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ブレインパッドは2004年3月に設立した当初から、データ分析・データ活用を中心としたサービスを提供してきた会社ですが、一方でコンサルティングやデータエンジニアリングにも力を入れています。なぜデータ活用支援企業であるブレインパッドがデータエンジニアリング、すなわちシステム開発にも本格的に取り組んでいるのでしょうか。
その意義をブレインパッドのデータエンジニアリングの中核メンバーである松永紘之と秦健浩の二人に聞きました。
■登場者
※所属部署・役職は取材当時のものです。
DOORS編集部(以下、DOORS) まず簡単にお二人の自己紹介をお願いします。
ブレインパッド・秦 健浩(以下、秦) エンジニアリング推進部の秦です。事業会社やSIerを何社か渡り歩いた末、8年前にブレインパッドに中途入社しました。現在の主な仕事は、品質改善のための標準化推進です。
【秦が登場する主な記事】
【シリーズ】データガバナンスがもたらすもの-第5回 データ基盤構築とデータガバナンス(前編)
ブレインパッド・松永 紘之(以下、松永) ソリューション開発部の松永です。13年前にブレインパッドに入社しました。お客様向けに、SIやプロダクトのインテグレーションを主にやっています。
【松永が登場する主な記事】
【前編】「分析力の研鑽」を目指すニッセンのデータ基盤 ~BrainPad DX Conference 2022~ テーマ別 企業DX対談
DOORS データエンジニアリング本部の成り立ちと今に至る経緯を教えてください。
松永 ブレインパッドはデータビジネスをメインにやってきた会社で、我々が所属するデータエンジニアリング本部は後発の組織です。初期はプロダクトのインテグレーションが中心業務でした。
データ活用が最初に広まった業種がECでした。そのため、我々が最初に支援していたのはマーケティングのプロダクト導入になります。そのうち、プロダクトでは対応できない課題も出てきて開発を担う組織も必要になり、開発人員を増やすことになりました。組織が大きくなってきたタイミングで、フルスクラッチの開発、データ活用基盤・DWHの構築もするようになったのが経緯です。
データビジネスに必要なスキルや業務知識を揃えるために、1人で全てを賄うことは難しいため、人が増え、組織が大きくなり今に至る形になっています。
最後にできた組織が、秦さんのいるエンジニアリング推進部です。これまでひたすら前進と拡大を続けてきましたが、属人性が強いという課題も見えてきたため、品質を担保する仕組みやメンバーのキャリアに必要な技術を棚卸しする必要が出てきました。そこで「標準化」を行うことで組織として、事業として、更に強みを増していこうとなりました。
DOORS データエンジニアリング組織を立ち上げたときは、システム構築にも詳しいデータサイエンティストを集めたのか、外部の人材を採用したのか、どちらだったのでしょうか。
松永 当時、私はたまたまプロダクト導入を中心に担当していたのと、前職がシステムエンジニアだったので、中心メンバーの一人に指名されました。その際にどんな人材が欲しいかを聞かれ、データサイエンティストでデータエンジニア的な動きもしていた人たちを入れてもらったのです。
DOORS これまで基盤システム構築や機械学習システム構築、あるいはデータ基盤構築プロダクト開発など様々なシステム構築を手掛けてきたお二人に今回来ていただいたのは、なぜブレインパッドのようなデータ活用支援企業がシステム構築も手掛けているのかということをお伺いしたかったからです。この点について、いかがでしょうか。
秦 データ活用支援企業という業態でデータエンジニアリングが必要なのは、ある意味当然なんですね。なぜかと言うと、実はデータ活用自体は20年以上も前(データサイエンスという言葉が普及していなかった頃)からあったんですよ。つまり、私たち(秦・松永)としてはデータ活用とエンジニアリングが結びついているのは、そもそもあたりまえのことなんです。
ただ、以前は企業でのデータ活用がそれほど浸透していませんでした。なぜかと言うと、大量のデータを使えばおもしろいことができるという考えはみんな持っていたのですが、具体的にどうすれば使いこなせるようになるか、使いこなせたとしてもそれで何が実現できるかがよくわからなかったからです。また当時のほとんどのユーザー企業が、システム会社に開発・運用・保守をアウトソースしており、データを握っているのはシステム会社という構図になりがちでした。
システム会社はシステム会社で、データ活用をやりたいと言われても、データ領域のコンサルティングやアイディアがある訳でもなく、未来予想図を描くこともできませんでした。
それがつい最近になって私たちのようなデータ活用支援企業が、そういった絵を描くことも支援するようになってきました。ただ絵だけ描けても実装できなければ意味はありません。構想も実装もワンストップでできる会社にスピーディーに対応してほしいというニーズが生まれてきました。
またそのような支援が継続的にできることで最終的にはお客様の自走を目指す伴走支援も可能になるといった様々なメリットが見えてきました。それでブレインパッドもデータエンジニアリングに力を入れようとなったわけです。
DOORS 1990年代後半から日本でも、DWHを構築してデータを活用しようという動きが出てきました。ただその後大きな技術的ブレイクスルーがあって、データ活用基盤構築の専門性が高まったような気がします。
秦 単にDWHを構築するのであれば、ブレインパッドがやろうがSIerがやろうが同じレベルのものができると思います。情報系システムに強いSIerは大手以外でも2000年代からいくつもあり、BIツールによるデータの可視化という面で活用は実現できていました。
ただDWHの活用と言っても可視化までで留まっていたのがSIerの限界だったように思います。その先のこと、可視化により見えてきた課題に対するアプローチの1つの手段としてデータの有効活用が考えられますが、そこはビジネスやアナリティクスの要素が強く、システム開発を主とするSIerではなかなか対応できないため、データ活用をより上流からサポートできる弊社のような企業へのニーズが高まりました。
松永 私も同意見です。情報系システムに強いSIerと私たちの作っているデータ活用基盤はそれほど違うものではありません。ただ我々は基盤を作ることがゴールではなく、その先のビジネス価値の創出や、経営や業務の意思決定につなげることを強く意識しているところが違いだと思います。つまりデータ活用支援とデータ活用基盤構築を同時に担っているところがSIerとの差別化要因ということです。
もう少し具体的に言うと、SIerの場合はデータ活用基盤を構築したあとは、その基盤となるシステムの保守が主な仕事だと考えていると思うのです。我々はどちらかと言うと基盤構築がスタートと考えています。だから初期の基盤開発はできるだけクイックに進めることを提案します。必要最小限な簡素なものを作って、すぐに施策を実行することを重視しているのです。
DOORS クイックに始めて、その後拡張もできるように作るためのポイントは何なのでしょうか。
松永 それはクラウドをベースにすることに尽きますね。クラウドを利用することによる拡張性の恩恵は、我々だけでなくあらゆる会社、組織が受けていることですが、データ基盤を構築しているような我々のような会社は、特にその恩恵を受けやすいかもしれません。
秦 SIerと仕事をする上で、機能・非機能の要件をきっちり決めて、その通りにシステムを構築するウォーターフォール型の進め方がこれまでは割と一般的でした。しかしデータ活用の場合は、最終的に目指すものは同じ、技術的な要素も同じ、拡張性があるほうがいいのも同じですが、進め方が違います。データ活用の場合はとにかくスピード重視でやりたい施策をどんどんやりながら、基盤も変えていくという進め方です。そのマネジメントができるかどうかが我々とSIerの違いだと思います。
実際にお客様とプロジェクトを始めると、要件定義をすることになりますが、次から次へと要望が出てきます。それに対して我々の場合ですと、ビジネスにもアナリティクスにもある程度詳しい人間が要件定義に参加しますので、「それって、このビジネスを成功させるために本当に必要ですか?」という観点で要望をチェックできます。クイックスタートに必要不可欠なものが整理できるのです。それ以外の要望はフェーズ2、3でやっていこうというロードマップも描けますし、フェーズごとに必要な拡張についても提案できます。
松永 少なくともデータ基盤構築ができること自体を我々の価値だと考えたことはありません。それは我々の配下のメンバーも同じでしょう。
秦 データ基盤を作るためのテンプレートであれば、クラウドベンダーも持っています。その通りに進めればけっこう良いものができるんですよ。
松永 その通りです。我々も、10数年前にDWHを構築するといった案件でハードウェアの調達が必要だったりする場合には、大手のSIerに発注することもありました。その代わりデータモデリング、すなわちどんなデータを貯めていかないといけないか、どんなデータの持ち方をしないといけないかといった部分はブレインパッドが担当して、ビジネス部門とコミュニケーションを取っていくやり方をしていました。
秦 ノウハウが求められるところが変わってきたこともあります。昔であればDWHを構築すること自体にも様々なノウハウが必要でしたが、今は誰でもできることになったので、できるだけコストをかけずにクイックに作るかが重要になっています。ノウハウになるところは、先ほども話した通り、ビジネスの変化に寄り添うシステム作りができるのか――そのプロセスをしっかり設計するところに変わってしまったのです。
DOORS 冒頭でごく簡単に自己紹介をしてもらいましたが、改めてお二人のここまでの歩みを教えてもらえますか。
秦 私は大小含め事業会社やSIerを転々として、8年前にブレインパッドに入社しました。
ブレインパッドでは、小さな開発案件に携わったことも、客先に常駐して情報系システムの基盤作りをしたこともあります。また当時のブレインパッドでは最大規模の開発案件があったのですが、それを開発のリードとして担当させてもらいました。7年前の話ですが、そのお客様からは今でも継続してお仕事をいただいています。
エンジニアリング推進部という組織で品質向上に取り組んで来たのはこの3年ぐらいです。それまでずっとブレインパッドはどちらかと言うと攻めの姿勢で業容を拡大してきたのですが、「守りもしっかり固めないとそのうち足元を掬われるぞ」という危機意識が芽生えてきて、特に品質とセキュリティをしっかり確保することを重視した標準化に取り組むことになりました。
品質面・セキュリティ面の目処がついてきたので、次はデータ基盤をクイックに立ち上げることを目標としたて、標準化の延長線上でSSP(Smart Strategic Platform)というプロダクトを開発しました。それを今、様々な業界に展開していこうとしています。
松永 私はブレインパッドは2社目になります。前職はセキュリティやオーソリゼーション(信用照会)を開発しているベンダーに所属していて、J-SOX対応の情報漏えい対策ソフトを開発する部署にいました。そのときに一緒に仕事をしたことがある方がブレインパッドに転職し、私もその人に付いていったのです。
私自身は入社してからしばらくの間、ブレインパッドが何をしている会社なのかあまりよく把握していませんでした。そんな感じでもシステムエンジニアのスキル自体は様々なところで活かせますから、貪欲にいろいろな仕事をさせてもらって今に至っています。
その時々で会社やお客様に何が必要かを考えて仕事をしてきました。マーケティング支援ツールを提案して導入する仕事から始めて、そのツールをインテグレーションしながら、徐々にビジネスを大きくしてきたのです。それが今のデータエンジニアリング本部につながっています。
私自身はお客様と向かい合うのが好きで、この10年以上、クライアント・ワークをひたすらやってきました。多くのお客様と比較的長くお付き合いをさせてもらっており、今も10社弱のお客様と継続的に会話をさせてもらっていて、その中で何か案件が立ち上がれば、それに関わっていくスタイルで仕事をしています。
秦 私が入社したときのメンターは松永さんでした。ブレインパッドの良いところも悪いところも松永さんからすべて教わりました(笑)。
松永 秦さんも含めて、その頃入社してきた人たちはみな芯があって、やりたいことを貫く感じでした。ベクトルは合っていないかもしれないけれど、各々が最高のパフォーマンスを発揮して、誰かが困っていたらみんなで助け合おうという暗黙のルールがあり、それだけでうまくいっていた時代でした。
しかし組織という観点で言うとそれではもろいということになり、ここ3、4年ぐらいは組織的な機能を強化しています。それぞれのやりたいこととのバランスを取りながらですが、時代が個から組織に移り変わっていくところを様々な想いをいだきながら見ているという感じでしょうか。
DOORS その変化の要因は社員が増えたことにあるのでしょうか。それともビジネス環境が複雑になり、それに伴って一人ではできない仕事が増えたからでしょうか。
松永 我々自身が歳を取ったこともありますね。20代、30代の頃はそれこそ馬力もあって、疲れ知らずで働いていたのが、40代になると体力が衰えてきて、みんなで協力しなければという気持ちになってきました。であれば、人も育てて、チームで仕事をする方向に舵を切っていかないといけないなと思うようになったのです。
秦 昔と比べると、社員数も増えていますし、案件数も増え、案件規模も大きくなりました。今までのような個人商店のような仕事の進め方では、横のつながりがないことで様々な問題が起きるようになったのです。そのような反省から、組織で動くようになったのは必然だったと思っています。
松永 きっかけになったのは、ある大企業の大きな案件を受注したことでした。それをやり遂げるには、今まで通りのやり方ではリスクが大きいと感じたのです。みんな薄々とこのままのやり方では行き詰まると思っていたのですが、この案件をきっかけに今変わらないといけないと思ったのです。ちなみにこの案件を取ってきたのが秦さんでした。
秦 我々のコンサルタントが構想策定の支援でお客様としっかり関係を築いていたおかげもあって取れた、当時最大規模の案件ですね。そのときは、「このままではヤバいなあ」という空気がありましたね。
松永 この先も大きな案件が中心になっていくでしょうから、新しく入社してくる人たちのためにも仕事のやり方を個人中心からチーム中心に変えていかないといけないなあと考えました。ただガラリと変えるというよりは、良いところも残しつつ、徐々に変えていけたと思っています。
DOORS 今、企業における内製化の気運が高まっていますが、それに対応するためにデータエンジニアリングも変わらないといけないのでしょうか。
秦 内製化は運用はともかく開発となるとハードルが高くなると思います。お客様にとっては組織を見直さないといけなかったり、開発人材を育成したりなど、いろいろな面で改革が必要になります。そこで立ち止まって、一気に内製化する必要があるのかをしっかり考えないといけないのではないでしょうか。
松永さんが後でしっかり話を戻してくださると思いますので(笑)、私からは質問の趣旨からは少し外れたお話をさせていただきたいです。この頃内製化が当たり前のようにうたわれるようになりましたが、正直何でもかんでも内製化でいいのか、と思うところがあります。たとえば内製化という言葉が響くのは、それを検討する余力がある企業のみです。
しかしそういった余力が無い企業に目を向けたら、優先度の高い悩みや課題感はまた違ってくると思います。DXや内製化などと言われてもなかなかそこへたどり着けないような企業を何らかの形でご支援する。あくまで私の個人的な見解でブレインパッドを代表するものではありませんが、予算も方策もないがデータ活用やDXに乗り遅れたくないと思っている企業に対しても、しっかりとサポートしてあげられる、社会全体のデータ活用やDXのレベルの底上げをする、そういったエンジニアリングとしてのご支援の形があってもよいのではないかと考えています。決して内製化が全てではない――話がかなり脱線してしまいましたが、それを実現するためにエンジニアリングの部隊として実現すべきことを考え、変わらなければならないところは多分にあるかと思います。ということで、松永さん、話を正しい方向に戻してください。
松永 秦さんの個人的見解に私も賛成ですが、私は今のブレインパッドのデータエンジニアリングを考えると適応能力が大切ということになると思います。これだけやっていればいいということは、ブレインパッドで13年間やってきて一つもありませんでした。
企業が内製化に舵を切るのであれば、様々な環境に対応していかなければなりません。お客様それぞれのビジネス環境に対応するのはもちろんのこと、クラウドも新しい技術が出てきているのでそれにも対応しないといけません。クラウド以外でも常に新しい技術が出てきているので、それらもキャッチアップし続けなければなりません。変化に対応できることが、データエンジニアリングの第一条件だと思っています。
秦 DXビジネスモデルを提供できるといいですよね。
松永 そうですね。テンプレートではなくて、ビジネスモデルそのものを提供できるんだというほうがブレインパッドらしい気がします。
秦 データエンジニアリング本部はそれをSaaSやプラットフォームの提供という形で実現し、コンサルティング部隊がそれを活用してサポートをする――ブレインパッド全体で支援をすることで、すごく汎用性の高いサービスを提供できるのではないかと思います。
お金の有る無しは関係なく、どの企業もDXのスタート地点に立てるようにして、勝ち組・負け組を生み出さないようにしたいですね。
DOORS そのようなビジネスをデータエンジニアリング本部主体で推進していきたいという考えでしょうか。
秦 ツールや基盤、プロダクトだけを提供してもあまり価値は感じません。やはりビジネスがあってこそのエンジニアリングであることには変わりません。ただ、ビジネスの変化やデータ活用の高度化において、エンジニアリングはビジネスの中核とも言えます。
個々のビジネスに対応可能な仕組みをあらかじめ実装し、ビジネスチームのニーズに応じてそれらを提供。ビジネスチームはその仕組みを活用してクイックに最大限のパフォーマンスを発揮する。
あらかじめ実装しておくその「仕組み」の要件を決めることはなかなか難しいですが、これまでビジネスに向き合って開発を行ってきた我々データエンジニアリングだから実現できることであり、ブレインパッドらしい開発の在り方だと思います。
DOORS 今までの内容も踏まえて、データエンジニアリング本部としてはどうなっていきたいですか。
松永 やはり変化に強いのが我々の強みでもあるし、またそうならないといけないということがあるので、今後新しく出てくるであろうニーズやサービスを敏感に捉えて、それに向けてアジャストしていける組織を目指すことに尽きると思います。
他の組織から見ると、我々はかなり自由にやっているイメージがあるのではないでしょうか。それは型を決めすぎないというポリシーがあるからです。型を決めてしまうと新しいものを取り込めません。だから今後もこの「型を決めすぎない」ことにはこだわっていきたいと思います。一方で誰がやっても同じ品質で成果を出せるようにする標準化も必要です。おそらく標準化しては新しいものを取り入れ、それによってまた標準も変わっていくというサイクルをいかにうまく回していくかが求められていることなのでしょう。
DOORS 今日はありがとうございました。
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