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建設現場の趨勢を占う、i-Constructionとは?建設業におけるDX推進の方法論と目的

公開日
2021.10.14
更新日
2024.02.17

近年、ビジネスの現場では「DX」が新たな流行語として定着しつつあります。しかしながら、建設業ではDXと同じような意味を持つ言葉として、「i-Construction」が政府や大企業を中心に用いられてきました。どちらも、デジタル技術の活用による安全性や生産性向上を目指すという意味合いを持っています。

今回は、i-Constructionの過去の経緯と今後の見通し、DXを実現するための具体的な取り組みについて説明します。

▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント

i-Constructionとは?目的・経緯と具体的な施策

i-Constructionの概要について説明します。提唱された背景やこれまでの経緯、具体的な施策を見ていきましょう。

建設現場の生産性向上のために

i-Constructionは、もともとDXとは別の文脈で登場した言葉です。2015年に当時の安倍内閣によって、成長戦略のグランドデザインとして閣議決定された『「日本再興戦略」改訂2015―未来への投資・生産性革命―』に端を発しています。その後、2015年11月に行われた、当時の石井啓一国土交通大臣の会見内で、初めてi-Constructionという言葉が用いられました。以下、石井大臣の会見要旨から引用します。

「建設現場の生産性向上」は避けることのできない課題です。

これまでも、機械化が進んだトンネル工事は、生産性が飛躍的に向上しておりますが、土工やコンクリート工など、生産性向上の遅れた部分が残っております。

この土工等の分野について抜本的な生産性向上を図ることで、全体として技能労働者一人あたりの生産性について、将来的に5割向上の可能性があると考えております。

このような認識のもと、生産性向上の基本的方向について、有識者や関係者の意見を集約するため、三菱総合研究所理事長小宮山宏氏を委員長とする検討委員会を近日中に設置することといたしました。

これらの取り組みを「i-Construction」と名付け、一人一人の生産性を向上させ、企業の経営環境を改善し、建設現場に携わる人の賃金の水準の向上を図るなど魅力ある建設現場を目指していきたいと考えております。

政府の成長戦略に基づく形で、国土交通省は翌2016年を「生産性革命元年」であると位置づけ、以降、数々の生産性革命プロジェクトを推進してきました。石井大臣が言及したi-Constructionは、この生産性革命プロジェクトの一つとして位置づけられたものです。

3つのトップランナー施策

2016年から始まったi-Constructionのプロジェクトは、3つの「トップランナー施策」から成り立っています。

1つ目は「ICTの全面的な活用(ICT土工)」です。

調査・測量、設計、施工、検査などの全プロセスでICT技術の活用を目指すとしています。たとえば、ドローンを活用した3次元測量、3次元データ設計図、ICT建機による施工などがあります。

2つ目は「全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)」です。

建設生産プロセスで全体最適を導入し、サプライチェーン全体の生産性向上を目指すものです。たとえば、鉄筋のプレハブ化や定型部材を組み合わせた施工などが挙げられます。

3つ目は「施工時期の平準化」です。

年間における公共工事の工事量には幅があり、4~6月に少なく11~3月にかけて多いことが知られています。適切な工期を確保できるよう、国債を発行して発注者に計画的な業務遂行を促そうとする取り組みです。

i-Construction推進コンソーシアムによる産学官連携

国土交通省は、i-Construction推進に向けて「i-Construction推進コンソーシアム」を設立しました。前掲の大臣会見でも言及された小宮山宏氏を会長として、最新技術の現場導入のための新技術発掘や企業間連携促進、3次元データ利活用促進のためのデータ標準やオープンデータ化、i-Constructionの海外展開などを進めることを目的とした団体です。

i-Construction推進コンソーシアムの会員は行政や大学の有識者、建設関連企業、あるいはIoTやロボット、AIなど建設分野以外の関連企業で構成されており、産学官連携を意図したものとなっています。新技術発掘や企業間連携の促進に取り組む「技術開発・導入WG」、3次元データの活用やデータシステム構築に向けた検討を行う「3次元データ流通・利活用WG」、i-Constructionの海外展開に向けた国際標準化に関する検討などを行う「海外標準WG」の3つのワーキンググループが設置されています。


i-Constructionを実現するための新技術と事例

i-Constructionには、いくつかキーとなる概念・技術や事例があります。国土交通省の資料(「i-Constructionの推進」)から具体的な取り組みを紹介します。i-Constructionに対するイメージをつかみましょう。

BIM/CIMとは?

BIM/CIMはBuilding/Construction Information Modeling Managementの略語で、建設の計画・調査・設計段階から3次元モデルを導入するとともに、データを関係者間で共有することにより受発注双方の業務効率化を図ることを指します。

i-Construction推進コンソーシアムのWGにも「3次元データ流通・利活用WG 」があることからも分かるように、i-Constructionにおいて3次元モデルやBIM/CIMは中核となる技術であり方法論です。国土交通省は、建設生産プロセス全体を3次元データでつなぎ、建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させると謳っています。

現場にBIM/CIMを活用する動きは、設計業務では2012年から、工事では2013年から始まっており、年々その件数は増加しています。2012年には11件だった件数が、2019年には361件に達しました。2020年からは適用範囲を拡大したのもあり、今後はますます増加が見込まれます。

AIを活用した自動検知システム

i-Constructionの取り組みは大企業を中心に、ここ数年急速に広がっています。AIの活用に関しては、AIが撮影画像から何らかの異常を検知するシステムの事例が出てきています。

鹿島建設では、コンクリートの性状判定(品質検査)をAIが行うシステムを開発しました。ビデオカメラで撮影した動画・画像を専用のPCに送信すると、AIが測定範囲を自動認識。コンクリートの性状や状態を分析して、施工性の良否をリアルタイムで判定、結果を記録します。もし施工性の悪いコンクリートがあれば、検知してパトランプないしブザーでアラートを発信します。

こうしたAIによる自動検知システムは、手作業や目視による確認のプロセスに広く適用できる可能性があるでしょう。

映像・VRによる現場管理

AIに並んで、映像やVRを活用して施工管理や施工状況の把握を目指す企業も少なくありません。

一例として、「タイムラプス映像」の活用があります。現場を撮影してタイムラプス機能を使い、日報作成時の現場確認の補助や作業の振り返りなどに活用するものです。また、映像データをデータベースに蓄積して、発注者への説明や類似した工事の事前研修など幅広い用途で活用しています。

VRも、現場確認や研修などといった用途は、タイムラプス映像と似ています。現場の工事写真を撮影して3Dモデル化し、VRを活用してさまざまな角度から現場を確認します。事前研修や工程の仮想体験などにも利用可能です。

データ連携を可能にする「国土交通データプラットフォーム」構想

i-Constructionの各種取り組みによって収集されるデータを蓄積し、新たなサービスの創出につなげるべく「国土交通データプラットフォーム」の構想が2019年に発表されました。

地図・地形データ、気象データ、施設・構造物データ、防災データなどのデータをプラットフォームへ一元的に収集。国土や経済活動、自然現象等に関するさまざまなデータを連携することで、観光振興の推進や都市環境の改善、物流の効率化などへの活用を促します。

2019年度からデータベースの充実やデータ連携基盤の構築などを進めており、2022年度いっぱいで作業を完了させるロードマップが描かれています。


i-Constructionの今後の取り組み

民間企業(特に中小企業)におけるDXの停滞、新型コロナウイルスの感染拡大などを受けて、コンソーシアムではi-Constructionの取り組みを軌道修正しようとしています。最新資料から、今後注力すると思われる取り組み内容を紹介します。

中小企業への普及拡大

2021年6月7日に、i-Construction推進コンソーシアムの第7回企画委員会が開催され、i-Constructionが今後注力すべき分野についての検討が行われました。委員会の資料によると、建設業者の99%が地域を地盤とする企業で占められており、資本金10億円未満の企業に全体の約9割にあたる従業員が属し、付加価値額の約8割をこうした企業が産出しています。そのため、こうした中小企業へi-Constructionを浸透させることが社会全体の生産性向上の鍵となります。

しかしながら、中小建設業のITツール活用度合いは低く、半数以上の企業がいまだにFAX・電話で受注を行うなど、DXには程遠いのが現状です。

こうした課題を受けて、中小企業へDXを浸透させる取り組みが求められています。具体案はまだ出ていませんが、中小建設業でも活用しやすいITツールの構築、小規模な現場でも安価で導入しやすい技術の浸透、不便で非効率な慣習の改善などが求められると指摘しています。

人材の確保・育成

DXを支える人材の確保も急務です。経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によれば、既に日本ではIT人材の不足傾向が強まっており、2030年には約16万~79万人ものIT人材が不足すると見込まれています。

また、デジタル関連の技能に日本は弱みを抱えています。IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)の世界デジタル競争ランキングによると、デジタル・技術の技能が62位と奮いません。

人材育成については、研修や必要な施設環境の整備・充実が課題として挙げられています。

イノベーションを生み出す環境整備

開発から実証、実装、標準化といったプロセスを支える仕組み作りについても言及されています。

その一例が、カーボンニュートラルに対応した技術・工法の採用です。燃費性能の優れた建設機械の導入を図るとともに、将来的な環境負荷低減のために電気や水素、バイオマス燃料などを動力源とする建設機械の普及拡大を図るとしています。

まとめ

i-Constructionは、建設現場の課題を解決し業界の未来を切り拓くためのキーワードです。政府は企業や学術団体などと連携してi-Construction関連の施策推進に力を入れており、今後数年で大きく建設現場の様相を変える可能性もあります。i-Construction推進コンソーシアムの会議資料を始め、政府の動向には注目していきましょう。

DXの意義や推進ポイントについて改めて知りたい方は、こちらの記事もぜひご一読ください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?今さら聞けない意味・定義・事例をわかりやすく解説【2024年最新版】

参考


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