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ChatGPTで記述式アンケート解析がゼロコストに|LLMを経営効果に変えた!東京電力エナジーパートナーの生成AI活用事例

公開日
2024.04.15
更新日
2024.04.16
ChatGPTで記述式アンケート解析がゼロコストに|LLMを経営効果に変えた!東京電力エナジーパートナーの生成AI活用事例

みなさんは、自由記述アンケート解析に苦労されていませんか?今やお店・レストラン・商品・観光地など、あらゆるものでアンケートがセットになっています。アンケートは貴重な情報源であるものの、その解析の多くは人手に頼っているため、ユーザーの重要な声を拾いきれていないことが少なくありません。

一方、2022年のChatGPT登場以来、LLMLarge Language Model|大規模言語モデル)は急速に普及し、現在では数億人の人々が日常的に利用しています。しかし、急進的な広がりの一方で、多くの企業は悩みを抱えています。それはLLMによる業務変革です。LLMは便利なツールとして社員ひとりひとりの業務効率を高めているものの、業務プロセスの変革に至った例はほとんど耳にしません。

本記事では、東京電力エナジーパートナー株式会社(以降、東電EPと略記)が成し遂げた事例「LLMを用いた自由記述アンケート解析の業務変革」をお届けします。あらゆる企業が有する顧客や従業員の自由記述アンケートに対してLLMがどのように活躍したのか、さらに業務実装まで踏み込めた秘訣を紐解いていきます。

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本記事の執筆者
  • 株式会社ブレインパッド データサイエンティスト 岡田直樹
    データサイエンティスト
    岡田 直樹
    NAOKI OKADA
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    アナリティクスコンサルティングユニット
    役職
    マネジャー
    ゼロイチのデータ分析に強みをもつデータサイエンティスト。学術研究の経験を背景に、前職では計算科学コンサルタントとシステムエンジニアを兼務。AIサービス事業を立ち上げ、企画からマーケティングまでを統括。ブレインパッドでは、材料開発・売上改善・特許請求に関するデータ活用の要件定義・分析・プロトタイプ開発を主導。ビジネス・アナリティクス・エンジニアリングの横断的な経験を活かし、未開拓分野のデータ活用に突破口を見出す。
  • 東京電力エナジーパートナー株式会社 南條氏
    南條 秀典
    HIDENORI NANJO
    会社
    東京電力エナジーパートナー株式会社
    所属
    DX推進室データアナリティクスグループ
    役職
    データサイエンティスト兼チームリーダー
    銀行、化粧品、人材業界を経て、2020年に一人目のデータサイエンティストとして東京電力エナジーパートナーに入社。データアナリティクスGのチームリーダーとして分析組織の立ち上げを経験。現在はチームビルディングやデータ利活用戦略の策定、各種データ分析案件の推進を担当。専門はベイズ統計学。
本記事の登場人物
  • 東京電力エナジーパートナー株式会社 奈良氏
    奈良 渡
    WATARU NARA
    会社
    東京電力エナジーパートナー株式会社
    所属
    DX推進室データアナリティクスグループ
    役職
    グループマネージャー
    1998年東京電力入社。マーケティングやDX戦略部門等を経て、現職。現在は、データ分析専門組織のマネジャーを務め、データ活用を推進中。
  • 東京電力エナジーパートナー株式会社 笹山氏
    笹山 悦宏
    YOSHIHIRO SASAYAMA
    会社
    東京電力エナジーパートナー株式会社
    所属
    DX推進室データアナリティクスグループ
    役職
    データサイエンティスト
    空調メーカー、コンサルティングファームを経て、2021年東京電力エナジーパートナー入社。主に、電力需要想定や人事分野のデータサイエンスやデータエンジニアリング等の業務に従事。
  • 東京電力エナジーパートナー株式会社 丸山氏
    丸山 晃平
    KOHEI MARUYAMA
    会社
    東京電力エナジーパートナー株式会社
    所属
    DX推進室データアナリティクスグループ
    役職
    データエンジニア
    SIer業界を経て、2020年東京電力エナジーパートナー入社。主に社内分析システムの保守・運用を担当し、データエンジニアリング業務に従事。
  • 株式会社ブレインパッド 本山
    データサイエンティスト
    本山 遼
    RYO MOTOYAMA
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    アナリティクスコンサルティングユニット
    データサイエンティスト。前職では化学メーカーにて材料開発に従事し、DX担当としてマテリアルズインフォマティクスをゼロから立ち上げた。物性予測モデルの開発やデータ収集環境の整備で成果を挙げたほか、データ駆動型研究の啓発を主導し組織改革にも取り組んだ。ブレインパッドでは広告出稿支援を目的としたユーザー行動分析や可視化、ソリューション開発を経験。丁寧で粘り強い分析に強みを持つ。
  • 株式会社ブレインパッド 鵜飼
    コンサルタント
    鵜飼 武志
    TAKESHI UKAI
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    アナリティクスコンサルティングユニット
    役職
    ディレクター
    外資系コンサルティング会社にてキャリアをスタートし、データ活用・分析を起点とした経営改革・業務変革を強みとする。2023年よりブレインパッドに参画。 データを意思決定や業務に活用し、経営効果創出に至るためのプランニングから、顧客分析結果を基に施策を企画し、データに基づくマーケティングプロセスの設計支援を主に提供。

数千に及ぶ自由記述アンケートを人手で解析する大変さ

数千に及ぶ自由記述アンケートを人手で解析する大変さ

製品や従業員の満足度調査では、選択式と自由記述のアンケートが定番です。選択式の回答は傾向を数値化できる一方、自由記述の回答は全体像の理解が非常に厄介です。東電EPでは、人財戦略・育成推進室が組織診断アンケートの自由記述欄の解析に苦労していました。

人財戦略・育成推進室が組織診断アンケートの自由記述欄の解析に苦労

東電EPでは、組織診断アンケートを年2回実施しており、2,800人の従業員それぞれから、3問の自由記述回答を集めています。ひとつひとつの回答は、平均で48文字、長いものでは595文字にも及ぶ長文も含まれます。この膨大な文章すべてに目を通すだけでも、如何に大変な作業かは、想像に難くないと思います。それに加えてアンケートの解析作業は、単に読むだけでは終わりません。アンケート結果を現場で活用して貰うためには、集計・整理の作業が必要となります。具体的に人財戦略・育成推進室の担当者が行う作業は、次のプロセスです。

  • 数千の自由記述回答を読む
  • どのような回答があるか、カテゴリ(人間関係や職場環境改善など)を網羅的に洗い出す
  • それぞれの回答をカテゴリに分類
  • 部門別に回答を整理して配布

これだけでも大変な作業ですが、これだけでは終わりません。次はアンケートを受け取った側の苦労が待っています。人事部で整理したアンケートは、部門の管理者に届きます。管理者は、次のプロセスを実施します。

  • 自部署の課題を読み解く(部署の規模によって数十~数百のアンケート回答に目を通す)
  • 優先的に対処すべき自部署の課題に対して対策を立案・実行する

従業員の生の声を聴くことのできるこのプロセスは、組織にとって重要な業務です。しかし、多忙な管理者にとって、アンケート結果を解釈して部署の改善に活かすことは決して少なくない負担があり、対策の立案はどうしても属人的にならざるを得ません。 上記のような人事・部門管理者双方の苦労は、時間に換算すると数百時間に及んでいました。次節では、この課題解決のきっかけとなった人財戦略・育成推進室とDX推進室の出会いを紹介します。


人事とDX推進室の部門を超えたコラボレーション

人事とDX推進室の部門を超えたコラボレーション

前節の組織診断アンケートの解析に苦労していた社員の一人が人財戦略・育成推進室の新藤氏です。はじめに新藤氏のリアルな声を聞いてみましょう。

この大変な作業をデータで解決に導いたのが、DX推進室データアナリティクスグループに所属する南條氏・笹山氏・丸山氏の3名です。

東京電力エナジーパートナー株式会社 DX推進室データアナリティクスグループ 南條氏・笹山氏・丸山氏

相談を受けたデータアナリティクスグループの南條氏・笹山氏・丸山氏のチームは、従来からLLMの業務活用に期待を寄せており、この課題の解決に大きな可能性を感じた様子です。

南條氏・笹山氏・丸山氏・新藤氏

データアナリティクスグループが人財戦略・育成推進室からの相談に寄り添い、技術的なチャレンジにも恐れず立ち向かったことで、このプロジェクトは立ち上がりました。通常、ミッションの異なる事業部とデータ活用部門が円滑に連携することは簡単なことではありません。読者の中にも、それを体験している方がいるかもしれません。本ケースの成功は、データ活用部門の姿勢がひとつの鍵になっています。

また、プロジェクトが立ち上がった後に考えなければならないこととして、分析結果を現場でどのように使うかという点があります。優れた分析であっても、優れたユーザー体験を伴わなければ、そこから価値は生まれません。実際に分析結果を使ってもらうためにどういったことを考えていたか、データエンジニアの丸山氏にも聞いてみましょう。

実際に作成されたダッシュボード

次節では、アンケートの解析をLLMでどのように自動化したかについて、技術的な側面を解説します。


LLMによる自由記述アンケート分析の鍵と価値

LLMによる自由記述アンケート分析の鍵と価値

はじめに自由記述アンケートの特徴を考えてみましょう。自由記述の回答には、複数の要素が含まれていることが通常です。たとえば、みなさんが「業務で課題に感じていることを記載してください」という質問を受けた場合、1つの回答の中に人間関係や執務環境の課題など、複数の情報を記載すると思います。このように自由記述アンケートを解析する上でもっとも難しい点は、回答の書き方が千差万別で、意味解釈なしには解析ができないことです。これはLLM登場以前の技術では、解決が難しい課題でした。

今回、東電EPはこの課題を解決すべく、ブレインパッドを業務パートナーとして選びました。LLMを使った分析を支援したブレインパッドのデータサイエンティストの岡田氏と本山氏に技術的なポイントを語ってもらいましょう。

ブレインパッドのデータサイエンティストの岡田氏と本山氏
  • すべてのアンケートをLLMに読み込ませ、適切な粒度のカテゴリを定義
  • 定義したカテゴリに回答を分類
  • 部門別に課題を要約し、対策を自動的にアウトプット
LLMの得意な粒度に分解した3つの工程

以上のようにLLMを使ってアンケート解析実務を支援することで、どういった声がどれくらいあがっているのか、数千の回答から人間の目では把握しづらい実態を見える化しています。また、今まで見えていなかった細かい事実や気づくことのできなかった点が管理者にダイレクトに伝わるようになっています。膨大な文章を人間が読み解く際、どうしても見落としは避けられません。LLM が人間をサポートすることによって、従業員の声を漏らさず組織改善に役立てられるようになったことは大きな意味を持ちます。もちろんLLMに任せきりという話ではなく、対策を実施する管理者はダッシュボードを通じて生の声を聴くことも忘れていません。

それでは最終的に、人財戦略・育成推進室の業務オペレーションはどのように変わったのでしょうか。新藤氏の声を聴いてみましょう。

次節では、このプロジェクトを成功に導いたデータアナリティクスグループのこだわりに迫ります。

業務オペレーションの変革で持続的成果を生むDX推進室のこだわり

このようなプロジェクトを成功に導く秘訣はどこにあるのでしょうか。業務変革を起こしたデータアナリティクスグループのマネジャーである奈良氏にインタビューしました。

東電EP/データアナリティクスグループ・奈良氏

これらデータアナリティクスグループのこだわりは、ブレインパッドとの連携でも相乗効果を生みました。東電EPのメンバーが業務知識や状況を紐解き、ブレインパッドがAIの専門家として課題解決を後押しするという連携です。この点について、ブレインパッドとの連携で中心的な役割を担った南條氏と山田氏の声を聴いてみましょう。

おわりに

本記事では、東電EPが実現したLLMの先端事例と、それを実現するためのデータ活用部門の姿勢をまとめました。記載したLLMの活用方法はアンケート分析に限らず、あらゆる言語データに応用できる可能性があり、注目すべき成果と言えます。記事執筆にご協力いただいた東電EP関係者一同に感謝を申し上げるとともに、今後のエネルギー業界のさらなるデータ活用の進展・進化を楽しみにしています。


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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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