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NRF2025レポート:海外小売業におけるAI・データ活用の最前線

公開日
2025.01.28
更新日
2025.01.28
海外小売業におけるAI・データ活用の最前線:NRF2025レポート

世界最大級の小売業界向けイベント「NRF 2025」が、2025年1月12日~14日にニューヨークで開催されました。AIやデータ活用など、リテールテクノロジーの革新が加速するなか、これからの小売業を探るため、世界中の企業が集まるイベントとなっています。出展数は1000社以上、参加者数は4万人にものぼりました。

NRF 2025のテーマは「GAME CHANGER」。本記事では、小売業におけるデータ活用を支援してきた経験をもとに、日本の小売業界の皆様にぜひ知っていただきたい、海外の最新事例や注目すべきトレンドをご紹介します。

本記事の執筆者
  • 福西 律子
    RITSUKO FUKUNISHI
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    アナリティクスコンサルティングユニット
    ブレインパッドにコンサルタントとして入社後、データから示唆を導き出す強みを活かし、マーケティング戦略策定支援に従事。その後、新規事業の立ち上げや、機械学習・最適化技術を活用したAI導入など、多様なプロジェクトを手掛ける。現在は、小売業界におけるデータ活用支援と成果創出に注力している。
NRF2025会場の様子

顧客体験に生成AIが変革をもたらす

NRF2024では、GUCCIが電話接客サービスへ生成AIを導入し、一夜にして売上を30%上げたとして注目が集まりました。今年は、企業が提供する顧客体験においてどのような進化があったのでしょうか?

Eコマースでは、検索を軸に再構築が進む

NVIDIA副社長であるAzita氏が「Eコマースは、生成AIによって再構築された」と説明した通り、NRF2025ではオンラインショッピングにおける生成AIの活用例が、多くのセッションやブースに登場しました。

生成AIが商品データの拡充や検索に秘められた意図の推論を行うことで、ECサイトやモバイルアプリ上で、より個人に沿った体験の提供が可能になってきています。顧客が本当に探しているものを見つけられるように、検索機能を通して支援できるようになったのです。

NRF2025 NVIDIAの副社長 Azita氏
NVIDIA副社長 Azita氏

米国を代表する小売企業であるWalmartは、変化する市場や顧客の変化に柔軟に対応できる「アダプティブ・リテール(adaptive retail)」戦略を重視しており、2024年6月に、顧客と自然な会話が実現できるショッピングアシスタントの導入を進めていると発表しています。

ブレインパッドでも、2024年12月に、生成AIと業界最高峰のレコメンド技術を融合し、ユーザーの商品検索・パーソナライズを実現する機能をリリースしています。今後も、生成AIを活用したEコマースの進化には目が離せません。

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店舗での購買体験と、従業員のエンパワーメントに活用

変革が進んでいるのは、Eコマースだけではありません。生成AIを店舗で活用している事例も多く紹介されました。

大手ホームセンターであるLowe’sでは、店舗スタッフの配置や接客に活用し、EX/CX両面へのアプローチを実践しています。

例えば、電気製品エリアで、ある顧客がどの製品を選べばよいのかを決めかねているとしましょう。AIはそれを検知し、店員に通知を送ります。通知を受け取った店員は、顧客に近づいて話しかけます。もし、顧客から質問があれば、店員は生成AIを通じて即座に回答を生成し、顧客に伝えることができるというのです。

顧客にとっては、製品を見ながら「ここにすぐに店員がいて質問できたらいいのに」と思ったときに必要な接客が受けられることになります。また、店員も、たとえ専門知識を持っていなかったとしても、「他の店員を探します」という代わりに、すぐに自信をもって必要な情報を提供することができます。

店舗面積が広いほど、従業員の割り当ては難しい問題になります。また、扱うSKU数・カテゴリ数が多くなるほど、従業員のトレーニングにも苦労するでしょう。そのため、今回ご紹介した事例は、そのようなビジネス的な特徴を持っているホームセンターのLowe’sに沿った活用方法と言えます。

Lowe’sの実際の店舗
Lowe’sの実際の店舗

生成AIの活用は、実験的なフェーズを終え、ビジネスの本流に踏み込んだ形で進んでいると感じました。多くの企業が、自社の分野に合わせた商品カタログや、関連情報などと組み合わせて、ユニークな活用に挑戦しています。

状況を理解して自律的に考え、行動するAIである「AIエージェント」の構築にチャレンジしていく、必要なデータの品質を確保しながら試行錯誤を行っていく、と宣言している会社も少なくなく、生成AIの活用の幅は一層広がっていくものと思われます。

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ブレインパッド、自律型AIエージェントサービス第一弾として、アノテーションエージェントサービスを提供開始 – ブレインパッド


サプライチェーンに起こるパラダイムシフト

AIによって大きな恩恵を受けることができるとも言われるサプライチェーンにおいて、小売業のリーダーたちは、どのようにして顧客体験や売上を損なわない在庫管理を行っているのでしょうか。

デジタルツインで棚割を最適化

Lowe’sが紹介したのは、現実と見紛うほどのデジタルツインです。物の重さや体積を理解し、その環境に基づき自律的に判断・行動できるPhysical AI(物理AI)が注目されています。Lowe’sが導入した店舗のデジタルツインは、棚割を考える際に売れ行きの悪い商品を取り除き、売れ筋を増やすなど異なるレイアウトを視覚的にシミュレーションを実施し、売場を最適化する際に活用されています。

お客様に支持される売場を実現するには、棚編成/棚割の見直しが重要となります。しかし、実際のところ、明確な基準なしに、個人の勘・経験に基づいて運用されている企業がほとんどではないでしょうか。

店舗のデジタルツイン
店舗のデジタルツイン

【参考】
小売業向け ソリューション|株式会社ブレインパッド(BrainPad Inc.)

Walmartが配送最適化B2B事業を開始

Walmartは、他の小売企業向けのサービスの第二弾として、2024年に「Route Optimization(配送ルート最適化サービス)」を新たに開始しました。過去には、店舗従業員用の「Store Assist(店舗支援サービス)」を開始していますが、昨年発表されたのはサプライチェーンに着目したサービスでした。AIや機械学習を使って、配送ルートや、トラックの積載を最適化し、サプライチェーンにおける業務の効率化や、CO2削減に貢献するといいます。

この動きによって、米国では、さらにAIによる配送最適化が広く浸透していくものと思われますが、日本でも、燃料高と人手不足の問題が深刻であり、米国でのユースケースも踏まえながら、早急に対応していく必要があります。

Walmart Commerce Technologiesのブース展示
Walmart Commerce Technologiesのブース展示

【関連記事】
配送ルート最適化プロジェクトの現場実装 | DOORS DX


急拡大するリテールメディアの最前線

小売業界の新たなビジネスとして、ファーストパーティデータを活用したリテールメディアにも、注目が集まっています。電通グループによると、リテールメディアは2025年までに米国の広告支出の22%を占めると予測されています

※引用:電通グループ、「世界の広告費成長率予測(2024~2027)」を発表

広告が顧客の体験を向上させる

大手GMS(総合スーパー)であるTargetのリテールメディアネットワーク パートナー、Roundel Partner Solutions Groupによれば、オンサイトメディアに、3つのオフサイトメディアを組み合わせたブランドは、ROAS(広告費用対効果)が過去数年間で基準値の2.4~2.5倍にまで増加したといいます。

RoundelのシニアディレクターMonique氏は、「広告は、時として顧客体験と相反するように感じられることがあるが、顧客の購買体験を豊かにする役割を担うものとして設計している。私たちは、顧客中心に考え、彼らの顧客体験を向上させることが、最終的にリテールメディアの成果に繋がると信じている」と強調しました。

実際にTargetの店舗を訪れると、商品バーコードをスキャンすると、サイズ別の在庫を確認できるなど、消費者にとっては便利な機能を持った端末がいくつか設置してあります。商品の広告は、この端末に表示されるようになっており、Targetの工夫を伺うことができます。

Targetの実際の店舗
Targetの実際の店舗

【参考】
OMO成功にはデータ活用の環境整備が必須。よくある課題と解決法を紹介 | Rtoaster

顧客体験を深く理解すれば、売上は自然とついてくる

大手百貨店のNordstrom副社長Aaron氏が語ったのは、「顧客が、自社をどう見ているか」をオンライン・オフラインの境目なく考えることの重要性です。顧客はオンラインストアも、店舗も、同じ会社として捉えています。シームレスに、一貫性のある体験を提供することが、顧客体験とともにブランド価値の向上につながるといいます。

百貨店では靴下のような低価格の商品から、バッグのような高額商品まで取り扱っており、購入に至るまでの期間が全く異なります。そのため、リテールメディアの効果検証は、一律のアプローチでは通用しないという難しさがあります。

Aaron氏は、商品によっては、インプレッションなどの先行指標に注力することで、顧客を惹きつけ、よりよい顧客体験を促進することができるとしたうえで、「最終的にその先行指標が、コンバージョンや長期的な成果に繋がる」と強調しました。

NRF2025 Nordstrom副社長Aaron氏
Nordstrom副社長Aaron氏

【関連記事】
属性・行動データだけで真の顧客理解はできるのか?「顧客データ×商品データ」で生まれる新たな価値 | DOORS DX

台頭する電子棚札(ESL)

価格などをデジタルで表示する電子棚札は、業務の効率化やCO2の削減につながるものとして、注目を浴びています。26年までに2300店舗へ導入することを発表しているWalmartによれば、これまで毎週2日かかっていた棚札の更新が、電子棚札を導入すれば、約2分間で完了するといいます。

NRF2025 Walmartへの電子棚札導入を進めるVusion Group
Walmartへの電子棚札導入を進めるVusion Group

NRF2025に登場した電子棚札のブースは、どこも活況でした。電子棚札で期待できるのは業務効率化のみではありません。デジタルサイネージとして、メディアの役割を果たすこともできます。このようなテクノロジーの発展も後押しとなり、米国では予測を超えてリテールメディアが大きなビジネスになっていく可能性があります。

ブースに展示されていた電子棚札
ブースに展示されていた電子棚札

NRF2025から何から学ぶべきか?

今年のNRFも、AIやデータ活用のセッションやブースが非常に活況でした。特に印象的だったのは、小売業の経営層たちがテクノロジーの取り組みに関して、深いレベルで議論を行っていた点です。Walmartをはじめとする小売企業は、AIの活用で、ビジネス課題を解決しようと経営レベルで試行錯誤を続けており、大きな成果を得ています。

では、商慣習や市場規模、データの品質など、米国とは環境が異なる日本では、何をエッセンスとして取り込み、どのように実践していくべきでしょうか?

2/4には、NRFに参加したブレインパッド社員によるウェビナーを開催予定。本記事ではご紹介できなかったトレンドも含め、小売業のデータ活用を支援する立場から、NRF2025を紐解いていきます。

NRF 2025で実施されたWalmartとNVIDIAの注目セッションから
生成AIの活用、EX/CX強化、リテールメディア、店舗運営の改革、
サプライチェーンマネジメントをテーマとした最新の取り組みまでをまとめてご紹介します。


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2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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