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消費者向けビジネス市場は成熟し、店舗やECなど様々なシーンで競争が激化しています。
成熟市場においては、他社との差別化や新規顧客獲得は容易ではありません。にも関わらず、投資予算に限りがあったり、据え置かれたりといった制約の中で売上や利益などの高い事業目標達成を余儀なくされ、お悩みの方が多いのではないでしょうか。
そのような状況だからこそ、顧客理解を深めLTVや顧客定着率の向上を目的としたCRM活動が重要になります。
そこで、本記事では、持続的な成長に向けたCRM全体像の描き直しをテーマに、顧客理解を念頭においたデータ基盤の見直し方や正しいLTVの設計、コミュニケーションの考え方などをご紹介します。
※本記事は、【シリーズ】データの専門家による差別化のためのCRMの見直し方の第1回として、2023年10月12日にオンライン配信された「<オンラインセミナー>持続的な成長に向けたCRM全体像の描き直しとは?」の内容を記事用に再編集したものです。
連載記事
第1回 持続的な成長に向けたCRM全体像の描き直しとは?
第2回 KGI達成に向けたKPIマネジメントの描き直しとは?
第3回 KPI達成に向けた施策改善PDCAの描き直しとは?
株式会社ブレインパッドの藤掛 真太郎と申します。PaaS企業で事業を統括するゼネラルマネージャーとして従事後、2011年にブレインパッドへ参画しました。
分析組織の立ち上げ、マーケティングアナリティクス、サービス企画、データ基盤構築、ITインフラ&ネットワークといった幅広いプロジェクトを経て、2023年7月よりBtoC企業様を支援するユニット統括として従事しています。
本記事は、データの専門家による差別化のためのCRMの見直し方と題したシリーズ企画で第1回目となります。
本記事をお読みの方は、CRM活動を始めて、メール、LINE、アプリなどの施策を一通り実施し、効果検証されている方も多いかと思います。そんな中、「CRM活動全体を整え、差別化に繋げるにはどうすればいいのか」「再現性ある活動のためにデータをどう活用すべきか」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「持続的な成長に向けたCRM全体像の描き直しとは?」というテーマでお話しします。
CRM活動に対して「ガチャガチャしている」「バラバラしている」「エンエンに感じる」といった感覚・状態ではないでしょうか。これらの言葉は、皆さんのCRM活動に対する疑問や課題を表しています。
まず「ガチャガチャ」とは、同じ施策だけを繰り返し実施していると、「本当にこの施策だけでいいのか」という疑問が生じている状態を表しています。
また、企業の立場で「バラバラ」と伝えている情報とお客様が欲しい情報にギャップを感じている方も多いでしょう。
さらに、「買って!買って!」とだけ「エンエン(延々)」と伝えていても、顧客体験として不十分に感じられるかと思います。
今回のセミナーでは、このようなお悩みを解決するために整えるべきことをお伝えします。
「ガチャガチャ」は、ブランド・サービス全体を俯瞰できるKPIがないため、同じ施策を繰り返している状況です。したがって、全体を俯瞰できる活動診断を整える必要があります。
「バラバラ」は、企業ゴトでお客様とコミュニケーション(会話)しており、顧客ゴトの会話が不十分な状況です。顧客を理解し会話するために、まずはデータを整えなければなりません。
「エンエン(延々)」は、顧客との会話が買ってもらうことだけに集中しており、顧客育成の方針が見えない状況です。顧客体験を豊かにするために、データを活用して再現性のある活動に整えましょう。
そもそも、なぜマーケティングにおいてCRM活動が重要視されているのでしょうか。それは、特定のお客様を顧客ゴトとして把握するための武器となるからです。顧客ゴトをデータとして捉え、アクションし、検証することが、再現性のあるアプローチに繋がります。
お客様を見る方法には、「マーケット全体を俯瞰して見る」方法と「顧客を特定して見る」方法があります。CRM活動では、まず「顧客を特定して見る」ことが大切です。
FACTに基づいて顧客へアプローチし、会話を創造することが、サービスの差別化に繋がります。そして、特定顧客だけでは不足しているデータに関しては、市場から見た仮説を加えることが必要であり、CRM活動において再現性と差別化を獲得するためには、「データ資産化」「データドリブンUX」「全体診断」の3つを整えていく必要があります。「マーケット全体を俯瞰して見る」を加えることで、再現性のある差別化を実現できるのです。
データ資産化とは、顧客の履歴とメタ情報を紐づけ、繰り返し使えるように運用することです。
ここで重要なのは、結果に関するデータを貯めるだけでなく、顧客背景や要因・原因の
データまで資産化することです。何を買ったかだけでなく、その背景にある動機や興味関心、なぜ購入に至らなかったのかまで理解できるようにしましょう。
データドリブンUXとは、データに基づく顧客理解から再現性のあるユーザー体験を運用することです。
ここでは、データに基づく「Who」を特定することが重要です。「Who」に対する「What」を検討することが、データ資産を活かした再現性のあるアクションに繋がります。さらに、効果検証でアクションを振り返り、運用を通じてユーザー体験を高めていくことで、FACTに基づく顧客との会話を目指しましょう。
全体診断とは、データに基づく全体の評価方法を定め、俯瞰した視点で改善運用を行うことです。
データに基づく全体の評価方法には、LTVとKPIがあります。まずは、顧客体験の結果を表現し、長期的な関係性を築いていくためのLTVを設定しましょう。そして、LTVをブレークダウンしたKPIを設定します。ここでは、ユーザーの経験価値の視点で、ユーザーとの関係性を取り入れて設計することが大切です。
このように「データ資産化」「データドリブンUX」「全体診断」の3つを大きく回すことで、持続的な差別化を実現できるようになります。
当たり前に感じるかもしれませんが、私がご支援してきた中でデータ活用に成功している(売上に繋げられている)企業様はこの3つを徹底して実行しています。決して簡単ではないものの、一つずつ解決し着実に事業成長に貢献しているのです。そのため、現段階で不十分だと感じられた方は、今から着手して顧客の解像度を高めませんか?
では、なぜCRM活動が不十分だと感じてしまうのでしょうか。根本的な原因として、視点の不足によって論点の不足が生じていることが考えられます。
データ資産化で問題となるのは、顧客ゴトと向き合うための視点が不足しているケースです。顧客の背景が見えていなければ、どのような背景に注目すべきかの論点も不足してしまいます。
データドリブンUXで問題となるのは、顧客と会話する視点が不足しているケースです。企業ゴトの施策にだけ目がいってしまうため、顧客の状況を考えた会話の論点も不足してしまいます。
LTV&KPI(全体診断)で問題となるのは、全体を俯瞰して価値提供を測る視点が不足しているケースです。同じ施策ばかり実施してしまうため、どの顧客と会話すべきかの論点も不足してしまいます。
このように、視点の不足によって論点の不足が生じてしまうと具体的なアクションに結びつきません。そこで、「データ資産化」「データドリブンUX」「全体診断」のそれぞれで大切にすべき視点について解説します。
繰り返しになりますが、データ資産化で大切なのは、マーケティング結果に繋がる顧客の背景を資産化することです。
例えば、お客様にサービスをご購入いただいたときは「なぜ購買したか、開封したか」という背景をデータとして捉え、資産化するようにします。
データドリブンUXで大切なのは、「閲覧した、購入したというFACT」から今後どのようなコミュニケーションをとるべきか検討し、実行した結果を評価することです。
例えば、お客様に体験型サービスをご購入いただいた場合、購入時点で会話を終了してしまっては意味がありません。体験当日までの期間を盛り上げ、体験をサポートする情報をお伝えするなどフェーズに合わせた会話を検討する必要があります。
LTV&KPI(全体診断)で大切なのは、サービスの健康診断ができるような視点を持つことです。サービスの提供価値を評価できるように全体設計を行います。
このとき、単純な因数分解にならないように注意が必要です。どのようなサービスを提供しているかを見直し、事業の特徴を反映したLTV&KPIツリーを目指すことです。
では、CRM活動の成功確率を上げるために、どのようなゴールを設定すればよいでしょうか。私たちは、短期・中期・長期のゴールを見据えた支援を実施しています。
短期ゴールでは、3か月かけてサービス全体の診断を整えます。
LTVを設計するためには、顧客の背景にあるコンテキスト価値を考慮し、ユーザー視点の提供価値とユーザーとの関係性から顧客を長期的に評価する必要があります。
具体的には、次のステップで全体の提供価値の測り方を整えます。
Step1では、商品やサービスに価値を感じているユーザー支持層を整えます。
ここで重要なのは、今あるデータからユーザー支持層を区分し、測定できるようにすることです。顧客情報が十分にある場合は、顧客の特徴を踏まえて支持層を区分できます。顧客情報が不十分な場合も、利用回数や金額などから顧客ステージを決めることで支持層を区分できるところから始めます。
Step2では、ユーザー支持層が感じている商品・サービスの価値を測ります。
商品・サービスの価値は、顧客が利用や経験によって感じる「経験価値」と一定期間でどの程度使うかを表す「価値の継続」の掛け算によって求められます。
例えば、ある化粧品会社の商品が、20〜30代の忙しく働く女性に対して、さっぱり感、しっとり感、時短ベネフィット、トラブルケアといった価値を提供できるとします。この商品が年間で何回購入されているかがわかれば、ターゲット顧客層の年間売上を算出可能です。
Step3では、顧客がどの程度の期間、企業と関係を継続したいと考えているかを測ります。期間による「関係価値」を、Step2で算出した「経験価値」と掛け合わせることで、ターゲット顧客層のLTVを測定できるのです。
このような価値の組み合わせによって、顧客視点のLTVとKPIツリーが構築できます。そして、KPIを定点観測することで顧客層別のサービス健康診断ができるようになるのです。
先ほどの化粧品会社の事例では、「さっぱり」「しっとり」「美白」のそれぞれの年間売上を定点観測することで、「さっぱり」は単価・回数がいずれも成長しているものの、「美白」は回数が減少しており、上図F2に課題があるとわかります。また、継続利用年数が減少している理由は、ロイヤリティの低いブロンズ会員が滞留しているからだと把握できます。
このように全体を俯瞰することで、顧客の成長と滞留を見える化できるようになります。単純な因数分解ではなく、サービスの提供価値に基づき分解していくことが重要です。
LTV&KPI(全体診断)の詳細は、シリーズ第2回 KGI達成に向けたKPIマネジメントの描き直しとは?の記事でご紹介します。
中期ゴールでは、6か月かけてデータからユーザー体験を整えます。
再現性のあるデータに基づくコミュニケーションは「閲覧、購入したFACTデータ」から開始します。可能であれば、顧客のメタ情報を分析し、対話して評価するようにします。
例えば、体験型サービス(旅行予約サイトで旅行プラン)をご購入いただいた場合、顧客のメタ情報を分析することで、どの広告からどのプランをご購入いただいたのかがわかります。そして、男性には代表的な場所や営業時間、費用といった情報を伝え、女性にはお客様の感想を提供するなど、伝える内容をアップデートすることも可能です。
また「オンボーディング〜リテンション」のシナリオを作成し、購入後のお客様とのエンゲージメントを高めることが大切です。
例えば、旅行プランを予約してから実際に体験するまでに時間があると、途中でキャンセルされるリスクがあります。実際に体験いただけた場合も、顧客層に合わせた観光地を案内することで、また来たいと思っていただけるでしょう。
このように、購入時点で終わりではなく、キャンセル抑止やリテンション増加のためのアクションを実行し、効果検証することが大切です。
データドリブンUXの詳細は、シリーズ第3回 KPI達成に向けた施策改善PDCAの描き直しとは?の記事でご紹介します。
長期ゴールでは、24か月かけて顧客ゴトを資産として整えます。
繰り返しになりますが、データ資産化で大切なことは「なぜ購買したか、開封したか」という顧客の背景を捉えることです。背景を知っているかどうかで購買の結果は大きく左右されます。そのため、お客様の背景を顧客情報として資産化する意識を持ちましょう。
ここで、データ資産化の各要素を紹介します。
ユーザーコンテキストには、性別、地域、世帯、ライフイベントといった「属性情報」、サービスや商品への興味、興味の多様性といった「行動特徴」、そして「心理的特徴」が含まれます。
ユーザーコンテキストは長期で変わることが少ないため、資産化することでズレない会話ができるようになります。
サービス継続と経験には、購入した商品、商品の組み合わせ、買い方といった顧客の購買態度が含まれます。
購買を起点とした情報を資産化することで、瞬発性が高く、再現性のあるアクションを実現できるようになります。購買はお客様にとって大きなイベントなので、購買態度の資産化は重要です。
ユーザーとの関係性は、顧客ランクやイベント参加率、特集ページの閲覧などから測ることができます。また、ユーザーが登録しているチャネルを把握することで、コミュニケーション方法を検討することも可能です。顧客との関係性を深めるアクションを実現するために、ユーザーとの関係性も資産化します。
外部接続性は、サービスをグロースさせるときに重要な要素です。外部メディアや広告(AD)からユーザーの興味関心を把握し、メタ情報として管理することで、再現性のあるアクションを実現できます。
データ資産化の具体的なアクションイメージは、次の通りです。
ユーザーコンテキストを把握し、顧客背景を掴んで、アクションし、PDCAを回していきます。
例えば、ある化粧品の顧客層を分析した結果、頑張った自分へのご褒美や、人生の転機に商品を購入することがわかりました。この顧客層の美容への関心、ヒトへの関心、メディアへの関心といった背景を把握することで、伝えるべき内容も変わってきます。
具体的には、この化粧品はお客様にとって特別な体験という位置づけなので、自分をより輝かせるようなイメージを訴求する必要があります。そして、購入して終わりではなく、商品が届くまでの期待感を醸成することが大切です。さらに、商品到着から7日間ごとに、商品の特徴や使い方、お客様の声などを伝えることで、顧客との関係性を深め、体験を豊かにできます。
このようなシナリオのA/Bテストを実施し、繰り返し効果検証することで、顧客体験をアップデートできるようになるのです。
また、データ資産化は少しずつ拡張していくことが大切です。
まずは、ユーザーコンテキストやサービス経験といったユーザー情報を資産化します。次に購入の継続を加味した資産化を行い、最後にユーザーとの関係性からサービス全体を捉えられるような資産化を行います。さらに、不足している内容があればアンケートで確認するなど、少しずつデータを拡張していきます。
データ資産化を進めるための具体的なアクションを「データ開発」と呼びます。
「プル型データ開発」では、オウンドメディアへのアクセスから顧客をメタ情報化することで、ユーザーの直近1ヶ月の興味関心に基づくコミュニケーションができるようになります。
顧客の背景をより知りたい場合は、「プッシュ型データ開発」でアンケートを集めます。年収やライフイベントなど、わからない情報のアンケートを集めてSeedとして予測することで、全顧客を推定できるようになります。
つまり「プル型データ開発」でデータを貯めながら、「プッシュ型データ開発」でよりリッチに顧客を理解することが大切です。もちろんプライバシーに関する内容なので、お客様からデータ収集の同意を得ることも忘れないようにします。
データの発生からデータ資産化、施策までの全体像をまとめると、次の通りです。
属性、プル型データ開発、プッシュ型データ開発などのローデータを、ETL*で顧客IDに紐づけます。そして、FACT資産やデータサイエンスによる予測・推定資産に基づき、施策を実施します。
*「Extract (抽出)」「Transform (変換)」「Load (書き出し)」の略語。 さまざまなデータベースやシステムからデータを抽出、扱いやすいフォーマットに変換、DWH(データウェアハウス)に書き出すという、一連のプロセスのことを指す。
データ活用に力を入れている企業は、確定データを整えるだけでなく、外側の予測、推定、連携に移行しつつあります。データを通じて顧客ゴトを理解することで、提供するサービスの差別化に繋がるのです。
CRM活動では、特定顧客からユーザーを理解し、データに基づいた再現性のある運用をすることで差別化を実現できます。さらに、持続的な差別化を目指すためには「データ資産化」「データドリブンUX」「LTV&KPI(全体診断)」の3つを大きく回すことが重要です。短期・中期・長期のゴールを見据えてCRM活動の成功確率を上げましょう。
自社サービスは毎回コンテンツや提供内容が異なるため、資産化するのが難しいかと思います。ただ、抽象度を上げてユーザーのメタレベルを考え直すことで実現可能です。時間がない場合は、まずは簡単なものから試してみましょう。IDが繋がらない場合も、再現性のある検証ができれば問題ありません。
私がデータ活用に関わる中で一番重要だと感じているのは、豊富な事業経験のある皆様が、主体的にお客様とのコミュニケーションを実行することです。これにより、確実に効果が変わっていきます。経験上、データ活用ができないことは絶対にありえません。もし持続的な成長に向けたCRM全体像の描き直しについてご相談があれば、ぜひブレインパッドにご連絡ください。
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【シリーズ】データの専門家による差別化のためのCRMの見直し方 第2回 KGI達成に向けたKPIマネジメントの描き直しとは?
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