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自社でDXを検討する際に、同じ業界の事例を知っておきたいことも多いのではないでしょうか。DXと言っても製品・サービスのタイプや業種によって固有の事情があり、プロジェクトの進め方やゴールが異なることも考えられます。
このような事情を考慮して、経済産業省では積極的にDXを推進している事例、成功している事例の紹介を行っています。今回は、経済産業省がDX推進のポイントと考える5つの観点に即して、事例を見ていきましょう。
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製造業がエンジニアリングチェーンを強化するにあたり、デジタル技術を活用するための方向性として5つの観点が示されています。その一つ目が、経営方針・目標を策定して全社的に共有することです。
DXを成功させるためのポイントは、経営方針や目標と連動させることです。
ビジネスモデルや業務プロセスの変革など、経営方針や目標を最初に定めてから、その実現のためにどのようにDXを推進していけばよいのかを検討することが求められます。これによって、全社的な取り組みとして経営層のみならず管理者層や従業員のDXに対する求心力を高めることにつながると考えられます。
トヨタは、もともと開発・製造・販売の各機能最適化を図り、デジタル活用を行っていました。しかし、グローバルIT企業の自動車産業参入をはじめとした社会変化、経営層からの働きかけを受けて、現場が危機感を抱いて全社的な機能横断型のデジタル化に着手したのです。
一方、製造業を顧客としてシステムツールを提供するビジネスエンジニアリングでは、トップダウンとボトムアップの融合によるDXを推進しています。現場から生産データを吸い上げるIoTシステムで原価情報を割り出すアプローチと、経営層が全体最適を考慮して意思決定するアプローチを融合することで、全社的なデジタル変革の支援を行っています。
これらの事例を踏まえると、トップダウン・ボトムアップ一方向になることなく、両者をうまく融合させることが全社的なDX実現の鍵であると言えるでしょう。
2つ目の観点として、自社のエンジニアリングチェーン工程や体制の可視化が挙げられています。その内容を説明するとともに、成功事例をご紹介します。
ゴール設定の次に、現状を把握することも必要です。特に自社の業務体制やコスト構造が把握できていないと、どの部分を変えればゴールを達成できるのか計画を立てることも困難となります。
まず、工程ごとの機能を可視化したり、コスト構造を把握したりする作業を行います。これは、必ずしもデジタル化と直接結びつく取り組みに限らず、一般的な業務分析と同じような内容です。この過程で、現状の課題を浮き彫りにできると考えられます。
今野製作所は、油圧機器や板金加工を中心に展開する事業者で、従業員数40名弱の中小企業です。デジタル改革に取り組むにあたり、自社の業務プロセスやエンジニアリングプロセス、特に社内連携体制を可視化するところから開始しました。これにより、不足する人材や改善ポイントの明確化が可能となっています。また、自社の強みを再認識することにもつながっています。
沖電気工業(OKI)は、離れた拠点にある2つの工場を仮想的に融合させる「バーチャル・ファクトリー」に取り組みました。はじめに、各工場の生産形態の特徴や製造に対する考え方、知見などを整理して共有し、設計データを両工場で受け取れるようにしました。
このように、デジタル化を軸とした業務改革には、現状把握のプロセスが欠かせません。「何が問題で、何を解決すべきなのか」は、当たり前のようで当事者ごとに認識のズレが生じがちです。現状把握を通じて、認識の共有を図ることも重要です。
3つ目の観点が、従業員のスキル継承に向けたデジタル化です。人材・スキルは、DXを実現し社内に根付かせるうえできわめて重要なポイントと考えられます。その方法と、取り組み事例をご紹介します。
DXにより業務変革を達成するためには、ゴールとなる変革後の業務の在り方をデジタルデータとして実装することが求められます。一般的に、製造業では貴重なノウハウがベテラン技術者に集約されているケースが少なくないため、最初に個々の従業員のノウハウを集約する必要があります。
ノウハウの集約の後は、標準化やデジタル化を進めます。これによって再現性が高まり、組織や拠点、さらには国をまたいで品質を標準化させることも可能となります。
アイデンでは、制御盤生産プロセスにおいて、配線作業を職人が紙図面とにらめっこしながら進めていました。分業の推進と技能の標準化のために、工程ごとに必要な作業を可視化したことで、技術者が少なく日本の制御盤メーカーのほとんど進出していない国でも拠点を設け市場へ参入することができるようになりました。
ダイセルでは、プラントのオペレーション(非定常時・定常時・緊急時)のうち、定常時に行われる意思決定プロセスを体系的・網羅的に整理し、意思決定を支援する知的生産システムを構築しました。現場のオペレーターの知見をヒアリングし、データベース化することで、オペレーションの品質標準化につながっています。
部門を超えたデータや設計情報の共有は、全社的なDXの実現に向けた第一歩です。ここでは、特に部品表(BOM)の共有や3DCADの活用など、デジタル技術の具体的な活用方法と活用事例をご紹介します。
部品表の共有や3DCADの活用のように、既に製造業向けに提供されているデジタル技術を通じて部門間のデータ共有を図ることも重要です。マーケティングやアフターサービスのように、顧客と接点を持つ工程の情報を設計へフィードバックできれば効率的と考えられます。
その一方で、3DCADの普及は進んでいないという調査結果も存在します。新たな技術を用いたDXの前に、既に存在する技術をうまく活用することがDX実現のためには欠かせません。
【参照】【ものづくり白書から読み解く①】日本の製造業におけるDXの課題とは?「エンジニアリングチェーン」と「サプライチェーン」を実現するデータ活用
富士通では、それまでLSI系CAD・電気系CAD・構造系CADと分かれて非効率的だった状態を是正するために、共通プラットフォームを構築しました。これにより、製品開発におけるノウハウの共有やリアルタイムでのコミュニケーションの円滑化が可能となっています。他にも、3Dデータ生成の義務化、図面作成ルールの標準化などにも取り組み、プラットフォーム利用の定着につなげました。
ダイキン工業では、IoT技術の進歩によってリアルタイムでのデータの受け渡しが可能となったことを受けて、製造現場のデータの掘り起こしと収集・統合などに取り組みました。工場の設備をネットワークで結び、情報収集の標準化のための情報基盤を整備しました。
このように、データ連携を容易にするプラットフォームの構築・運用が製造業のDX推進のポイントの一つとなるでしょう。
最後に、人材と仕組み作りについてご紹介します。DX推進にはスキルを持った人材が必要不可欠であり、さらには組織作りを含めた仕組み化が欠かせません。
DX推進が一過性のもので終わってしまっては、意味がありません。DXを仕組み化し、継続的に改革を進める必要があります。そして、継続的な改革を担える人材を育成・獲得するとともに、そうした改革を進めることに対する社内の理解を得る試みも重要です。経営層が折に触れてメッセージを発信したり、DXの費用対効果を社内に示したりすることが有用でしょう。
IHIでは、社内で多様な製品を製造していることから、業務プロセスが部門ごとに個別最適化されていました。こうした状態を是正するために、プロセス間での連携が行えるように業務改革を実施し、一定の効果を挙げました。
重要なことは、この改革の効果を継続させるために、デジタル化された環境を有効活用できるように人材育成に取り組んでいることです。デジタル変革に携わる人材の社内公募、育成プログラムの自社開発などにより、業務改革の定着に努めています。
紹介した事例は日本を代表する大企業のものが多いものの、企業規模を問わず「必要な改革を着実に実施すること」の重要性を理解するのに役立つと言えるでしょう。目標策定・業務プロセスの可視化・スキルの可視化・データ共有のための仕組みの整備・人材確保と仕組みの構築とまとめてしまえば当たり前のように感じられるかもしれませんが、これらを実行するだけの熱意と推進力が必要です。
【あわせて読む】ものづくり白書から読み解くシリーズ
・【ものづくり白書から読み解く①】日本の製造業におけるDXの課題とは?「エンジニアリングチェーン」と「サプライチェーン」を実現するデータ活用
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・経産省・東証が選定する「DX銘柄2020」の注目企業の成功事例を紹介
(参考)
経済産業省製造産業局「製造業におけるリファレンスケースについて」
経済産業省製造産業局「製造業DXレポート~エンジニアリングのニュー・ノーマル~」
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