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【前編】ゆうちょ銀行と語る「データドリブンな企業文化の醸成」の今と未来

公開日
2022.11.17
更新日
2024.06.04

ゆうちょ銀行は、「お客さまの声を明日への羅針盤とする『最も身近で信頼される銀行』を目指すこと」を経営理念とし、現在はデータ利活用に向けて、行内においてデータ分析力の強化と業務改善に取り組んでいます。

また、リアルとデジタルの相互補完により、顧客にとってより価値のある新しいリテールビジネスへの変革を推進しています。

今回、ゆうちょ銀行の小見山氏をお招きし、「データ利活用」を掲げ、データ活用人材の育成と組織開発を行い「データドリブンな企業文化の醸成」を目指す挑戦の今と未来について、プロジェクトメンバー・パートナーとして関わるブレインパッドがお話ししていきます。

■登壇者

  • 株式会社ゆうちょ銀行 営業部門 営業統括部 営業戦略室 グループリーダー 小見山 氏
  • 株式会社ブレインパッド ビジネス統括本部 データビジネス開発部 シニアマネージャー 櫻井 洸平

※本記事は、2022年11月1日に配信された、「<オンラインセミナー>ゆうちょ銀行と語る「データドリブンな企業文化の醸成」の今と未来」のレポート記事になります。

写真左から、ブレインパッド・櫻井洸平、ゆうちょ銀行・小見山氏

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リスキリングの意義などをより深く知りたい方はこちらもご覧ください。
なぜ今「リスキリング」が必要なのか?DX時代に生き残るための、人材育成の考え方と3つのステップ

本記事の登場人物
  • コンサルタント
    櫻井 洸平
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    アナリティクスコンサルティングユニット
    役職
    シニアマネジャー
    独立系SIerにて、オンプレ、プライベート、パブリッククラウドのインフラ全般の技術知識から、お客様へクラウドシフト、クラウド活用、クラウド推進のコンサルティングを経験。ブレインパッドに参画後 企業におけるデータ活用のためのシステム企画から、活用を推進する組織醸成や人材育成のコンサルティングをプロジェクトマネージャとして対応。

データ分析組織の必要性と人材育成

ブレインパッド・櫻井 洸平(以下、櫻井) 本日は、ゆうちょ銀行の営業統括部の小見山さんをお迎えして「データドリブンな企業文化の醸成」をテーマにお話しをお聞きしたいと思います。小見山さんがマネジメントとして関わっているデータサイエンティストの育成、データ分析組織を立ち上げる取り組みからお聞きしていきます。

株式会社ブレインパッド
ビジネス統括本部 データビジネス開発部
シニアマネージャー 櫻井 洸平

ゆうちょ銀行・小見山氏(以下、小見山氏) ゆうちょ銀行におけるデータ分析を行う人材の育成は2021年からスタートし、現在は2年目を迎えています。営業部門全部署から数人の育成対象者を選定してもらい、プロジェクトチームを組んで活動を行っています。

株式会社ゆうちょ銀行
営業部門 営業統括部 営業戦略室
グループリーダー 小見山 氏

2021年から参加している1期生が9人、2022年から参加の2期生も9名で合わせて18名の対象者に対してデータ分析人材の育成を行っています。データサイエンティストのレベルは初級・中級・上級に分けて育成目標を掲げており、21年度の成果としては初級7名、中級3名の人材育成を実施できました。

櫻井 18名のメンバーを育成している状況にあり、成果も出つつあるということですね。人材育成の観点からは、ブレインパッドも協力しつつ、最初にロードマップを描きました。 導入期・定着期・実装期の3段階を想定し、現場は定着期として人材が育っている段階にあります。 では、人材の成長に合わせて組織の組成にも取り組んでいますが取組状況はいかがでしょうか?

小見山氏 データサイエンティストについては社会的ニーズが高まっており、中途採用で人材を確保していくことは難しいことから、ゆうちょ銀行としては人材を内部で育てていくという方針で取り組んでおり、育成の内製化に向けては組織的に対応する必要があると考えています。

また、育成と合わせて分析基盤の整備についても組織として取り組まなければいけません。 分析基盤については、分析用のデータの拡充と高度化です。データ拡充について、現在は基本的には口座のトランザクションデータ等の構造化データを用いた分析を行っているのですが、今後は利用許諾に配慮しつつ、Web回遊データやテキストデータといった非構造化データを用いた分析に取り組むべく、データの蓄積等の対応を行っていきたいと考えています。

データの高度化に関しては、分析に必要なデータに素早くアクセスできるデータマートを構築しています。ただし、18名の育成対象者からは、「もっとデータマートを使いやすいものにしてほしい」というニーズがありますので、より多くの種類を用意したり、様々な観点のデータマートを用意することで、分析の高度化・効率化を図っていきたいです。

分析基盤の部分では、分析ツールに対しても注力したいと思っています。

2020年4月から統計解析ツールを導入しました。「PythonやRといったプログラミング言語を使用するツールの方が良いのではないか?」という議論もありましたが、プログラミング言語を自ら書いて分析することは難しいのではないかという観点から、比較的操作が簡単な分析ツールの導入に踏み切っています。

また、2022年4月には、機械学習ツールも導入しました。分析を高度化・効率化し多くのテーマを分析していくことも大切だと感じていますので、育成やデータ整備と併せてツールを整備することにも取り組んでいかなければならないものと思っています。

次はテキストデータを分析するツールを導入しようと計画しており、新たな視点での分析に取り組んでいく予定です。


データドリブンな企業文化の醸成

櫻井 組織の中で、データの拡充と高度化・内製化・ツール導入といった変化が起きているということですね。では、組織として目指しているものはありますか?

小見山氏 目指しているのは「データドリブンな企業文化の醸成」です。人やツールだけ拡充したとしても文化の浸透はなかなか厳しいといえます。そういった中で、データ分析の考え方などの研修は実行していたものの、これだけでは「データドリブンな企業文化の醸成」は難しいと感じています。

2020年4月に分析ツールを導入し、ツールを用いて分析を実施できるようにはなりましたが、このときの分析結果が乏しいものだったこともあり、「この先データ分析の結果が使われることはあるのだろうか?」といった懸念が生まれました。

その背景を考えると、プロジェクトメンバー以外は「分析結果を正しく解釈できていない」「分析に対して懐疑的な状態である」と想定されることから、「データ分析で何ができるのか」「 データ分析の結果をどのように活用していけばいいのか」 といった点、まさしく我々が目指している「データによる意思決定がどういったものなのか」を把握・理解してもらえるように文化を作っている状況です。

櫻井 ブレインパッドも様々な顧客と議論する中で「データサイエンティストだけがデータを使えればいいわけではなく、その結果を活かせるような組織が必要」という話しはよくあります。相乗効果を出すためにもデータドリブンな文化の醸成は大切だと私も感じています。

文化の醸成のための具体的な施策などはありますか?

小見山氏 1つ目は、ブレインパッドから提供されているe-learningコンテンツを社内のeラーニングに掲載して全社員が学習できる状態にしています。現在参加しているプロジェクトメンバーは全員受講をしています。統計に関する知識だけではなく、グラフ・報告資料の作り方などの実務に活かせる内容で良いコンテンツであると感じています。

2つ目は、「周囲を巻き込む」ことを目的に、分析するテーマを各部とワークショップで決めるといった施策を行っています。

2021年の段階では、分析経験のないメンバーが分析を実施するため、まずは各々の興味に合わせたテーマを自分で考えてで分析をしました。ただ、このケースでは周囲を巻き込む影響力がなかったため、2022年からはワークショップ形式で社内からテーマを取り入れる動きにつながりました。

ワークショップに関してはメンバーを選出している各部署の部長や管理者を集め、各部の今年度の目標や事業課題をブレインパッドにファシリテーションを実施していただきながらヒアリングから課題の明確化や、各部の部長・他のメンバーが考えていること・問題意識の共有ができたため、有意義なワークショップになったと思います。

洗い出された課題に対しては、ブレインパッドの経験を踏まえ、どのようなデータ・手法を使い、どの程度の期間で分析ができるのかを明確化していただき、実際に取り組む分析テーマを各部と決めました。このようなステップを踏むことで、プロジェクトメンバーが取り組む分析テーマが、各部の事業課題の解決に資するものであるということを周囲の社員にも理解が広がっていくと考えています。


データ分析のこれから

櫻井 育成対象の人材だけでなく、リーダーや役職、同僚とともに企業全体の課題感や事業の課題を周りの人たちと共有しながら進めていく姿勢が浸透しつつあるのは、私もよい状況だと感じました。

では、「データドリブンな企業文化を醸成する」ためのハードルの越え方はどのように意識されていますか?

小見山氏 人材育成や分析基盤の整備などに取り組んでいる中で、最も困難だと感じるのは、人材育成の部分です。 各部署からメンバーを選出してもらう際には分析作業に50%の作業時間を費やすことを条件にしましたが、結果は非常に難しいものでした。

分析においては頭と手を動かすことが大事なので作業時間の確保は重要ですが、「分析時間がなぜ確保できないのか」という課題に目を向けたときに、上司や同僚の理解と協力を得られる環境を作れていないと考え、2022年はワークショップの実施等で周囲の社員を巻き込む取組を実施しています。

櫻井 新しいチャレンジを行うことに時間がかかることに加え、環境づくりを行う場合、周りの理解や協力は必要不可欠ですよね。プロジェクトメンバーのモチベーション、周りの協力、プロジェクトを支える体制も含めて、良い環境が作られていると感じます。

小見山氏 周囲の社員を巻き込んでいく取組としては、Outlookのスケジュールで分析作業時間を共有したり、分析の進捗状況を周囲の社員と共有するという取組をプロジェクトメンバーが自ら実施することで、分析時間の確保に成功しているケースがありました。

櫻井 本人の意思と周りの協力が上手く相乗効果を出せている状況ですね。小見山さんとして「データドリブンな企業文化の醸成」を行うための指標はありますか?

小見山氏 データサイエンティストの人材育成を行うにあたってレベルを3段階に分けています。そのうえで、2024年3月を目標に、20名のデータサイエンティストを育成する予定です。 また、初級・中級・上級とレベルを分けたものの、その考え方も変えていく必要があると思っています。

例えば、データサイエンティストと一言でいっても、専門的な研究が向いているケースもあれば、ビジネス課題を見つけることが得意といった社員の特性を加味する必要があると最近では考えています。

そのため、データ活用を行う人材は、データ分析とビジネス課題の解決をつなぐビジネスアナリストと純粋なデータサイエンティストの2つのパターンに分かれる形式になる可能性があると想定しています。

櫻井 適材適所に人材を配置し、実状に合わせて体制を変えて行く姿勢は大切な要素ですよね。これからもデータ分析を進めていく・データドリブンな企業文化の醸成を行っていくにあたって、小見山さんの展望などはありますか?

小見山氏 最大の目標は「データドリブンな企業文化の醸成」ですが、目の前の目標として、「どこでも活躍できるデータサイエンティストの育成」です。育成が進むことによって人材の流出が進むという話もありますので、人事や働く環境を整えながらそういった課題には対応していきたいと考えています。

また、私は、データ分析に対する「楽しさ」を知ってほしいと感じています。データ分析は実際は泥臭く取り組んでいくもので、想定通りに前に進まないことの方が多いものです。 そんな中でも、悩みや苦しみを共有しながら、楽しみながら分析を行うようなチーム・組織を作りたいです。

櫻井 データ分析を行うためには、チーム組成を行う必要もあり、一人で散在しているデータをまとめる作業も大変だといえます。ただ、その中でチーム・組織として「楽しみ」を意識できる体制は本当に大切だと感じました。

小見山氏 データサイエンティストとって良い環境を作ることによって結果につながり、結果を出すことが出来れば、最終的には専門部署を立ち上げることにつながると想定しています。ゆうちょ銀行は「お客さまの声を明日への羅針盤とする『最も身近で信頼される銀行』を目指すこと」を経営理念としていますが、その理念を実現するためにはこれまで以上にデータを活用していくことが必要だと思っています。

櫻井 組織のためにもデータ活用できる体制が必要ということですね。分析の効果を特に出して行きたいポイントなどはありますか?

小見山氏  最終的には、お客さまにデータ分析の結果を還元していきたいです。多様化した顧客のニーズに対して、データサイエンティストの分析によって1to1マーケティングや潜在ニーズを引き出せるアプローチを実現していきたいです。

また、日本郵政グループの強みであるリアルチャネルとオンラインチャネルを融合したマーケティングも実現したいと思っています。 ゆうちょ銀行でのデータ分析はまだ2年目を迎えたばかりであり、ブレインパッドの力を借りて進めている状況です。人材育成・基盤整備の面も含めて、データドリブンな文化醸成の実現に向けて様々な取組を行っていきたいです。

櫻井 データ分析によって顧客への還元を目指していくという目標は、ブレインパッドとしても共に取り組んでいきたいです。未来の目標を共有できた点は、私も嬉しく思います。本日はありがとうございました。

この記事の続きはこちら
【後編】ゆうちょ銀行と語る「データドリブンな企業文化の醸成」の今と未来


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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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