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社会的にも技術的にも変化の激しい昨今、DXを推進して日常業務に組み込み、業務改革を実現することが多くの企業に求められている。
そのためには、ツールの導入およびツール同士の連携を短期間で行っていくことが重要な成功要因である。このことはマーケティングにおいても例外ではない。マーケティングの観点で言えば、CDPやDWH、MA等のベンダーが主導する“流行り言葉”に惑わされずに、各概念の定義および歴史をも理解した上で、内外の変化に応じて、自社に最適化させていくことが肝要なのである。
最終的には自走を前提として、伴走を務めてくれるパートナーと共に、ITおよびデータの活用を定常的に行っていくことが求められる。そこに至るまでに数々のハードルがあるマーケティングDX実現のためのポイントを、株式会社ブレインパッド プロダクトビジネス本部長の東一成に聞いた。
DOORS 東さんは、文系学部出身と伺っています。文系/理系で区別するのは今どきの流行りでないかもしれませんが、そこからデータ分析プロダクトを提供する事業部の事業部長になるまでの道のりは、昨今増えている「DX人材を目指す文系学生」の参考になるかもしれません。
東 おっしゃる通り、私はいわゆる文系学部を卒業したあと、運輸系企業のシステム子会社に入社して、COBOLで書かれた基幹系システムの保守開発からキャリアをスタートしました。その後、外資系の分析ツール専門会社に転職し、プリセールス、導入コンサルを経験しました。
DOORS 分析ツールとの付き合いは長いのですね。
東 はい。それからベンチャー支援系の会社で、人事サービスシステムを開発しました。さらに機械学習ツールやMA(マーケティングオートメーション)ツール、データ分析支援ツールを海外から仕入れて、日本市場に展開する業務に携わりました。
その頃、ブレインパッドの佐藤(会長)と草野(社長)と面識ができ、シンプルに彼らのビジョンに共感しブレインパッドに入社することになったわけです。現在はプロダクト事業本部長として、レコメンド・パーソナライズエンジン、MA、ソーシャルメディア・アナリティクス、機械学習・拡張分析のプロダクト展開を統括しています。
DOORS 東さんは、「テクノロジーの”歴史”を抑えておくことが重要」と常々言っています。そこでマーケティングテクノロジーの大きな流れを教えてもらえないでしょうか。
東 企業の中に蓄積された大量のデータをDWH(データウェアハウス)に整理して、それをBIツールで可視化したり、様々な手法で分析したりすることが1990年代から今まで続いています。
ただ「方法」は変化してきています。以前は既存顧客に関する大量のデータが必要であれば、システム部門のデータ管理者に問い合わせて抽出してもらう必要がありました。当然タイムラグが発生し、施策実行が手遅れになることもしばしばでした。
そこに登場したのが、キャンペーンマネジメントツールです。これによりデータを抽出して、加工・分析し、キャンペーン情報を配信するまでの処理でマーケター自身で行えるようになったのです。
このマーケターが「キャンペーン施策」を一人で行えるようになったのが、1つの流れです。
2つ目は、いわゆる「アドテク」(Advertising Technology)の流れです。Web上での行動トラッキングデータや広告データをデータレイクやDWHに蓄積し、ターゲットにカスタマイズされた広告を自動配信するテクノロジーが2010年代に急速に発展しました。
3つ目は、「MA」です。これは新規の見込み客を集めて、育成し、顧客化するということを自動化するツールです。キャンペーンマネジメントとの違いは、膨大なデータが存在するわけではなく、見込み客のWebサイト上での行動履歴データがあるだけということです。しかしそのデータから見込み客の状況をスコアリングし、最適な情報を自動的に配信することができます。
どれもマーケティング分析と施策実行を、一人ないし少人数のマーケターで行えるようになったという点で共通しています。現在ではさらに、あらゆるマーケティングデータをCDP(Customer Data Platform)と呼ばれるデータベースに統合し、顧客を軸に一元的に管理することで効率的に活用できるようになってきています。
DOORS GoogleAdWordsが米国でスタートしたのが2000年10月。それ以降、Web広告・マーケティングのテクノロジーは著しく進歩しました。その恩恵で企業における課題解決も高度なものになったのでしょうか。
東 先日、社内勉強会で「2000年ぐらいにデータマイニングというのが流行りましたよね?」という話題になったので、当時の外部講演資料を改めて調べてみました(図)。
驚いたのが、この講演内容だったら今でも集客できる内容だと思えたことでした。テクノロジーは著しく進歩していますが、ビジネスにおける分析課題は20年前から大して変わっていないのではないでしょうか。
DOORS ディープラーニングなどの新しいテクノロジーが提供されているのに、なぜ分析課題が大きく変わっていないのでしょうか。
東 日本の場合、「担当する人」が入れ替わっているのです。20年前にこうした課題に取り組んでいた人たちが、異動や退職や転職などでいなくなり、入れ替わりに入ってきた人たちが同じテーマに取り組んでいるのですね。20年前はデータマイニング、現在では機械学習やディープラーニングと分析技術自体は高度になっていますが、自動化による生産性向上といった”根本的な課題解決”に至っていないというのが現実なのです。
DOORS 「根本的な課題解決」とはどういうことでしょうか。
東 マーケティングに限らず、DXに共通する観点として、「SoEへの取り組み」が必要だとよく言われます。SoRとは“System of Record”という名前の通り、情報の記録をどうやって正しく行うかが主眼のシステムです。正しさを担保するためには、1つずつきっちりと要件を定義し、要件が設計に落とし込めているかを確認し……、というウォーターフォール型の進め方が向いていたわけです。
一方でSoE(System of Engagement)とは、人・企業・集団など人間同士をつなげる仕組みです。人間の行動は感情・嗜好・思惑などに左右されます。万単位、十万単位の商品の中から特定の個人に何を薦めたらよいかに正解などありません。確率が高い順に薦めて、ダメなら次を薦めるといった試行錯誤の繰り返しになります。じっくりと時間を取って要件を決めている暇などなく、数日から数カ月という短いスパンで作ったものを試してみて、改良を続けるというアジャイル・イテレーション型の進め方が向いています。
もう1つSoI(System of Insight)というのもあります。これは手短にまとめますが、SoRとSoEで蓄積されたデータから、さらに深いインサイト(洞察)を得る仕組みのことです。
DOORS SoR、SoE、SoIという分類はよく聞きます。この中でSoEがなぜDX推進において重要なのでしょうか。
東 SoRもSoIもDX推進においては重要なのですが、先ほど申し上げた「自動化による生産性向上といった根本的な課題解決」という観点からはSoEが決定的に重要だと言えます。なぜならSoEは人の認知や意思決定を自動化することにつながるからです。
データ分析の結果として得られる知見は、「①理由などいいから当たればよい」というものから、「④とにかく理由が大事」というものまでグラデーションをなしています。その真ん中のほうに「②理由も必要だが当たることの比重が高い」ものと「③当てるのも大切だが、理由も重要」というものが存在しているのです。
これらのうち、①から③の真ん中あたりまでがSoEの、③の真ん中から④がSoIの守備範囲と言えるでしょう(図)。
こうして並べてみると、SoEとは理由はそれほど重視しないが、人の認知や意思決定を自動化するもの、SoIとは人の気づきを拡大したいものだとわかります。
DOORS つまりSoEとは、人をつなげるという本来の目的だけでなく、自動化の仕組みを作るものという一面もあるということですね。マーケティングの観点で具体的に説明してもらえますか。
東 現在マーケティングで主流になっているシステムは主に②と③、つまり理由よりも自動化・省力化が求められるものです。その中でより理由よりは結果が重視される(②)のは、リアルタイムのパーソナライズで、具体的には日に何度も行われるユーザーへのレコメンドです。レコメンドした商品を買ってくれさえすれば理由はそれほど重視されないわけです。
一方当たることも大事ですが、理由付けも大事なのがターゲティングです。過去の購買履歴からユーザーのプロフィールを割り出し、より確率の高い配信をしていく必要があります。ターゲティングに関しては、高いヒット率とそのルールが求められました。また昔は併売分析ビッグデータから「ゴールデンルール」を導き出すという手法が使われていました。
DOORS ゴールデンルールとは?
東 「週末にオムツの横にビールを置いておくと売れる」という類のルールです。週末にオムツとビールがセットで売れる傾向があったので、よく調べると、奥さんからオムツを買ってきてと頼まれたお父さんがビールも一緒に買っていくという話を聞いたことがあるでしょう。だったら、オムツの横にビールを置いておいたら、もっとビールが売れるだろうと。
この話自体の信憑性はさておき、大量のPOSデータを分析して、こうしたルールを見つけ出して販促をしていた時代があったのは事実です。ただこの話には、ご主人と奥さんと赤ちゃんという家族があって、週末にご主人が自動車を運転して一人で買い物に行き、それぐらい飲んでもバチは当たらないだろうとついでビールを買う――といったストーリーがありますよね。何万点とある商品アイテム1つ1つにこんなストーリーを考えてはいられません。だからある程度理由は知りたいけれども、だいたいのところは発見されたルールを信じてで処理してしまえとなってきたわけです。
DOORS 確率で処理といっても機械学習モデルで分析するわけですよね。
東 はい。AmazonやNetflixのようにデータサイエンティストやMLエンジニアが社内に潤沢にいる企業ならモデルを自社開発して分析するというようなこともできるわけです。しかしほとんどの企業ではそんなことはできません。そこでブレインパッドは、私たちの知見やアルゴリズムをお役立てくださいと、Rtoasterのようなサービスを提供しているのです。
後編へ続く。
【後編】マーケティングDXの実現に向けて実現に不可欠な8つの人材像
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