DOORS DX

ベストなDXへの入り口が
見つかるメディア

【中編】データサイエンティストの強みをどのようにビジネス価値につなげていくか~キーワードは「2つの実コウ性」~

執筆者
公開日
2022.04.27
更新日
2024.02.22

アナリティクス本部 アナリティクスサービス部長の紺谷幸弘です。

DXを推進する上で、ビジネス価値の高いプロジェクト成果物を得るためにデータサイエンティストの協力を仰いだり、データサイエンティストのマネジメントをしている方に向け、データサイエンティストのモチベーションやキャリア構築を考えるヒントの提供を目指した記事の中編となります。

【関連記事】
【社員が解説】データサイエンティストとは?仕事内容やAI・DX時代に必要なスキル

前編では、ビジネス価値につなげるために分析プロジェクトの成果物が備えるべき2つの実コウ性(実効性: 効果が見込めること/実行性: 実際に使われること)と、データサイエンティストのキャリア構築の基点(元来の強み)が「実践的な分析技術」であること、さらに、その強みが分析プロジェクトの中でどのように価値発揮されるかについてお話しました。

あわせて、2つの実コウ性を備えた分析プロジェクトの成果物を作り上げるためには、データサイエンティストの元来の強みだけではカバーしきれないことをお伝えしました。

中編では、このギャップを埋めるためのアプローチを前編と同様に

  1. プロジェクトの成果物がビジネス的に高い価値を持つための要件
  2. データサイエンティストのキャリア構築の方向性

の2軸からお話できればと思います。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 1200_450-1-1024x384.jpg

本記事の執筆者
  • データサイエンティスト
    紺谷 幸弘
    会社
    株式会社ブレインパッド
    役職
    執行役員ソリューションユニット副統括
    大阪大学人間科学研究科 博士前期課程修了。2010年に新卒社員としてブレインパッドに入社。ブレインパッドとヤフー株式会社の合弁会社にて、Yahoo! Japanの大量データを使い広告主を中心に価値を提供。2018年7月以降、部長として150名以上のデータサイエンティストのマネジメントに従事。2023年7月より現職。

A.3. 分析プロジェクトを通じて成果物の実コウ性を担保するには

まずおさらいです。データサイエンティストが持つ元来の強み、具体的には「実践的な分析技術」だけでは実コウ性の担保が難しいステップは何だったでしょうか。それは、要件定義およびビジネス適用でした(下表の黄色以外の部分)。

そうすると「要件定義」と「ビジネス適用」の部分をカバーできればよさそうですが、果たしてそれでビジネス価値につながるようなプロジェクトの成果物が出せるのでしょうか?―実はそうとも限らないのです。

成果物の品質に影響する場面はプロジェクト内に点在する

要件定義のステップで行われることの一つに「プロジェクトの目的/ゴールの理解・設定と実務上の様々な制約の理解(と左記の両者を反映した成果物の設計)」があるというのは前編でお話した通りです。

以降の各ステップの全ての成果物において「プロジェクトの目的/ゴール」と「実務上の様々な制約」の2つの要素を適切に反映していることが、プロジェクトの成果物をビジネス価値につなげる上で極めて重要なのです。

このような「プロジェクトの目的/ゴール」と「実務上の様々な制約」を適切に反映しているかの確認が必要となる、成果物の品質に影響を及ぼすような場面が訪れるのは、各ステップの冒頭だけではありません。大小を問わず分析プロジェクトの中で何度も訪れます。

最も典型的なケースは、分析実施・検証の結果、プロジェクトが要求する品質水準に成果物が達しないと判明するような状況です。モデル作成を伴うプロジェクトならば、モデルの評価指標がビジネス(精度など)および運用上の観点(実行時間など)から要求されるような水準に達していないことがそれに該当します。

このような状況では、成果物作成のアプローチを見直す必要が生じます。

単純な対応策は、分析設計を再度行うことです。モデル作成を伴う場合では、特徴量(モデルへの入力情報)の追加・変更・加工、あるいはアルゴリズムの変更が必要になるでしょう。

分析設計を再度行う際に陥りがちな罠は、未達となっている要求水準(精度など)の達成に躍起になり、「プロジェクトの目的/ゴール」や「実務上の様々な制約」に対する整合性の確認や見直しが疎かになってしまうことです。

モデル作成の例でいえば、どの特徴量(情報)が有効かを判別できるようにすること(モデルの解釈性)が運用の現場から求められているにも関わらず、解釈性に乏しいモデルを選んでしまったり、更新や連携のタイミングなどから運用時には利用できないデータソースを用いてモデルを作成してしまうような状況です。

未達となる要求水準の達成に躍起になってしまうことには、より大きな弊害があります。それは、要求水準そのものや成果物の設計そのものを見直す必要性について検討されなくなってしまうことです。

当該プロジェクトの成果物がどのような目的でどのように使われるかを再検討することで、成果物そのものの形を変えたり、要求水準を緩和できる可能性があります。むしろ、要求水準を満たすことにこだわるより、プロジェクトの目的を考慮した成果物の再設計や要求水準の緩和の方が、プロジェクト成果物のビジネス価値が高まることさえあります。

このように「プロジェクトの目的/ゴール」と「実務上の様々な制約」の観点から、プロジェクトの各ステップにおいて一貫性・整合性を確認することは、プロジェクト成果物をビジネス価値につなげる上で極めて重要なのです。

分析プロジェクトの各ステップにおいて成果物の実コウ性をチームで担保するためのポイント

話を戻しましょう。

「データサイエンティストの元来の強み(実践的な分析技術)ではカバーしきれない要件定義やビジネス適用をどのようにフォローするか」というお話でした。また前節では、単純に「要件定義」や「ビジネス適用」のステップのカバーのみでは、プロジェクトの成果物をビジネス価値につなげることは難しいということも併せてお話しました。

上記を踏まえると、「データサイエンティストの元来の強みだけではカバーできない領域を補い、分析プロジェクトの各ステップにおいて成果物の実コウ性を担保するにはどうすれば良いか」という問いになります。

結論から言って、大きく2つのアプローチが考えられます。

1つは、複数人で構成されるチームによって実コウ性を担保する方法、もう1つは、データサイエンティストが担保する方法です。

後者に関しては、分析プロジェクトに関わるデータサイエンティストの内の1人が各ステップの実コウ性を担保する能力・スキルを保有していれば十分であることが多いように思います。

後者については後の節で論じることにして、まず前者のチームで担保するアプローチについて考えてみます。

チームを組成する際には以下のような点に気を付けると良いでしょう。

  1. プロジェクトの成果物の実コウ性の担保に寄与する人材のアサイン
  2. 1.の人材の成果物の品質に影響する内容の議論・意思決定の場への同席

プロジェクトの成果物の実コウ性の担保に寄与する人材とは?

2.についてはすでにお話した内容から自明かと思いますので、1.の人材についてお話します。
まず、条件として外せないのが成果物の品質に関して分析プロジェクトの各ステップで

  • 分析プロジェクトの目的・ゴールと成果物の整合性
  • 成果物の実ビジネスの現場における利用および運用可能性

の観点で確認し、プロジェクトメンバーにフィードバックできる能力・スキルを保有していることです。

前者は実効性、後者は実行性そのものになりますから、2つの実コウ性をレビューできる人材とも言えるでしょう。候補としては、コンサルタントやビジネス現場の成果物のユーザーなどが考えられるかと思います。

チーム全体として求められる能力・スキル

上記の条件は比較的分かりやすい能力(ハード寄りの能力)と言えますが、チーム組成のための人材選定の際、上記と同時に考慮すべき要素があります。

それは、データサイエンティストを含むプロジェクトメンバー全員で、プロジェクトの目的/ゴール達成に向けた健全な批判を含む会話ができる、また、そのような場の雰囲気を作れるようなチームになっているか、ということです。

冒頭にお話しした通り、成果物に実コウ性を担保するプロセスにおいて、分析の再設計など手戻りが発生する場合が少なくありません。プロジェクトの各作業の前に完全に担保することができれば良いのですが、作業の過程やその成果物を見ることによって初めて気づくポイントがあったり、作業者が作業に没頭するあまり成果物にプロジェクトの目的や制約の理解が十分に反映されていない場合があるからです。

スケジュールがある中で手戻りの可能性を含む検討を行うと、大小の差はあってもチーム内には緊張状態が生まれます。このような状況の中で、建設的に検討を進めるには、各人の意見を場に共有したり、健全な検討ができるように場の温度をコントロール(ヒートアップしている検討の参加者がいる場合はクールダウンするよう働きかけたり、全員が何か考えていそうだが発言できるような雰囲気ではない場合には、しやすい話題を振るなどして場を暖める等)するような能力・スキルを保有するファシリテーションのような役割や、互いの関係性が必要になります。

本節ではチームでプロジェクトの各ステップで2つの実コウ性を担保するアプローチについてお話しましたが、単純にプロジェクト関係者が増えるため、関係者間の認識合わせや検討のためのディスカッションのスケジュール調整などコミュニケーションに伴うコストが増大しがちです。

上記からデータサイエンティスト自身がより大きな領域でプロジェクトの成果物の実コウ性の担保に貢献できるのが理想的なように思えますが、果たしてそれは可能なのでしょうか?

次節では、本記事の大きな2軸の内の1つ「B. データサイエンティストのキャリア構築の方向性」から、「データサイエンティスト自身がプロジェクトの成果物に実コウ性を担保する役割を担う」ことの可能性についてお話したいと思います。


B.2.分析プロジェクト全体を通じて成果物の実コウ性を担保する方向のデータサイエンティストキャリア

データサイエンティストの元来の強みと要件定義やビジネス適用で発揮が求められる強みにギャップはあるか?

データサイエンティストのキャリアの方向性についてお話する前に、要件定義やビジネス適用などで必要になる役割や能力について考えてみたいと思います。

データサイエンティストの元来の強みの自然な延長上にある能力なのであれば、彼らが要件定義やビジネス適用のステップで求められる能力を獲得するのを待てばよいことになるからです。

結論を言ってしまうと、残念ながら元来の強みの自然な延長として役割を期待するのは難しいと言わざるを得ない、というのが私見です。

例えば、「要件定義」に求められるスキルの1つ「情報収集およびニーズ把握」について考えてみましょう。

これまでお話してきた通り、「要件定義」のステップが重要になるのは、「分析プロジェクトの支点」となるステップであるとともに、「プロジェクトの目的/ゴール」や「実務上の制約」の内容について、後続の各ステップにおいてプロジェクトの成果物がビジネス価値につながるかどうかを検証できる水準で十分に理解したり、関係者と関係性を築いておく必要があるからです。

様々に水準を設定することはできると思いますが、上記を踏まえて「情報収集およびニーズ把握」スキルの水準について筆者の私見を書き下してみます。

  • 低水準のスキル
    • 相手の発言を正確に理解できる
    • 自身の意図を適切に言語化し、相手に伝えられる
  • 中水準のスキル
    • 相手と信頼関係を構築する能力
    • 相手の立場・状況を理解・察知・推察する能力
  • 高水準のスキル
    • 自身が持っている情報、収集した情報を統括し、相手を取り巻く環境(市場や組織の構造によって生じる各要素のパワーバランス)を想像する能力
    • 上記のすべてを綜合し、相手の本質的なニーズを推察し、相手の表面的なニーズ(本質的なニーズの解決策の形で語られていることが多い)の妥当性を評価し、必要に応じて再定義する能力

実際に要件定義の仕事を高水準でこなそうとすれば、上記の他にも交渉を含む合意形成のためのコミュニケーションスキルなども必要になるでしょう。

「要件定義」で求められるスキル1つとっても、もはや「分析」という領域を超え、営業やコンサルティングに関するスキルと言った方が適切だと考えられます。

上記のスキルの獲得も「実践的な分析技術」の獲得と同様、それなりに時間を要することもあって、本人が上記のようなスキルの発揮が求められる役割に関心や志向性をある程度持っていることが前提になりますが、この前提も相まってデータサイエンティストの自然なキャリアの延長として期待することが難しいと筆者は感じています。

このようにデータサイエンティストの元来の強みと、分析プロジェクト全体を通じて成果物の実コウ性を担保するために求められるスキルと志向性には、もはや崖とも呼ぶべきギャップがあると言えます。

果たして上記のような役割を担おうとするデータサイエンティストの出現は期待できるのでしょうか?


分析プロジェクト全体を通じて成果物の実コウ性を担保する役割を担おうとするデータサイエンティストの出現は期待して良い

結論から言って、分析プロジェクトの業務経験を積むに従い、全員とは言わないまでも、要件定義やビジネス適用にまで関心を広げ、それらのステップの実コウ性を担保する役割を積極的に担おうとするデータサイエンティストの出現は十分期待できると筆者は考えます。

元々持っている関心に依らず、ほとんどのデータサイエンティストが分析プロジェクトの業務に従事する中で、「要件定義」や「ビジネス適用」のステップの重要性に気づきます。特に、プロジェクトの進捗が芳しくなかったり、成果物を用いた最終的なビジネスアクションが不明瞭な分析プロジェクトに従事しているほど、これらの2ステップの重要性に気づく可能性は高まります。

「要件定義」や「ビジネス適用」の重要性の気付きの源流は以下のような言葉によって発露することが多いでしょう。

  • 自身の成果物が現場でまったく使われておらず、何のために仕事をしているかわからなくなる
  • PoC(Proof of Concept: 概念検証)は成功したが、現場の導入で膨大な手戻りが発生し、なかなかビジネス適用に至らない
  • (自分は分析だけやっていればよいと思っていたが)そもそも要件定義が適切に行われているのか疑問に感じる
  • 使われる成果物とはどのようなものだろうか

上記のような体験を通じて「要件定義」や「ビジネス適用」の重要性に気付いたデータサイエンティストの中から、自身がその役割を負うことを積極的/消極的に受け入れる方が現れることは十分期待できると考えています。

筆者の経験では、実用主義(実際に社会にもたらす価値を重視)的な考え方をされたり、自身の成果が社会と直接接点を持てないことにジレンマを感じられる方は、上記の役割に意欲を持たれる方が多いように思います。

具体的には、事業の現場経験の長い経歴をお持ちでデータサイエンティストへのキャリアチェンジにチャレンジされている方や、アカデミアで新規あるいは既存の技術の礎となるような基礎的な技術を専攻されているような方で、「社会に自身の研究が反映されるまでに時間が掛かる、もっと直接的に社会に自身の仕事がフィードバックされるような環境で価値貢献したい」というようなモチベーションを持たれているような方などでしょうか。

最初は愚痴・不満のような形で、その方々は自身の欲求を口にするかもしれません。ときにはユーザー部門や経営陣、あるいは顧客に対象が及ぶこともあるでしょう。重要なのは彼らに問題意識があるかどうかです。

問題意識が高いにも関わらず、自分の立場やスキルに由来して社会貢献が難しいというジレンマから
「愚痴」を言っているのであれば、その人は「化ける」可能性が多いにあります。そのようなサインを見逃さず、彼らのような方々にチャレンジの機会を提供することは、実コウ性の高い成果物を継続的に生み出し続けるという組織の観点と、彼らの個人的なキャリア構築の観点の両面で重要です。

最後に余談になりますが、この「組織と個人の両面にとって重要である」点が健全な組織成長にとって重要である、というのが筆者の根底にある考え方であり、本記事もその思想に基づいて記載しています。

以上で中編を終わります。後編では、企業でさらに大きな成果を出すために、分析プロジェクトを含む大型のプロジェクト全体で2つの実コウ性を向上するための考え方について述べたいと思います。

この記事の続きはこちら

【後編】データサイエンティストの強みをどのようにビジネス価値につなげていくか~キーワードは「2つの実コウ性」~


このページをシェアする

株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

メールマガジン

Mail Magazine