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※本記事は、「日経XTEC ACTIVE」に掲載された同内容の記事を、媒体社の許可を得て転載したものです。https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/sp/b/21/09/28/00567/
リスキリングの意義などをより深く知りたい方はこちらもご覧ください。
なぜ今「リスキリング」が必要なのか?DX時代に生き残るための、人材育成の考え方と3つのステップ
総務省が2021年7月に公開した「令和3年版情報通信白書」では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める際の課題として53.1%の企業が「人材不足」を挙げた。ちなみに「資金不足」を挙げた企業は26.9%と、人手不足の約半分。コロナ禍の影響による業績悪化で、DXに投資する体力を失っている企業が多いのかと思いきや、ヒトがネックになっているというわけだ。実際、このような状況に思い当たる企業は多いのではないだろうか。
そもそも、既存のIT人材と「DX人材」では必要な資質が大きく異なる。ビジネスそのものを変革し、顧客に新たな価値を提供するには、システムやツールの知識と同じくらい、ビジネスの知識・経験が必要だからだ。また、外部のパートナー企業に“全部お任せ”という思想では、DXを推進することは難しい。パートナーの技術力や知見を自社のDX推進力に転換するには、時には技術領域にも踏み込んで意見交換が行えるような、デジタルリテラシーを備えた人材が社内に不可欠になる。求められる人材像を早急に見定め、育成に着手することが現在の日本企業に求められている。
一方、他社に先駆けてこの状況を認識し、取り組みを進めている日本企業がある。それが、アサヒビールやアサヒ飲料などを傘下に持つアサヒグループホールディングス(以下、アサヒGHD)だ。
同社は先ごろ、DX=BX(Business Transformation)であるという考えのもと、新価値を創造しビジネス変革を起こすためのValue Creation人材像を定義、新たな発想でアイデアを創出しかたちにする「クリエイティブ・ビジネス企画」コースとデータから新しい価値を生み出す「ビジネス・アナリスト」コースの育成プログラムを開始。希望者を募ったところ、想定の2.5倍以上の536⼈の応募が殺到し、急きょ、全員にプログラムを受講してもらうことにした。
取り組みは現在も進行中だが、ここまで受講者のほぼ全員が、研修カリキュラムに対して高い満足度を示しているという。
具体的に、同社はどのような研修をどういった方法で実施しているのか。アサヒGHDの取り組みを基に、DX人材育成のヒントを探る。
「AIに精通した人材やデータサイエンティストなど、高度な専門性を備えたデジタル人材は、もちろん重要であり育成が必要です。しかし、それ以上に必要性を感じていたのが、デジタルとビジネスをつなぐ『コーディネーター』になれる人材でした」。そう語るのは、アサヒGHD ⽇本統括本部 事業企画部 Value Creation(VC)室の⼤江 輝明⽒だ。
一定のITリテラシーを持ち、ITパートナーと対話したり、データサイエンティストが導き出した分析結果や洞察を基に、活用方法やビジネス企画を発案したりする。このような、デジタルをビジネスの価値に変換できるようにする人材を、同社はビジネス・アナリストと呼び、DX推進の中核的人材の1つに位置付けている。
「当社は、稼ぐ⼒の強化、新たな成⻑の源泉獲得、イノベーション⽂化の醸成を目標とするADX戦略モデル(Asahi Digital Transformation)を2019年に策定。グループを挙げてその実践に取り組んできました。2020年9⽉からはこれをAVC戦略モデル(Asahi Value Creation)へと発展させ、さらなる取り組みを推進していますが、これを推進するのが我々VC室です。デジタルやデータ、ITにフォーカスするのではなく、それらが当たり前になった世界でどんな新しい価値を創造するかを考える。そのために、まず取り組んだのが今回のValue Creation人材育成でした」と同社 VC室の山本 薫氏は説明する。
役目上、ビジネス・アナリストは同社の業務に精通している必要があるため、外部から獲得するだけでは不足である。そこで同社は、デジタルリテラシーを高めるための研修プログラムを設計し、社員に受けてもらうことにした。「幸い、社内には業務に精通した優秀な社員が大勢います。その方たちにデジタル活用のスキルとマインドセットを習得してもらうのが、ビジネス・アナリスト育成の最短経路だと考えたのです」と山本氏は言う。
ビジネス・アナリスト育成プログラムの設計・実施に当たり、パートナーに選定したのがブレインパッドである。
「既に多くの業種・業界でサービス提供実績があることや、ビジネスを深く語れるデータサイエンティストが多数在籍しており、それらの方が講師になってくれる点が魅力でした。研修コンテンツのサンプルも見せてもらいましたが、具体的な事例を挙げたり、難しいことをかみ砕いて表現したりしている点は、受講者のことを考えてつくられていると感じました」と大江氏は評価する。テクノロジーとビジネスのバランスの良さが、自社の人材育成方針にマッチすると感じたという。
また、人材育成は長丁場の取り組みとなる。そのため、カリキュラムの全体像を分かりやすく提示してくれたこともポイントになった。これについて、提案を行ったブレインパッドの奥園 朋実氏は次のように語る。
「VC室様のビジョンや要件がとても明確だったため、それに合うプログラムを設計してご提案しました。具体的には、まず『データ分析がなぜ重要なのか』を実感してもらうためのセミナーを開催。その後、統計学の基礎を学べるeラーニングを挟んで、当社のデータサイエンティストが講師を務める『データサイエンス基礎講座』を受講してもらいます。ここではエクセルを使いデータ分析の基礎となるデータの集計と可視化を用いた統計的なモノの見方や表現方法を習得する演習など、業務に役立つ実践的なスキルを身につけます。そして最後に、より専門的な知識・技術の習得を目的とした『AIビジネスプランナー養成講座』を受講してもらう流れとしました」(図)
プログラムの開始に当たり、アサヒGHDは国内グループ各社の社員に受講を呼びかけた。その結果、冒頭で紹介したように想定を大きく超える応募者が殺到したのである。
「200人の募集に対して100人も来れば御の字と考えていたら、536人。まさに想定外のうれしい悲鳴でした。『自分たちが会社を変えていくのだ』という熱い思いを持った人材が、アサヒグループには大勢いる。これは思いを受け止めねばと、急きょ、枠を拡大して全員に受講してもらうことにしました」(大江氏)。AVC戦略モデルの取り組みを本格化していく上で、これ以上ないスタートといえるだろう。
セミナーを開催し、その後オンデマンドのeラーニングを各人が受講。2021年9月初頭の段階では、第2ステップのデータサイエンス基礎講座までを修了している。この講座の講師を担当したブレインパッドの下村 麻由美氏はこう語る。
「マーケティング、経営企画、工場など、それぞれの受講者が実業務で抱えている課題・データを持ち寄って、それを皆で精査する演習を行いました。これにより、データの読解力や分析力が身につくと、どんな課題の解決に役立つのかを体感してもらえたと思います」
コロナ禍のため、講座はリモートで行った。一対一で会話できるリモートツールの機能も活用しながら、受講者へのアドバイスを行うなど、理解度を高める工夫をしている。受講者の評価も高く、事後アンケートでの満足度は90%だったという。
「興味深いのは、意外な部署や拠点に、ビジネス・アナリストの“卵”といえる優れた人材がいることが見えてきたことです。単なるIT人材でもビジネス人材でもない、DX人材の資質については、我々自身ももっと知見を深めていきたいと思います」と大江氏は語る。
また山本氏は次のように続ける。「今回の受講者536人の集まりは、私たちVC室のメンバーが声を上げるよりも、はるかに大きな“うねり”をアサヒグループに起こすことができます。今後はビジネス・アナリストのキャリアパスもしっかり描いてあげながら、うねりを持続し大きくしていきたいです。本年初めての取り組みであり、急に枠を拡大したので、まだまだ課題は山積みですが、少しずつでも成果を出し続けられるよう頑張ります。人事部や外部パートナーと連携しながら、グループのDXを推進していきたいと思います」(山本氏)。
自社にとって新たな価値を生み出すための人材育成。パートナーであるブレインパッドと共に、これからもアサヒGHDの挑戦は続く。
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