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西村 ここからは、実際にプロジェクトへ携わる中での難しさ、プロジェクトでのチャレンジについて、DXに携わられている皆さん目線で少し深掘りしていければなと思います。現場DXの難しさについて、一力さんからお話いただけますでしょうか?
一力氏 DXはデジタルトランスフォーメーションで変革を促す言葉です。実際、システムの導入・自動化は20〜30年前からあった話ですね。ただ、なぜDXという言葉が出てきたかというと、私は今でも「上手くいってないことの表れ」だと思っています。業務を標準化してしっかりと回しシステムも入れる・システムを入れて業務を標準化する、というのは教科書的には分かっていてもなかなか上手くいきません。
デジタルへ変える際に、「自社の業務プロセスを明確にして、どのように変えていくのか」を表すことが昔より複雑化しているため、より重要です。逆に、業務の標準化をせずシステムを入れた場合、以前であれば「機能しない・効果が出ない」だけでしたが、今は逆に競争力が落ちる場合もあります。そのため、業務の標準化は昔以上に大切かつ難しくなってきていますね。
西村 ブレインパッドも業務の標準化がキーワードかなと思っています。東さんはブレインパッド目線から、標準化の中で実際に困っていることや難易度はどのように感じられますか?
東 ブレインパッドは、データやアルゴリズムの立場からお客さんの課題を解決していきます。アルゴリズムが表現しているのは、「現場の高いノウハウや業務のやり方」です。そのときに、何を標準とするのかは、噛み砕きながら進めていく必要があります。例えば、生産計画を立てている担当の方が自分の業務を本当にわかっていないケースも少なくありません。
そのような状況の中で、「暗黙知や標準業務に付随する知識をどのように引き出していくか」、「アルゴリズムや仕組みとしてどのように定着させていくか」を考える必要があります。単に工業プロセスを変えてAIやシステムを使うだけではなかなか効果が出ないと思いますね。昨今は「標準の業務とは?」という点をより深く理解しなければならないところが難しいと感じています。
西村 共に実施したプロジェクトの中でも「標準化しなければならない」とか「暗黙知を棚卸すべきデータがあるから分析する必要がある」などの意見はよく言われますね。しかし、データを整理できる状態にするところからスタートするケースも多いため、データの利活用と標準化の話は表裏一体なのかなと思いました。
先ほどの話に戻るのですが、データを間違って使用した場合、競争力が落ちる可能性があると思います。そういった問題に対して、一力さんは何か普段考えられていることや課題感はありますか?
一力氏 先ほどは、インダストリアルエンジニアリングとデジタルDXという話題にふれました。そのうえで、業務の標準化を行う方法論はたくさんあると思います。パナソニックの場合は「インダストリアルエンジニアリング=業務プロセスの標準化」と定義していますね。これまでの100年の歴史で培った原理原則に従って、競争力という観点から考える場合、インダストリアルエンジニアリングを付加価値作業と非付加価値作業の2つに分けます。
例えば、「物流の中で探す、歩き回る」などの業務は非付加価値作業です。この部分は、デジタルで標準化を行えば、誰でも同じ業務が可能です。しかし、付加価値作業の部分は人間が行う、もしくはそれ以外のプロセスを変えることになるため、大切にすべきなのは作業がどちらに当たるのかということです。
そして、非付加価値作業を間違った業務プロセスで行ってしまった場合、今まで行っていた付加価値作業を全部なくすことになるというのは、既に体験しています。そのため、非付加作業を極小化していくところに最も注意していますね。
西村 プロジェクトの中で、付加価値作業と非付加価値作業は面白いキーワードかなと思います。ただ、例えば、「あなたたちのこの業務は付加価値で、この辺りは非付加価値だ」という前提でコミュニケーションしていくと、自分たちがやってきたことが否定されるように感じることもありますよね。その課題は普段、どのように乗り越えられているのでしょうか?
一力氏 製造業の場合の非付加価値作業は宝の山です。しかし、確かに他の業界に行った場合、「非付加価値作業と言われるとモチベーション的に落ち込む」という体験をすることは少なくありませんでしたね。そのため、現場の方々が誇りを持っている仕事を付加価値作業、3Kや5Kなどのきつい作業を非付加価値作業と言いかえ、「デジタルで置き換えると探し回る必要がなくなって楽になるよね」と解説しています。
そして、現場とコミュニケーションを行うことで、経営的には非不付加価値作業がなくなり、「コストが下がる・リードタイムが半分になる」といった効果までデータで示していくと最もうまくいくパターンかと思います。
西村 お客様からすると、「何を付加価値と感じ、非付加価値と感じるか」について、東さんの視点からも、いろいろと考えるところがあると思います。以前まさに飲料メーカーと一緒にトライしていましたね。
東 そのプロジェクトの企業は業界では先進的でしたね。例えば、需要予測や数理最適化で製造計画を作るなどを行っていました。しかし、課題として、「予測で出てきた結果の不明瞭な点を読み解く作業に実は人間が時間を使っていた」というケースも多くありました。
加えて、制約状況を設定し、いい結果を出すためにシステムを使用するといった、人間がシステムに使われているという現象も度々起こっていましたね。
そのため、最適化システムから良い計画を出すという目的は完全に遠ざかっていました。そこから、人間がどのようにしてより生産性を高められるかという点に対し、AIなどのデータを使いお客さんと一緒に詰めていきました。
西村 AIなら何でもできるという先入観があると、ブレインパッドとしてもプロジェクトの進行が難しいですね。「人間がやるべき作業は何か」から始まり「どのようにデータがプロジェクトに携われるのか」についても突き詰めていくと、意味のあるプロジェクトになっていくのかなという感じがします。
西村 インダストリアルエンジニアリングの標準化を行う業務プロセスでは、非付加価値作業と付加価値作業を分けていくという話があったと思います。では、これからデータ活用を行っていこうとしている企業に対して、サプライチェーンプロジェクトの進めるべきステップについて一力さんに伺ってもよろしいでしょうか?
一力氏 インダストリアルエンジニアリングの概念で「ボトルネック」という言葉があります。まず、基本動作として物流・流通・製造のどこにボトルネックがあるのかを探します。仮に物流がボトルネックだとしても、その中で輸送や倉庫、製品物流、材料物流もあるため、紐解いていく必要があるという考え方です。
一旦「ここがボトルネックだろう」と仮説を立てて、画像処理などで1週間〜1ヶ月間のデータを取ります。これらのデータは、統計処理をしないと使い物にならないほど膨大な量になるため、少しずつ処理をして仮説を検証することが大切です。
AIから出てきたそのままの情報を使うのではなく、AIはレコメンドで人間をサポートする役割であると徹底させています。そして、インダストリアルエンジニアリングの概念を入れ、データの中で仮説を検証し、ボトルネックを特定していく流れですね。
そして、特定し業務を標準化していく。ただ、気持ちのみで標準化していると元に戻ります。そのため、しっかりと回るようにデジタルでアシストするシステムを入れていく必要が出てきます。このようなプロセスで試行錯誤を繰り返していますね。
西村 東さんはプロジェクトの進め方について、ブレインパッドでも困っていることや気をつけている点はありますか?
東 生産・販売・在庫・計画実績のデータといった数量金額を示すものだと、本当にデータ量が多いです。そこから意思決定や最適化をしようと思ったときに、最初は確認できなかったデータをどのように取ってくるかで問題が発生することがあります。
場合によっては、アナログの紙からデジタルのエクセルへ打ち込みデータを作るところからスタートするケースも少なくありません。
例えば、適用後「本当に効果があるのか」と検証する際、データがないと判断できなくなってきます。そのため、データをきちんと電子化するところから始める必要があります。本当に経営的に意味があるのかを確認するために工夫してやっていますね。
西村 共にDXを推進していく、あるいは推進の主体であるお客様とのパートナリングで気をつけていくべき点についてお聞きしたいと思います。
一力氏 サポートしていただくブレインパッドを含め、周りの企業と組むことも大切です。しかし、自ら行うことも非常に重要だというふうに感じています。今の業務プロセスについては暗黙知であったとしても、実際に業務を回す以上に分かりやすい方法はありません。
例えば、「紐解き方をアシストするとしても、その業務プロセスがどうあるべきか、といった意見はユーザー企業でもしっかり考えたい」ものです。そのうえで足りない知見は、コンサルタントなどを利用して補っていく必要があると思います。
データについても、どのようなデータが本当に重要なのか見極めなければなりません。データに価値があるといっても、企業側にデータがない場合も多いため、知識として把握できる人材や役割を会社の中に置く必要もあるでしょう。
西村 東さんからも、実際に推進するパートナーさんが普段気をつけるべきポイントについて、メッセージがあればお願いします。
東 一力さんがおっしゃった通り、最も業務を知っているのはクライアントです。データのプロとして業務をやっていても、パートナーシップは重要だと思っています。例えば、AIやデータサイエンスでよい結果を勝手に出してくれると思ってしまうことは多いでしょう。
そして、納得できない結果が現れたときに、お客さんの「これは使えないのではないか」「本当にこれで大丈夫か」と心配になったとしても「0→1で判断しないこと」が重要です。データが揃えば、良い結果や人間が気づかないものも出してくれると期待できます。しかし、環境が変わるため、難しいところもあります。確率的な思考を持ちつつ、人間がどのように使いこなすかを共に考えることが重要ですね。
クライアントが最も引っかかるのは、成果として出てきたものに対する納得感でしょう。結果としては、「在庫数が下がったり、コストが下がったりしているのが分かるものの、理由が分からない」となってしまったら、使用しづらくなります。
この部分の説明はブレインパッドもできるものの、理由を求めすぎると人間の思い通りの結果しか出てこなくなり、データを使う良さが減少していきます。その点と納得のバランスが重要です。データサイエンスは万能ではないという前提で、システムと人間の関わり方を含め、共に業務設計をしていくという視点が大切ですね。
西村 ありがとうございます。私もよく「成果をコミットしろ」と言われてプロジェクトするものの、そもそも探索的なプロジェクトが多いため、相互理解や一緒にトライアンドエラーをしていくことが重要だと思います。
西村 最後に今回対談をしてみて、一力さんから見てブレインパッドはどのような会社に見えているのか、どのような可能性があるのかについてコメントをいただければと思います。
ブレインパッドからのパナソニックに対する目線で言うと、インダストリアルエンジニアリングに代表されるような実際に検証する場を持っていますよね。これまでの歴史的な知見があり、自ら試す場を持っていると。パナソニックの場合はデータも自社で取得でき、保守的なバリューチェーンというものもあります。end-to-endで整理されていて、さらに今後DX推進する上でパワーになりそうだなと感じられました。
一力氏 ブレインパッドに対して素晴らしいなと思っている点は、クライアントに伴走したうえで、苦労しつつもデータサイエンスを理解してもらいながら、「どんなことをしていけばいいのか」という点をアシストしているところです。
AI、データサイエンスというのを知り伴走しているからこそ、BtoBの業務プロセスの中にAIを実装できる代表企業だと感じています。実証実験で終わらず、実際に業務へ入れられている点は本当に尊敬していますし、素晴らしいと思っています。
西村 今回サプライチェーンマネジメントの現状とチャレンジを推進する上での難しさというテーマで対談させていただきました。目指すところとして、データの使い方やビジネスプロセスの変え方、もともとの出発点だったサステナブルな未来の作り方、持っていき方などに共感できました。
立場は違うものの、同じゴールを目指していくパートナーとして、今後もいろいろと切磋琢磨できたらと思います。
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