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【後編】DX×SaaS~DX時代におけるITプラットフォーム~

公開日
2020.12.03
更新日
2024.02.17

DXを実現するためのSaaS型のITプラットフォーム

前編で述べた通り、調査会社であるIDC社が2014年に “第3のプラットフォーム“という概念を提唱しました。これは、第1のプラットフォームが「メインフレームと端末」、第2のプラットフォームが「クライアント・サーバー」、そして”第3のプラットフォーム”である「SMAC(Social、Mobile、Analytics、Cloud)」の成長率が非常に高く、IT市場を牽引し、数々のイノベーションを起こしていくと述べたものです。

実際にこれらのテクノロジーが新しい様々なサービスを生み、GAFAだけでなく、Netflix、Uber、Airbnbなどが続々と誕生しました。またスマホ、AI、ビッグデータ、IoTといった技術をベースにしたFinTech、AdTech、MarTech、FoodTechなどの様々なイノベーションが起こっています。

以前は、このような仕組みを開発するためには、要件定義や仕様検討から入り、ハードウェアを購入し、ソフトウェア、ネットワーク、データの設計と、開発などを行い、長時間のテストを行うことが必要でした。

しかしながらVUCAの時代になると、素早くデータを収集して、まずは状況の確認を行い、それに基づいて計画を立てる必要があります。そのためSaaS、PaaS、IaaSが活用されます。各種SaaSを契約すればプラットフォームがすぐに立ち上がり、API経由でデータ収集を行い、クラウド環境でデータを蓄積し、機械学習を活用することが短期間でできるようになりました。以前は大規模なDWH、BI、データマイニングの導入が決定されても、大型のUNIXサーバーと高性能なディスクストレージから、海外から船便で1か月以上の時間をかけて運ばれてくるのを待つしかありませんでした。

SaaSはすぐに立ち上がり、その”モノ”への対価ではなく、ベネフィットの対価を利用料として支払うということが可能となりました。これにより新しいサービスやビジネスを開始するにあたる高額な初期投資が不要となったことが非常に大きなポイントです。

もう一点は、莫大なデータへの対応です。世界で発生しているデータのボリュームは2020年に59ZB(約590億TB)、2025では175ZBになると想定され、8〜9割は非構造データになるといわれています。大量のデータを扱う必要のあるGoogle Analyticsのようなアクセスログは数億件以上になり、またSNSデータは1兆件以上のデータ容量になります。それらのデータを簡単に画像やキーワードで検索できるようにするには、PaaS型のデータベースを活用したとしても、自社開発で構築するのは非常に困難です。SaaSサービスでは、データの蓄積だけでなく、活用手段もサービスとして提供します。このような莫大なデータソースを共有化し、それに関わるコストを分散する事で、巨大なデータ活用のプラットフォームを提供することが可能となりました

さらに、このようなSaaSサービス同士のAPIを活用してデータ連携を行い、独自のサービスや分析システムを構築することも可能です。これらの仕組みを月額・年額の費用で利用でき、デジタルによる業務変革を行うための仕組みとして活用をして行くことが、DXでは重要となっていきます。

弊社の取り扱っているソリューションでも、各種SNSにおける投稿データ、Google Analytics、Salesforce、HootSuiteなどのデータをまとめてグラフやレポートを作って、組織全体に配信するようなものであれば、あっという間にできてしまうものもあります。以前では1ユーザーでも数百万円以上していたデータマイニング(機械学習)の仕組みも、月額数万円で誰でも使えるようになり、契約期間が終われば利用を停止しすることができるため、ニーズに合わせた使い方が可能となっています。 このようなIT基盤のSaaS化によりDXの実現のための素地が整ったといえます。


提供する側としてのSaaSシステムとDX

今や、多くの企業がテクノロジーを使いサービス提供をしています。動画、音楽、宿泊、移動をはじめとした多くの日常生活にかかわるものが、”シェア”や”サブスクリプション”といった形で利用することが可能となりました。今までは「パッケージ」として、音楽や映画を、CDやDVDといったモノとして購入していましたが、今ではサブスクリプション形式でサービスとして提供されることにより、CD1枚に数千円ではなく、月額数百円で膨大な量の音楽や映画を配信により楽しむことができるようになりました。

さらにシェアリングサービスとしてUberやAirbnbのように自社で”自動車”や”客室”といった物理的な設備を用意するのではなく、テクノロジーを駆使することで”移動”や”宿泊”をサービス化し、今までにない価格で消費者に提供することが可能となりました。自社では全くモノを持たずに、データ、AI、クラウドを駆使して、情報技術を武器に「空間」や「移動手段」を提供した、DXによる変革といってよいと思います。

多くの顧客とつながりながら、利用状況を把握し、機械学習を駆使したパーソナライズを実施することで、満足度を高め、お客様に長くサービスを利用し続けてもらうことができます。このようにSocial、Mobile、Cloud、Analyticsのプラットフォームを活用し、顧客との繋がりを維持しながら、高度なパーソナライズが行えるかどうかが競合優位としてのキーとなっています。

また、多くのITベンダーやコンサルティング企業がDXを実現するためのサービスやソリューションを提供しています。顧客のニーズが「コストカット」「業務効率化」といったPDCAサイクルによるウォーターフォール型の守りのITから、DX時代の「新たな成長」「新たな価値創造」といったテーマとした攻めのIT投資が増えてきました。スモールスタートで成長を目指す企業にとって、大きな初期投資での開発やソフトウェアライセンスの購入も費用対効果が出にくくなります。今まで、IT業界は受託開発として大型案件を獲得し収益を上げてきました。また高価なソフトウェアパッケージのライセンス・カスタマイズ・保守料も収益の柱でした。しかしながら、新たな顧客のニーズに対応するためにOODAのような小さいサイクルを回してく必要があります。

これに対応すべく、多くのソフトウェア企業が、SaaS形式のサブスクリプションに切り替えてきています。これは、今まで”モノ”として販売していたソフトウェアを、利用することによる”ベネフィット”として月額・年額料金で提供していくことで、導入の障壁を下げて顧客数を増やし、サブスクリプションにより収益が安定化し、先が見える経営が可能となりました。

2011年ごろに、サブスクリプション型のSaaSビジネスに切り替えたAdobe社があります。Macユーザーにとっては高嶺の花だったPhotoshopなどが、月額で低価格で使えるようになったのは非常に驚きました。これにより違法コピーも少なくなったと思います。

そんなAdobe社もSaaS型ビジネスの ”フィッシュモデル” と言われる宿命で、一時期、売上や利益は低下しましたが、今ではサブスクリプション型のビジネスが90%を占め、2020年に売上が最大に、営業利益は10年間で3倍、純利益は4倍になりました。

当時のAdobe Creative Suiteは好調でしたが「顧客数が変わらないので、単価を定期的に上げないと拡大できない」「アップデート頻度が遅く、顧客の満足度が上がらなかった」という2点が成長の足かせになると考え、サブスクリプションに切り替えました。また2008年のリーマンショックでも、定期収益がある企業ほど企業価値や成長率の下落が少なかったことも大きかったようです。

SaaSのメリットとしては、原材料の仕入れがないため、高度なIT人材を雇い、高バリューのサービスを開発し、それを低価格で販売することで顧客を惹き付けられます。このように高性能・高機能なSaaSサービスを低額で利用できることは、多くのスタートアップや新規ビジネスを立ち上げと成長をサポートし、エンド企業とSaaSサービス提供の企業の双方を成長させます。

受託開発型は1回のプロジェクトの単価は高くなりますが、顧客数は限定的で、その規模の購入はライフサイクルで1回だけでリピートオーダーとはいきません。よって多くのSIやソフトウェアベンダーは、さらに良い新規開発案件を探す必要がありました。しかしながらSaaS型のビジネスは、顧客のサービスを利用いただく中で、その利用状況を把握しパーソナライズを行い、営業、マーケティング、カスタマーサクセスなどが一体となり、高品質なサービスを”安く”、しかし”長く”利用いただくことにより、新規顧客の開拓圧力にさらされず、より革新的で、より良いサービスの提供を実現できるようになりました。 このようにして、DXを実現していくためには、SaaSを中心としたテクノロジーの活用と、不足している部分のカスタム開発のバランスの良い実行がキーとなるのです。


おわりに

本来であれば、DXの業務革新に必要な、標準化、ドキュメンテーションの大事さ、導入方法など色々と書くべきことは多かったと思います。しかしながら「DXとSaaS」の関係性をテーマに記事を書かせていただきました。

国レベルで必要となるといわれる、DXについては経済産業省にある”DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~” は必ず読んでおくべき内容であると思います。本文は60ページ近くある、長い内容ですが、色々な本を購入する前にコチラを通読することで、DXの本質を知ることができると思います。
(経済産業省「DXレポート」の、DOORSでの解説記事はこちら

限定的な内容ではありましたが、この記事が皆様のビジネスの参考になれば幸いです。

(参考)


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2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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