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※本記事は、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社との共催セミナー「実務で使えるMIプロダクト&MI先進企業が直面する課題と本音」(2024年2月27日)のブレインパッドセッションを編集したものになります。
「どの材料をどれだけ混ぜると、より良い商品が作れるのか?」
この疑問にデータを用いて答える技術がマテリアルズ・インフォマティクス(MI:Materials Informatics)です。たとえば、いくつかの種類の小麦を配合させてできるパスタの食感や甘みをデータとして蓄積することにより、MIで求める至高のパスタに辿り着くことができます。
では、MIの最大の課題とは何でしょうか。よく耳にする課題は、
といった内容です。ただ、今回フォーカスしたい内容は現場実装の課題です。どれだけ研究開発部門がMIの成果を積み重ねても、現場のオペレーションにMIが組み込まれない限り持続的な経営効果を生み出すことはできません。
そこで本記事では、MIの概要と、持続的な経営効果を創出するためのMI(2周目のMI)に立ち向かうための処方箋をお届けします。
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マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは?材料開発・研究を加速させるデータの力
※本記事は連載記事(全3記事)であり、下図の1つ目のセクションになっています。
読者のみなさんは「MIにできることは?」と聞かれたら、何をイメージするでしょうか。答えはさまざまだと思いますが、次の2つが定番の考え方となります。
この2つの特性をもつMIはシンプルかつ汎用性が高く、実際にいろいろなところで使われています。たとえば、次のような課題がMIによって解決されています。
MIは、経験と勘では手におえないような膨大なパターンの中から、データを使って答えを導きます。では、そんな便利なことが、どうやったらできるのか?という話です。少し具体的な例を考えてみましょう。
ある新製品を開発するにあたって、手元には数千種類の性質の異なる原料があるとします。製品の性能は、この原料を何種類、どれくらい混ぜるかによって決まります。このとき、我々が知りたいことは一番性能のよい製品をつくるレシピであり、それを見つけるためにはレシピと性能の関係を知る必要があります。
これを得意とするのが、MIです。手がかりとなる初期の実験データを使ってAIはレシピから性能を予測します。そして、性能の高い製品にどんなレシピが必要かを導きます。
ここまでの内容を見る限り、簡単な話に聞こえるかもしれません。では、MIを実践する上で何が難しいのでしょうか。難しさの要因は、2つあります。
1つは、実験が偏りがちであるということです。みなさんは、新しいものを開発する際にどうやって実験を進めるでしょうか。おそらく見込みのありそうなパターンに集中して、実験をするのではなないでしょうか。すると、データは似たようなパターンに偏り、データから導かれる傾向は人の直感と大差ない状況になってしまいます。これでは、人が思いもつかないような発見をすることはできません。
もう1つの難しさの要因は、AIが推論を苦手としているということです。AIは、既存のデータから傾向を捉えて予測を行います。そのため、既存のデータに近い領域であれば、うまく予測することができます。しかし、AIは、既存のデータから離れた領域の予測、いわゆる推論が苦手です。しかし、思いもよらぬ発見は、多くの場合、推論の領域にあります。
これらの難しさの克服に立ち向かった10年が、MIの1周目であり、現在地です。そして今、MIは2周目の課題に直面しています。
2周目のMIは、持続的な経営効果の創出に焦点を当てた話です。MIはもちろんDXでは、はじめに挑戦フェーズがあります。このフェーズは企画・開発・効果検証を積み重ね、自社なりの成果を発見するプロセスです。特にここ数年間は、この積み上げが形になった企業も増えてきています。ただ、この挑戦フェーズは、どうしても単発成果に終わりがちです。多くの挑戦的な成果は、現場のオペレーションを変えて定常的に使っていくという話まで届いていないことが通例です。
この挑戦フェーズを1周目のMIと呼ぶならば、今求められはじめているのは「MIの壁」を破った先にある2周目のMIです。つまり、いかに業務実装や現場定着を推し進めて、持続的な経営効果を生み出すかという課題です。
MIの壁は、組織や部門の枠から生み出されています。たとえば、チーム間の軋轢や過去の成功体験が、無意識的に業務オペレーションの変革に対してブレーキをかけてしまいます。では、この1周目と2周目の狭間にある「MIの壁」を打ち破るためには、どうしたらよいのでしょうか。
1つは組織の一体化です。新製品の開発に関わる情報は、多くの企業で3つの部門に分割されがちです。
この3部門をいかにして、形式ではなく真に一体化させるかが大切です。
もう1つは、過去の成功に囚われないことです。MIでは成果を求めるあまり、自社のデータに特化して分析を進めがちです。言い換えれば、既存製品の延長線から脱却を望む一方で、目先の成果を追って自社データから離れられなくなる状況がよく起きます。しかし、極端に言ってしまえば「手元のデータは、当たり前の結果しか生まない」という側面があります。このジレンマを乗り越えるために、論文の最先端のノウハウや、特許の実用的なノウハウを如何に取り込むかが大切です。
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成功ポイントを知る。マテリアルズインフォマティクス実践編
本記事では、この10年でMIが磨いてきた基礎と、これから先MIとビジネスをつなぎ込むための鍵をまとめました。MIを含めたデータ活用は、市場全体で新たな過渡期に差し掛かりつつあります。それはデータ活用が特別なものから、意識せずとも使っている自然なものへと向かい始めたということでもあります。そして、この変化は一部のデータ活用担当者にとっての話ではなく、従業員・経営者・消費者の誰もが変化を迎えることになります。1周目のMIを成功に導いた皆さんは、ぜひ2周目のMIに向かう次の一手を打ってみてはいかがでしょうか。
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