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企業DX推進に必要な4つの基盤と橋渡し役の存在

公開日
2020.12.22
更新日
2024.02.10
本記事の執筆者
  • コンサルタント
    藤掛 真太郎
    SHINTARO FUJIKAKE
    会社
    株式会社ブレインパッド
    役職
    執行役員コンシューマーインダストリー担当
    PaaS企業で事業を統括するゼネラルマネジャーとして従事後、2011年よりブレインパッドに参画。組織運営、マーケティング戦略実行、マーケティングアナリティクス、サービス企画、ITインフラ、ITネットワークなどのさまざまなプロジェクトを経て、現在はデジタルマーケティングを中心としたデータ分析支援、コンサルティングを業種問わず提供。2023年7月より現職。

現場で感じるデータ活用を進める難しさ

筆者は、長らくデータサイエンティスト/コンサルタントとして国内大手ネット企業の支援を行い、さらにネット企業の取引先企業に対しても、デジタルマーケティングを中心としたデータ活用支援を行ってきました。
多くの企業のマーケティング戦略や施策実行に関わる中で、データ活用に対する考え方に格差を感じることがあります。

これまでデータ分析・活用に積極的に取り組んできた企業は、

・何を分析によって明らかにしたいか
・データを利用し、どの業務を改善したいか

が具体的です。

このような企業は、課題解決領域や導入箇所が明確であるため、検討する事項も具体的になります。例えば、ある課題に対して、どういったデータを使うべきか、採用するテクノロジーやアルゴリズムは何が良いかといった具体的な内容の議論が中心になります。課題解決に費やす時間が短く、業務改善の見通しが立ちやすいことが特徴です。

またこのような企業は、抽象的課題に対しても、データを活用していこうとする意志が強いのが特徴です。
一方、「データの重要性は認識しているが、行動に至っていない」「どこから手を付けて良いかわからない」という企業は、データ活用が目の前にある業務と異なる新たな業務だと捉えているように感じます。

以前は、社内のIT担当者やマーケティング担当者が取り組んでもそれなりの成果は得られました。しかし今は、データ活用に関するテクノロジーが進化し、ある一定量の専門知識が必要になってきています。

個人情報保護法などに代表されるように、データ利用に対する法的解釈の難しさもあります。

データ活用を進めるには、技術、法律、社会情勢、業務を理解したうえで導入することが求められます。ビジネス環境からの要請がこれからデータ活用を進める立場にある方の行動を難しくし、「何から手をつけて良いか分からない状況」が加速しているように感じます。

このような中、これからデータ活用を推進する立場にある方が寄り添える考え方として、「4つの基盤」をご紹介します。

また、DXを推進しているがうまく機能していないという方も、「4つの基盤」の考え方から現状確認することをおすすめします。


DXプロジェクトの成功のコツは、データ把握から始めること

DX4つの基盤(マーケティング)
マーケティングにおけるデータ活用イメージ

始めに手をつける一つ目の基盤は、データ基盤になります。自社データがどのように収集・管理されているか「データ把握」に注力してください。複数の部署がそれぞれにデータを収集・管理し、さらに定義が揃っていない、情報連携が取れていないという状況であれば、管理できている範囲を把握し、どの範囲を管理し続けるかを明確することが始めのゴールです。
業務オペレーション単位でデータの入手・保管・破棄について調査し、不明瞭な状況を正していく行動イメージになります。

この活動によってデータ管理ステータスの曖昧さが明確化し、管理できている範囲が明確化されます。
データ把握の次に着手する事項は、データ維持に関する取り決めをすることです。DX推進の先にある目指す世界は、データに基づいた企業の意思決定であるべきだからです。
データ管理が脆く、不純物が容易に混ざる状況やデータの更新が止まるような状況は、データに基づいた企業の意思決定の脆さに繋がります。データの品質が担保され維持されることは必要条件になります。

このように、管理できる範囲と維持できる範囲を決め、その中でデータ活用できることを考えていきます。整理した結果、改善すべき業務課題がなければ、別セクションのデータ把握と管理に移行します。

データ基盤の成功のコツは、全データの品質を一気に高めようとしないことです。同時に全てのデータ品質が高まれば良いのですが、途方もない作業となり、結果としてなかなか上手くいきません。

できるところからデータ基盤を構築し、徐々に領域を広げていくことを目指すのが重要です。


データ基盤ローンチ後は、「予測」「意思決定支援」「評価/解明」基盤を意識して進める。

データ基盤のローンチ後は、いよいよビジネスインパクトを生み出す発展系の基盤に着手していきます。

発展系の基盤は、

・予測
・意思決定支援
・評価/解明

の3つになります。

「予測基盤」は、いわゆるディープラーニングや機械学習が担う工学的な領域です。

データ基盤にあるデータの量と質が充実すればするほど、原理的には精度が高まります。予測基盤が導入できる業務領域は、何らかの市場情報や足元データ、環境などから得られる情報をもとに状況判断し、AかBかCかを意思決定しているものです。これらは、データが揃えば予測可能になります。意志決定プロセスで設定していたルール、重視していた過去の経験、判断材料といった経験知を予測モデル構築時に組み入れます。予測が出来れば最適解を算出することも可能になります。

多くの情報から人が意思決定している部分の置き換えを目指す基盤であり、未来にどの程度の量が売れるのかといった課題を、ユーザ属性や購買履歴や社会情勢などを組み入れ、商品別購買数などを予測することが一例として挙げられます。

予測精度が高まれば人の代わりを担うことができ、業務効率が高まり、人の意志決定をサポートし、時間短縮に貢献することができます。

また、予測基盤は、「データ変化」にも着目してください。例えば、マーケティングのように外部要因の変化が激しい領域の利用は、変化に注意しながら使うことが重要です。変化に気がつかずそのまま使い続けることは大変危険です。予測とセットで、監視も検討する必要があります。予測基盤は、まさにデータサイエンススキルが生きる領域と言えます。

「意思決定支援基盤」はIA(知能拡張:Intelligence Amplifier)の領域です。

データサイエンスの技術を使い「何をすれば潜在需要を掘り起こすことができるのか」「どんな企画や商品を打ち出せば消費者のマインドに響くのか」といったことを探っていく理学的なビジョンを持った基盤です。先進的な企業の多くは、こちらに関心が向きつつあると感じています。このような課題は、データサイエンススキルだけでは太刀打ちできず、ビジネス事業部門とチームを組んで実施していきます。チーム構成も多様になるため、チームビルディングを意識して活動していく領域です。

「評価/解明基盤」は、予測基盤・意思決定支援基盤に基づいて実施された施策を素早く正確に検証・評価する基盤です。

この基盤が目指すビジョンは、結果の可視化を行うことです。いわばDXにおけるPDCAのCheckにあたる部分になり、OODAでは、Observeに該当します。

一見すると単純と思われる評価/解明基盤を適切に作るということが、実は最も難しいのです。

その理由は、「何に対して評価するものか?」「どのように、何と比較したら良いか?」「いつ、期間、頻度はどのように見るか?」「評価したい対象以外の影響をどのように取り除くか?」「評価結果は今後の意思決定にどのような影響を与えるのか?」「結果は、長期的に使えるものか?」といった現実的な問題が次々と発生するからです。これらの問題を解決し、早く正確に結果を提供する基盤を作ることは、難易度が高いプロジェクトの一つとなります。

これら3つの発展基盤を円滑に進めるコツは、初期の段階から業務知識、ドメイン知識を持っている人材や組織を巻き込むことです。発展系の基盤は、生産原理に基づいて工程が進むほど付加価値が高まります。

しかし、初期の方向が誤っていると、高めた付加価値は無駄になるため、失敗の危険性が高くなります。

発展系の基盤の作成は、システム開発とも少し異なるため、分析アプローチを理解しているデータサイエンティストとITエンジニアがタッグを組み、そのチームに業務セクションが加わることが理想的です。

ITエンジニア部門とマーケティング部門の橋渡し役が必要

このように、4つの基盤をローンチしていくには、組織の各部署がデータの意味を理解し、課題を共有し、解決していく必要があります。しかし、簡単には進みません。

その理由は、多くの場合データを分析する・企画を立案する・企画を実行する・効果を測定し評価するといった一連の業務が異なる部署が担当しているからです。

・データを分析する……ITエンジニア部門(あるいは外部の専門会社)
・企画を立案する………マーケティング部門
・企画を実行する………営業部門
・判断・評価する………経営部門

組織としては、専門性を高めるために部署ごとに分割することは必然です。しかし組織が行う当然の前提は、統合的な利用を目指すデータ活用の壁になることがあります。部署が異なれば、目指すところも価値観も、背負う責任も異なります。また業務で使用している「言語が違う」と言った問題も発生します。

ITエンジニア部門とマーケティング部門の齟齬は、データ分析が高度になり分業化が進んだことで、双方が分析の結果が何に使われるのか・データ分析で何ができるのかをお互いに共通言語で理解していないことによって生じています。

データサイエンティストやITエンジニアは、数字を扱うことには長けていますが、マーケティングに関しては門外漢であることが多く、指示された通りに分析を終え、レポートを提出すれば自分たちの成すべき仕事は達成したと考えがちです。

そもそもマーケティング部門が「こういうことを調べたいからデータで掘り起こしてほしい」という依頼をデータサイエンティストやITエンジニアに対して明確なディレクションと共に行うことができれば良いのですが、マーケティング部門は必ずしもデータを扱う専門家ではないため、データ分析でそもそも何ができるのか・どのように指示すれば求める分析結果が得られるのかがわからないケースもあります。

現在は、「データサイエンス×マーケティング」の時代移行してきています。マーケティング部門が専門書を片手にエクセルと格闘していた時代から、必要な知識や技術が変化しています。この、知識の掛け算が求める世界は広大です。そのため、マーケティング部門がデータ分析にも精通せよというのは合理的ではなくなっているように思います。分析とビジネスの才は明らかに別物で、マーケティング部門がビジネスの才を伸ばしていく方が合理的なのです。

そこで、データ分析サイドからマーケティングの言葉が理解できる橋渡し役が出て、両部門の言語を「通訳」することでこの問題を解決することが求められています。

この橋渡し役こそが、「アナリティクストランスレーター」です。

将来は、経営にも話ができるアナリティクストランスレーターが必要

データ分析の裏付けをもってしても、マーケティング戦略の意図を主張するだけでは経営陣のコンセンサスは得られないでしょう。先述の通り、マーケティング部門や営業部門と経営では役割や達成すべき目的が違うからです。

アメリカでは、データサイエンティスト出身の幹部がCDO(Chief Digital Officer)、CIO(Chief Information Offcer)、CAO(Chief Analytics Officer)として経営陣に加わるケースがあります。

こうした役職は、日本ではデジタルネイティブ企業以外ではあまり聞かれませんが、データ分析の現場で実績を挙げた人が経営陣に登用される人事構造になっていれば、いずれ双方の言語に精通した“バイリンガル”が登場する可能性はあります。

しかし、今の日本のIT人材状況を俯瞰してみると、とにかく人が足りません。

素養のある人材はデジタルに強い企業に集中しており、将来のCDOやCAO候補になる人材を社内で一から育てるのは難しい現状です。短期でこれを解決するには、デジタルネイティブ企業で経験を積んだ人材の登用を行うか、経験を持った人材の外部支援を受けるといった選択になるのが自然です。デジタルネイティブではない企業にこそ、日本の事業構造や経営スタイルが理解できるアナリティクストランスレーターが必要です。

DX推進を行うとき、「経営×データサイエンス」のチェックを行い、不足している場合にはその補填方法を見つけることが重要です。そうでなければ、現場で実施している内容が経営層に伝わらずに失速してしまいます。

データ分析は、システム開発と異なりR&Dの要素が強いです。これが意味することは、システムのように出来上がったものを後から買うことができないということです。

我慢強く長期的な視点を持って取り組み続けることが求められます。

信頼の置けるデータサイエンティストの確保が急務

データ分析をアウトソーシングする企業が多い実情を鑑みれば、アナリティクストランスレーターは外部の人材が担うケースが多くなると思います。しかし、データ分析がマーケティング戦略に本格導入されてからまだ10年程度しか経っていないことからも、経営サイドに立ったアドバイスができる人材は業界内にもほとんどいないのが実情です。

アナリティクストランスレーターは、その企業独自の文化やビジネスの進め方までをよく理解し、現場とも経営陣とも信頼関係を築いている必要があります。信頼関係は積み重ねのため、外部から招聘してすぐに機能するわけではありません。

データサイエンティストに置き換えて考えると、1年目はデータ収集の基盤を作りながらビジネス知識・ドメイン知識をつけて事業理解を深めていき、2年目になるとドメイン知識をバックボーンにした実践的なデータ活用方法や施策が機能し始めてビジネス側との信頼関係が生まれます。そして、3年目になると、その会社のビジネスに欠かせない存在になっているイメージです。

アナリティクストランスレーターとして経営サイドから信頼が得られるようになるには、さらに数年がかかるでしょう。

データ基盤の整備もさることながら、いかに信頼のおけるデータサイエンティストを確保できるか、さらにはアナリティクストランスレーターとなるべき人材や支援先を見つけられるか。これこそが、今後の企業のDXの成否を分けるカギになってくると思います。

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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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