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アナリティクス本部 アナリティクスサービス部長の紺谷幸弘です。
本記事を読んで頂いている皆さんが自社のDXあるいはデータ活用を推進されるにあたって、社内外のデータサイエンティストとの協働が求められるケースが増えているのではないかと思います。
その中で、データサイエンティストとの良好な関係性を構築したり、データサイエンティストのキャリア形成を支援していく上で、例えば以下のような悩みを抱えるマネージャーもおられるでしょう。
上記の悩みについて考えるにあたり、何を出発点にするのが良いでしょうか?
筆者は、「データサイエンティストの関心・志向をどのようにビジネス価値につなげていくか」、具体的には「データサイエンティストの関心・志向と、ビジネス的に高い価値を持つプロジェクト成果をどのようにリンクさせるか?」を基点の問いとして考えるのが、最も健全であると考えます。
上記の問いを検討する上で、本記事では、
A. プロジェクトの成果物がビジネス的に高い価値を持つための要件
B. データサイエンティストのキャリア構築の方向性
の2つを軸に、「データサイエンティストの関心・志向をどのようにビジネス価値につなげていくか」について私見を述べたいと思います。
なお本記事は、以下の三部構成で掲載致します。
本記事を通じて、少しでもデータサイエンティストのキャリアや育成を検討される際のヒントを提供できれば幸いです。
それではさっそく論を進めたいと思います。
ビジネスにおいて高い価値を生むためには、プロジェクトの成果物が「実効性」と「実行性」の2つの「実コウ性」を備える必要があると筆者は感じています。この2つの実コウ性はそれぞれ以下のように捉えて頂けるとイメージしやすいかも知れません。
すなわち、プロジェクトでは、効果が見込めるだけではなく、実際に実行・利用・運用されることが十分に期待できるような形で成果物を作る必要がある、ということになります。いずれかの実コウ性が欠けるケースについては以下の表にすると分かりやすいかも知れません。
それでは、どうすれば2つの実コウ性を担保できるのでしょうか。分析プロジェクトは大まかに以下の「要件定義」「分析設計」「分析実施」「ビジネス適用」の4ステップで構成されます。
ステップごとに実コウ性を保つためのポイントがあります。それらを表にまとめてみました。
※ なお、実際にプロジェクトを実施する際には、スコープと納期のバランス、リソース調達の可否、各ステークホルダーとのコミュニケーション設計などプロジェクトマネジメントの観点から「プロジェクトそのものが実行可能か」を確認する必要がありますが、本記事の主題から外れるため割愛しています。
本節では、ビジネス価値を考える上で、プロジェクトの成果物が備えるべき2つの実コウ性と、分析プロジェクトの各ステップで2つの実コウ性を担保する上で留意すべきポイントについて概説しました。
次節では、本記事の第2の軸「データサイエンティストのキャリア構築の方向性」について論を進めるために、データサイエンティストのキャリア構築の基点についてお話できればと思います。
一般的なデータサイエンティストのイメージは「実践的な分析技術を保有する人材」、多少具体的にいえば、「分析技術そのものに対する理解と実データを扱う実践的なノウハウを兼ね備えた人材」でしょう。「分析技術」の具体的な内容としては、データサイエンスに関する学問的な知識とコンピュータ等のITを活用して分析を実施するエンジニア的なスキルの両方を指す場合が一般的かと思います。
事業会社であっても、弊社のような分析支援を行う会社であっても、データサイエンティストの採用を検討する際には、「実践的な分析技術を保有していること」あるいは「実践的な分析技術の獲得が十分に期待できること」を一つの基準とされているケースが多いのではないでしょうか。
データサイエンティストに比較的近い役割としてコンサルタントやITエンジニアがありますが、これらの役割の強みとの差として際立つものが「(実践的な)分析技術」であることを考えても、この分析技術の保有あるいは獲得可能性を採用基準とするのは自然であると言えます。
実際、弊社のデータサイエンティスト職、特にジュニアクラスのデータサイエンティスト職に応募いただく方の多くが「実践的な分析技術の習得・獲得」を志望動機の一つとして挙げられますし、弊社の方も「実践的な分析技術の保有」あるいは一定水準の分析技術を習得・獲得頂けそうかを基準の一つとしているのも事実です。
以上の事実から、どうやら「『実践的な分析技術の保有』はデータサイエンティストのキャリア構築の基点になっている」と言って差し支えなさそうです。以降、本記事では、このデータサイエンティストのキャリア構築の基点となる「実践的な分析技術(の保有)」を、キャリア構築の伸展領域と対比して「データサイエンティスト元来の強み」と呼ぶことにします。
それでは、前節のプロジェクトの4ステップにおいて、実践的な分析技術を保有するデータサイエンティストが価値を発揮しやすいステップについて考えてみましょう。
結論から言えば、「2. 分析設計」と「3. 分析実施・検証」の特に「実効性」の部分です(下表の黃の部分)。実ビジネスでのデータ分析経験を積むことで、同ステップの「実行性」の部分においても価値を発揮するようになっていくケースが多いように思います(下表の薄黃の部分)。
薄黃で示した部分(「2. 分析設計」「3. 分析実施・検証」の「実行性」)は、「実践的な分析技術の獲得・向上」を目指すデータサイエンティストの関心と大きく乖離していることも少ないため、キャリア構築の観点においても自然な伸展領域ということができるかと思います。
本節ではデータサイエンティストがキャリア構築の基点、すなわち元来の強みとして「実践的な分析技術」の獲得を目指していることと、その強みが分析プロジェクトにおいてどのように価値発揮するかについてお話しました。
次節では、本記事のもう一つの軸「プロジェクトの成果物がビジネス的に高い価値を持つための要件」に話を戻して、分析プロジェクトの「支点」がどこにあるかということについてお話したいと思います。
ところで、ビジネス上の価値とプロジェクトの各ステップはどのように関連しているのでしょうか。
ここでは、この両者をテコに例えて話を進めましょう。
筆者は、作用点がビジネス価値、力点が成果物、そして支点が、プロジェクトの目的/ゴールと捉えられると考えています。
すなわち、支点(プロジェクトの目的/ゴール)の設定を適切に行えれば、少ない力(利用・運用規模が小さい成果物)であっても、大きな仕事(ビジネス価値)を果たすことができる、というわけです。
逆に言えば、支点の設定を間違えてしまうと、どれだけ大きな力を加えても(利用・運用規模を大きくしても)、仕事量は小さくなってしまうか、ゼロになることもあり得るということです。
このように、ビジネス価値とプロジェクトの目的/ゴール、成果物をテコに例えるとすると、分析プロジェクトの各ステップはそれぞれ以下のように整理できるでしょう。
概念についてご理解いただいたところで、実際に要件定義(=支点の設定)を誤った結果、ビジネス価値につなげるのが困難になってしまう例についてお話します。
広告ビジネスを事業とする企業の方から「ユーザーの属性を知りたい」というニーズがあったとしましょう。
事前の調査の結果、利用可能なデータから年代・性別・居住地域・家族構成などに関して示唆を提供できそうということが分かりました。プロジェクトとしては順調そうです。
分析の結果、「30代女性で子どもが2人いる」といったクラスタがターゲットユーザ内に一定規模存在しそうという結論が得られました。「ユーザーの属性を知りたい」というクライアントのニーズに対しては示唆を提供できたと言えそうです。上記の結果を受け、クライアントは得られた示唆を広告配信に活かそうと準備に取り掛かりました。
ところが配信に向けて準備を進めていく中で、検討している広告商材では時間帯ごとの配信設定が限界で、ユーザー属性に基づく配信、具体的には「30代女性で子どもが2人いる」という結果を直接活用した広告配信が難しいことが分かり、「何とかならないでしょうか…」という相談を再びクライアントから受けることになりました。
これは分析プロジェクトの成果物がビジネス価値につながったとは言い難いケースです。
もちろん、上記の例において、分析結果の「間接的」な利用(30代女性で子どもが二人いるユーザについて、広告配信メディアの利用率が最も高い時間帯に配信する)は可能ですが、それが広告配信効果をもたらすかは不明です。
広告配信(CV促進)を目的にするのであれば、予め配信上の制約を踏まえた上で分析を行う方が合理的であることはお分かり頂けるのではないでしょうか?
要件定義では前述の通り、「ニーズ(成果物によって何を達成したいか)および業務・リソース制約の具体化・明確化」と「ニーズおよび制約を踏まえた成果物の設計」を行いますが、上記の例では、この要件定義の部分に明らかな不足がありました。「成果物をどのように使うか」、また「成果物を実際に使う際にどのような制約があるか」に関する深堀りが全くできていなかったのです。
上記は少し極端な例ですが、程度の問題はあれ、同様の失敗は枚挙に暇がありません。
このように、分析プロジェクトの成果物をビジネス上の価値につなげるにあたり、「要件定義」のステップが「支点」の役割を果たすと言えます。
また、ここでは強く触れませんが、「ビジネス適用」のステップもまた、実際に力点に荷重を掛ける営みであり、実際のビジネス上の価値につなげるための最後のアクションポイントとなり、軽視できません。成果物を実際に利用・運用するには、該当する業務プロセスの担当の方と適切にコミュニケーションや調整を行う必要があります。関連部門が多岐に渡っていたり、規模が大きくなったりすると、この仕事はより重要に、より大変になります。
前節では、データサイエンティストの元来の強みである「実践的な分析技術」の価値発揮領域が「分析設計」や「分析実施・検証」であることをお話しましたが、どうやら「分析設計/分設実施・検証」に強みを持つデータサイエンティストだけでは分析プロジェクトをビジネス価値につなげるのは難しそうです。
果たして、このギャップはどのように埋めればよいのでしょうか?中編に続きます。
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