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【後編】マーケティングDXの実現に向けて実現に不可欠な8つの人材像

公開日
2021.12.09
更新日
2024.02.19

前編では、前提知識として、現在のマーケティング・テクノロジーにつながる流れと、DX実現のためにはSoEの取り組みが重要であることが語られた。後編では、さらに踏み込んで、DXの本質、膨大な数のツールから最適な製品を選択するための考え方、そしてマーケティングDX実現のカギとなるポイントについてを明らかにしていく。

なぜFinTechベンチャーは大銀行にできないことができるのか?

DOORS マーケティングDXをテーマにいろいろと伺っているのですが、マーケティングに限らずDXとはどういうものかを具体例でわかりやすく教えてください。

 たとえばSquare(スクエア)という会社があります。Twitterの生みの親であるジャック・ドーシーが創業した小売店向けの決済システムを提供しています。この会社が小売店向けに融資も始めたのですね。大手銀行ならとても融資しない店にも無担保で平気で融資をします。なぜそんなことができるのかといえば、彼らはSquareを通じて、その店舗の全ての取引データを持っているからだと。そのデータを使えば、正確な取引量がわかるので、大銀行があまり対応しない中小零細企業に融資が可能なのだと言うのです。

これはECシステムを提供しているShopify(ショッピファイ)も同じで、彼らも全ての取引情報を持っているから顧客に対する融資が可能なのです。中小企業への融資という分野では、SquareもShopifyも大銀行が太刀打ちできない領域に入り込んでいると言えます。

Affirm(アファーム)というBNPL(”Buy Now, Pay Later”、後払い決済)の会社もあります。後払いというとクレジットカードを思い浮かべますが、BNPLは基本的に審査がリアルタイムで行われます。それどころか金利も延滞ペナルティーもありません。だから若い人たちがクレジットカード代わりにどんどん使っています。若年層に顧客を開拓したい店舗側が手数料を払っていることもあるのですが、それよりも与信アルゴリズムが優秀だから可能なことです。

あるいはDoximity(ドクシミティー)という医療関係者専門のSNSがあります。コロナ禍で医師に会えないということで困っているMRがたくさんいるのですが、Doximity(ドクシミティー)を利用していれば、心臓外科医向けとか特定の薬効に関心のある医師にだけ配信されるような広告が打てるわけです。MRの仕事のやり方を大きく変革するSNSだと言われています。

このようにデータとデジタルの力で、今までできなかったことをできるようにしたり、ビジネスの在り方自体を根底から変えてしまったりするのがDXです。

DOORS どれもイノベーションと言ってもよい事例だと思います。こうしたイノベーションを成し遂げるためにはどうしたらよいのでしょうか。

 先ほども言いましたように、SoEをしっかりとやることです。新しい取り組みなので、どうなるかはやってみないとわかりません。すぐにリリースして、ダメなら引っ込めて、また新しいシステムをリリースすることが肝要です。そのためには、SoEに向いているアジャイル型の進め方が必須なのです。6週間、もっと短ければ2週間に1度ぐらいの頻度でアプリをリリースして、蓄積されたデータから得られるフィードバックを元に改善するという繰り返しが、戦略を磨き上げ、戦術を研ぎ澄ましてくれます。

経営の4大資源は、人・物・金・情報と言われます。このうち人・物・金は有限ですが、情報は無限にあります。無限のリソースである情報をいかに活用するかがDXの本質ですし、情報が無限だからこそ、人・物・金が乏しいスタートアップやベンチャーでも大企業に勝てるということなのです。


第3のプラットフォーム“SMAC”とは?

DOORS 早く立ち上げるためには、昔のように半年ないし1年もかけてシステム調達をしている暇はありません。機器調達はせずにクラウドを活用し、既存製品を組み合わせて使えということになります。

 おっしゃる通りで、私たちがSaaS事業に取り組んでいる理由もまさにそれです。顧客にすぐに使えるものを提供したいという思いからです。

早くやるということに関連して、「第3のプラットフォーム」ということが言われます。第1が大型汎用機とダム端末、第2がクライアントサーバーシステム、そして第3がSMACだと言うのです。

SMACとは、Social、Mobile、Analytics、Cloudの頭文字を取った言葉です。SNSからデータを得ると同時に、口コミでプロモーションをしてもらえます。スマホにはたくさんのセンサーがついていて、それを持ち歩いている人から次々とデータが送られてきます。SNSやスマホからのデータを蓄積して分析し、ビジネスの知見を得ます。大量のデータを蓄積し、分析するといっても自社にDWHやRDBMSを導入し、大量のストレージを用意するとなるとお金がいくらあっても足りません。そこでクラウドの出番になるというわけです。


SaaSはなぜDXに必須なのか?

DOORS クラウドの中でも、ビジネスのスピード感を最も高めてくれるのがSaaSですね。

 その通りです。オンプレミスにサーバーを調達して、そこに分析システムを一から開発しようと思えば、数千万円の投資になります。であれば、月額数万円~数十万円で利用でき、サーバーやストレージを購入しなくてもその日のうちから使い始めることができるSaaSを選ぶようになるのは必然の流れです。不要になれば契約を解除するだけでいい。

マーテクの流れとして、一人のマーケターが情報システム部門の手を借りなくても、データ収集から分析、施策実施までを実行できるようになったと説明しました。それはまさにクラウドがあってこそなのです。

Yahoo!や楽天ぐらい大量のデータを持っていると、SaaSを活用するよりも自社開発してしまったほうが安くできるということもありますが、これは例外です。ほとんどの企業にとってはまず検討すべきなのは、SaaSを使えないかどうかだと言えます。

DOORS 便利でコストも抑えられるSaaSですが、これまで日本、特に大企業においてはあまり普及してきませんでした。それがコロナ禍で流れが大きく変わりました。

 テレワークが当たり前のことになったのが大きかったですね。もちろん様々な課題が今でもありますが、対面でないとできないと思っていたことが、実際にやってみたら意外とできるとわかりました。そうなると重要なイベントは別としても、普段の客先訪問や社内ミーティングのようなことはオンラインで行うほうがお互い時間の節約になり、より多く時間を重要な仕事に割くことができるようになります。それが実感されると、もう元には戻れません。オンラインとオフラインのハイブリッドということが言われていますが、おそらくそれが当たり前になっていくのでしょう。

テレワークができるのなら、同じクラウドをプラットフォームとするSaaSも使えるだろう、いやもっと積極的に使ってみようとなっているのだと思います。

DOORS 既存の製品を利用するということであれば、同じクラウドでもIaaS上にパッケージソフトを導入して、好きにカスタマイズして利用するという手もあります。それよりSaaSのほうがよい理由は何でしょう。

 パッケージ導入だと、やはり導入の手間がかかりますし、運用管理も自社責任になります。SaaSではこれらの手間がまったくかからないので有利だと言えます。またWeb APIで連携できる作りになっているSaaSがほとんどで、足りない機能をAPI連携で容易に補うことができます。

ただ日本企業の中には、SaaSもできるだけ1つで賄いたいと考えて、API連携ではなく、カスタマイズする企業が見られます。これではSaaSを利用する意味はあまりありません。

膨大で複雑なマーケティングテクノロジー・カオスマップからどうやって選択すればいいのか?

DOORS 既存のSaaS製品を組み合わせて利用するのが早道だというのはわかります。しかしマーケティングツールの数は膨大です。アンダーワークスが公開している「マーケティングテクノロジーカオスマップJAPAN 2021」は、日本国内で調達できるマーケティング製品だけを13分野に分類して一覧化したものですが、それでも1,317種類もの製品が記載されています。この中から自社に最適な製品をどうやって選べばよいのでしょうか。

 まず用語を正確に知ることです。日本企業では、たとえばキャンペーンマネジメントとMAの違いを理解していない人が数多くいます。CDPとDWHの違いについても同様です。こういう基本的な概念を押さえておかないと製品選定は困難でしょう。

それから分析の対象と分析のタイプ(図)についても理解しておく必要があります。

こうした基本的な概念を押さた上で、ガートナーやフォレスト・リサーチのレポートを参考に製品を絞り込んでいき、3~5の製品を残します。そしてベンダーに情報を求め、実際に試用して、導入する製品を選定するのが王道です。しかしそのために長い期間をかけるのは本末転倒だと言えます。概念が押さえられたら、その時点で第三者的な専門家に相談するのが、結局早くて安上がりで間違いが少ないものなのです。

マーケティングDXを実現するための「正しい問い」とは?

DOORS マーテクの基本的な概念は押さえました。専門家に相談して導入するツールも決まりました。いよいよマーケティングDXに取り組めるようになりました。――という段階になってから大切なことは何でしょう。

 ブレインパッドではよく「出口から考えましょう」とクライアントに提言します。たとえば需要予測をする前に、何のために需要予測をするのかを考えましょうということです。目的が物流の最適化と売上の最大化では実施すべき需要予測も変わってくるからです。先に出口以降のシミュレーションができていれば、その前段階の需要予測の間違いを大きく減らすことができます。

そこでまず押さえておきたいことは、多くの人が「データが語ってくれる」と思い込んでいますが、これは間違いだということです。たとえばクレジットカード会社で、どういう顧客が優良顧客かを分析したとすると、売上回数が多い人、単価の高い商品を買ってくれる人、長く使ってくれている人、高い頻度でWebサイトに来てくれている人などが挙がってきます。「いや、そんなことはわかっているよ。で、どうすればいいの?」となりますよね。

DOORS 優良顧客を定義して、それにあてはまるのはどういう人を分析する、つまり「データに語らせないといけない」ということですね。

 はい。その通りです。そうなると今度は「正しい定義」ができているかどうかが非常に重要になってきます。定義に基づいて分析するわけですから、これは「正しい問い」と言い換えることができます。マーケティング分析においては、正しい問いができているかが決定的に重要です。

DOORS 具体的にはどういうことでしょうか。

 たとえば「年間100万円以上使ってくれる人」を優良顧客と定義したとします。分析してみたら、そのような顧客はショッピング枠もキャッシング枠も一杯で、購入商品を調べたら換金性の高いものがほとんどだった。これはクレジットカード会社にとって良い顧客でしょうか。いやリスクが高い、できればあまりいないほうがよい顧客だと思われます。

なぜこんなことになってしまったかといえば、設定した問いが悪かったのです。「自社にとって理想の顧客とはどういう人か」と問えばよかったのです。その問いに対してなら、「クレジットカードだけでなくETCカードも契約しくれる」「スーパーだけでなく、レストランや洋品店でも使ってくれる」などと様々な答えが返ってくることでしょう。では、そういう顧客に対してクロスセルをしかけるとしたらどうしたらよいのか、といった分析を今度は始められるようになります。

「出口」の話に戻ると、マーケティング分析における出口は、理想的な顧客の増加ということになります。そこから逆算して、AI等を活用すれば効率的・効果的な分析ができるということなのです。

DOORS とはいえ、たとえばクレジット会社にとっての理想の顧客はどの会社でもだいたい同じではないのでしょうか。

 そうなのです。ターゲティングというのはマーケティングにおいては戦略そのものと言えることですが、よほど尖った戦略を持つ企業は例外として、戦略は”目指す理想的なあるべき姿”なのでどの会社もほぼ同じです。ではどこで差がつくかといえば、戦術です。数あるデジタルテクノロジーから何を選択してどう組み合わせるかが戦術となります。その戦術に素早く着手し、何回もやり直しては改善していける会社が、勝者になるということなのです。

DXの最重要成功要因は人材

DOORS マーケティングDXに取り組む企業を数多く見てきたと思うのですが、成功している企業の共通点はあるのでしょうか。

 DXという言葉が普及する以前から、データを活用して自社のマーケティングを改革しようという企業は数多くありました。そのような会社を含めて100社以上の企業に提案や支援をさせてもらった経験から言えば、共通点はあります。それは、ありきたりかもしれませんが、やはり「人」なのですね。すばらしいマーケティングリーダーがいるかどうかが最重要成功要因なのです。

DOORS 具体的にはどういう人なのでしょうか。

 大成功した3社を私なりに分析したところ、8つの条件が見つかりました。

  1. 部長を実務リーダーとして数人のチームでスタートしている
  2. その部長が社長と太いパイプを持っていた
  3. その部長が最もアンテナが広く、情報に敏感だった(中には機械学習ツールの認定試験で、分析担当者よりも成績が良い人がいた)
  4. 業務経験豊富なキーマンがいた(営業経験がある、倉庫で物流担当をしていた等)
  5. 打席に多く立つことで数多くの失敗もしたが、成功もたくさんつかんだ
  6. 正解よりも実績を追求し、考えても仕方のないことに時間を費やさなかった
  7. 成功したあとは部下をさっさと出世させて、たくさんの「将校」がいる「一大軍団」を作り上げた
  8. その結果自分も役員や社長になった

認定試験で好成績という技術力の高い人もいましたが、それよりも人間力や行動力が重要だとわかります。

DOORS いわゆる「ハイパフォーマー」と言われる人ですね。

 そうなのです。先ほど、日本の企業の分析課題が20年前とほぼ変わっていない理由として、人が入れ替わってしまい、結局新しく来た人が以前の人と同じようなことをしているからだと指摘しました。高度な人材が社内にいたとしても、短期間でチームや部署がなくなってしまい、活躍できる場がなくなってしまうのです。これではハイパフォーマーは育ちません。優秀な人材が実はいるのに、それを活かせずに「凡人」にしてしまっているというのが多くの日本企業の実態なのです。

8つの条件にあてはまる人たちは、それこそ希有の存在なのですが、日本企業にはその素質を持っている人がたくさんいます。その人たちを探し出してきて、引き上げることが実はDX成功のカギだと言ってよいでしょう。そう考えると、日本企業には実は大きなポテンシャルがあるのです。

ただ素質を持つデジタル人材を見出したとしても、社内の人材だけでここまで複雑化したマーケティングテクノロジーを使いこなすのは難しい。最終的には自走を目指すとしても、それを前提に一緒に伴走してくれるパートナー選びが重要ではないでしょうか。

DXの本質について改めて知りたい方は、こちらの記事もぜひご一読ください。
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