メルマガ登録
AGI(汎用人工知能)とは、あらゆるタスクを人間と同等かそれ以上にこなすことができる、従来のAIの発展形です。特定のタスクを処理する特化型AIとは異なり、AGIはあらゆるタスクを柔軟かつ独立して処理する能力を有しています。
AGIはあらゆる分野で人間を強力にサポートし、私たちの生活を豊かにする可能性を秘めていますが、同時に法整備などの社会的な課題も残されています。
また2023年10月4日、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が同社主催イベントにてAGIについて「10年以内に実現する」と言及するなど、非常に注目を集めています。
本記事では、そんなAGIの基礎知識やAI・ChatGPTとの関係性、今後訪れる社会的課題について解説します。
AGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)とは、あたかも人間のように多種多様なタスクや課題を理解し、解決するための行動を取ることが可能な人工知能(AI)を指します。
知能水準は人間と同等もしくはそれ以上とも言われており、自己学習を繰り返しながら成長していくAIです。
従来のAIは特定のタスクを処理する能力に特化していますが、AGIはさまざまな分野の専門知識を持ち、過去に経験したことのない状況にも柔軟に対応できる能力を持っています。
AGIはこれまでの世界に存在していなかった未知の技術であり、現段階では技術面・倫理面ともに多くの課題を抱えていますが、完全なAGIが実現すれば、科学や医療、経済などあらゆる分野で革命的な変化をもたらすと予想されています。
人間の指示に従ってタスクをこなす従来型のAIとは異なり、AGIは人間のように幅広い知識とスキルを持ち、自身の判断でさまざまなタスクをこなすことが可能です。
従来型のAIは特定の目的を解決するために設計されており、例えば画像認識や音声認識などの「単一のタスク」を高い精度でこなすことができます。
一方でAGIは、過去の経験によって自主的に学習を重ね、異なる種類のタスクを柔軟にこなし、学習や推論を行えるのが特徴です。
「AGI」と「(従来の)AI」の違いについて触れましたが、ここからさらに深掘りすると、AGIとAIはそれぞれ「強いAI」と「弱いAI」に分類することができます。
AGIが分類される「強いAI」とは、さまざまなタスクを人間のように理解し、自己判断で柔軟に対応できる能力を有しているAIを指します。
一方、従来のAIが分類される「弱いAI」は、人間の指示に従って特定のタスクを処理することに特化したAIであり、決められたタスク以外では機能を発揮できないのが一般的です。
強いAI(AGI) | 弱いAI(従来のAI) | |
処理できるタスク | あらゆる分野のタスク | 特定の分野のみ |
活躍する場所 | 物理的な場所(人間が暮らす世界)を含むさまざまな場所 | 特定のタスクを処理するための一箇所 |
学習方法 | AI自身が自己学習する | 人間がAIに学習データを与える |
上記のように、AGIは「強いAI」に分類され、自己学習により未知のタスクにも柔軟に適応できます。AGIの実現は、AI技術の未来を大きく変える可能性を秘めています。
完全なAGIには到達していないですが、近年目まぐるしい発達を遂げている、テキスト自動生成や画像自動生成などが可能な「生成AI」は「強いAI」の特徴を断片的に持っており、この生成AIに代表されるサービスがOpenAI社の「ChatGPT」です。ChatGPTは言語モデルに特化しているという点では「弱いAI」と言えるかもしれませんが、幅広い領域におけるタスクを処理できるようになりつつある現在では、強いAIにも一部含まれていると言えるでしょう。
※ただしChatGPT自身に「あなたはAGI(強いAI)ですか?」と聞くと、否定されます。(2023年11月10日現在)
【関連記事】
リリース当時のChatGPTはテキストのみを生成するサービスでしたが、2023年10月現在では、実際に人間と会話をしているかのような音声コミュニケーションが可能になったり、画像生成AIの「DALL·E」と連携した画像生成が可能になったりなど、「AGI」に少しずつ近づいていると言えるでしょう。
参考として、ソフトバンクの孫正義氏は、AGIに関する言及において「ChatGPTはAGIである」との見解を述べています。
参考:孫 正義氏が熱弁! 知らないとヤバい「AGI(汎用人工知能)」ってなんだ?
AGIとの類似キーワードに「ASI(Artificial Super Intelligence、人工超知能)」があります。
ASIとは、人間の知能をはるかに超える能力を持ったAIを指す言葉です。AGIがさらに学習を重ねて進化した結果、到達する可能性がある次の段階がASIとなります。
ASIは新たな知識の学習能力や問題解決能力、クリエイティブな活動など、あらゆる分野において人間を凌駕すると考えられており、社会や文明全体に影響を与えると予測されています。
そもそも現状はAGIの完全な実現に至っていないので、ASIの誕生には長い年月がかかるでしょう。
AGIができることの例として、下記などが想定されます。
上記のように、あらゆる領域や分野において複数のタスクを実行できます。またアウトプットや成果物の質も一定の水準以上を超えることになるので、場合によっては人間以上のクオリティで価値を生み出します。
AGIを構築する上で中心となるのは、
の3つの要素です。
特に機械学習においては、深層学習(ディープラーニング)と強化学習を併用し、AGIが自ら学習を重ねて的確な予測や決断を下せるように成長していきます。
認知アーキテクチャは、「人間の認知機能」を研究してモデル化してAIに組み込まれており、AIが与えられた情報を適切に解釈して論理的な結論に到達するためのシステムを構築するための要素です。
認知ロボティクスはロボットを使ってAIの認知を研究する取り組みのことで、ロボットの姿で研究を重ねることにより、AIは人間とのコミュニケーション能力を高めてAGIへと成長を促します。
上記の3つの要素が重なることで、AGIは従来の「弱いAI」から人間のような思考が可能な「強いAI」へと育っていきます。
AIは現在も日々進化を続けており、将来的には「完全なAGI」が実現して人間の生活を大きく変革する可能性が高いと考えられています。
AGIが実現する未来では、医療、教育、産業、エンターテイメントなど多種多様な分野で、AGIが自立して人間を助け、複雑な思考を必要とする高度なタスクをこなすことが期待されます。
例えば、ロボット単体で患者の病気の診断や治療を行ったり、生徒に対して個別の学習プログラムを提供したり、最適な経営判断を行ったりするケースが考えられます。
先述したAGIの一例であるChatGPTは、あくまで「AGIの序章」とも言えるでしょう。ChatGPTはさまざまなアイデアを提供してくれますが、物理的な実務を行うことはできません。
具体的に言えば、ChatGPTはモニター越しにテキストベースで料理のレシピ提供や盛り付けのアイデアを生成して私たちに教えてくれますが、実際にキッチンに立って料理を作る「物理的な作業」は行えません。
AGIの到達点が「物理的な作業を含めたあらゆるタスクを人間と同じ水準でこなすこと」である点から考えると、ChatGPTは「完全なAGI」にはまだ遠い状態です。
将来のAGIは、情報提供だけでなくロボット自ら物理世界での作業も行うようになり、人間の多様なニーズに応えられるようになると期待されています。
AGIの台頭によって、仕事にもさまざまな変化が現れると予想されています。ここでは、主に考えられる4つの変化について解説します。
AGIの台頭により、従来の職種の中で大きく性質が変化し、生まれ変わる仕事が出てくると考えられます。
例えば、製造業においてはAGIを活用して設計や生産プロセスが大幅に変革したり、医療分野ではロボットが診断や治療計画の策定を助けるための、新たな職種が登場したりする可能性があります。
AGIがタスクの処理をメインで担当するようになると、人間側は「AGIを監視・管理・調整する仕事」が増えると予想されます。この変化に伴い、データ分析やバックエンドなどの知識が今よりも強く求められるようになり、人間に求められる役割が大きく変わる可能性があります。
AGIの台頭によって、従来より地位が高まる職種も登場するでしょう。特に、AIシステムを人間が使いやすい形に適応させるトレーニングを行うAIトレーナー、AIモデルの公平性、説明可能性や正確性等や、AIモデルが継続的に維持管理、活用されていくための態勢を評価するAI評価スペシャリスト、企業や政府機関がAIを適切かつ倫理的に利用できるようガイドラインやポリシーの策定支援を行うAIエチックスコンサルタントなどの職種が今よりも急速に発展し、重要な役割を担う可能性があります。
これらの職業は、AIの学習や運用、倫理面に配慮した運用管理などを担当し、人間とAIが協力して作業を進める上で欠かせない存在となります。
特にAIが公正で倫理的な方法で動作するように監視し、調整するAIエチックスの分野は、AIが当たり前に世の中にある未来が訪れることを考えると、非常に重要な立場を担います。
AGIの普及は、働き方そのものを根本的に変革する可能性があります。AGIが多くのタスクを担当するようになると、これまで以上にリモートワークや柔軟な勤務時間が一般的になり、仕事とプライベートのバランスが改善されるでしょう。
また、単純作業やデータ入力などのタスクはAGIが処理するようになり、人間はよりクリエイティブな分野の作業や、戦略的な業務に注力できるようになります。
AGIが現場に参画することで、人間の仕事の質が向上し、生産性が高まると期待されています。ただし、AGIが参画した社会に適応する必要があるため、従業員や組織自体がAGIに対する理解を深め、学習と成長を続けることも重要です。
AGIの普及に伴い、法律面での整備が急務となります。データプライバシー、知的財産、労働法など、多岐にわたる分野で新たな法律や規制が必要とされます。現在でもAI利用に関する法整備が各国で議論されていますが、AGIが登場すると、さらに複雑なルールの運用が不可欠になると考えられます。
特にデータの利用と保護に関しては、個人のプライバシーを保ちつつ、AGIの発展を妨げないようなバランスが求められるでしょう。
また、AGIの登場によって失業や職種の変化に直面した人に対する、社会保障の問題も今後出てくると予想されています。政府はAGIの登場に伴う変化に迅速に対応し、安定的に国を運営していけるような法律・規制の整備を進める必要があります。
AGIの台頭は、社会にさまざまなメリットをもたらす一方で、いくつかの社会的課題や懸念を引き起こす可能性があります。
今後のAIの進展の中で、最も注目されているのは「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼ばれる現象です。シンギュラリティは、AIが自己学習を繰り返していった先に、人間の知能を超える瞬間を指します。
シンギュラリティを超えてAIが人間の知能を上回ると、今後の進化が予測不可能となり、人間がAIのコントロールを失うおそれがあると指摘されています。
2045年問題とは、シンギュラリティに伴って引き起こされる可能性がある諸問題のことです。2023年現在、シンギュラリティが訪れるのは2045年であると予測されており、このことから「2045年問題」と呼ばれています。
2045年問題においては、AIの劇的な発展によって自動化が進み、多くの職業が失われる可能性があります。現在の労働形態は大きく変化し、教育や職業訓練のシステムも根本的な見直しが求められるでしょう。
ただし、AIの進化速度は人間の適応速度を上回る可能性が高く、2045年よりも前にシンギュラリティに到達する可能性もあります。そのため、速やかに社会全体がAIありきの生き方に適応し、準備を進めることが求められています。
【関連記事】
2045年問題とは?シンギュラリティの意味や仕事への影響を解説
AI技術が急速に進化を続ける中で、AI利用を適切に制御するための規制の必要性が世界中で議論されています。
ソフトバンクの孫正義氏は、AIの力があまりに強くなりすぎる前に規制を設けるべきだと言及しており、この意見は多くの専門家に支持されています。
AIの規制は技術の悪用を防ぎ、プライバシーの保護やセキュリティの確保、公正な競争の促進など、社会全体の利益と安全を守るために重要です。しかし、規制が厳しすぎると技術の革新を妨げ、経済成長を妨げるおそれもあります。
バランスの取れた規制策を策定するためには、技術者、政策立案者、法律家など、さまざまな分野の専門家が協力して、柔軟かつ効果的なガイドラインを設ける必要があり、対応が急がれています。
AGIが求められている背景には、深刻化する社会課題の解決があります。特に「2025年の崖」と「2040年問題」という2つの社会的課題は、AGIの必要性を高めている要因です。
「2025年の崖」とは、経済産業省のDXレポートによって提唱された問題です。多くの企業ではシステムが老朽化して保守・運用に支障をきたしたり、度重なるカスタマイズによるブラックボックス化が進行していたりして、DXの推進を妨げている事例が頻発しています。
同レポートによれば、「日本国内の既存の古いシステム(レガシーシステム)を刷新せずに放置すると、日本国内全体において、毎年最大で12兆円の経済損失が生まれる可能性がある」と指摘されています。
一方、「2040年問題」とは、日本の人口構造の変化による労働力のさらなる減少と、それに伴う経済的影響を指します。日本では2040年を境に65歳以上の高齢者人口の割合が約35%となり、同時に生産年齢人口がさらに減少すると予測されています。少子高齢化の進行は、労働力不足を一層深刻化させ、国の持続可能性を揺るがす要因となっています。
これらの社会的課題に対応するためには、現在の「弱いAI」だけでは不十分です。特定のタスクをこなす「弱いAI」も労働力不足の解消に貢献していますが、弱いAIは限定的なタスクしか処理できないため、解決できる社会課題の範囲には限界があります。
労働環境の改善の観点からも、医療、環境、経済など多岐にわたる分野で、人間と同じように柔軟に思考し、解決策を導き出せるAGIの実現が期待されているのです。
【関連記事】
2025年の崖とは?経産省が示す日本企業DXの現状と課題・対策
参考:DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~
AGIの分野では、世界中で数多くの企業や団体が研究開発を推進しています。
代表的な例として、OpenAIやGoogle DeepMindといったグローバル企業が挙げられます。
ChatGPTを開発したOpenAIのCEOサム・アルトマン氏はAGI開発の重要性を強調しており、現実世界へのAI展開、ユーザー調整の促進、グローバルな対話を短期計画として発表しました。
2014年にGoogleに買収されたDeepMindは、2023年4月にGoogle ResearchのBrainチームと統合し、「Google DeepMind」を設立、AIとAGIの研究開発を加速しています。
日本国内では、全脳アーキテクチャ・イニシアティブがAGIの研究開発を進めており、人間の脳の仕組みをベースにした新しいアプローチを研究しています。この取り組みでは、データが限られた領域においても効果的に機能するAGIの創出を目指しています。
上記のようにさまざまな企業がAGIの研究開発に取り組んでおり、将来のAGIの実現に大きく貢献することが期待されています。
ソフトバンクの孫氏は、2023年10月4日に登壇した都内の講演において「AGIの世界が10年以内に実現するだろう」と発言しました。同氏はAGIが今後10~20年後に多様な分野で人類をリードすると考えており、AIの積極的な活用に意欲的な姿勢を見せています。
5月にはChatGPTを開発したOpenAIのサム・アルトマン氏が「AIは今後10年で、大半の分野で専門家のレベルを超えるだろう」とも発言しています。
このように、加速度的な速さで発展するAIの展望に言及する有力者は数多くおり、今後もAGIの取り扱いについてさらに激しい議論が展開されていく可能性が高いでしょう。
汎用人工知能(AGI)の実現は、人間の生活を根底から変革する可能性を持ちますが、法整備などの実用面の課題も残されています。
現在、世界中で普及しつつあるChatGPTはAGIへの序章であり、今後さらに発展したAGIが登場する可能性が高いと考えれば、倫理的かつ安全なAGIの運用に向けた議論をさらに進め、適切な法整備を行っていく必要があります。
AGIの時代を迎える準備を今から整えておき、社会的な混乱を最小限に抑えて、AGIの価値を最大化するための取り組みが求められているのです。
あなたにオススメの記事
2023.12.01
生成AI(ジェネレーティブAI)とは?ChatGPTとの違いや仕組み・種類・活用事例
2023.09.21
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?今さら聞けない意味・定義を分かりやすく解説【2024年最新】
2023.11.24
【現役社員が解説】データサイエンティストとは?仕事内容やAI・DX時代に必要なスキル
2023.09.08
DX事例26選:6つの業界別に紹介~有名企業はどんなDXをやっている?~【2024年最新版】
2023.08.23
LLM(大規模言語モデル)とは?生成AIとの違いや活用事例・課題
2024.03.22
生成AIの評価指標・ベンチマークとそれらに関連する問題点や限界を解説