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カーボンニュートラルは、世界各国が取り組む環境目標であるとともに、新たなイノベーションを促すキーワードとしてDXと同様にビジネス上の一大トピックとなりつつあります。DX推進に際しても環境への負担を考慮し、エネルギーを効率的に活用できるような取り組みが求められるといえるでしょう。
そこで今回は、カーボンニュートラルの概要とともに、日本が進めようとする「グリーン成長戦略」について解説します。持続可能な経済社会の実現に向けて、この分野がどれだけ大きな期待をかけられているかをご理解いただければ幸いです。
そもそも「カーボンニュートラル」とは、何を意味するのでしょうか。はじめにカーボンニュートラルの概要と、日本が対外的に何を宣言しているのかをご紹介します。
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を全体(国や企業などの単位)でゼロにすることを指しています。
ポイントとなるのが、排出量を減らすための手段として「排出量の削減」に加えて「吸収・除去」を提唱していることです。現実的には、排出量を完全にゼロにすることはきわめて困難です。工場や物流などの産業活動の過程で、どうしてもある程度の温室効果ガスを排出することが避けられません。
そこで、排出せざるを得なかった量を吸収、あるいは除去することによって、実質的な「排出量ゼロ」を目指す考え方が出てきました。「森林や新技術によって温室効果ガスの吸収・除去量を増やすことで、温室効果ガスの排出量をゼロにする」。これがカーボンニュートラルです。
ここまでして温室効果ガスの排出量ゼロにこだわる背景には、現状に対する強い危機感があります。19世紀後半に比べて、世界の平均気温は2017年の時点で約1度上昇したと示されており、今後もさらなる上昇が見込まれています。これによって、豪雨や猛暑のリスクが高まり、水資源、農林水産業、生態系など、さまざまなシステム・産業などに影響が出ると考えられています。
持続可能な経済・社会のために、カーボンニュートラルが喫緊の課題として認識されているのです。
2020年に、当時の菅首相が所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。
2050年という期限を設定した理由としては、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「IPCC1.5度特別報告書」が挙げられています。産業革命以降の温度上昇を1.5度以内に抑えるという努力目標(1.5度努力目標)を達成するためには、2050年近辺までのカーボンニュートラルが必要と考えられているためです。
日本が目指すカーボンニュートラルの対象となる温室効果ガスは、CO2(二酸化炭素)だけではありません。メタン、N2O(一酸化窒素)、フロンガスを含めて、排出量ゼロにするための取り組みを進めることを宣言しています。
2050年カーボンニュートラルの目標は、菅内閣の後を継いだ岸田内閣でも堅持されています。
2021年に入って、政府はカーボンニュートラル実現に向けた施策として「グリーン成長戦略」を策定しました。ここでは戦略の概要と重点分野をご説明します。
2050年に温室効果ガスの排出量ゼロを達成するために、政府は2030年の段階で2013年比46%の排出量削減を中途目標として掲げています。
政府資料によると、2030年までは既存の温室効果ガス排出量を削減するための取り組みを中心に、「省エネの推進」「水素社会実現」「再エネ」「水素・アンモニア発電」など、温室効果ガスを排出しないエネルギー源の開発・実用化が推進されていくとされています。
例えば水素やアンモニア産業については、自動車のみならず「カーボンニュートラルのニューテクノロジー」として位置づけられ、広く導入が目指されています。水素発電コストを火力以下に減らし、2030年の時点で最大300万トン、2050年に最大2000万トン程度の導入量となることが目標です。
2050年の最終目標実現に向けては、2030年以降、特に炭素除去技術の実用化が期待されています。CO2を吸収するような生物機能の利用、またCO2を貯留・固定化する技術を組み合わせることにより、排出量実質ゼロが実現するというわけです。こうした技術を「ネガティブエミッション技術(NETs)」と呼びます。
カーボンニュートラルを実現し、その過程で産業構造や経済社会の変革をもたらし成長につなげる戦略を、政府は「グリーン成長戦略」と命名しています。
グリーン成長戦略の中心は、企業支援にあります。企業の現預金を投資へ誘導するため、予算、税、規制・標準化、民間の資金誘導などの政策ツールを総動員するとしています。また、グローバル市場や世界のESG投資へ向かう資金にも目を向け、国際連携を推進すると主張しています。
予算の例として、「グリーンイノベーション基金」があります。これは研究開発から社会実装までを見据えて、目標を官民で共有し、企業や研究機関などの取り組みに対して10年間の継続的な支援を行うためのものです。
グリーンイノベーション基金のように、グリーン成長戦略に基づく取り組みが動き出しています。
カーボンニュートラル実現のために、特に以下の産業が「成長が期待される14分野」として挙げられています。
【エネルギー関連産業】
【輸送・製造関連産業】
【家庭・オフィス関連産業】
これらの重要分野について、現状・課題と目指すべき方向性を整理し、2050年までの大まかな工程表を策定することで、実現可能性の向上へ向けた政府の姿勢を示そうとしています。
2050年カーボンニュートラルを実現するためのグリーン成長戦略推進のために、資金・国内連携・国際連携の3点から分野横断的な政策を遂行していこうとしています。ここではそれらの概要についてご紹介します。
前述の通り、予算面の取り組みとしてグリーンイノベーション基金を設立して企業の取り組み支援を開始。取り組みが不十分な場合は事業中止や委託費の一部返還を求めるなど、経営者に強いコミットメントを求めるとしています。
税制面では、カーボンニュートラル実現のための設備投資に最大10%の税額控除ないし50%の特別償却を措置する、また研究開発税制の控除上限を法人税額の25%から30%まで引き上げることなどが検討されています。
金融面では、環境改善効果のあるプロジェクトの資金調達を目的とする「グリーンボンド」の拡充、長期的な資金供給の仕組みの創設などにより、事業者の取り組み支援と投資資金の誘導を目指しています。
新技術の需要創出につながる規制強化、あるいは新技術を想定できていない規制の緩和に加えて、新技術を世界で活用しやすくするような標準化にも言及されています。例えば、洋上風力発電の拡大に向けた安全審査の合理化、また燃料アンモニアの燃焼・管理手法に関する仕様や規格の国際標準化がこれに当たります。
人材育成や若年層の取り込みのために、大学支援・若手官僚によるワーキンググループ(WG)立ち上げなども進めています。カーボンニュートラルに資する学位プログラムの設定、リカレント教育の加速などが検討される予定です。
国内外一体の産業政策が必要との観点から、欧米およびアジアなど新興国との連携強化も検討されています。具体策は明確になっていませんが、日本企業とアジアを中心とするスタートアップなどとのオープンイノベーションを推進するプラットフォーム(J-Bridge)の活用が一例として挙げられています。
2025年に開催される大阪・関西万博において、カーボンニュートラルにつながる技術が披露されたり、関連展示・イベントが展開されたりすることも予定されています。
カーボンニュートラルは、持続可能な経済社会の実現に向けて世界各国が取り組む一大プロジェクトとなっています。単なる環境保全政策にとどまらず、経済効果や社会変革まで期待できることから、日本でも「2050年カーボンニュートラル」を提唱するに至りました。
一部具体策は2022年時点で開始されており、今後も予算面の支援や規制緩和などに支えられる形で大きな資金が流れ込み、幅広い分野でビジネス機会の創出につながることが期待されます。
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