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業界最先端のHIMSS25視察から読み解く、ヘルスケア業界でのAI/データ活用の進化と潮流

公開日
2025.03.10
更新日
2025.03.10
HIMSS25 DOORSメディア

世界最大規模(※)のヘルスケア業界向けイベント「HIMSS25」が、2025年3月3日~6日にラスベガスで開催されました。DX革新が加速するヘルスケア業界の中心となる、世界中の先進企業が集まるイベントとなっています。

HIMSS25のテーマは「CREATING TOMORROW’S HEALTH」。本記事では、日本のヘルスケア業界の皆様にぜひ知っていただきたい、HIMSS25の視察から得られた海外の最新事例や注目すべきトレンドをご紹介します。

※HIMSS24:971社の出展、26,800人の参加(https://www.himssconference.com/audience-snapshot/

 

オープニングキーノート:ヘルスケアの未来を作るテクノロジーと人間の融合

3月4日朝8時30分、少し早い時間の開催にも関わらず、会場はオープニングキーノートへの参加者で埋めつくされていました。
時間とともに音楽が鳴り響く暗闇の中、ネオンをまとったダンサーのパフォーマンスが始まり、ラスベガスだからこその熱気を感じることができました。

ショーが終わるとHIMSS CEOのHal Wolf氏が登場し、HIMSS開催の宣言が行われ、オープニングキーノートのテーマであるヘルスケアの未来を創るテクノロジーと人間の融合について話し合いが始まりました。

必ず覚えて欲しい方程式「NT+OO=COO」

同セッションの前半でWolf氏は、本年の特徴としてほぼ全ての展示においてAIに触れられていることをあげ、改めてAIの重要性が見えてきたことを伝えました。

AI活用においては人・プロセス・テクノロジーの3つの要素なしには存在しえないことを説明し、特に参加者に必ず覚えて欲しい方程式として「NT(New Technology)+OO(Old Organization)=COO(Costly Old Organization):新しい技術+古い組織=コストのかかる組織」を紹介しました。

同方程式に対し、会場から笑いとともに深い頷きが見られ、参加者の多くが同意している様子が見受けられました。

近年はGenAI/LLM等の最新技術が注目を浴びており、日本の様々な業界で導入事例を耳にする機会が増えてきました。一方で、受け入れ先の組織におけるオペレーションの変化はなく、結果として多額なコストに見合う成果が得られなかったという話も同時に耳にするケースも多くあります。同方程式は国・業界問わず当てはまる非常に重要な学びであると感じました。

サムスンメディカルセンターの「リスペクテッド・ゲスト」を目指したテクノロジー融合

同セッション後半ではサムスンメディカルセンター(以降SMC)から取り組みの紹介が行われました。

SMCでは「リスペクテッド・ゲスト(患者を単なる医療の受け手ではなく、一人の顧客として考える)」をキーワードに、長い期間をかけてテクノロジーとの人間の融合を進めています。

SMCの改革は1990年代の病院業務の管理を可能にするためのITインフラ開発から始まりました。
その後、EMRシステムの統合やDARWIN(Data Analytics and Research Window for Integrated kNowledge)等の次世代システムの開発に取り組み、デジタル活用による医療課題解決の先駆けとなりました。
近年はLLMの技術を活用したソーシャルロボットの開発にも力を入れており、患者体験のさらなる向上を目指しています。

SMCのCMIOを務めるMeong Hi Son氏は“ノヴァ”、“ムーニー”と名付けられた2台の「ソーシャルロボット」を紹介し、これらのロボットは子供たちの感情を読み取り、精神面のサポートや教育的な支援を行うことができると説明しました。

取り組みの総括として、SMC代表のSeung Woo Park氏は世界中のアイディア・イノベーションを学び・コラボレーションすることの重要性を挙げ、CMIOのMeong Hi Son氏は新しい技術を通じてどのような患者体験を創造したいかを考えることの重要性を挙げるとともに、AIが患者のエージェント的な存在となる未来を描いていると伝えました。


HIMSS25展示速報:ヘルスケア業界のデータ/AI活用 最前線

ここからは、700社を超える出展社の中でも、データ/AI活用を実際の医療現場に導入した事例に注目してご紹介します。

これまでにない速度で進化する医療現場でのAI活用

業務効率化:院内外で医療従事者業務負担軽減

日本と同様、米国でも、書類作成や事務作業などの医療従事者の管理業務の負担とそれに伴う患者対応時間の不足が課題に挙げられます。そうした医療従事者の業務デジタルやデータを用いて効率化するサービスが複数出展していました。

例えば、患者との接点においては、患者の同意書や請求書、フォーム入力、送付文書をデジタルにより統合し、患者ごとに文書の履歴を管理可能なサービスや、AI Medical Scribeといった、患者と医師の会話を文字に起こし、電子カルテに合わせて構造化して記載するサービスです。

専門用語や規制が多い業界に特化したこれらのサービスは、約1年前のDigital Health Feastival@オーストラリアでの展示会では先進的なサービスであったにもかかわらず、この1年で数多くの企業がサービスイン・実際の現場への活用・普及が進んでおり、ニーズの高さと業界での動きの速さを特に感じました。

また、病院内業務の効率化の観点として、看護師のシフトを、個人の勤怠などの履歴などから自動でスケジューリングするサービスや、医療従事者向けの教育動画コンテンツを簡単に生成・受講管理できるサービスがありました。

医療従事者の負担を軽減するための業務効率化サービスは、今後も数多く展開されることが想定されます。

医療高度化:AI/LLMを活用した医師の臨床意思決定支援 等

医療技術の発展に比例し、医師に求められる知識は年々増加しています。また日々変化するガイドラインや規制情報を常に取得しながら、医師がそれらの全てを記憶・活用しきることは非常に難易度が高いものとなります。

この課題に対し、AI/LLMの技術を活用し臨床意思決定支援(CDS)サービスが複数出展していました。例えば、医師が臨床上での困りごとを入力すると論文・ガイドライン等の情報から医師が求める情報を検索・要約し、回答してくれるサービスや、実際の問診のように症状の発生している部位・内容を選択することで疑わしい疾患とその内容・一般的な治療法まで教えてくれるサービス等です。

また、一部のサービスは医師だけではなく患者向けにもサービス展開を行っており、患者の疑問・不安解消や適切な治療を受けるための病院・診療科選択にも繋がる内容となっていました。

こうした課題は全世界共通である一方で、適切な治療は他国と異なる可能性もあるため、自国の状況に応じた独自サービスでしか、課題解決に繋げられないと考えます。

また、その他に新たなデバイスの登場により、医療が高度化していく可能性も感じました。

展示会には病院内での位置情報・動き・衝撃を検知するデバイス、歩行レベルを数値化するデバイス、睡眠時の姿勢を感知するデバイス等、様々なデバイスが出展されていました。これらの多くがつけていることを忘れる程、小さく・軽いものとなっており、技術の発展を感じました。

一方でこれらのデバイスの多くは蓄積されたデータの分析までは行えておらず、活用のレベルは各現場に委ねられます。これらの分析・活用支援までを行うことで、こうしたデバイスの真の価値が発揮されるのではと感じました。

患者エンゲージメント向上:AIエージェントの活用

生活においてシームレスなデジタル体験に慣れている今日の個々人は、医療のやり取りでも同等の利便性とアクセシビリティを期待しています。受診・通院という、ただでさえ足が重くなる事象に対し、優れた患者エクスペリエンスが、受診継続・離脱防止には効果的であり、結果的に患者自身の健康増進に寄与できると考えられます。

こうした患者エクスペリエンス向上に向けて、各業界で関心が高まっているAIエージェントが患者エンゲージメント向上に多く活用されていました。

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展示会には、患者の状況を踏まえ病院の案内から診察予約をAIエージェントが実行するソリューションが多数ありました。AIエージェントに、病院を予約したい旨や診察したい人の状況を発話形式で伝えると、駐車場の有無といった病院情報を返してくれたり、「スペイン語が話せる医師を紹介して」と言うと、該当の医師を紹介してくれたりと、病院の情報を適切に参照して返答します。また、実際に診察を依頼したい医師が決定したら診察の予約実行までを対話形式で実施していました。

患者体験の向上におけるAIエージェントの活用においては、”humanity(人間味)”が重要とされます。該当サービスでの、タイムラグのない対話は、患者にとって煩雑な体験の大きく改善が期待できました。また、AIエージェントの具体的なヘルスケア業界におけるユースケースとして非常に有用であると感じました。

”humanity(人間味)”を実現するために、COGNIGYは、傾聴・理解/判断・実行・応答の要素を上げており、それらを加味したAIエージェントと10億回を超えるトレーニングが必要と言及していました。これはグローバル企業標準だけでなく、日本語独自のニュアンスでの学習も含めた、日本のヘルスケア業界内での推進が求められると思います。

AIを最大限に活かす医療データ環境

米国での電子カルテ(EHR)普及率の高さに関連した、「統合プラットフォーム」のソリューションが複数出展していました。

米国の病院においては、EHRが2021年時点で約96%※1普及し、米国政府は、こうした医療データ共有を促進する政策を進めています。主要EHRベンダー各社もオープンAPI対応やクラウド移行などデータの円滑なやり取りを可能にする機能拡充を図っています。

※1 National Trends in Hospital and Physician Adoption of Electronic Health Records

なかでも、EHRの高いシェアを活かし、患者の支払い情報や保険情報、介護データ等、様々なデータを用いた「統合プラットフォーム」までサービスを拡大する事業者が存在し、そのプラットフォームを通じて患者にシームレスなデータ連携を行えるサービス(アプリ提供や医療費支払い助言)を提供していました。

また、数々のAI系サービスが立ち上がる中、複数のアプリケーションを一つのプラットフォームにまとめて使いやすくするソリューションも存在しました。Web通信を介して患者の医療情報を迅速かつ効果的に共有するための国際標準規格(HL7🄬FHIR🄬)に則ったアプリケーションで実現します。

前述の通り、AI Medical Scribeや臨床意思決定支援ツール等、複数のデータを用いたAIサービス、患者向け・医師向けアプリケーションは、今後も立ち上がり、データ活用は更に進むと思われます。それら数々のツールをつなぎ合わせ、効果を最大化させるための統合プラットフォームは、より需要が高まると想定されます。

データ/AIと共存する医療現場に求められるセキュリティ

本展示会では、データやAI活用の拡大と同時に、サイバーセキュリティの重要性も改めて実感しました。

2024年米国では、ランサムウェア攻撃によって過去最大規模となる1億件以上の医療データ漏洩※2が発生しました。また、日本国内でもランサムウェア攻撃を受けた医療センターの患者個人情報が最大4万件流出※3しており、各国でデータ活用や基盤構築が進んだからこそ、セキュリティ対策に対する重要性が叫ばれています。

※2:Change Healthcare「Change Healthcare Cyberattack Support」https://www.unitedhealthgroup.com/ns/health-data-breach.html 、U.S. Department of Health and Human Services Office for Civil Rights「Cases Currently Under Investigation」https://ocrportal.hhs.gov/ocr/breach/breach_report.jsf

※3:地方独立行政法人岡山県精神科医療センター「患者情報等の流出について」https://www.popmc.jp/home/consultation/er9dkox7/zx2nd5xq/

展示会場には、サイバーセキュリティ専用の区画が設けられ、約60社が出展していました。日本から参加した企業(LogicVein, inc. ※4)からは、日本国内におけるセキュリティに関する感度の高まりも伺うことができました。

※4:LogicVein http://www.logicvein.com/

印象的だったのは、攻撃者側もAI技術を活用し、速度や手法を飛躍的に進化させているという事実です。例えば、かつてはマルウェアの攻撃に約1か月かかっていたものが、現在ではわずか10数分で実行可能であるようです。それに伴い、セキュリティ側も次々と新たなサイバー攻撃対策のセキュリティを開発する必要があり、常にタイムリーな対応が求められているとのことでした。

機微情報を取り扱いながらも上述したデータ/AI活用が激化するヘルスケア業界において、サイバー攻撃の変化をいち早く捉え、即座にセキュリティ対策を整えることが重要です。この重要性はHIMSS25に強く反映されており、セキュリティ対策の取り組みで出展する数多くの企業も、効果的な手段を模索し、日々試行錯誤している旨を強く言及していました。


HIMSS25から感じた潮流:業務効率化を超えて患者体験の進化や医療の高度化へ

本展示会で強く実感したのは、ヘルスケア業界におけるAI/データ活用が加速度的に進化しており、その目的が変化していくことでした。中でも患者向けには、負の解消のためのデジタル化・AI活用から、体験やエンゲージメント向上を目指したデジタルやAIエージェントの活用へと大きく移行しつつある点が伺えました。

AI/データの活用先はバックエンドからフロントエンドへ

医療AI分野においてはこれまで、蓄積したデータの可視化や経営分析といったバックヤード業務の効率化が主流でした。しかしながら今回の展示会には、AI Medical Scribeと呼ばれる患者との対話を記録・構造化・電子カルテ連携を一気通貫で行うサービスや、病院内コールセンター業務の自動応答といった、医療従事者の実務を直接支援するサービスが数多く登場しました。

更に患者向けのAIエージェントや、医師の診断をサポートし、入院・退院後も含めた治療計画を作成支援するAI、医療論文や米国のガイドラインを参照し、医師向け・患者向けの双方に情報提供を行なえるAIサービス等、徐々にバックエンドからフロントエンドに活用先が移っていることを強く感じました。

患者体験のデジタル化は負の解消から正の創出へ。AIエージェントによる患者エンゲージメント向上

一方で最も驚いたのが、患者エンゲージメントや治療体験の質的向上を直接的な目的として掲げる、新たなAIサービスの拡大です。

これまでは「負の解消のためのデジタル化・AI活用」が主であり、断絶された顧客体験をシームレスにするためのオンライン診療や顧客向けアプリなどが展示会の多くを占めていました。しかし、「正の創出」となる患者エンゲージメントの向上を数多くの企業が目的としており、その中心をAIエージェントが担っているように感じました。

まるで人と話しているかと錯覚させられるようなAIエージェントが、通院の不安を解消する・離脱を防止するためのケアを自立型で出来るデモを拝見し、患者が少しでも前向きに医療と向き合うためのデジタル活用に、焦点が大きく変化しつつあることを強く実感させられる展示会となりました。

HIMSS25の詳細やAI/データ活用の最新情報を更に知りたい方へ

今後ブレインパッドでは、HIMSS25での視察結果をさらに詳細化し、ヘルスケア業界でのAI/データ活用の最前線を、3月にホワイトペーパーとして発出、更に4月にセミナーを実施予定です。

世界最先端のAI/データ活用の動向を知ることで、日本においてどの部分から検討・導入を進めるべきかや、活用にあたって組織・規制・人材・文化をどうしていくべきかを、業界関係者の皆様と議論していきたいと考えています。

詳細が決まり次第、改めてご案内させて頂きますのでお待ち頂けますと幸いです。


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