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データドリブンがもたらす金融業界の未来(後編)

公開日
2022.12.02
更新日
2024.02.18

※前編はこちら

データの恩恵を最大化するためには「出島」ではなく「本島」で進めること

ブレインパッド・神野雅彦(以下、神野) 佐藤さんが、FDUAでもSBIでもどちらでも構わないのですが、実際の取り組みの中で、データを活用して得られる恩恵とはどういうイメージのものなのでしょうか。

FDUA・佐藤市雄氏(以下、佐藤氏) データを活用して得られる恩恵というのは、経営トップが思い描いているゴール、あるべき状態によって全然違ってくるのかなと思います。だからそこがふわっとしていると何をやっても不幸になってしまうと強く思います。

SBIの例で言うと、2012年に代表の北尾が「これからはビッグデータだ。とにかくビッグデータを徹底的に使いなさい」と言うので、全社的に始めたわけです。北尾からは具体的な指示は細かくもらえたわけではないですが、覚悟は伝わってきました。その結果、AIを活用し、CoEとして組織化がなされ、フィンテック、ブロックチェーンとどんどん発展したのです。これはトップのコミットメントがあり、それに向かってデータを使っていったのが大きかったのだと思います。

FDUA(一般社団法人金融データ活用推進協会)理事
佐藤市雄氏

このようなやり方と対照的に、江戸幕府が鎖国時代に長崎に作ったような「出島」を設けて、「やりたいこともまだ曖昧だから出島でまず小さくやりましょう」というパターンがあります。一昔前によくあったパターンですが、これが今本格的な成功に繋がらなくなっています。出島パターンから抜け出して、開国しようと決意すべき時代になっているということなのですが、その決意ができている金融機関はまだほんのわずかで、ほとんどが出島パターンを続けています。

開国はトップのコミットメントがないとできませんので、経営トップが「出島から抜け出して、開国しよう」と言い出さないといけません。そうしないとPoCばかりが続いてしまいます。

数年前まではそれでも良かったのですが、コロナで強制的にデジタル社会が到来し、価値創出の源泉がガラリと変わってしまった今では通用しません。出島ではなく本島、つまり「メインの事業でやれ」というトップのコミットメントが必要です。

結局本島から見たら、出島のことは他人事になってしまうのです。異国の人は出島にいて、こちらに入って来られないから我々は安心、だから変わらなくてもいいのだと思ってしまう。非常に良くないことだと思いますね。

神野 ブレインパッドの課題もそれに似ていて、元々は営業やマーケティング領域のデータサイエンスで成長してきた会社なのです。それは経営が本島だとしたら出島的な領域なので、コンパクトな領域での支援は得意ですが、組織的・全社的なデータドリブンの実現といった支援が求められるようになって、もっと態勢を整えていかないといけないと思っています。

佐藤さんがおっしゃるようにトップダウンで意思統一ができていて、メンバーも同じ方向を目指して仕事ができる状態が最良です。しかしどこの金融機関にも北尾さんのような方がいるわけではないので、ボトムアップで四苦八苦しながら、「マーケット部門で閉じています」「デジタル部門で閉じています」という会社が多いのです。そういった会社を全方位でサポートするための展開がまだできていないところがブレインパッドの課題で、そこをこれからはしっかりやっていきたいと考えています。

株式会社ブレインパッド
執行役員 内製化サービス推進
神野雅彦


人を育てることの重要性とそのために必要なこと

神野 そのためにもクライアント側の人材を育てないといけないと思っています。社員が1,000人いたら1,000人全部がデータドリブンでなくてもいいのですが、データについてよく知っている人が誰なのかを、みんながわかった上で仕事が進められればいいと思うのです。そのために他の対談でも言っているのが、データ活用のスターを作りましょうということです。スターが社内に何名かいて、その人たちがデータ活用の良さを社内に伝播するインフルエンサーの役割を担うのが効果的だと考えています。

佐藤氏 「人を育てる」という話は興味深いです。技術だけが先行していて、とにかく技術を取り入れろということでは上手くいきません。

幕末の幕政改革で、「江戸幕府は維持したい。なのでヨーロッパからテクノロジーだけを取り入れて、ヨーロッパの文化は取り入れない」と言っているようなものです。文化を取り入れずにテクノロジーを使いこなせるわけはないのです。そこに黒船が来て、危機感が高まってくると、もう幕政改革ではダメだ、明治維新だとなるわけです。

その状況に敏感に反応したのが吉田松陰で、「草莽で若者を育てよ」と言うわけです。

徐々にではなく、非連続的にデジタル社会に移行したということがはっきりわかります。そうであれば、やるべきことは幕政改革ではなく明治維新のはずです。

今必要なことは出世して幕政を変えるのではなく、維新を起こす人たちを教育することです。今日(取材当日の2022年10月13日)の朝刊の1面を見てびっくりしたのですが、「リスキリング」に関する記事が載っていました。それだけ世の中では、デジタル社会が到来したと考えられているのだと思いました。


内製化でベンダーの仕事も社内の仕事もなくならない

神野 教育の話になってきたので、目線を先に見据えて、未来の話をさせてください。

内製化に関する我々の定義をまずすると、先ほど「データを使うのではなく使いこなすのがデータドリブンの本質」と言いましたが、内製化も同じで「データを使うのではなく使いこなせる組織体」になっているかどうかが重要な判断基準になります。よく言われるITをアウトソーシングからインソーシングに切り替えることではなく、ビジネスをデータドリブンで回せるようになるのが内製化、すなわち自走状態と考えるのです。

よくある内製化の定義は、外部に依頼することなく、自社のビジネスをすべて社内リソースで遂行できることですよね。そのメリットは、総合的な効率化、コストダウン、コンピタンスの伸長などですが、デメリットもあります。少子高齢化で人が足りず、ならば今いる人を育てますと言っていたら、育つまで課題解決ができないので機会損失してしまい、企業成長につながりません。

さらには、ROIを追求しすぎて、結局チャンスを逃すことになってしまいます。

そこで、ブレインパッドとしては、内製化支援としてデータドリブンに係る成熟度評価や人材育成/分析伴走、組織組成/組織変革、ガバナンス整備、プロダクト導入、分析基盤整備をオファリングサービスとして展開していきます。そういうことを管理監督省庁や外部組織・団体を活用しながら、様々なビジネスプレーヤーとコラボレーションしながら進めていきたいと考えています。

この取り組みのゴールは何かというと、クライアントの企業価値を向上させることです。今やっていることをずっとやり続けるのではなくて、新たなビジネス展開をさせてあげたいのです。そのためには今やっていることをしっかりデータドリブン化します。一部分でもいいのです。そうすると、そこに新たなリソースと事業基盤が生まれるのですよ。

次に、データドリブンの取り組みが実現できてくると、データを活用した意思決定が迅速に実現できるようになってきます。すると、自然とビジネススピードが早くなり、時間的余裕が生まれます。これはデジタルやITが浸透して利便性が上がっているにもかかわらず、仕事に忙殺されている現状とは異なり、人材が変革していくイメージを指しています。
それが、生産性が上がるということです。今データドリブンがうまくいっている状態は、まさにこの状態を指しています。この成功体験を日本経済全体に展開していきたいのです。まさしく、クリエイティブエコノミーを目指すことを支援していきたいということです。

この説明をしていると「内製化を手伝ったら、御社の仕事がなくなるでしょう」ということをよく言われます。そのときに、iPhoneを例に出して理解を深めていただいています。iPhoneを使いこなせてはいるけど、作れませんよね。それと同じで絶対にプロデューサーや、ビジネスプラットフォーマーは必要になります。新しいテクノロジーや新しいビジネスを教えるには、そのための高い知識が必要なので、我々はそういうことのサポーターとして立ち回っていけばいいのです。

内製化支援から日本経済のデータドリブン化を目指す

神野 金融機関をガラリと変えて、一緒に新しいビジネスに取り組みましょうということも考えていますが、それだけではなく、我々としては日本経済を正しい形に変えていく、日本自体のデータドリブン化を目指していきたいと思っているのです。

佐藤氏 内製化は絶対に必要だと思います。内製化を実現するために考えないといけないのはITのアウトソースです。ITもコストとみなしスリム化して、ビジネスに集中すべきだという時代がありました。ではデジタルはITと何が違うのかと言うと、今までITと言っていたものがビジネスと一体化したものがデジタルなのではないかと思います。だとすれば、「デジタルで顧客に対してより良い価値を生み出すことができる能力を持った人たちが存在している状態」のことを内製化と言うのではないでしょうか。そう考えると、リソースを外から持ってきてはいけないとか、外から情報を貰ってはいけないとか、そういうこととはまったく違う話だと言えます。

神野 先程のお伝えしたこととは違う視点で、「データドリブンや内製化が進むと我々の仕事がなくなりますよね」と言ってくるクライアントやパートナーもいらっしゃいます。確かに今の仕事はなくなるかもしれません。なぜならそれは価値を生み出していない/価値を産まなくなった仕事だからです。あるいは、今までと同じ仕事の仕方ではなくなるかもしれません。そこで「今までとは変わって、これからはより高い価値のある仕事ができるチャンスが増えるわけだから、そのために新たなスキルを身に付けていきましょう」ということを回答させていただいています。そうすると不安が払拭され、前向きに取り組んでいただく足掛りへとつなげることが出来ます。

少し前に、AIに仕事を乗っ取られるという話がありました。これって表面的な意味しか表していないのですが、前向きに捉えると、AIがやってくれる分、新たな仕事をする時間ができるということです。AIに仕事を取られるといった短期的・短絡的視座で語るのではなく、中長期的で高い視座で「それは結局生産性が向上するということだ」と考えることが重要です。このように考えられる経営者がいる会社は今後も成長すると思うのです。ハサミと同じで、便利なものとして使うのか、人を傷つけるものとして使うのかということです。やはりうまく使いこなしたいわけですよ。そうなると本質的なことは企業としてどこに向かっていくかということで、その方向を決めるための支援が今クライアントから求められているのです。

内製化をトリガーに日本を再び経済先進国に

神野 「データの分析をしてください」「RやPythonを教えてください」に対して「はい。わかりました」もいいのですが、「どんな風にデータドリブンに変えて行けばいいですか」「組織をどう作ればいいですか」「どうすれば人が育ちますか」という問いに我々は答えていかないといけない。必要なことは、「データをビジネスにどう使っていけばいいか」ということで、それに向けてサービスや研修内容を一気に整備しつつあるところです。

最近の日本って、元気がないですよね。世界から見ても、日本はどうも経済後進国になってしまったと思われているようです。

この状況において、先ほどの取り組みの真の狙いは、再び先進国にすることに貢献したい。それを、内製化をトリガーとして取り組んでいきたいと考えています。また、ブレインパッドとしても、ビジネスプロデュースや事業プランニングも視野に入れた取り組みを考えていきたい。よく使っている例え話なのですが、富士フイルムが製薬をやり始めたように、銀行なら「銀行以外の仕事をしましょうよ。何ならクルマでも売りますか?」といった提案をしていきたいと思っているのです。あるいは「地元に根づいているからこそ、地域に根づいた公共支援の仕事なんかどうですか?」など。すでにしっかりした事業体があるわけですから、統合などと言っているのではなくて、次のビジネスを考えられるようになっていくといいのではと思っています。

佐藤氏 いいですね。我々もグループ内でのワークショップで、「どういうことができるようになったら仕事が捗りますか」といったことを聞くと、結構いろんな意見が出てきます。その大抵のことは、今のテクノロジーで解決できます。できないこともたまにありますが、もう少しすればできるようになるものがほとんどです。だから「みなさんが想像しているより、できることがたくさんあるのです」と説明します。

やはりやるのなら社会善に繋がることをやりたい。だからデータは使っていくべきものであり、その先に今神野さんが言ったように、金融から新しいビジネスが生まれてくることもあり得る。そういった会話がブレインパッドともでき、一緒に新しいものを目指していける。それと同じ状態をFDUAの中でも作っていかないといけないと思っています。

神野 どうしても横並びが好きな業界ですからね(笑)。でも、だからこそ、その中で成功体験を生むことで、浸透させていく形が作れるのではないかと思っています。

適切な競争ができる環境を作ることで金融業界を魅力ある業界にしたい

神野 佐藤さんとしては、FDUAを今後どのように発展させていきたいですか。

佐藤氏 適切な競争が大切だと思うのです。今は強い者と弱い者の圧倒的すぎる差があります。競争にならないのです。そういう状態を維持することで、みんなが幸せだった時代は確かにはあったのですが、このピラミッドを今放置していると、下のほうから崩れてしまいます。

銀行の今あるものの半分ぐらいが崩壊したら、「金融業界って魅力がないよね」ということになってしまいます。そうなると優秀な学生が来てくれなくなり、日本の金融業界が崩壊することにもなりかねません。日本経済にとって一大損失であることは間違いない事態です。

優秀な人が金融業界に行かない国が発展するわけがありません。ではどうしなければいけないのか言えば、やはり適切な競争が生まれるようにすることです。そのために底上げをしていく必要があります。

そういう観点からFDUAとしては、様々なアップデートをして、まず全体の底上げを図ることが直近にやらなければならないことと思っています。

神野 ちなみに、金融業界で協会を作ってうまくいかなかった例もありましたが、今回は管理監督省庁も入っているので、そこは心強いところだと感じています。

佐藤氏 出島ではなくて本島でやる、大砲をぶっ放されたから開国するのではなくて、しっかりと教育からやって維新を起こしていく。そういう時代の流れになっていることが共有されていたからこそ、FDUAという協会もできたということです。

神野 そういう意味ではエグゼクティブの交流会も作っていきたいですね。

佐藤氏 エグゼクティブ・ミートアップをやりたいという話も出ています。エグゼクティブが一気にやる気になってくれるのが一番早いですから。

外注先ではなく、一緒にビジネスを作り出すパートナーが求められる時代

神野 最後に金融業界のデータドリブン化に向けて、何かメッセージをいただけますか?

佐藤氏 別に好き好んでではなく、世の中の多くの人たちが突如デジタル社会に放り込まれてあたふたしているのが現在の状況なのだと思います。しかしだからこそ、私は以前からリスキリングのようなことを言っていたのですが、それが今になって注目されるようになってきたわけです。

FDUAの活動を通じて人の役に立てている実感があるのと、同じ志の人がこんなにたくさんいるのだなと思うと、とても楽しく取り組めています。

神野 我々もFDUAに所属して終わりということではなく、単なる情報共有の場でもなく、相互に参加されている方々と良いシナジーを生むことができると良いと思っています。

佐藤氏 そうですね。ビジネスでも何でも一緒にやっていけるようにしたいと思っています。

神野 ありがとうございます。夢や未来を語りだしたら止まりませんが、それだけ金融業界には可能性があり、これから伸びていくという証だと思います。これからも金融業界の活性化に向けて、尽力させていただければと思います。

本日は、長時間の対談、そして貴重なお時間、ありがとうございました。

佐藤氏 こちらこそありがとうございました。


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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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