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一言で「データ分析」といっても、データサイエンスで解く問題の幅や深さ、またそれを適応させる領域は様々。
5~6年前まではお客様から依頼されるデータ分析の仕事は、適応領域こそ様々なものの、分析テーマは局所的なことが多く、その結果の活用先がどこに適用していきたいかが比較的明確でした。
しかしここ最近、DXに取り組む企業が増えてきたことに伴い、テーマも部署横断も増え、活用先は「経営の根幹」に関わるものに変わってきました。
必然的にプロジェクト規模や予算も大きくなり、分析の結果を活用する部署・ステークホルダーも増加し、プロジェクトも複雑化してきています。
それに対応するかたちでデータサイエンティストに求められる役割も広がり、もはや「データサイエンティスト=データ分析をしている人」という公式は成り立たない時代になってきています。
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そこで、ブレインパッドのデータサイエンティストとして第一線でプロジェクトを牽引する5名に、最新のデータ分析プロジェクト事情とそれぞれが直面している課題、その克服の仕方などを伺いました。
■座談会出席者
株式会社ブレインパッド アナリティクス本部 アナリティクスサービス部
・(前列左)田村 潤
・(前列右)岡崎 祥太
・(中段)辻 陽行
・(後列左)原 真一郎
・(後列右)兵藤 誠
※各人のプロフィールは後述。
DOORS編集部(以下、編集部) 最初に簡単な自己紹介とそれぞれどんなプロジェクトを担当しているか簡単に教えてください。
ブレインパッド・辻 陽行(以下、辻) 4月で新卒入社10年目になります。これまで多くの「需要予測プロジェクト」を経験しており、現在はアパレル企業様のプロジェクトで長く働いています。
ブレインパッド・原 真一郎(以下、原) 4月で新卒入社9年目になります。様々な業界、企業様とのプロジェクトを経験してきました。得意としている領域は、「予測モデル」の作成、「在庫最適化」、「画像内の物体検出」などです。
現在は総合商社様の食品SC(サプライチェーン)DXプロジェクトに携わっています。
ブレインパッド・岡崎 祥太(以下、岡崎) 4月で新卒入社8年目になります。一番長く携わったのが「Web広告関連のデータ価値向上」のプロジェクトです。データサイエンティスト、PM(プロジェクトマネージャー)を経験して、現在はデータサイエンスに関する専門的な知識を使って営業をサポートする、「プリセールス」を担っています。
ブレインパッド・田村 潤(以下、田村) 私は岡崎さんと同期入社で8年目です。現在は原さんと一緒に「食品サプライチェーンのDXプロジェクト」を担当していて、原さんと共にPMとして推進しています。
このプロジェクトでは、コンビニチェーンの専用倉庫における「発注業務の自動化」、「在庫最適化」を行ってきました。現在はこの仕組みを全国の倉庫やコンビニ以外の小売店向けの倉庫に展開する取り組みに参画しています。
ブレインパッド・兵藤 誠(以下、兵藤) 私はみんなとは違い中途入社で、ブレインパッドは6年目になります。社会人としては13年程です。ブレインパッドに入ってからは、嗜好品メーカー様で、「マーケティング分析」や「販売予測」の仕事をしています。現在はもう1社、生命保険会社様の仕事もやっていて、そちらでは「データ分析企画アドバイザー」としてお客様社内のデータ分析業務そのものの底上げを支援しています。
編集部 本座談会の事前ヒアリングで、みなさん、あまり「DX」という言葉がピンとこないという話をしていました。率直にこの言葉についてどう考えていますか?
原 私の場合、お客様である総合商社様が「DX」という言葉を前面に出していますから、ピンと来ないなどと言っている場合ではありません (笑)。お客様が考えるDXの文脈と自分たちの職種「データサイエンス」を照らし合わせて考えてみると、私がイメージするDXとは、「AIを活用した自動化の取り組み」というシンプルなものです。
編集部 その総合商社様は、グループ内DXの成果をソリューションとして外販するという構想もありますが、「社内向けDX」と「社外向けDX」にデータサイエンスの提供方法との違いのようなものはあるのでしょうか?
原 社内も社外もDXという意味で違いはないのですが、外販については、どのようにパッケージ化していくのかという難しい壁を乗り越える必要があると思っています。総合商社様のグループ企業と販売先の企業とでは、データも環境も業務もデータに対するリテラシーも価値観も当然違いますので、汎用的なモデルだけで通用するとは考えづらく、適宜モデルのチューニングが必要になってくると思います。この壁をどう乗り越えていくかが、今後の我々の腕の見せ所だと考えています。
編集部 兵藤さんが担当している嗜好品メーカー様は、いかがでしょうか?
兵藤 このメーカー様は、DXという言葉を標語としてあまり使っていませんが、かなり以前から、データを活用した様々な取り組みをされています。各部門やグループ会社で集まって、「データを活用してどう業務を変えたか」、「どういう新しい価値を提供したか」の共有に積極的に取り組まれています。
私が主に担当しているのはマーケティング分野でのご支援ですが、製造分野では自動化の取り組みも行っています。「データを使って新しい取り組みをしていこう」という意味では、言葉は使われていなくとも、これらはDXと捉えていいと思っています。
編集部 辻さんが担当しているアパレル企業様は、「AI活用」や「レジ無人化」などにも積極的に取り組まれており、それこそ「DXのトップランナー」の1社のように見受けますが、いかがでしょう?
辻 このプロジェクトも、実は全体を通して「DX」という言葉があまり使われないので、「DXの定義」としては、現場感として私はあまりピンと来ていないのが正直なところです。
編集部 なるほど。「DX」という言葉を使う・使わない企業様社内の違いはありつつも、言葉そのものに対しての意味より、「何をどのように未来を変えていくか」にテーマがあるということですね。ただ、皆さんが取り組んでいるプロジェクトを聞くと、世の中が注目している「DXのど真ん中」での活動だというイメージを持ちました。
まさしく「データ活用がDXの核心」であることを体現されていますね。
編集部 ここからは、皆さんのプロジェクトの内容をもう少し詳しく教えてもらいつつ、その中での苦労話などを聞かせてください。
原 総合商社様と共同でサプライチェーンの最適化に取り組んでいます。現在携わっているプロジェクトのエンドクライアントは、総合商社様のグループ会社である食品卸企業様です。商品出荷先の一つであるコンビニチェーンからの受注量を予測し、メーカーへの発注量を自動算出、自動発注するシステムを開発しています。
編集部 このプロジェクトの狙いは何ですか?
原 クライアントである食品卸企業様の「発注業務に関わる工数削減と在庫の最適化」です。人間が発注する場合、受注量の変動による欠品が発生しないよう、少し多めに在庫を確保する事が多いのですが、機械学習モデルを用いて受注量を精緻に予測することで発注量を適正化し、在庫をできるだけ少なくします。在庫が少ないと管理業務も減らすことができますし、さらには食品ロスの削減にも繋がります。
編集部 この総合商社様とはいつ頃からお仕事しているのですか?
原 2〜3年前から様々なお仕事をご一緒しています。現在取り組んでいるのは食品サプライチェーンのDXですが、最終的には「産業全般のDX」を推進するという大きな構想があります。
総合商社の実態はあらゆる業界にグループ企業を持つ「コングロマリット企業」であるため、グループ全体のDXを進めることが産業全般のDX化につながると考えてます。担当しているプロジェクトは、その”中心”ともいえる領域で、田村さんも私も仕事をさせてもらっていますがある意味、これまでデータサイエンティストに求められていた領域を超えるような視座で一緒に事業改革をしていこうという期待を感じていて、ワクワクしながらも身が引き締まる思いです。
編集部 かなり壮大な取り組みですね。プロジェクトを進める上で壁にぶつかったことはあるのでしょうか?
原 データサイエンス的な視点で言えば、一番苦労しているのは「データの整理」です。
初歩的な課題だと思われるかもしれませんが、DXを進める上で必ずと言っていいほどぶつかる壁です。特に今回のプロジェクトでは一社単体のデータではなく「複数企業のデータを統合して活用」しているため、状況がより複雑になっていました。壮大な取り組みであり、ある種特殊なシチュエーションですね。
まず、今回使用したデータは分析を行うために蓄積されたものではなく、業務の遂行に特化したデータだったので、履歴が存在しないマスタや使い回された商品コードが存在しました。機械学習モデルを作るためには学習用に過去データが必要となりますが、このような状態だと正しい情報を揃えることが難しくなります。
複数企業のデータを統合する際に明らかになった課題としては、在庫と売上のコードが異なる点が挙がりました。例えば、コンビニチェーンでは夏場に飲料を凍らせて販売しますが、同じ商品でも冷蔵時と冷凍時は販売コードが異なります。しかし卸す際は同じ常温商品として扱われるので、倉庫側でのコードは同じです。
このような運用上発生し得る影響を加味してデータを整理しないといけない。すなわちデータサイエンスする前の「実業務プロセスとデータの関係を理解すること=データの整理」が一番大変ですね。
編集部 データがきれいでない、整理されていないという悩みは他の案件でもよく聞きますね。原さんと同じプロジェクトを担当されている田村さんはいかがでしょうか?
田村 やはりデータ関係で一番苦労しています。原さんの話と重なるので、別の観点で話しますと、「現場を巻き込む力」ですね。我々の作った仕組みを実際に利用するのは実現場の方々なので、マスタの準備や課題のヒアリング、要件定義のための議論など、現場の皆さんの協力はDXの実現のために必須だと思っています。データ分析を机上の空論で終わらせず、いかに現場の皆様に「自分ごと」として考えてもらうか、そのためにどのような提案・コミュニケーションを取っていったら良いか。データサイエンティストが主として行う「データ分析」とは直接関係なく見えるかもしれませんが、実はこのようなところに最もパワーを使っていますね。でもデータサイエンスはあくまで手段で、それを用いて未来を作るために必要なことなので、こういう業務は非常にやりがいを持って取り組んでいます。
編集部 DX案件では、「現場の巻き込み」は永遠の課題かもしれませんね。続いて、辻さんいかがでしょう?
辻 2017年の秋頃から、アパレル企業様で、商品在庫の予測をしています。お店に置かれている商品が、バックヤードに溢れかえっても、欠品が生じてもどちらでもダメで、できるだけピッタリの数を納入できるように予測しないといけません。
編集部 一口に「在庫」に対する予測にもいくつかの分類と絶妙なバランスが求められているのですね。その中で今、苦労しているところは?
辻 別に珍しいことではないですが、ご支援している企業様には複数のパートナー企業が参画しています。我々がモデルを作ってから、それをシステム化しようという話になると、業務システムも複数社に渡り複雑に絡みあっているので、スムーズに進まないことも多くあります。先ほどの田村さんの話ではないですが、巻き込み力だけでなく、「ステークホルダーとの調整力も重要になってきます。我々が作るモデルがどこまでの影響範囲にあるのかを事前に見通しておき、それを先んじでクライアントに働きかける「先回り配慮」が必要だと思っています。
また、機械学習に対する勘所が阿吽の呼吸で分かり合えるような専門家との合意ではなく、様々なステークホルダーと仕事をすることになるので、「認識の合意」や「データの定義・処理内容の整合性」をとるのに想定以上に時間がかかることもあります。これについても同様に、先んじてクライアントと共有し、対策を立てていく必要があります。
編集部 時間がかかってしまうことで、どんな問題が生じますか?
辻 モデルが劣化してしまうことが考えられます。また、そのモデルの劣化を最小限にするためにモデルを都度アップデートする必要があります。他にも、その監視をどうするか、バグがあったらどう対処するかなど様々な問題が発生します。
兵藤 データ分析が現場で活かされる状態、すなわち「現場の理解」が得られるまでに、モデル作りよりも実は「巻き込み」に時間がかかることがあります。
私たちは機械学習モデルを開発している部署と仕事をしていますが、モデルのアウトプットに基づいてマーケティング・販促をするのは別部署になります。モデル開発部署が「良いものができたからどんどん使ってくれ」というと、販促部署も第一印象としては「それはいいね!」と答えるのですが、実際にモデルを使い始めるフェーズになると、各部署から「もっとこうしてほしい」「これはできないのか?」と様々な追加要望が出てきます。要望を組み込むことに時間を取られ、そこから遅々として進まないことを避けるために、あらかじめ関係部署、関係者を巻き込むことはマストであると思います。
編集部 プリセ―ルスの立場として、岡崎さんは最近ではどのような課題に直面されていますか?
岡崎 クライアントの課題をヒアリングし提案書を作成してお客様にご説明するということをしています。以前と比べると「業務オペレーションを変革したいのだが、どのように進めていくことがベストなのか一緒に考えてもらえないか」など、抽象的な相談が増えた印象です。
編集部 そういった場合、どうアプローチされているのですか?
岡崎 データサイエンスだけでは、「解くべき問い」を設定することは難しいと思います。そのため、コンサルチームを巻き込んで横断的に動きます。具体的には営業とコンサルタントとデータサイエンティストの3人で対応するようにします。抽象的な課題に対して、まずコンサルタントが多面的にヒアリングをかけ、解決のアプローチ・方向性を探っていきます。お客様の課題を解きほぐしながら、「データサイエンスで解ける問い」に再設計・再設定していくと言い換えるとわかりやすいでしょうか。
編集部 お客様の課題が大型化・複雑化しているからこそ、抽象的な相談から始まるのですね。その他、どんなことを意識していますか?
岡崎 本当に解くべき問いは、対面しているクライアントが見えている課題とは限らないということです。この仕事をしてきた気が付いたことは、業種を問わず、現実の問題の多くに、トレードオフが存在することです。一つの側面だけで問題を捉えると、全体最適化にはならず、短期的なプロジェクトの成功は出来ても、長期的には取り組みを見直す必要が出てきます。
たとえば、製造業でのサプライチェーンを考えると、在庫コストと物流コストはトレードオフが存在します。見かけ上の解きやすい課題に飛びつくのではなく「長期的に解くべき課題やKPIは何か?」という視点が求められます。
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