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GDC(Game Developers Conference)とは、37年の歴史を誇る世界最大級のゲーム開発者向けカンファレンスです。
本年は2025年3月17日から21日(日本時間3月18日から22日)までの5日間にわたり開催。ゲームに関する考え方や技術、サービス、最新トレンドなどの情報が世界中の開発者たちによって共有され、講演セッションの数は700以上にも上りました。
国内外ともにゲーム業界は市場規模が伸長している業界であり、さらに生成AIなど新しいテクノロジーの導入が市場のゲームチェンジを促進しています。当業界においてもブレインパッドのAI/生成AIおよびデータ活用に関する技術力が活用できると考え、一部社員が参加してきましたのでイベントの様子をお届けします。
LLMとマルチモーダル検索技術を活用して、画像やテキストを同一ベクトル空間で検索可能に。膨大なアセット(3Dモデル、マテリアルなど)の管理と検索効率を飛躍的に向上させました。自然言語や参考画像から直感的な検索が可能で、大規模プロジェクトに有用な技術となっています。
ゲーム翻訳におけるマクロ・ミクロの文脈をAIで解析・理解することで、翻訳の精度を向上させ、従来数週間かかっていた作業を数時間に短縮しました。将来的には、単なる翻訳ではなく、ゲームのグローバル化のディレクションにも役立つと期待されています。
LLMを活用したストーリー生成の工夫や、DeepMindの自然言語で指示可能なエージェント「SIMA」により、プレイヤー体験の向上が期待されています。SIMAは今後、リアルタイム対話やエッジデバイス展開にも活用され、ロボティクスやシミュレーション分野への応用も見込まれています。
従来の「ゲームAI」はルールベースや統計的手法が主流でしたが、Ubisoftの感情表現NPCの導入や、iGGiの魔法のバランス調整など、複雑なゲーム要素の管理に機械学習が活用されています。これらのアプローチはプレイヤーの没入感やゲーム体験の向上に寄与するものです。
UbisoftはNPCの自然な挙動やFPSゲームのAIボットに機械学習を導入し、プレイヤーらしい動きやバランスの取れた対戦環境を実現しています。見た目においても、キャラの装備サイズ適応を自動化し、大幅な時間短縮を達成。これらの事例は開発効率とAIモデルの品質向上に大きく貢献しています。
EAはAIの大規模導入を支える中央集約型インフラを構築し、機械学習モデルのスケーリングを効率化。さらにTencentはDeep LearningベースのpLTVモデルでユーザー獲得(UA)や収益率(ROAS)を大幅に向上させ、広告費の最適化にも成功しました。これらの取り組みは、AIの持続的な発展と収益最大化に寄与しています。
Activisionは、大規模言語モデル (LLM)とモデル検索技術を活用し、数十万〜数百万点にも及ぶアセット(3Dモデル、マテリアルなど)の管理を高度化し、検索効率を飛躍的に高める仕組みを紹介しました。画像とテキストを同じベクトル空間で扱う「マルチモーダル検索」により、自然言語や参考画像だけで欲しいアセットを探せます。例えば「ヴィクトリア調の家具」「錆びた車」「キャンプ道具」など、曖昧かつ直感的なキーワードでも高精度な検索が可能となりました。
グローバル規模で大量アセットを扱う現場や、複数の制作チームが協働する複雑なプロジェクトにおいては、極めて有用性が高いソリューションに見受けられ、マルチモーダルとRAGが成果を生んだ実例として注目すべき内容でした。
また、Algomaticはゲーム翻訳におけるプロセスの効率化、コストの削減、品質の向上を目指したAI活用事例を紹介しました。従来の翻訳は翻訳者が人手で行うことで高コストかつ時間がかかる作業で、多くの障壁がありましたが、ゲーム世界の設定など、大きな流れを示すマクロコンテキスト、キャラクターのその時の状況を示すミクロコンテキストのふたつの「コンテキスト」を詳細に分析・理解し、AIに提供することで、より正確な翻訳を実現し、翻訳にかかる時間を従来の数週間から、わずか数時間にまで短縮しました。
将来的には翻訳の役割も深化すると考えており、単なる言語変換から、ゲームのグローバル化のディレクションに転換していくと考えられます。
ゲームディレクターのYuqian Sunさんは民話集『千夜一夜物語』にインスピレーションを受けたゲームを開発しました。このゲーム内でプレイヤーはヒロインとして王様に指示しますが、王様の返答内容をLLMが作っています。
ここでは、システムプロンプトでLLMの役割・出力形式の指示や、入出力例を与えてどのような出力をして欲しいかAIに教えるfew-shot学習、不適切な入力に対する対処ルールの定義により、プレイヤーが自由に入力しても安定した返答をするための工夫が紹介されました。プレイヤーの入力がそのときのストーリーのコンテキストに沿っているかをAIに評価させ、その評価結果に基づいてストーリーをAIに生成させるという2段階のタスクに分解するアプローチがとられているということです。
我々が企業の生成AI活用を支援する中でも「タスク分解」は非常に重要と認識しており、これを遵守することでゲーム内でも活用ができると改めて認識させられました。
また、DeepMindは、長年にわたるゲームを活用したAI研究の成果を背景に、自然言語で指示可能なエージェント「SIMA」を開発しました。これにより、ゲーム環境での実験結果を迅速に反映でき、開発プロセスの効率化とユーザー体験の向上が期待されています。
SIMAのさらなる高度化により、リアルタイム対話や長期計画の組み込み、そしてモデルの軽量化とエッジデバイス展開が進むことで、ゲーム業界だけでなく、ロボティクスや各種シミュレーション領域への応用も広がると見込まれています。本プロジェクトは、開発者が効率的に開発・テストを進め、顧客がより高品質で直感的な体験を享受できる期待がうかがえます。
ゲーム業界では、従来の「ゲームAI」としてルールベースや一部統計的手法を使い実装をしており、GDC2025でもいくつか事例が紹介されました。開発現場では機械学習の実装も始まっており、実装した機械学習モデルやその開発を支えるインフラの事例も提示されました。
UbisoftはOCC(Ortony, Clore, Collins)感情モデルと認知プロセスモデルを理論的基盤とし、NPCの感情表現を科学的かつ体系的にアプローチしました。
ゲーム内ミニゲームの勝利、選択、敵対者に関する異なる”信念”をNPCごとに個性として導入し、20種類の音声と感情アニメーションを開発することで、NPCがミニゲームの結果に応じて人間らしい反応をできるように。結果として、ゲーム内のNPCは単なる機械的な存在から、感情を持つ生き生きとしたキャラクターへと進化しました。
しかしこの取り組みはまだ完成形ではなく、感情反応のタイミング、感情の連鎖反応の複雑さ、ブラフの実行など、今後さらに深化させるべき課題も明らかになりました。このアプローチは、ゲームデザインにおける感情表現の新たな可能性を示唆し、プレイヤーの共感と没入感を劇的に向上させる潜在力を持っています。
また、Intelligent Games and Game Intelligence (iGGi)から、多種多様な組み合わせでオリジナルの「魔法」を構築できるゲームにおける、「魔法」の強さを可視化した事例が紹介されました。ゲーム内では、様々な魔法を組み合わせてひとつの魔法を構築でき、その組み合わせ方が多岐にわたるため、バランス調整が難しく、ときには想定外に強力な組み合わせも生まれます。
そこで、様々な組み合わせによる多種多様な魔法の「強さ」を可視化し、極端に強い/弱いものを特定することで、バランス調整を行いました。自動で生成した大量の魔法から、攻撃力、攻撃範囲、攻撃方法、特殊効果など、非常に多くの特徴量を抽出し、その高次元データを少数の変数に2次元に次元圧縮し、平面上にマッピングすることで、極端に強い/弱い魔法を特定しています。これにより、バランス調整のサポート、プレイヤー体験の質向上、開発効率の改善に寄与しました。
Ubisoftは、NPCの挙動を機械学習モデルで制御することで、NPCの自然な挙動、開発効率の改善を実現した事例を紹介しました。
従来のゲームAIでは、事前にすべての状況でのNPCの動きを周囲の環境が変わる度に細かく手動でプログラムし、非常に多くの工数がかかることが課題でした。そこで、次の移動先までの自身と周囲の状況をインプットデータとし、シンプルな構造のニューラルネットワークモデルで学習し、どんな状況でも自然にNPCを動かすモデルを構築。
これにより、従来のゲームAIよりコード量を大きく削減できた一方で、ブラックボックスなモデル故の挙動の原因の追跡・改善の難しさと学習コストの高さが新たな課題として顕出しました。
今後は機械学習モデルを説明するための仕組みや整備されたインフラを活用してこの課題を解決することで、機械学習のメリットをより多くのゲームで享受できるようになることが期待されます。
また、UbisoftはFPSゲームの新規プレイヤーの学習支援から熟練者向けのトレーニング用途まで広く対応するAIボットを開発しています。特に、マッチリプレイ機能を介して収集される大規模なプレイヤーデータを活用し、機械学習やクラスター分析を組み合わせることで、“よりプレイヤーらしい”動きや高度な戦略を実現するのが特徴です。
初心者がベテラン勢と対戦すると大きな実力差に直面するという課題を解決するため、開発チームではプレイヤーの練習環境を提供すべくAIボットを導入しました。従来の手作業によるデータ設定では追いつかないため、大量のプレイヤーデータを自動処理するパイプラインを構築しています。本講演は、“実プレイヤーの大規模データを活用することで、FPSにおけるAI挙動のクオリティを大幅に向上させる”実例として大変興味深い内容でした。データ収集からAIモデル設計までの一貫した取り組みは、FPSに限らず他のジャンルにも応用可能と考えられ、今後の発展が期待されます。
また、Blizzard EntertainmentのML/AI チームは、「World of Warcraft」にて、キャラの体格に合わせて装備のサイズを適合させる作業を自動化するための、機械学習を活用したソリューションを開発しました。3次元の点群データを処理するためのPointNetモデルをベースとしたアーキテクチャを利用し、複数のパーツをまとめて処理可能です。
体型別にモデルを学べば、さまざまなデザインの新しい装甲にも適用できます。これにより“新しいアーマーができるたびにモデルを作り直す”必要がなく、長期的にコストを抑えられるようになりました。以前はアーティストが数週間かけていた調整を、およそ数分で完了できます。微調整は必要なものの、全体として大幅な時間短縮につながり、アーティストはより創造的な作業に集中できるようになりました。
このような自動フィットシステムを導入することで、ゲーム開発側は“多種多様なキャラクターのためにアーティストが大量の手動作業を強いられる”という課題が大幅に軽減され、リソースをよりクリエイティブな部分に割り振れるようになり、今後の開発の効率化と品質向上が期待できます。
Tencent games からは、Deep Learningモデルを活用した顧客獲得・顧客育成の事例が紹介されました。ROASの向上などの効果も実際に確認されています。
この事例では、pLTV(Predicted Life Time Value) を定義し、Deep Learning((DNN ベース)にて推論する pLTVモデルを構築しました。UA(User Acquisition) の効率性を高めるものとして活用しており、人間の判断よりも優れている、ROASが大幅に向上した、という結果が出ています。
pLTVモデルは、登録時および登録から3時間後、6時間後のそれぞれのタイミングでpLTVを推論。その結果を検索等の広告プラットフォームに反映することで、効率的なマーケティング費用の配置を可能としました。登録時および特定の間隔でのユーザー予測を含むpLTVモデルのアプリケーションは、動的なイベントリターンを考慮しています。精度、量、および時間に焦点を当てながら、これらの要素のバランスを取り、UAのROASを向上させるために設定されているのです。 ケーススタディでは、Arena Breakout や Dungeon Fighter Online などのゲームでpLTVモデルを使用することで、ROASとリターン率が大幅に向上したことが示されました。GaaSにおいては初期支払い率が低くなるため、こちらの取り組みは向上に取り組むべきものと感じました。
Electronic Arts(EA)は、ゲーム開発におけるAIの大規模導入を支援するため、中央集約型のインフラとツールを構築しています。本講演では、どのようにしてAIのスケーリングを実現し、開発者やゲームチームにメリットをもたらしているかが解説されました。
EAではゲーム開発にAIを活用するためのプロジェクトが100以上進行しており、需要が急増しています。このニーズに対応するため、中央AIプラットフォームチームを設立し、スケールを容易にする全社的なAIのインフラを提供。
AIの大規模導入に向けて以下の3つの課題を特定し、それぞれサービスやライブラリの導入で課題解決を行っています。
本講演では、ゲーム業界におけるAIの大規模導入の具体的な方法が示され、今後のゲーム開発におけるAI活用の指針となる内容でした。
ブレインパッドは、GDC2025での視察結果をさらに詳細にご説明する機会として、ウェビナー実施を予定しています。
【ウェビナーはこちらから】
https://www.brainpad.co.jp/seminar/generative_ai/23059
世界最先端のゲーム業界におけるAI/データ活用の動向を知ることで、日本においてどの部分から検討・導入を進めるべきか、活用にあたって組織・規制・人材・文化をどうしていくべきかを、業界関係者の皆様と議論していきたいと考えています。こちらもぜひあわせてご覧ください。
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