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※本記事は、「日経ビジネス電子版SPECIAL」に掲載された同内容の記事を、媒体社の許可を得て転載したものです。https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/ONB/21/brainpad0311/
りそなグループの金融持ち株会社、りそなホールディングス。2020年には、経済産業省と東京証券取引所が選ぶ「デジタルトランスフォーメーション銘柄」に銀行業で唯一選出されるなど、ビジネス変革にいち早く着手し、成果を上げる企業として注目されている。
同社が描くデジタル活用の理想形、そしてビジネスの姿とは――。りそなホールディングスのDXを牽引するデータサイエンス室、およびその立ち上げ当初からともに取り組みを進めるデータを活用したDX支援企業、ブレインパッドのキーパーソンに話を聞いた。
顧客のこまりごとや様々な社会課題に“共鳴(レゾナンス)”することで、新たな価値の創出を目指す、りそなホールディングス(以下、りそなHD)。この「レゾナンス・モデル」の実現に向け、同社が数年前から注力しているのがデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。
デジタル技術を駆使した新しい金融サービスによって、これまでにない顧客体験(CX)をつくりだす。生まれたサービスの一例が、2018年にリリースした「りそなグループアプリ」である(図1)。「スマホを銀行にする」をコンセプトに、最新のテクノロジーを活用したデジタルコンテンツの制作等を手がけるウルトラテクノロジスト集団のチームラボと共同開発したこのアプリでは、スマホファーストが当たり前になった現在の顧客が求める多彩な金融サービスを提供する。
「様々な取引を簡単操作で実行できることはもちろん、チャットで資産運用の質問をしたり、お客様の資産状況に合う金融商品の提案をプッシュ型で受けたりすることが可能です。従来は窓口でなければ受けられなかったサービスの多くを、スマートフォンで完結できるようにしています。おかげさまで、業界では異例の高いアクティブ率を誇っており、お客様の活発な資産運用につなげていただいています」とりそなHDの伊佐 真一郎氏は紹介する。
また、同様の改革はリアル店舗でも行ってきた。例えば、店頭に配置したセミセルフ端末「クイックナビ」を使えば、キャッシュカードだけで伝票レス・印鑑レスの取引が可能。17時までの窓口営業を実現し、来店客の利便性を高めたほか、店舗運営の省力化にもつなげている。
一連の取り組みが評価され、りそなHDは銀行業で唯一「デジタルトランスフォーメーション銘柄2020」に選出された。これは、DXに積極的な上場企業を、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定するもの。同社の取り組みの先進性が、広く認められた証といえるだろう。
もちろん、りそなグループが目指すDXは個々のサービスの立ち上げにとどまらない。
「りそなグループアプリが軌道に乗り始めた2018年後半から、より俯瞰的に、グループのビジネス高度化を考える必要性が高まってきました。そこで注目したのが『データ』です。リアル店舗からアプリまで、多様化する顧客接点で得たデータを分析・活用することで、各サービスの継続的改善に向けたPDCAサイクルを回す。同時に、一層の新規サービス創出やマーケティング高度化に生かしたいと考えました」(伊佐氏)
同社は、これらの取り組みを担う中核組織として「データサイエンス室」を立ち上げることにした。その際、データ利活用のプロフェッショナルとして、共に取り組むパートナーに選んだのが、ブレインパッドである。
「データサイエンス室は、その名の通りデータ活用をミッションとする組織ですが、一方で当時の社内には、データに強い人材が多くはおりませんでした。また、DXには常識にとらわれない発想が必要ですが、社内リソースだけでは旧来の銀行のイメージに縛られ、施策がガラパゴス化してしまう懸念もあった。そこで、データに強い外部の専門家にも参加してもらうことにしたのです」と現在、データサイエンス室の室長を務める後藤 一朗氏は説明する。
特に、ブレインパッドを選ぶ決め手になったのが、ブレインパッドが掲げる「自走化支援」というスタンスだ。
データ活用を進める際、分析業務自体はITベンダーにアウトソースするケースもある。しかし、りそなHDは、あくまで将来的には自社の社員が高度なデータ活用を実践できる体制にこだわった。「そうでなければ、お客様のこまりごとに先回りしたサービスの開発や、サービスの改善サイクルを高速に回していくことが困難だからです。組織立ち上げに向けたプロジェクトのマネジメント、必要な環境の整備から、将来の自走化に向けたスキルトランスファー、人材育成まで、当社が求める多様なノウハウを持ち合わせていたのがブレインパッドでした」と後藤氏は言う。
りそなHDとブレインパッドの取り組みの概要が図2だ。ブレインパッドは、データサイエンス室の立ち上げに伴う組織運営の全体設計や実際の運用、そして自走化に向けたデータ活用人材の育成支援などを行った。
「データ分析に必要なPCもシステムもないゼロからのスタートだったため、りそなHD様とやり取りを何度も繰り返しながら方向性を定めていきました。その過程で、『自分たちでDXをやり抜くのだ』という意識を互いに共有でき、一丸となって取り組むことができた。我々としても、得難い経験だったと思います」とブレインパッドの若尾 和広氏は振り返る。
こうしてデータサイエンス室は稼働を開始した。現在、データサイエンス室には全12人の社員・外部メンバーが在籍。ブレインパッドによる研修とOJTでのスキルトランスファーを行う中で、りそなHD社員の分析スキルはどんどん向上しており、既に複数のビジネス成果も出ているという。
例えば、金融商品の販売促進に向けては、DMを送付する顧客の一部をデータサイエンス室のりそなHDメンバー自らが行ったデータ分析結果に基づき抽出。すると、該当顧客の購買率はそれ以外の購買率の2倍以上を示したという。「私は当初データ分析に必要なエンジニア力を持っていませんでしたが、ビジネス部門との議論を重ねて、仮説を立てながら進めたことが一定のビジネス成果につながった理由だと思っています」とりそなHDの髙橋 秀行氏は話す。
また、外貨預金の領域でも新しい施策に取り組んだ。これまでは、主に一定の預貯金がある顧客に対して提案を行っていたが、りそなグループアプリ上の行動を分析すると、アプリの使い方と外貨預金の利用に相関関係があることが見えてきたという。「そこで、預貯金額を軸にしない新たな切り口でお客様を抽出し、その方々に対して提案活動を行ったところ、以前の約2倍のコンバージョンを達成しました」とりそなHDの寺田 洋介氏は言う。これらはまさに、りそなHDのデータ活用自走化が順調に進んでいることの表れといえるだろう。
「データサイエンス部門にとってブレインパッドは、DXに取り組む同志として非常に心強い存在です。必要に応じて経営トップとの会議にも参加し客観的な意見をしてもらうなど、ビジネスに深く関わってもらっています。今後も、サービスを提供する側、受ける側という関係性を超え、グループのDXを支援してもらいたいですね」と後藤氏は語る。
さらにブレインパッドは今回、データサイエンス室の立ち上げ・自走化の支援に加え、データ分析業務そのものも一部請け負っている。具体的には、りそなグループアプリの利用ログを解析することで、顧客提案の最適化などにつなげる狙いだ。「当社は、データ活用はビジネスで結果を出せてこそ価値があるものだと考えています。そのため、ログの分析に当たっても、『どのようにビジネス成果につなげるか』を常に意識しています。机上の空論に終わらせず、ビジネスに良いインパクトを与える方法について、これからも議論を重ねながら考えていきたい」とブレインパッドの藤井 良太氏は述べる。
銀行は社会・経済活動の根幹を支える重要な存在であり、あらゆる産業や消費者とつながりを持っている。その意味で、りそなHDが保有するデータは、まだ見ぬ巨大な可能性を秘めたものといえるだろう。「広い視野でデータの利活用を進め、銀行の枠を超えた社会課題の解決にも貢献していければと思います」と伊佐氏は強調する。
今後もりそなHDは、データ活用に基づく新しいビジネスモデルの創出とグループの価値向上を推進し、真に必要とされる銀行を目指していく。データサイエンス室がその役目と重要性を一層増していくことは、間違いないだろう。
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