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※本記事は、「MarkeZine」に掲載された同内容の記事を、媒体社の許可を得て転載したものです。https://markezine.jp/article/detail/46032
モノ・情報があふれるこの時代、顧客を理解し、顧客一人ひとりに最適なアプローチを行うことの重要性は言うまでもなく、多くの企業において「顧客データ」の分析・活用が進められている。ところが、意外にも見落とされがちなのが「商品データ(プロダクトデータ)」の活用だ。
本記事では、データ・AI活用推進パートナーとしての業界のパイオニアであるブレインパッド社のCEOである関口朋宏氏と、商品データ(プロダクトデータ)をデジタルビジネスに活用させるためのSaaS「Lazuli PDP」を提供するLazuli社で代表取締役CEO兼CTOを務める萩原静厳氏との対談から、消費者データと商品データの掛け算によって生まれる新たな価値を探る。
株式会社ブレインパッド 代表取締役社長 CEO 関口 朋宏(以下、関口) 本日は国内の流通企業(小売・メーカー)におけるデータ活用をテーマに話していきたいと思います。まず、現状と課題を整理しましょう。
私は「データが分析できる状態に整理されていない」ケースが多々あると感じています。これではいかに優れた技術を持っていても、良質な分析を行うことは難しいでしょう。時間に制限がある場合、データ分析の仕事の約8割はデータの取得・整理に費やされ、実際の分析には2割程度しか時間が割けないと言われています。
Lazuli株式会社 代表取締役CEO 兼 CTO 萩原 静厳氏(以下、萩原氏) データが整理されていない問題は、僕も日々感じています。
商品データを例にあげると、同じ商品でも、仕入れ先が変われば、メーカーは商品コードを変えてしまうケースが多いもの。
つまり、消費者はこれまでと変わらない商品を購入しているのに、メーカーが管理しているID-POSデータ上では別物として捉えられている。それまで10万個売れていた商品でも、データ上は売上がゼロになってしまうなんてことが普通に起きているのです。
関口 そのような状態では近年重要性が高まっている「デマンドチェーンマネジメント」への対応も難しいだろうと思います。
日本は長きにわたってサプライヤー(メーカー)の視点で、いかに効率的に製品を作り、売っていくかに重点を置く「サプライチェーンマネジメント」の考えが浸透してきましたが、消費者の視点で、いかに顧客のニーズを満たすかに重点を置く「デマンドチェーンマネジメント」の重要性が増し、「デマンドチェーンマネジメント」で得られた顧客ニーズの情報を「サプライチェーンマネジメント」に戻して分析する流れが生まれています。
ただ、萩原さんが説明された商品データ管理の状態では、消費者のデマンドを正確に把握することは難しいと思います。
萩原氏 そうですね。整理されていない状態から、データ分析に本気で取り組もうとすると、かなりの手間がかかるのが現実です。そこにいかに真剣に向き合えるかだと思います。
関口 業界構造の問題もボトルネックになっていると思います。メーカーと消費者の間には卸や小売が介在しているため、メーカーから消費者の顔が直接見えないことがあります。
また、組織内を見ても、分業化が進んだ結果、部門の壁を越えてデータがマネージされていないケースがあります。データという観点から見ると、他部門と横断的に連携する機能が不足しているなと。
それぞれの範囲では分析が非常に進んでいることが多いと感じます。ただし、それだけでは期待できる効果は限られたものになると思います。業界全体で見て最適化や効率化を進めるとなると、企業や部門の垣根を超えた連携が必要です。
たとえばメーカーと小売の関係でいうと、個人情報の取り扱いなど様々な問題を除いた範囲で、可能な限り情報を共有し、メーカーが持つ商品情報と小売が持つ顧客情報を掛け合わせることで新たな可能性を生み出せると考えています。
関口 ブレインパッドは、オンライン・オフライン問わず多種多様な顧客データを一元管理し、一人ひとりに最適な顧客体験の提供を実現するCDPを搭載している「Rtoaster」を提供してきましたが、商品情報との掛け合わせにも力を入れようとLazuliさんとの連携を進めようとしています。
Lazuliさんは、商品情報を扱う企業が持つあらゆるデータを統合・加工し、シームレスな顧客体験を実現するSaaS「Lazuli PDP」を開発・提供されています。
CDPは理解していても、PDPはわからないという方もいると思います。あらためてPDPとは何か、教えていただけますか。
萩原氏 CDP(Customer Data Platform)が顧客理解のためのデータベースだとすると、PDP(Product Data Platform)は商品理解のためのデータベースです。CDPとPDPを掛け合わせることで、より具体的なクラスタリングが可能になります。
萩原氏 たとえば顧客情報のデータ分析を行った結果、「健康志向の人たち」といった大まかなクラスターしか見えてこなくても、商品データを分析し商品の理解度が上がっていくにつれて、カロリーオフ商品だけを購入する人や、有機のお茶しか飲まない人、コーヒーなら微糖まで許容できるがそれ以上の甘さは避ける人など、クラスタリングがより細分化され、精度の高いマーケティング施策を打ち出せるようになります。
関口 レコメンドの精度も上がりますよね。お客様もレコメンドされて商品を購入することに慣れてきている今、レコメンドエンジンそのものが顧客体験とパーソナライゼーションにおいて非常に重要な要素になっており、その質を磨いていくことの必要性を感じています。
関口 ブレインパッドは「Rtoaster」を通して、これまで多くの企業様に消費者の行動ベースのレコメンドエンジンを提供してきました。
一方で、特定の業界や商材に対しては商品ベースのレコメンドエンジンを提供しており、結果を残しています。
たとえば動画メディアのパーソナライゼーションは、ユーザーがどの作品を視聴したか、つまり商品情報ベースです。他にも行動データと商品データの掛け合わせにより生まれるシコウ(嗜好・志向)データの活用により、成果が得られた企業様もいます。
関口 このように業界や商材の特性次第で、行動ベース、商品ベース、もしくは掛け合わせでレコメンドしたほうがよいかは変わるのですが、多くの企業様は選択肢があることに気づいていないのが現状です。たとえ商品データを活用しようとしても、冒頭に紹介したようにデータ分析ができる状態ではないという壁にぶつかることもあるでしょう。
これまで一部のお客様で実現できていたことを、「Rtoaster」と「Lazuli PDP」の連携によって、より広く展開し、新たな価値を提供していきたいと考えています。これこそが、ブレインパッドの使命だと私は思っています。
業界や商材に関係なく、商品マスターには何かしらの魂や思いが込められているものです。その価値を広く届けるための仕組みを作っていかなければなりません。
また、CDPとPDPを統合してワンプラットフォームにせず、分けて運用するという方法は、実務に即した形での最適化を図る、新たな解決策の一つとして僕たちが提案しているものです。
萩原氏 商品情報の活用方法は、施策により様々です。レコメンデーションに使用したい商品情報と、サプライチェーンで使用したい商品情報では、必要とされる情報の形式や内容が異なります。
もし、これらの情報を一つのデータベースに統合してしまうと、各施策に合わせて個別最適化することになってしまいます。その結果、本来の目的が見失われたり、他の用途で使いやすい状態にならなかったりする可能性があるため、データを分けて管理し、施策に応じて連携させることで、効率的にデータを活用できるようにしています。
関口 データサイエンスというと「生成AI」の存在は無視できません。企業のマーケティングにも様々な変化が起きるのではないかと注目されています。萩原さんは、どう考えていますか。
萩原氏 マーケティングの観点でいうと、日本におけるAIを活用した施策は、断片的で単発的な印象を受けます。単発的なCMを作成したり、キャンペーンを実施したりすることだけに留めておくのは、もったいないなと。
生成AIは、アウトプット能力だけでなく、情報を理解する能力も非常に高いからこそ、人間らしさが増しています。この両輪が回るようになったことは、非常に大きな意味を持つことであり、新たな可能性を開くものでもあるでしょう。
海外に目を向けると、たとえば大手メディア企業が自社のデータを入力して独自のデータベースを構築、それを外部に公開して高い対価を得るというビジネスモデルを展開しています。
関口 そう考えると、やはり学習させるデータは大切ですね。企業が自社に役立つ生成AIを取り入れたいのであれば、まずデータを整理し、きれいにしなければなりません。最初にお伝えした課題の部分にも通じることだと思います。
データの質を高め、活用しやすい状態にするための投資は、今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。
関口 最後に、今後の展望をお聞かせください。
萩原氏 あらためて、データ活用を考えた際、現在の国内の流通企業における根本的な問題は、商品の製造者、流通業者、販売者がバラバラになっていることにあると思います。日本では業務プロセスを最適化するオペレーションエクセレンスはできつつある一方、データエクセレンスは改善の余地があると思います。
鍵となるのは商品データであり、企業間のデータ連携が必要不可欠だと僕は考えています。ブレインパッドさんとの取り組みをはじめ、現在Lazuliは企業間のデータ連携を促進する取り組みを始めています。
このようにして集まったデータを一箇所に集約し、プラットフォーム上で誰もが使いやすく、加工しやすい状態にしていきたいと考えています。
関口 僕は、デマンドチェーンマネジメントを日本で普及させたいと真剣に考えています。重要なのは、デマンドを基軸として、モノづくりからモノの提供までを一貫してカスタマーエクスペリエンスの観点から捉えることです。理想を言えば、企業の垣根を超えてでもそれを実現するべきだと思います。
日本では生産性の話になると、効率化に目が向きがちです。付加価値を分子、投下する費用や労力を分母とすると、分母を減らすことばかりに注力していますが、分子が増えていないのが現状です。人口減少に伴うマーケットの縮小は企業のマーケティングにも大きな影響を与えるでしょう。この状況を打開するには、一人当たりの消費を増やすしかありません。
そのためには、分子を増やす活動に注力する必要があるでしょう。効率化のためだけではなく、良いサービスや商品を提供するためにデータや生成AIを使う世界にしていきたいと思います。
萩原さん、本日はありがとうございました。
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