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「KPI達成に向けた施策の成果を最大化できている」と自信をもって断言できますか?今回は、顧客データを活用し、施策の成果を最大化するためのPDCAの描き直しについて、具体例を交えてご紹介します。
※本記事は、【シリーズ】データの専門家による差別化のためのCRMの見直し方の第3回として、2023年10月24日にオンライン配信された、「<オンラインセミナー>KPI達成に向けた施策改善PDCAの描き直しとは?」の内容を記事用に再編集したものです。
連載記事
第1回 持続的な成長に向けたCRM全体像の描き直しとは?
第2回 KGI達成に向けたKPIマネジメントの描き直しとは?
第3回 KPI達成に向けた施策改善PDCAの描き直しとは?
株式会社ブレインパッドの佐藤 洋行と申します。九州大学大学院修了後、新卒でブレインパッドに入社し、プロジェクトマネージャー、データサイエンティストとして幅広いプロジェクトに携わってきました。2016〜2019年は、多摩大学経営学部経営情報学科准教授を兼任し、様々なデータ活用の現場を経験しております。
本記事は、データの専門家による差別化のためのCRMの見直し方と題したシリーズ企画の第3回目となります。
シリーズ第1回では、「持続的な成長に向けたCRM全体像の描き直しとは?」というテーマでお話ししました。差別化に繋がる再現性あるCRM活動には、顧客ゴトをデータドリブンで捉え、FACTから顧客理解を行う「データ資産化」、FACTに基づき顧客と会話する「データドリブンUX」、FACTから改善箇所を決める「全体診断(LTV&KPI設定)」の3つを整える必要性を述べており、特に「データの資産化」について詳しくお伝えしました。
そして、シリーズ第2回では、「全体診断(LTV&KPI設定)」について詳しくお話ししました。全体診断とは、データに基づく全体の評価方法を定め、俯瞰した視点で改善運用を行うことです。評価方法においては「KPIを定めても、KGIとの紐づきがよくわからない」改善運用においては「KPIを定めても、数字を見ているだけで改善ができていない」というお悩みの解決策として再現性の高いKGI達成を目的とした、KPIマネジメントの描き直し方についてお話ししました。
本シリーズ第3回目となる今回は、「データドリブンUX」のための、FACTに基づく顧客との対話についてお話しします。
本記事をお読みの方の中には「現場で測定される施策の効果はどれも良いのに、KGIの達成に結びついていると思えない」という方も多いのではないでしょうか。この場合、施策のPDCAのFACTの捉え方に問題があるのかもしれません。そこで今回は、FACTの捉え方を見直すきっかけとなるお話ができればと思います。
現場で測定される施策の効果がKGIの達成に結びつかない理由は、KPIとKGIが乖離しているからだと考えられます。では、なぜKPIとKGIが乖離してしまうのでしょうか。
こちらの図のようなPDCAに心当たりがある方は多いかと思います。顧客理解のためにデータを収集・分析し、仮説を設定したうえで、施策のPDCAを回すというごく自然なサイクルです。
このPDCAの中でKPIが乖離していく理由を、動画サブスクリプションサービスの事例を用いてお話しします。
まず、施策PDCA前の顧客分析の段階で、動画サブスクリプションサービスの継続率の高い顧客と低い顧客との違いを分析しました。その結果、「セグメントAはコンテンツaの視聴で満足度が上がり、解約が抑止されそう」という仮説が立てられました。
この仮説に基づき、施策立案&実施計画の段階では、定期メルマガでセグメントAにはコンテンツaをメインで訴求することになりました。仮説に対して非常にシンプルな施策設計です。
そして施策実行の段階で、訴求内容を従来どおりのものと2種類用意し、A/Bテストを実施しました。
今回の施策は、メルマガを送ってコンテンツaページに誘導し、コンテンツaを利用してもらうという構造です。そのため、メルマガからコンテンツaページに遷移するクリックと、コンテンツaを利用するゴールが興味の対象となります。
効果検証では、従来どおりのメルマガとコンテンツa訴求のメルマガで、メルマガからコンテンツaへの遷移率と利用率を比較しました。
その結果、コンテンツa訴求によって、コンテンツaへの遷移率と利用率がいずれも向上していることが明らかになりました。
この結果を踏まえて、2巡目の施策PDCAでは、チャンピオン/ルーザー方式でメルマガの訴求内容を改善し、コンテンツaのさらなる利用率向上を目指しました。
これを何度か繰り返したところ、KPIは改善したものの、解約率はなぜかあまり変わりませんでした。KPIを改善しても、KGIの達成に繋がらなかったのです。
なぜこのような問題が起こったのでしょうか。
今回の施策のPDCAでは、メルマガからコンテンツaへの遷移率と利用率をKPIとして設定していました。しかし実際は、別経路からコンテンツaに遷移して利用することもあり得ます。
そのため、コンテンツaページへの遷移率は、メルマガのクリックだけではなく、別経路からの流入も考慮して測定する必要があるのです。利用率に関しても、別経路も含めたゴールを測定しなければなりません。
そこで改めて、コンテンツaへの遷移率と利用率を測定し直しました。
前述の通りメルマガからの遷移率がコンテンツa訴求は15.5%で、従来の訴求は12.1%だったので、コンテンツa訴求の方が遷移率は向上していましたが、別経路からはコンテンツaへの遷移率は、コンテンツa訴求が16.7%、従来の訴求が20.2%ということがわかりました。従って、従来の訴求の合計(メルマガ:12.1%+別経路:20.2%)は32.4%で、コンテンツa訴求の合計(メルマガ:15.5%+別経路:16.7%)は、32.2%となり、遷移率の合計はほとんど変わっていなかったのです。
コンテンツaの利用率に関しても、従来の合計(メルマガ:5.2%+別経路:10.2%)は15.4%で、コンテンツa訴求の合計(メルマガ:6.1%+別経路:9.1%)は15.2%となり利用率の合計がほとんど変わっていませんでした。
つまり、コンテンツa訴求は、メルマガから遷移率・利用率を向上させただけだったのです。遷移率・利用率の合計がほとんど変わっていないのであれば、KGIである解約率が変わらないのも当然です。
このような問題が起きた原因を、PDCAの視点から見直してみましょう。
今回の施策のPDCAでは、定期メルマガでセグメントAにコンテンツaをメインで訴求することになり、訴求内容を2種類試して、チャンピオン/ルーザー方式で訴求内容の改善を追求していきました。
ここでコンテンツaの利用率が本当に向上していればよかったものの、正しく測定できていなかったため、いくらPDCAを回してもKGIが達成されなかったのです。
この問題の根本的な原因は、施策PDCA前の顧客分析における「セグメントAはコンテンツaの視聴で満足度が上がり、解約が抑止されそう」という仮説を忘れていたことです。チャンピオン/ルーザー方式でメルマガの訴求内容を改善していく中で、顧客目線の仮説がなくなってしまったと考えられます。
本来の施策PDCAは、PDCA前の顧客理解に基づく仮説を検証するものです。しかし、施策PDCAを循環させるうちに「どのような訴求がメルマガからの遷移率と利用率を高めるか」という仮説の検証に変わってしまったと言えるでしょう。
これにより、KPIとKGIが乖離し、KPIを改善してもKGIが改善されなくなってしまったのです。
このように、施策のPDCAを循環させているうちに、前提となった分析のことを忘れてしまうことは、よくあります。
今回の施策で問題となった、メルマガからコンテンツaページに遷移し、コンテンツaを利用するという構造においては、施策担当者の興味目線でKPIが設定されています。
施策担当者はメルマガを改善しているため、メルマガからどのように顧客が動いたのかを知りたくなってしまうのでしょう。
しかし、顧客目線で考えれば、メルマガ以外の別経路からもコンテンツaページに遷移するという当然のことを構造として捉えられたはずです。
したがって、施策担当者の興味目線ではなく、顧客目線からKPIを設定することが大切です。顧客目線でKPIを設定すれば、メルマガからの遷移率と利用率だけに焦点を当てるのは間違っていると明らかになります。
別の事例から、KPIの設定方法についてお話しします。
トップページのメインバナーとして2種類のデザインを用意し、遷移先コンテンツにどのように辿り着いたか、遷移先コンテンツからどれだけコンバージョンしたのかを比較するA/Bテストを実施しました。
施策担当者の目線では、メインバナーから対象コンテンツに遷移するクリックと、対象コンテンツからのゴールが興味の対象となります。
しかし、顧客目線で捉えると、メインバナー以外の別経路から対象コンテンツへ遷移する可能性に気づくはずです。また、対象コンテンツを経由せず、別経路からコンバージョンする場合もあるでしょう。
そのため、メインバナーのクリック率と対象コンテンツからのCVRに加えて、別経路からの遷移率とCVRも測定しなければならないのです。
このように、施策担当者の興味目線と顧客目線の違いを意識したうえで、施策のKPI設定の方法を見直さなければならないのです。
KPIを設定するにあたって、もうひとつの罠があると考えています。
まずは、皆さんに質問です。「GA コンバージョン率 定義」でGoogle検索した際の上位サイトの説明で、正しいものはどれでしょうか。
実は、この3つの説明はすべて間違いです。
まず、①と②を数式で表すと「CVR = CVユーザー数 / サイト訪問者数」となります。
しかし、この数値はGAのデフォルトでは確認できません。GA4でビッククエリのデータを集計すれば算出できますが、デフォルトで確認できるものではないのです。
そして、③を数式で表すと「CVR = CVセッション数 / セッション数」となります。
③では、ユーザーではなくセッションに焦点を当てていますが、この数値もGAのデフォルトでは確認できません。
実は、GAのデフォルトで確認できるコンバージョン率は「CV数 / セッション数」で求められます。
そのため、1セッションで2回コンバージョンしたり、複数のコンバージョンポイントを踏んだりすると、コンバージョン率が理論上100%を超える数値となります。
これを聞いた皆さんは、非常に細かい話に感じられるかと思います。実際に様々な企業をご支援する中で「どう計算しても、同じようなものじゃないの?」とおっしゃる方が必ずいます。また、「1訪問で2回以上コンバージョンするなんて稀でしょ?」「ユーザー数とコンバージョン数やセッション数は比例するんじゃないの?」と言われることも少なくありません。
そこで、ある通販サイトのコンバージョン率とCPAを、3つの定義でそれぞれ計測してみました。
その結果、GAのデフォルトで計算される「CV数 / セッション数」のコンバージョン率は4.1%、CPAは7,000円でした。一方、「CVセッション数 / セッション数」のコンバージョン率は3.1%と、1ポイントも低下していました。そのため、CPAも9,258円に跳ね上がりました。また、「CVユーザー数 / 訪問ユーザー数」のコンバージョン率は4.4%で、変化がさほどありませんでしたが、CPAは1.5倍の10,630円となりました。
このように定義が少し違うだけで、数値は大きく異なります。正解はありませんが、どのように数値を見たいのかに合わせて定義することが大切です。どの数値を見ているのかを理解しないまま何かを決定するのは非常に危ういと言えます。
コンバージョン率以外にも、皆さんが普段見ている数値がどのように定義されているのか、もう一度見直していただきたいと思います。
続いて、サブスクリプションサービスの解約率に関する事例を紹介します。
こちらは、お客様から提示された解約率の推移のグラフです。解約率を抑制する努力をしてきたものの、最近また上昇傾向にあるように見えます。
そこで、解約率の定義についてお聞きしたところ、「当月の解約数 / 当月開始時の契約数」で計算していたことが明らかになりました。例えば、2021年1月の解約率は「2021年1月1日から1月31日までの解約数 / 2021年1月1日の契約数」で計算しているということです。
はたして、この解約率の定義は正しいのでしょうか。
解約率を「当月の解約数 / 当月開始時の契約数」で計算する場合、分母の「当月開始時の契約数」には、当月の新規契約数が含まれません。これに対して、分子の「当月の解約数」には、当月に新規契約して解約した数も含まれます。つまり、解約率が100%を超える可能性があるのです。
また、新規契約数が多いほど、解約率が高くなってしまいます。したがって、新規契約数と解約数を比較する必要があるため、グラフの考察が非常に難しいと言えるでしょう。
そこで、顧客の獲得月別に、現時点で解約している顧客の割合を並べてみたところ、次のようなグラフとなりました。
例えば、2021年2月の時点で、2016年1月に獲得した顧客が解約している割合は70%近くに上ります。逆に、2021年1月に獲得した顧客が解約している割合は0%に近い状態です。先程のグラフとは、大きく印象が異なるのではないでしょうか。
先程のグラフでは、解約に関する何らかのトレンドがあるように見えていましたが、こちらのグラフはほぼ単調増加です。解約率がどこかで大きく上がったり、抑制されたりはしていません。マクロな傾向として、契約からの経過月数ごとに、ほぼ一定の割合で解約が起きているに過ぎないことがわかります。
このように、解約率も定義によって見方が変わってきます。解約率は非常に単純な数値だと思われがちですが、定義をもう一度見直し、よりよい数値の見方がないのか検討することが大切です。
本記事のまとめです。
まず、施策のKPIも顧客目線で設定することが大切です。施策担当者の興味を優先させるのではなく、顧客目線で施策を評価し、全体戦略を正しく機能させましょう。
また、正確に定義されたものの見方をすることも大切です。コンバージョン率や解約率がどのような定義で、どのような見方ができるのか、違う見方をしたときに指標がどう変わるかを考えるようにしましょう。
最後に、施策のPDCAを正しく循環させるために必要な3つの要素についてお話しします。
こちらの図のように、現場で取得されるデータを見て、これまでのビジネス経験を重ね合わせ、顧客のインサイトを得て、インサイトを確認するために施策を実施するケースが多いのではないでしょうか。
しかし、施策のPDCAを正しく循環させるためには、「事実」と「経験」に加えて、学術的な知見(施策を評価するための実験計画)という「知識」が必要です。この3つの要素の組み合わせによって、仮説検証のための施策が顧客目線で正しく行われます。
まず「事実」については、正確に定義されたデータを見る必要があります。また、様々なビジネスでの「経験」によって、顧客に対する見方が培われます。そして、施策を評価するためにどのような実験をすべきかについての「知識」も必要です。
もちろん、現場の皆さんがこの3つの要素を完璧に準備するのは簡単でないと思います。そのため、特に「知識」に関しては、ぜひブレインパッドにご相談いただきたいと思っています。
【シリーズ】データの専門家による差別化のためのCRMの見直し方
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