目的とした時(今あるデータを活用して何か成すことを目的にしない)に、必要となるデータやデータ化のためのそういう肉体労働的な単純作業を疎かにせず、まずはデジタルデータ化して、それで分析の一定の結果を出すことが、これからDXを始めようという会社にとっては決定的に重要です。
西村 逆にそうした地道な取り組みを伴走できるところに私たちブレインパッドの強みがあると思っています。多くのベンダーは、「こういうデータを用意してくれれば分析をやりますよ」というスタンスです。データの準備作業を担うことを避けがちですから。ブレインパッドの文化として、データの準備作業といった単純労働の重要性や必要性が浸透していて、分析の効果を出すためなら何でもやるという社員が大半なのです。これは他社にない大きな強みだと私は思うのです。
DOORS ここまでサプライチェーンDXの課題やその解決策を見てきました。ここで話題を変えて、サプライチェーンの未来像について語ってほしいです。
西村 サプライチェーンという、供給側目線ではなく、デマンドチェーンという消費者目線で見直そうという気運が何年も前から出てきています。その考え方には賛成ですが、私は、これからは「チェーン」ではなく「ウェブ」になると考えています。つまり「デマンドウェブ」と呼ばれるものに進化していくのではないでしょうか。
この場合のウェブは、ブラウザで見ることができるWWW(World Wide Web)のことではなく、本来の「蜘蛛の巣」「網の目」といった意味です。東さんが説明してくれたように、「チェーン」の外から参入してくる企業もあり、従来の一直線のチェーンでは説明しきれない世界観になりつつあります。例として挙がった携帯キャリア企業が、従来のサプライチェーンにどんどん参入してくるでしょう。
物流も、「共同物流」でよいという形になっていくでしょう。その背景としては、消費者側の要求、つまりできるだけ早く安く配送してほしいという動機があるわけで、やはりサプライ側ではなくデマンド側の発想で考えていかないといけない。そういう意味合いで「デマンドウェブ」などと命名しましたが、いずれにしても近未来ではなく、少し先の大きな話だとは思います。
DOORS 東さん、いかがですか。
東 もっと近い未来の話をしますと、明るい兆しが出てきていることを感じています。まずクライアント企業様が、システムではなくデータを見つめるようになってきたということです。今までは予測システムがあれば何とかなるといった発想だったのが、このデータをこう使うとこんなことが予測できるはずと考えるようになってきています。
ではその予測ができたなら、どんな最適化ができるだろうというところまで発想が広がっている企業も出てきています。サプライチェーンの領域は、結局人が中心だと思うのです。データサイエンティストができることも広がっていますが、データでは捉えられない変化や大きすぎて予測できない変化もあります。だからデータ活用、データサイエンティスト活用という未来は当然あるのですが、その先にはあらゆる人がデータ武装し、AI活用を前提として人が成すべきことに集中し、そして働く人のQOL(Quality of Life))を向上していこうという流れになっていくと思うのです。
過度な残業や業務プレッシャーに人が潰されるのではなく、データを使って、効率や生産性を上げていく世界になっていくということですね。これはコア業務や事業を任せられる人材が減少していく日本においては、事業や会社の持続可能な未来を作るという点において重要な経営アジェンダになっていくと考えています。その世界を実現するためには、需要予測や配送の最適化など、これまでは経験あるベテランにしかできなかったことが、データと技術に置き換わって、しかもそれが数分~数時間でできてしまう必要があります。こういう変化は既に実現されてきていますし、今後どんどん広がっていくと思います。
DOORS 小林さんはいかがですか。
小林 未来像というより私の抱負になりますが、サプライチェーンDXの実現で、現場に関わっている人を幸せにしたいという気持ちがあります。SCMの現場は社内的にコストセンターと思われがちで、上意下達や需要に対して、必死にオペレーションを回しているのに、納期遅延、機会損失やオペレーションミスがあると、失点主義で厳しく言われてしまったりしています。緊張感ももっていても、突発的な変更要求・調整事項が発生し、また定常的な運用負荷も軽くないため、変更や調整業務の負荷は工数だけでなくプレッシャーや納期までのリードタイムの余裕もないことからかなりひっ迫している中で業務を遂行している。そういう負荷を自動化で減らしていき、浮いた時間でデータを見ることで、最適化のための業務設計、システム設計に取り組んでもらう。そうなれば仕事のやりがいが大きくなるはずです。
また経営と現場の乖離についても双方がリテラシーを身につけて、データに基づいた会話ができるようになれば距離が縮まっていくでしょう。そうなれば、現場で起こっていることがすぐに経営にレポートされるようになり、経営側の打ち手もタイムリーになります。経営がしっかり手を打ってくれるから、現場もさらにきっちりレポートするといった好循環が生まれ、日本企業の多くの問題が解決して、明るい未来につながっていく。そのために私も頑張りたいと思っているのです。
DOORS 最後にサプライチェーンDXを推進したいと考えている企業へのメッセージがあればお願いします。
西村 サプライチェーンDXを始める場合、推進部門や推進プロジェクトを結成すると思うのですが、社内の人材だけだとおそらく過不足が出てしまうと思います。生産の人に考えろといっても営業がわからないとなりますし、営業の人も生産がわからないと言うでしょう。そもそもデータに対するリテラシーがある人は現時点では少なく、持っている人を集めても今度は営業も生産もわからないことになりかねません。
そうなると外部にも助けてもらおうということになりますが、個別機能に特化したベンダーを呼んでも、解決策にはなりません。そもそもデマンド側を起点にチェーンをつないだことのない会社がほとんどです。しかし内需が頭打ちの今、デマンド側から考えないと打開策は浮かびません。おそらく進め方もわからないという企業がほとんどでしょう。そうであれば、デマンド側からの発想でサプライチェーンをつなげた経験のある会社に相談するのが一番の早道ということになります。
その中でどういう基準でパートナーを選べばよいか。これも既に述べたように「伴走してくれる企業」かどうかです。ではそういう企業をどうやって見分けるのか。相談した段階で、「では御社のデータをちょっと見せてください。こういうアセスメントをさせてください」と言える会社ではないかと思います。「こういうデータを用意してくれたら、相談に乗ります」ではダメなのです。なぜならデータの用意ができる企業はすでにかなりの経験を有しており、進め方がわからないので相談に乗ってほしいという企業とは違うからです。
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