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※本記事は後編パートです。
全国有数の患者数と診療実績を誇る歯科病院であり、また専門性・先進性の高い研究・臨床を展開する臨床系講座と世界トップクラスの研究を推進する基礎系講座を併せ持つ「昭和大学歯学部」。同学部は、「至誠一貫」の精神のもと、真心と情熱を持ち、歯学を通して医療の発展と国民の健康と福祉に寄与することをモットーに掲げています。そのモットーを実現すべく、およそ10年前からAI活用の取り組みを模索してきましたが、その道のりは平たんではありませんでした。
本格的に動き始めたのは、昨年秋にブレインパッドとパートナー提携を経てからのこと。歯学部歯科矯正学講座・中納教授、芳賀准教授、関助教を迎え、歯学領域のAI活用における課題と現在地、および今後の展望についてお話を伺いました。
※前編はこちら
【前編】歯科領域のAI活用の推進で健康寿命延長につなげたい~短期的な収益にとらわれず長期的視点でバリューを生むことが産学連携の鍵
DOORS編集部(以下、DOORS) 研究プロジェクトのこれまでの振り返りを、お1人ずつお願いします。
昭和大学・中納治久氏(以下、中納氏) とにもかくにも、早く結果が出て欲しいです。そしてそれ以上に、世の中に歯科領域でのAI活用の大切さを啓発し、互いに情報交換できるパートナーが増えていけばもっと理想的です。それによって学習データがさらに蓄積されることを期待しているのです。
昭和大学・芳賀秀郷氏(以下、芳賀氏) AIの話題から逸れますが、企業との共同研究を通じて勉強になっていることが、私たちのスピード感を大きく上回る手際良い仕事の進め方や、組織の作り方等です。これらは、私たちの組織を見直すという面でも良い機会になっています。また、あたたかい感情はありながらも、システマチックに物事を進める姿勢にも感銘を受けました。
今後働き方改革が医療領域にも浸透する中で、どのように時間を有効に使うか考えなければならないと、改めて思いました。
昭和大学・関美穂氏(以下、関氏) プロジェクト開始当時、我々が結集することでまず何が実現できるのか、一丸となって話し合っているうちにワクワクしたことを今でも憶えています。
これからは実データをどんどん活用することで、あらゆる結果が得られるだろうと非常に楽しみにしています。そのためにも必要なデータを収集し、データ提供を全うしなければならないと使命感を覚えますし、刺激も受けています。
株式会社ブレインパッド・鵜飼武志(以下、鵜飼) 想いのある方々と出会えたのが本当に嬉しく、私たちもその想いに負けないよう、一生懸命にやらないといけないと強く思います。
DOORS 世間一般のイメージですと、医療とAIの専門家同士の想いがぶつかり合って、刺激し合っている様子はなかなか想像できないと思いますが、まさに今それが実現していて、私も貴重な場面に出会えているのだと実感しています。
鵜飼 AIと医療の組み合わせはシステマチックに進みそうに思いますが、「絶対にこれを成し遂げたい」という突出する想いがないと前進しません。その想いにプロジェクト参加者全員が共鳴し、向き合っていることが良好な雰囲気を作っています。
株式会社ブレインパッド・藤本海人(以下、藤本) テーマ選定のためのディスカッションの中で、歯科領域のAI活用の可能性が絞り切れないぐらいあることを感じ、面白くて仕方がありません。一方で責任も感じており、このプロジェクトを持続可能なものにするためには初期段階で目に見える成果を出すことが大事だと、身が引き締まる思いでもあります。
株式会社ブレインパッド・千葉紀之(以下、千葉) 技術者視点で言いますと、実際に現場で利用されているデータがようやく使えることにワクワクしています。その結果が世の中にポジティブな影響を与えることももちろん意義を感じますが、技術的観点でも同様であると思っており、大きな期待感があります。本当に、これからが楽しみです。
株式会社ブレインパッド・飯田大希(以下、飯田) 私は研究テーマの模索、関連論文の調査、研究テーマのデモアプリ作成を着手させていただきました。実際に10個以上の研究テーマを提案しました。本音としては全てのテーマに着手したい思いですが、「実現可能性」および「短期間で成果が見えやすい」という観点でさらにテーマを絞りました。また昭和大学様にいち早くイメージを持ってもらうために、デモアプリを通してテーマの実現可能性を議論することができました。総じて非常にスピーディにテーマ選定が進めることができ、これからの本研究の発展が楽しみです。
DOORS プロジェクトに応募したときの想いや目的は叶えられましたか。
飯田 概ね叶えることができました!特にX線CTのデータは、特有の規格で記録されており、扱うにはある程度の時間を要すると思います。私は学生時代にそこを苦労したため、より本テーマの核心に多くの時間を割くことができました。また実施テーマを実現させることで、患者様の健康寿命延伸に貢献できるとなるとより一層身の引き締まる思いです。
DOORS 昭和大学様は、ブレインパッドの知見やアプローチにどのような所感を持たれましたか。
中納氏 素晴らしいと思っています。私たちはそれぞれ勝手な思いをとりとめもなくぶつけるだけなのですが、それに対して本当に真摯に寄り添ってくれます。AIの研究なのに、あたたかいと感じます。
芳賀氏 徳井直生さんの書籍「創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語」に出会い、その内容やライフスタイルに感銘を受けました。その時の印象で、AIはとてもクリエイティブな領域であり、AI活用は楽しそうだと感じました。
しかしながら、やはりAIは冷たそうにも思い、自分にはあまり縁がないように考えていたのです。その中で今回、本プロジェクトに声をかけてもらって、魅力的な方々とチームを組んでAI研究に取り組むことができました。とても恵まれていると感じています。
関氏 歯科矯正という分野で専門用語が行き交う中、調べ直した上で、話し合ったことを毎回スライドにまとめてくれました。そのおかげでやり取りが活発になり、毎週1回の対面ミーティングのたびに理解を深めているなあと感じていました。理解を深めながら、成果物を形作っている様子が好印象でした。
DOORS 共同研究の今後の展望について、すでにいくつかお話をいだいていますが、あらためていかがでしょうか。
中納氏 伝えたいことがありすぎるので、絶対に言いたかったことを1つだけ言わせてもらいます。私の趣味は老後設計で、30代から取り組んでいるのですが、データを活用することで患者さんにも老後設計ができるような未来予測を提供したいと考えています。
歯科治療は通常、1回で成功するのか失敗するのかよくわからない面があります。私たちは、治療前・治療後・治療数年後のデータを取っていますので、これらのデータが大量に集まると、新しい患者さんと対面した際の未来予測がある程度でき、失敗が少ない治療計画を立てられるようになるでしょう。
特に矯正治療は長く時間がかかるので、結果が出るまで待っていられないという患者さんも多いのです。そんな人たちのために、似たような症例のデータを使って未来予測ができれば、安全性の担保になります。老後設計のマインドも安全性の担保なので、患者さんの未来予測とマインドが一致します。要するに患者さんの安心・安全につながるということで、ぜひ実現したいのです。そのために今後も協力をお願いします。
DOORS ブレインパッドでは、今後の展望をどう考えていますか。
藤本 1つの大きな目標は、今回のプロジェクトで得た成果をソリューションとして形にし、より広く世の中に届けていくことができたらと考えています。
DOORS 歯科領域のソリューションということですか。
藤本 はい。まずは歯科領域で他の大学や病院に横展開できればと思っています。鵜飼からも「プロジェクトを自己満足で終わらせてはいけないという話がありましたが、今回の成果を他領域でも応用できることを証明することで、会社としてもこのプロジェクトを1つの成果と位置づけることができ、プロジェクトの持続可能性が高まります。そこを常に意識しています。
DOORS 今の藤本さんの展望は、中納先生の想いにもつながっていますね。
DOORS 歯科領域のAI活用にはどのような可能性があるとお考えですか。
中納氏 今見えているテーマを1つ1つ着実にこなしていき、最終的には「国」を動かしたいと考えています。その際には歯科にとどまらず、医科も含めて、不必要な重複した検査を排除していきたいのです。マイナンバー保険証で基本的な情報共有ができるように国が進めていますので、それに連携する形で検査データを貯めていければ、すでに実施した検査を重複しなくて済むのではないか、と思うのです。一方で、その検査データをAIが自動解析して、歯科にも医科にも有効なデータを提供が提供されるようになるようにしたい。
もしかしたら水面下でそのようなプロジェクトが進んでいるかもしれませんが、そうであったとしても、私たちの研究成果がそのプロジェクトの役に立てばよいと考えています。
現在は医科・歯科と分かれていて、その間の連携があまりありません。しかし医科と歯科が連携することは、お互いにプラスのはずなのです。歯科と医科との検査結果がリンクして、相関性が見えるようになれば、医科の病気を治すには歯科の病気も治さなければならない、となります。お互いメリットを享受することで、垣根を越えたいです。
DOORS 歯周病が内臓の病気の原因になっていると言われていますが、現時点では医者同士でリンクしていないのですね。
中納氏 論文は数多く書かれていますが、その証明にはデータによるエビデンスがもっと必要です。歯周病と認知症との関係も言われ始めましたが、それも医科と歯科がリンクした研究が必要になります。医科と歯科のリンクで、健康寿命を延ばす方向に進めたいという考えです。
昭和大学は来年から医科も歯科もある総合医学大学であることを周知するために、昭和医科大学に改名します。つまり元々医科も歯科もある大学にいるので、医科と歯科の連携という発想をしやすかったというのもあります。
国を動かすなどと大きいことを言いすぎて、結局何もできていないと言われるのも悔しいので、とにかくやれることを小さいことからコツコツとやっていくことが肝心だと思っています。
DOORS 産業連携プロジェクトでブレインパッドとして意識しているポイントや、ブレインパッドならではのアプローチ、あるいは発揮したいバリューなどについて聞かせてください。
鵜飼 産学連携では、「学」が企業に対して期待していることを、私たちは強く意識しないといけないなと思っています。学術機関や医療機関が企業に求めるものは、AIの専門知識・別業界や別産業の動向など、要するに自分たちが持っていない専門知識です。さらに産学協同の成果を世に広げるためには、どのようにビジネス化を進めるのがよいか等の観点やノウハウ提供も求められています。このように、何を求められているのかを常に意識して進めていく必要があると思っています。
その上で、私たちならではのアプローチとしては、エンターテインメントの事例を歯科領域に応用するなどという、少し突飛なことも考えることです。そのためにはAIのユースケースを大量に持っていなければなりませんが、ブレインパッドは多くの企業様との活動・プロジェクトを通じて、多くの情報・ユースケースを多数保有しているのが強みです。
ブレインパッドの1番の強みは、データサイエンティストが200名在籍していることです。これは国内有数だと思います。多数のデータサイエンティストの知見があるおかげで、AIをどう使うか、逆にどう使ってはいけないのかという切り分けができます。この切り分けこそがブレインパッドならではのアプローチであり、それによって正しいデータ活用やAI活用ができると思っています。
DOORS 特に医療業界だとAIの倫理的問題はすごく大きいテーマですので、ブレインパッドのそのアプローチは重要なのではないでしょうか。
鵜飼 AI活用はまだまだ、非常に多くのセキュリティー問題や重大なハルシネーション(生成AIが誤情報を作り出す現象)の発生しそうな分野です。セキュリティーや倫理問題、データ保護の観点などさまざまな問い合わせがブレインパッドに送られています。それらを総合的に踏まえた正しい使い方を設計しなければなりませんし、それができるということですね。だからといってリスクに臆病にならずに、ビジネスインパクトもきちんと出しながら、どう使っていくのかを意識していきたいと考えています。
DOORS データサイエンティストが強みという話がありました。データサイエンティストのマネージャーである藤本さんは、どういうバリューを提供していけそうですか。
藤本 これまでやってきたプロジェクトから得た知見を適切に、今進めているプロジェクトでも発揮することがバリューを生むことにつながると思います。そのためには他のプロジェクトを経験したメンバーの知見や、同じような課題を過去に乗り越えたケース・ナレッジを活かすことを意識しています。
DOORS ナレッジ共有のための具体的な取り組みを教えてください。
藤本 ブレインパッド社内の仕組みで言えば、プロジェクト報告書の提出が義務づけられているので、それを読み込むことが1つです。それで過去のプロジェクトではどういった課題があって、それにどうアプローチして乗り越えたのかが明らかになります。報告書だけでは分からないところは、ヒアリングします。先ほどのエンターテインメント業界のソリューション適用に関しても、飯田がそのソリューションを開発したプロジェクトのメンバーにヒアリングしました。
DOORS ナレッジ共有にAIは活用していないのですか。
藤本 ChatGPT的なUIで社内のドキュメント検索できる仕組みがあり、そこではAIを活用しています。
鵜飼 ブレインパッドでは、社内の知見が埋もれないよう、生成AIを積極的に活用しようという機運があります。特に検索や要約での活用は進んでいると思います。そもそも私たちが使っていないとお客様にご提案ができないので、これからも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
DOORS 最後に中納先生からまとめをお願いいたします。
中納氏 私自身、今キラキラと気持ちが輝いています。話は少し大きくなりましたが、1つ1つクリアして実績を作っていき、世の中に発信できるところにまずはたどり着きたいと思っています。そのためにも、今後とも何卒よろしくお願いします。
DOORS 本日はみなさま、お忙しい中貴重なお話をありがとうございました。
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