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2020年9月に就任した菅義偉首相は、公約の一つとして「デジタル庁(仮称)」の創設を掲げています。2021年9月1日の設置を目指して、元IT政策担当大臣だった平井卓也氏をデジタル改革担当大臣のポストに起用するとともに、2021年1月から政府のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させるための人材募集を開始しました。
この記事では、デジタル庁の概要や設置目的について整理するとともに、社会や企業にとってどのような影響があるのかについて考えてみたいと思います。
※一部、2021年5月12日追記。
菅首相の発言からは、政府のDXに対する強い思いがうかがえます。実際、デジタル庁に関する情報も次々と出てきました。まずデジタル庁の概要や業務、位置づけについてご説明します。
近年、政府は行政のデジタル化に力を入れてきました。第99代内閣総理大臣に就任した菅首相は、公約として「デジタル庁」の新設を掲げています。就任記者会見では、以下のようにその目的を述べました。
新型コロナウイルスで浮き彫りになったのは、デジタル及びサプライチェーンの見直し、こうしたことであると思います。(中略)今後できることから前倒しで措置するとともに、複数の省庁に分かれている関連政策を取りまとめて、強力に進める体制として、デジタル庁を新設いたします。
デジタル庁は、2021年9月の創設を目指して現在準備中です。それに先駆け、1月には先行プロジェクトの推進に関与する人材の募集が開始されました。プロジェクトマネージャー、プロダクトマネージャー、各種アプリケーションやネットワークのエンジニアなど、多様な人材を採用する予定とのことです。
▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント
菅首相は、デジタル庁の目的について関係閣僚会議で以下のように述べました。
今回の新型コロナウイルスへの対応において、国、自治体のデジタル化の遅れや人材不足、不十分なシステム連携に伴う行政の非効率、煩雑な手続きや給付の遅れなど住民サービスの劣化、民間や社会におけるデジタル化の遅れなど、デジタル化についてさまざまな課題が明らかになりました。
この政権においては、かねて指摘されてきたこれらの課題を根本的に解決するため、行政の縦割りを打破し、大胆に規制改革を断行します。そのための突破口として、デジタル庁を創設いたします。
このように、国と地方自治体などのシステムの標準化と連携により行政の効率化を図ることが、デジタル庁新設の目的とされています。行政の縦割りによって、特に新型コロナウイルス感染拡大という緊急事態での対応の遅れや非効率を招いたことが、その背景にあるようです。
デジタル庁の役割についての菅首相の発言は、以下の通りです。
国、自治体のシステムの統一・標準化を行うこと、マイナンバーカードの普及促進を一気呵成(かせい)に進め、各種給付の迅速化やスマホによる行政手続きのオンライン化を行うこと、民間や準公共部門のデジタル化を支援するとともに、オンライン診療やデジタル教育などの規制緩和を行うことなど、国民が当たり前に望んでいるサービスを実現し、デジタル化の利便性を実感できる社会をつくっていきたいと考えます。
行政の効率化に加えて、「民間や準公共部門のデジタル化を支援する」「オンライン診療やデジタル教育などの規制緩和を行う」といった役割が掲げられています。行政の縦割り打破という目的からすると、これまで国土交通省や経済産業省、文部科学省、厚生労働省を始めとして各省庁で進められてきたデジタル化のプロジェクトの司令塔の立ち位置にデジタル庁がなると推測されます。
デジタル庁の設置のきっかけは菅内閣の発足ですが、それ以前から日本のDX推進に対する危機感が経済産業省を始めとした政府から表明されていました。ここでは、そうした「危機感」についてご説明します。
菅首相の発言の中には、「マイナンバーカードの普及」があります。2016年から交付開始となったマイナンバーカードですが、2020年5月末時点で交付2133万枚、人口に対する交付枚数率は16.7%にとどまっています。
2021年3月末までに6000~7000万枚、2023年3月末にはほとんどの住民がカードを保有する状態を目標としており、現状との差はかなり大きなものと言えます。マイナンバーカードの普及促進は、政府にとって喫緊の課題です。
省庁や地方自治体でも、デジタル化が進まず非効率な行政組織や手続きなどに対する問題意識が出てきています。
例えば、経済産業省では2018年に新たにデジタル・トランスフォーメーションオフィスを設置し、行政サービスの効率化やデータに基づく政策立案などを推し進めています。
また総務省は、地方自治体行政のDXに向けて2020年に検討会を実施し、「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定しています。
デジタル庁以外でも、行政のDXを目指す試みが少しずつ始まっていると言えるでしょう。
行政だけでなく、企業のDXに対しても危機感があります。経済産業省が2018年にまとめたレポートによると、既存のITシステムが老朽化・肥大化して運用や保守に多大なコストを要するようになるとともに、経営層のコミットが薄く企業のDXが思うように進んでいないとされています。
また、今のままDXが進まないと、2025年以降毎年最大で12兆円もの経済損失が発生する恐れがあると指摘されています。経済産業省は、これを「2025年の崖」と表現しています。
デジタル庁新設に伴う行政のDX推進および民間のDX推進支援の動きは、この「2025年の崖」を回避するための具体的な施策の一つでもあると考えられるでしょう。
【関連】:DXを実現できないと転落する「2025年の崖」とは?政府の恐れる巨額の経済損失
政府が懸念するDXの課題について、もう少し詳しく見てみましょう。デジタル庁は、この課題解決を期待される機関です。
経済産業省は、日本企業の抱えるDXの課題を経営面・人材面から整理しています。
経営者の多くがDXの必要性を認識してはいるものの、自らリーダーシップを発揮してシステム刷新に取り組むケースは少ないとされています。そのため、既存システムが老朽化・複雑化しても「使い続ける」と判断を下すことが多いのです。
少子高齢化に伴う労働力の減少に加えて、IT需要に人材供給が追いつかず人材難が深刻化すると考えられています。既存システムを熟知した技術者も少なくなり、結果としてDXどころか既存システムの運用・保守すら困難かつ高コストになっていくとも指摘されています。
人員が逼迫(ひっぱく)することから、社会レベルで技術者のスキルシフトによる人員の確保、そしてシステム開発受託を生業とするITベンダー企業がDXに対応できるようなビジネスモデル転換を図ることが重要とされています。
政府は、デジタル庁を中心としてこうした民間の動きを支援・促進する方向へより舵を切っていくであろうと予測されます。
【関連】DXの担い手「CDO」とは?DX成功のカギは、デジタル化を推進する専門組織にあり
デジタル庁は、行政のDXを目指すとされています。デジタル庁が目指す方向性は明確ではない点も残っていますが、これまで政府が進めてきた行政のデジタル化に関する取り組みを見ることでその内容が推測できます。
中でも、経済産業省が進めるDX施策が参考になります。2020年に公開された資料によると、国民・事業者にとって便利な行政サービスの提供および職員の効率的・効果的な業務の実現を目指して、UI/UX、アナリティクス・マーケティング、データ連携エコシステムの3点からサービス向上を目指すとしています。
また、データ管理と分析の基盤を構築し、行政がデータドリブンな政策立案・実施をできる体制の確立も目指しています。
デジタル庁でも、こうした動きを踏襲する形で行政のDXを目指すと考えられます。縦割りを廃して、どこまで中央省庁および自治体の業務効率化・サービス向上を実現できるか、その手腕が問われるでしょう。
デジタル庁の新設は菅首相の打ち出した特徴的な施策の一つです。行政と民間のDX促進につながるのか、その動向と効果には今後注目が集まるでしょう。日本が「2025年の崖」を回避し、デジタルにおける存在感を世界に示せるのか、菅首相および初代デジタル庁長官の平井卓也氏には期待したいところです。
<編集後記>
2021年4月12日、民間から採用された非常勤職員およそ30人に辞令が交付されました。採用された職員は、ウェブサイトの立ち上げなどの業務にあたるということです。
そして5月11日、ことし9月にデジタル庁を創設することなどを盛り込んだ「デジタル改革関連法」が、参議院本会議で可決・成立しました。いよいよ、デジタル庁発足へのカウントダウンが本格的に始まりました。
後日、「デジタル改革関連法」やデジタル庁を別記事にてさらに詳しく解説したいと思います。
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