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本記事では、「データサイエンティスト 」の職業認知や業界発展に長年貢献されている「一般社団法人データサイエンティスト協会」様をお招きし、「データサイエンスの過去・現在・未来」について対談した内容の一部始終をご紹介いたします。
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事業会社はデータサイエンスをビジネスにどう取り入れるべきなのか、逆にデータサイエンティストとして企業活動に貢献するにはどのような意識を持つべきなのか、業界でのデータサイエンスの立ち位置はどうあるべきなのか、多角的な観点でディスカッションしています。
※本対談は、2023年6月5日から6月16日にかけて開催された日本最大級DXオンラインイベント「DOORS-BrainPad DX Conference- 2023」で配信されたものです。他にも収録されたコンテンツがあるので、読んでみてください。
▼本対談の登壇者一覧
ブレインパッド・近藤 嘉恒(以下、近藤) 本セッションは「一般社団法人データサイエンティスト協会」様をお招きして、『「データサイエンスの社会実装」のこれまでとこれから』というテーマでお送りします。
皆さんは、データサイエンティスト協会様をご存知でしょうか。数年前には「データサイエンティストが21世紀で最もセクシーな職業である」と言われたこともありましたが、データサイエンティスト協会様は、日本におけるデータサイエンス能力の羅針盤として必要なスキル・知識の定義、育成カリキュラムの作成、ひいては評価制度を構築し、高度IT人材の育成と業界の健全な発展に貢献しています。
また、データサイエンティスト協会様は2023年で10周年を迎えております。その節目のタイミングで、代表理事を務めているブレインパッドと初の共同対談をこうして行うことになりました。
ということでデータサイエンティスト協会事務局長の佐伯さん、データサイエンティスト協会様の代表理事でありブレインパッド創業者である高橋さん、本日はよろしくお願いいたします。
ではまず高橋さん、今回データサイエンティスト協会様とブレインパッドがこのような形で共演できたことに対する思いをお話しいただけますか?
ブレインパッド・高橋 隆史(以下、高橋) 「データサイエンティストを世の中に浸透させる」ブレインパッドと、「データサイエンティストという新しい職業を社会に健全に根ざす」データサイエンティスト協会、それぞれ分けてこれまで活動してきました。
これまで混ざることのなかった二つの活動が、10周年という節目で共演できることになり非常に楽しみです。
近藤 本日は「日本のデータ活用やデータサイエンティストの未来をどういう風に良くしていくべきなのか」を、事業会社・支援会社といった立場関係なくディスカッションしていきます。
高橋 可能な限り俯瞰した目線で、業界全体を捉えた話ができればいいですね。
近藤 本題に入る前に佐伯さんから、データサイエンティスト協会様の活動概要を簡単にご説明いただけますか?
データサイエンティスト協会・佐伯 諭氏(以下、佐伯氏) データサイエンティスト協会は2013年に設立されました。データサイエンティストという言葉が出始めた頃で、社会からは「セクシーだね」とも言われていましたが、本当にセクシーなのかも含めてしっかりと定義するべきだという問題意識を抱えていました。
この2つを目指して、産業界のメンバーとアカデミアのメンバーで一緒に作ったことが設立の経緯です。
データサイエンティスト協会は主に4つの活動をしています。
近藤 現在はどのくらいの規模なのでしょうか?
佐伯氏 企業や大学の登録数が合わせて約120社、個人会員の登録数が約2万人です。それなりに大きな規模となっていますね。
近藤 10年間でそこまで大きくなったのですね。
佐伯氏 また、日本のデータサイエンス領域の取り組みも行っています。例えば内閣府のAI戦略やデジタルスキル標準といった国の取り組みと一緒に、データサイエンティストという職業をより多くの方に知っていただけるような活動をしてまいりました。
2019年頃は人材エージェントに「データサイエンティスト」の求人募集をお願いしても「分かりにくい」と断られる状況だったのですが、最近の転職サイトには記載されていることから、定義や認識がそれなりに普及したのではと考えています。
近藤 ここ数年でデータサイエンティストが「職種」として認識されるようになったわけですね。
近藤 色んな企業や団体が協力しながら「データサイエンティスト」の定義を決めようと動いていましたよね。
高橋 私たちがデータサイエンティスト協会を立ち上げた10年前は、団体が複数あり、データサイエンティストの命名や定義・スキルを各団体が発表している状況でした。だからデータサイエンティストになりたい人が一体、どの情報を参考にすればいいか分からなかったんですよね。、そこで、新しくデータサイエンティストを目指そうとする人が迷わないために一本化したいと思ったんです。
そこでIPAさんと組み、「ITSS+」が出たタイミングで「データサイエンス」を追加してもらいました。そこでデータサイエンティスト協会が作った定義が取り込まれ、国内のデータサイエンティストの定義が一本化できました。データサイエンティスト協会にとっての大きな節目だったと思います。
近藤 データサイエンティスト協会を発足しようと思った背景や狙いについて、建前ではなく本音の部分を詳しく教えていただけますか?
高橋 10年前くらいのブレインパッドはデータマイニングの受託会社でした。そして2010年頃に「ビッグデータ」という言葉が出てきた折には、「ブレインパッドでやっている仕事はビッグデータ分析だね」「ビッグデータ分析をする人をデータサイエンティストと言うらしい」「じゃあ僕たちはデータサイエンティストだ」なんて会話を社内でしていました。ここが「始まり」にあたる経緯です。
ところが、気付いたら「データサイエンティスト」はバズワードとなり、言葉の定義が曖昧なまま方々で使われるようになっていました。「データサイエンティストが欲しい」とか「私がデータサイエンティストです」とか。
結果的に多くのミスマッチが起きていました。「データサイエンティストとして採用したのに、求める仕事をしてくれない」あるいは「データサイエンティストとして就職したのに、データサイエンティスト向けではない仕事を振られた」など。
ブレインパッドでさえも、データサイエンティストという言葉がまだなかった創業期には「僕たちの職種は何だろう?」と悩んでました。中途採用をしようにも職種を表現できなかったんですよね。
当時はプログラミング言語のRも本格的に普及する前だったことから、試行錯誤が必要でしたね。例えば「SASが使える人材を採用したら良いのでは?」と考えましたが、いざ採用しても、SASの処理はできてもデータ分析はできませんでした。
指示されれば統計値は取れるが、顧客やデータを前にしたときには何から手つけていいか分からない。そんな状況でした。
こうしたミスマッチを経験したブレインパッドは「他の企業に同じ轍を踏ませるわけにはいかない」と思い、ブレインパッドの知見を普及しようと考えました。
また、残念ながら日本ではプログラマーの地位が低い傾向にあります。この要因の一つは、プログラマーの地位を守る人たちがいなかったことだと考えています。したがって、データサイエンティストという職業を定義することは「職業を守る」ことに繋がると判断し、この職業を守らなければならないという使命感を持つようになりました。
これにはブレインパッドの社員を守るという意思も含まれますし、大義として、ブレインパッドの苦い経験を他の企業には経験して欲しくなかったのです。
そこで、当時電通にいた佐伯さんやヤフーの安宅さん、統計数理研究所におられた樋口先生からこの問題意識に共感していただき、共に設立に至りました。
近藤 当時、高橋さんから声をかけられた佐伯さんは振り返ってみていかがですか?
佐伯氏 私は当時、電通でプログラマー、分析官として実務をしていたのですが、職種の定義がないことに対する問題意識は同じように持っており、博報堂様などにもお声がけしてチームを立ち上げました。
当時から「ビジネス」「データエンジニアリング」「データサイエンス」の3つを大事にしていたので、3つ全てが理解できている状態を目指す方針にしました。
近藤 電通様や博報堂様をはじめとした名だたる会社が創設期からハイヤリングされ、コンソーシアム的に結束されたのですね。前提としてそれぞれが競合であるにもかかわらず、一丸となって良いものを創っていくという基本思想ができたことは珍しい印象です。
高橋 それだけ問題意識が深かったのだと思います。当時SPSSがIBMに買収され、そして急にデータサイエンティストという言葉が生まれ、「データサイエンティストは何ができたらいいのか」という定義が曖昧なままでは危機に陥る空気感が、業界全体で共有されていたんだと思います。
近藤 ここまでデータサイエンティスト協会が立ち上がってきた歴史についてお話しいただきましたが、この10年でデータサイエンス領域はどのように変化したと佐伯さんは思いますか?
佐伯氏 社会全体で見ると社会的認知はまだ伸びしろがありますが、特定の領域・業界ではかなり認知が進んだと感じます。例えば学校教育では今後、データサイエンスやAIの教育が組み込まれる予定です。皮算用ですが、1年間に2万人程度はデータサイエンティストになりたい学生が生まれるかもしれない時代にまで、駆け上がってきているように思います。
近藤 市況のトレンドだけではなく、10年前からの活動が一つのベースになって今を迎えているからこそ、職業認知が図れてきているのですね。
高橋 当時、統計数理研究所にいらっしゃった樋口先生とヤフーの安宅さんのお二人が行政などに呼ばれた時に「これからはデータサイエンティストがいなければ終わってしまう」「必修である」という話をして、2019年には政府が「AI戦略2019」を掲げました。
これには、文系理系を問わず毎年50万人の短大・大学・大学院卒の人たちがデータサイエンスの最低の基礎を学ばなければならないと記述されています。
なのでデータサイエンティストという職業の認知はそれほど進んでいなくても、今後は「データサイエンス」という言葉には誰もが触れている状態で社会に出てくることになります。
わずか10年足らずで、1つの学問・スキル体系のジャンルとして全ての学生が、どこかで一度は触れた形になるというのはレアケースだと思いますね。
近藤 では、そういった仕組みや草の根ができあがりつつある中で、企業における「実業としての効能」はいかがでしょうか?
データサイエンスの重要性を理解してきている企業が増加している一方で、まだまだ理解の浅い企業もあるように思うのですが。
佐伯氏 現在はある種のDXブームやAIの考えが広がる中で、大企業や危機感のある業界・企業は、データドリブンに基づいた戦略を考えて実行しなければならないと強く考えている印象です。
例えばコロナ禍においては「前年同月比」の数字はかなり使いにくくなりましたよね。コロナ以前は、深く考えることもなく「前年同月比」で計算し、「105%成長」「110%成長」していれば盲目的に「好調」と判断できる時代でしたが、今はそういった単純な比較では通用しなくなってきており、「データを見て経営意思を決定しなければならない」「データを見て事業やサービス内容を決定しなければならない」という局面に入っています。今後は企業の中での一般化・民主化が進むと見ています。
近藤 従来であれば過去のデータから未来をある程度予想できましたが、コロナ禍以降は予想ができなくなった。したがってファクトやデータにより着眼しなければならず、そこからデータサイエンスが進んでいくわけですね。
近藤 先ほどの話に戻りますが、データサイエンティスト協会様の中にはいくつか委員会があると思います。立ち上げ時の一つの基軸でもある「スキル育成」の体系化に関して、軸・基準を作ることがデータサイエンティスト協会様の大きな意義だという印象です。その上で、今後スキル向上に必要となるのは何だと思いますか?
佐伯氏 先ほど少しお話しした「ビジネス力」「データエンジニアリング力」「データサイエンス力」を、実務をやりながらバランスよく育てていくことが必要だと考えています。
私自身の感覚では、事業の中に入りドメイン知識を身につけた上でデータサイエンスの基礎能力を身に付け、それが少しずつブラッシュアップされていくことが最も産業にヒットしやすく、個人の力にもなると思っています。そのレベル感を身に付ける・評価するためにデータサイエンティスト検定を設けています。
近藤 データサイエンティスト検定は「今自分がどんな能力を持っているのか」「どんなスキル持っているのか」を把握し、能力の過不足を認識できるわけですね。
佐伯氏 そうですね。検定の事業を始めてから、Twitterのコメントなどを拝見していると「範囲が広い」ことをたまに言及されます。例えば、分析に取り組んでいてもプログラムが書けない人は受かりません。また、学生にとってはビジネス力の範囲は大変ですよね。範囲は広くて大変なのですが、だからこそ「どこが足りないのか」を見える化する羅針盤としては良いと判断していますね。
近藤 データサイエンス領域自体が広範囲であることに加え、ビジネス力などもカバーする必要があるからこそ検定の範囲が広いわけですね。
佐伯氏 実際にデータサイエンティストの役割を「データの力を解き放つ」とした時に、色々な知識がないと解き放てないよね、と考えています。
高橋 だからこそ「データサイエンス検定」ではなく、あくまで「データサイエンティスト検定」と表現している理由でもありますよね。
検定形式は、データサイエンティストのスキルチェックリストのようなイメージです。チェック項目数もとても多く、ビジネス力領域で約120項目、サイエンス領域・エンジニア領域で約100項目あります。それぞれ何ができて、何ができないのかがチェックできるタイプの検定です。
近藤 データサイエンティストの領域はとても幅広く、視座も高く見ていく必要があるということですね。反面、世の中には非データサイエンティストの人材もいます。その人たちを含めたデータサイエンティスト領域の知識や検定は今後広げていくのでしょうか?
佐伯氏 実際にそのような活動を「デジタルリテラシー協議会」として進め始めているところです。ビジネスパーソン全体にとってデジタルリテラシー「Di-Lite(ディライト)」が必要だと捉えているからです。その際に必要となる目安がDSS検定、IPAさんのITパスポート、JDLAさんのG検定などですが、そういった学習を通して、AIの活用やビジネス的な意思決定をどうやってデータドリブンとして考えるのかを、皆さんに理解いただくことが今後必要になってくると考えています。
それこそChatGPTなどの生成AIが出てくると、「自分の仕事は何だろう」と見直される局面がやってくると思いますが、ここで各ビジネスパーソンが「AIの使い方を知る」「データドリブンで物事を意思決定する」といった力が求められるようになると考えています。
高橋 Di-Liteは協会の垣根を超えたアプローチですよね。専門職種の人もそうでない人も、Di-Liteを通じてデータサイエンスに関する知見や理解を深めていく。まるで「IT業界に属する人が簿記3級を取得する」ように。こういう動きは、データ業界やデジタル業界の一つの羅針盤として発展したという印象ですね。
逆に言えば、それだけ強い危機感があったのだと思います。今回の場合は、半分、国や行政に近い存在であるIPA様からの大きな働きかけがきっかけでした。
データサイエンティスト協会のスキルチェックリストは2年ごとに更新しています。既に第4版が出ており、次は5版目です。さっきお話しした120項目が今は全部で572項目となっており、更新し続けるのが大変な状況です。
そのため、キャッチアップもIPA様単体では厳しい状況です。そういった流れから、民間の協会2つと独立行政法人であるIPA様がコラボして、「やっていきましょう」という流れになりましたね。
協議会発足の前に行った座談会では、国に対して「早く目指すものを定義しなければならない」という大きな危機感が浮き彫りとなり、一昨年、正式に3団体共通で動き出すこととなりました。
佐伯氏 問題意識の中にDXもあります。例えば、大企業でDX推進部を作りDXを進めていても、なかなか現場が動かないといった課題もありますね。地域で見たとしても、地域としてどうやって進めるかという課題もある中で、「全員でやっていこう」が一つのテーマとなっています。
高橋 デジタルを理解して使いこなすのは「特定の誰かだけの仕事」ではありません。全員に・全体に・等しく「デジタルリテラシー」を共有しなければ、DXの変化に拍車をかけられないという危機感が協議会の背景にあります。
もちろんデータサイエンティストやエンジニアのようなスペシャリストが活躍することはありますが、彼らのような専門家とそれ以外の非専門家で分ける話ではないのです。
近藤 DXの中では特に「X」が大事だということは、耳にタコができるくらいよく言われている話ですよね。ただ、当たり前ではあるとしても最も難しい要素です。
一方で、Dが何かわからなければ、Xについて考えることはできません。そのため、Dの部分を体系化しようという話が進んできたということですね。
では、ここからは、トークテーマを変えていきましょう。ここまでは、データサイエンティストという職や技能をどのように体系化したかという話でした。次は、企業目線で見たデータサイエンティストとデータサイエンスをピックアップしたいと考えています。
職業認知がある程度できてきたものの、「事業会社がデータサイエンティストを使いこなせない」という問題が生じています。というのも、例えばブレインパッドのデータサイエンティストが他事業の支援にチャレンジするべく転職・独立したけれど、思いのほか面白いことができず戻ってきた、というようなケースがケースとしてありました。データを活用できる人材がいたとしても、その文化がまだまだ根付いていないように見受けられることから、事業会社はデータサイエンティストとどのように向き合うことが求められているのでしょうか?
佐伯氏 私の感覚ではこの10年くらい、事業会社においても「アナリティクス部」や「DX推進部」を作り、データ活用に挑戦し続けている状況です。少なくとも、10人や20人のチームができて、組織化されてきていますね。
ただ、大きな問題として考えているのは、棟梁クラス(リーダークラス)の人材がまだまだ育っていないという点です。リーダークラスが育たなければ、育成や教育、評価が十分にできません。その点が十分でなければ、育成や組織化・体系化を実現することは困難となってしまい、結果的に人材が離れていくことになるでしょう。
「人材の流動化」と言ってしまえばそれまでですが、ある事業に特化して本当に変革を起こすまでには、その事業に関するネットワークと専門知識量を積み上げていかなければなりません。つまり時間を要するのです。それが成し遂げられるようにするための仕掛けが弱いのではないかと考えています。
近藤 ある程度年齢がいったリーダー人材がいればいい、というわけではなく、あくまで、時間的猶予が求められる育成や体系化がなされるためのリーダーを担う存在が必要ということでしょうか?
佐伯氏 はい、年次はあまり関係ありません。育成の仕組みや組織の中における役割の明確化などについて、まだまだ伸びしろがあると思います。
高橋 そもそもビジネス自体がある程度デジタル化していなければ、データサイエンティストを迎え入れたとしても「十分なデータがない」または「データ分析したもののアクションを取ることができない」といった環境下となります。ビジネスのIT化やITの整備が最低限整っていなければ、データサイエンティストは活躍できないですね。
そのあたりの必要性をはじめ、どういう状況になった場合にデータサイエンティストが必要なのか、データ分析のためには何が必要か、などに対する経営者のリテラシーが欠かせません。
現状では、デジタル領域に関する経営者の意識や知識のばらつきが大きいと感じています。
近藤 確かにブレインパッドでも、データ分析のご依頼をいただいたものの、いざデータ構造を見てみると分析できる状態にないというケースはよくあります。分析に必要なデータがなければデータサイエンティストは仕事ができないので、。事業会社側は自社の実態を把握できていないとチャレンジすらできないですよね。棟梁の言っていることが理解できない状況にもなると思います。
高橋 そういった状況の中に入って状況を整える、アドバイスをするということができる人が棟梁的な存在であると考えています。しかし市場では棟梁クラスの絶対数が足りておらず、大企業同士で棟梁クラスの人材が引っ張りだこになっています。結果的に中小企業や地方の企業にまで行き届いていない状況になっていると思います。
また、棟梁クラスの人を育てるのは大変で時間がかかるんですよね。なおかつ育成できる場が限られている。棟梁クラスの絶対数が少ない上に育成も追いつかないというところも、大きな課題の一つだと思います。
佐伯氏 平均的に見たら暗黙知の多い世界の中で、データサイエンティストはデジタル化やデータ化、見える化を果たさなければバリューを発揮できません。つまりはビジネス実態を把握し、整理し、推進できる叩き上げのデータサイエンティスト(棟梁)が求められているのですが、そのような人材を育て上げるにはもう少し時間がかかります。
近藤 現状は職業認知や検定による自己スキルの客観化はできているので、今後は「棟梁の育成」にデータサイエンティスト協会様や業界全体が着眼し始める流れになりそうでしょうか。いずれ「棟梁クラスの人材を〇人増やす」宣言などもあるかもしれません。
佐伯氏 そうですね。人的資本経営なども含めて、人材に重きを置いて考え直していくようなムーブメントになるかもしれません。
近藤 では、別の観点からの質問です。データサイエンティストという言葉がある程度認知されてきた一方、「データは触れるし、データ分析はできるが、データサイエンティストではない」という人が増えてきたのも事実かと思います。佐伯さんはこの部分に対してどのような印象を持たれていますか?
佐伯氏 データサイエンティスト協会ではそのような人たちのことを「データ使い」と呼んでいますが、ノーコード・ローコードツールが普及してきた現在、データ使いは増えてきていますし、どんどん増えて欲しいです。ただ、データ使いとプロフェッショナルデータサイエンティストは、連続性はあるにせよ、やはり差異はあります。
近藤 アドミン知識を持つデータ使いは歓迎するものの、データサイエンティストのプロフェッショナルとはまた別のお話、ということなんですね。そうすると今後「データサイエンスのプロフェッショナルになりたい」という人と「データ使いになりたい」という人は二極化するかもしれないですが、データサイエンティスト協会様としてはどのように考えられていますか?
佐伯氏 一つの例として、組織の在り方を紹介してみます。まず「データサイエンティスト」や「データエンジニア」を組織のセンターに配置し、社員全員のデータアクセス環境の基本を整え、最低限のスキルを教えていく。そうした場合あらゆる現場において、ファクトベースでデータに基づきながら意思決定を行える仕組みが根付かれます。
それでも現場で手に余るような難しいテーマを、データサイエンティストが拾って処理していく、というイメージです。
例えば広告のABテストはデータサイエンティストは恐らく不要ですよね。データサイエンティストがいなくても取り扱えるレベルのデータに基づいた意思決定を、あらゆる現場で行えるのが理想形の一つであり、そこを後方で支援する役割がデータサイエンティストになります。
手前(現場)にはデータ使い、後方にはデータサイエンティストを配置するのが今の主流です。現場で難しい問題が起きた時にデータサイエンティストが前に出るような役割分担が、組織でできるといいですよね。
今お話しした組織体制を踏まえると、データサイエンティストとデータ使いは両方存在していいと思っています。データを扱いながら、データ分析を専門職にしたい人が増えることもありますし、そういうキャリア形成も増えていくのではないでしょうか。
近藤 ローコード・ノーコード系の協会や従事者たちともっとコラボしていきたいですね。
佐伯氏 それでいいと思いますね。私も明確な線引きは必要ではないと思います。
近藤 昨今、マーケティングオートメーションやWeb接客、パーソナライズなどのツールの進化や一般定着化が進んでいるため、マーケターやプレイヤーの方々がデータに触れる機会は増加しています。そうすると「データサイエンス」と「データ使い」の境界が見えにくくなるようにも思いますが、そこには線を引く必要はなく、むしろデータに触れる人を増やしていく必要があるのでしょうね。
佐伯氏 データ分析とそれに基づいたアクションを実行する場合、その手段がノーコード・ローコードツールであっても、独自のコーディングであっても、どちらでも構いません。それよりもその行為が「ビジネスに対してどう意思決定するか」「会社に対してどう説得力を持つか」が大事であり、それは志の有無で変わってきます。ここが重要だと思います。
近藤 ここからは、DXのトレンドでもある「データ活用の自走化・内製化」のテーマに移ります。
今は事業会社を中心に、データサイエンティストの外注だけでなく自社でのデータ人材育成にも注力し、組織全体の成長を図る必要があるというお話があらゆるところでされています。少し抽象的な質問になりますが、この「自走化・内製化」について、佐伯さんはまずどのような印象を持たれていますでしょうか?
佐伯氏 自走化・内製化は進めた方がいいと思っています。事業は、データドリブンだけではうまくいきません。データだけを見ていると事業は絶対に転んでしまうためです。だから私はマーケティングのメンバーに対しては「データドリブンな山師であれ」とよく言うんです。
コロナや戦争といった予測不可能な事態が起きる世の中で、未来は必ずしもデータ通りにいきません。しかしマーケターとして先を読む力は重要です。ゆえにデータサイエンティスト的な能力とマーケティング能力を併せ持った上で、自走化・内製化が進んでいくと理想ですよね。
私が所属していた電通は「アイディアの会社」とよく言われていますが、電通のクリエイターに「どうやったらそんな素敵なアイディアが思い浮かぶのですか?」と聞くと、ほぼ全員が「データサイエンティスト」「マーケター」二つの視点を大事にしているようなお話しをしてくれます。。
アイディアだけ聞くと一見、論理から飛躍しているように感じるのですが、実は超論理構造が裏付けされているんですよね。
だから、事業会社が内製化する場合、「データサイエンティスト」と「事業側の役割」とのマッチングが重要であり、それこそがトランスフォーメーションの種になると考えています。
近藤 「仮説を立てる能力」は必須であり、それがあってこそデータ活用の自走化・内製化が成り立つわけですね。
高橋 データサイエンティストが適用される領域にもよると思います。例えばオペレーションを最適化するだけであれば、過去のデータを駆使して実施できます。
しかしオペレーションが崩れるような特殊要因が生じたり、新しい付加価値を作る必要性が出てきたりした時は、過去のデータとは非連続に物事を判断しなければならない。それを山勘で実施してはならず、必ず裏付けが必要になります。「実際にやってみないと先が読めない」事態でも、実行した結果を受けていち早く軌道修正するためにはデータが必要です。
変化が激しく先の読めない時代において、こういったアクションの精度を少しでも高めるには「データを見る」「データで検証する」サイクルを回せる組織であることが必須です。そのためには内製・自走が重要です。アウトソーサーがぱっと仮説を立てたりすぐデータ分析したりすることって、どうしても難しいので。だから内部で一定の経験を積んできた人材がデータ活用できるといいですよね。
それに、内部に仮説を立てられる人がいれば、逆に外部の人と連携もしやすくなります。切り分けも含めて内部に精通した人が必要ですね。
佐伯氏 もしかしたら、内製化の第一段階は、一部業務の外注化とそれによって作られる余白の時間を、内部の人間のリスキリングや学習時間に費やす、という動き方かもしれないですね。
近藤 最近のトレンドでもある「リスキリング」は、データサイエンスを進めるのに「必須」というよりは「プラスアルファ」と見なされているような状況なのでしょうか?
佐伯氏 「リスキリング」と言うと「転職」的な話になりがちですが、転職してしまうと、せっかくその企業の内部で培ったその領域特有のケイパビリティを手放すことになってしまいます。だから、企業の中ですでにプロフェッショナルな領域にいる人がさらにデータサイエンスを身につけた時に起こるシナジーの方が、よほど重要なリスキリングです。
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近藤 ここまでは過去と現在のお話でしたが、最後に「データサイエンティストのこれから」という未来のテーマに移ります。先ほど、データサイエンス領域が必須科目になっている大学もあるというお話があったかと思いますが、データサイエンスに関する学部のある大学がトレンドとして増えてきています。佐伯さんはこのあたりについて、何か所感はありますか?
佐伯氏 「データサイエンス」と言っても定義がかなり分岐することがあるので、あくまで社会人やビジネスパーソンが行っているデータサイエンスを見える化する必要があると思っています。「データサイエンスを実ビジネスで活用するとはこういうことである」というポイントを、要所要所で伝えていかなければ、単なる「知識」や「勉強」になってしまいます。
また地域の大学にもデータサイエンス学部があることから、なるべく地産地消で産業が活性化するような仕掛けについて取り組んでいきたいです。
近藤 地産地消をより高めることで、まだまだ十分にチャレンジできていない中小企業や地域創生などの活性化にも繋がり、日本全体のデータサイエンスが活かされるようになるわけですね。
佐伯氏 例えばヘルシンキやアメリカの各都市のように、産官学連携で高度化されていくのが普通の都市の活性化モデルだと考えています。日本は観光資源などをひっくるめて「都市」として成り立つ部分があるため、そこの勢いが増していくといいですね。
高橋 データサイエンティストの必要性と役割を社会に対して啓発・啓蒙するフェーズはある程度終えたと思っています。
なので今後は、実学であるデータサイエンスを学んできた人がこれからビジネスできる現場をどれだけ増やせるか、が重要です。協会として、この環境を次の5年〜10年で作っていきたいですね。
佐伯氏 急がなければならないですよね。もう、卒業生は出始めているので。
近藤 社会実装に向けたデータサイエンティストが今後ますます増えてくる世の中になりますね。そうすると支援会社側はどのように変わっていくべきか、もともと支援会社にいた佐伯はどう考えますか?
佐伯氏 私が支援会社を抜けた理由の一つに、「中途半端さ」がありました。事業にもっと深く関わりたいと思ったんです。ブレインパッド含め、多くの支援会社はもっと根を詰めて突っ込んでいかない限り、なかなか変革のようなものは起きにくいです。新しいものを作る現場ではより顕著になると思います。
近藤 最後になりますが、高橋さん、こういう形でブレインパッドとデータサイエンティスト協会様が交わったことで新たな未来は見えそうでしょうか?
高橋 今後はより積極的にコラボレーションしたいです。
これまでの啓蒙・啓発は協会単体で実施できました。参加していただいている企業様も、企業としての立場を捨てて公益のために尽くしていただいたと感じています。
ただ、今後は活躍の場を幅広くしていかなければなりません。協会自体のサステナビリティを考えてみても、いつまでも奉仕活動のように動くのは負荷が高い部分があるため、次の10年はもう少しビジネスや交流の機会を増やしたいという気持ちが強くなりました。
次の10年、この協会がサステナブルであるためにもそのように考えようという気持ちがより強くなりました。
近藤 ブレインパッドも「データ活用の促進を通じて持続可能な未来を作る」を掲げているので、サステナビリティに志を持って日々取り組んでいます。また当社には「データスペシャリスト」と呼ばれるプロフェッショナルが今450人ぐらいいますが、彼らがより働きやすい未来を会社として創っていかなければなりません。そういう意味でもデータサイエンティスト協会様とこれからも寄り添いながらコラボし、データサイエンティストをより働きがいのある職種にしていけたら本望です。
本日はこれで終わりとさせていただきます。長時間になりましたが、皆様どうもありがとうございました。
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