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DXの定義は様々ですが、IDC Japanの定義がわかりやすく、的を射ているかと思われます。
“企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること”
この定義の中で、「第3のプラットフォーム」には4つの要素が含まれていますが、クラウド以外の「モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術」は現在、すべてクラウドで利用することが可能になっています。
同社はまた「企業が生き残るための鍵」として、様々な技術を挙げていますが、その中に「分散化や特化が進むクラウド2.0」、「マイクロサービスやイベント駆動型のクラウドファンクションズ」が含まれています。ちなみに「クラウド2.0」もIDCが提唱した概念で、「DXを推進するために必要な機能が諸々含まれている新しいタイプのクラウド」といった意味合いのものです。
要するに「DX推進においてはクラウドが不可欠なものとなっている」ということです。では、どのクラウドサービスを選べばいいのでしょうか?
本稿では、3大クラウドと言われているAWS(Amazon Web Service)、Azure(Microsoft Azure)、GCP(Google Cloud Platform)を比較しながら、この問いへの答えを探ろうと思います。
【関連】「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDXとは?意義と推進のポイント
AWS、GCP、Azureを本稿で3大クラウドと呼ぶ理由は、この3つのサービスが長い間、世界シェアで1位~3位を独占してきたからです(表)。
2018年と2019年の実績を比較すると、3大サービスは軒並み売上もシェアも伸ばしており、寡占化が進んでいることがわかります。なおIaaS(Infrastructure as a Service)だけの市場では中国勢も健闘しています。AlibabaがGoogleの世界シェアを上回り、TencentもGoogleに迫る勢いです。しかし総合力では今でもGoogleが上回っています。
3大クラウドのそれぞれの特徴について簡単に説明します。
Amazonが提供するクラウドサービスです。2006年7月に仮想サーバー環境であるEC2がリリースされました。クラウドサービスでは最も歴史が長く、常に業界のトップシェアを維持してきました。豊富なサービスを持つ、クラウドサービスのスタンダードあり、AWSとの比較で他のクラウドを評価することが多いと言えます。
Microsoftが提供するクラウドサービスです。2010年にサービス開始と、3大クラウドでは最も後発ですが、当然ながらMicrosoft社製品との親和性が高く、Active Directoryとも容易に連携できるため、Windowsをベースとしたオンプレミス環境を構築している企業が、ハイブリッドクラウドを構築する際には最初に検討されるサービスです。Microsoftは元々ソフトウェアライセンスの売り切りで規模を拡大してきた会社ですが、Azureのビジネス基盤を作ったサティア・ナデラ氏がCEOに就任してからはクラウドに注力するようになりました。
Googleが提供するクラウドサービスです。2008年にWebアプリケーションの開発基盤であるGAE(Google App Engine)の提供を開始し、その後様々なサービスが追加されてきました。GmailやGoogleマップなどGoogleが提供する大規模サービスの基盤でもあり、その信頼性、堅牢性が高く評価されています。
DX推進においては、データ分析の基盤として優れているかどうかが重要な選択ポイントになります。データ分析のステップは一般的に「データ収集→データ変換→データ保存→データ分析→レポーティング」となります。そこで、3大クラウドがそれぞれのステップにおける機能を提供しているかどうかをプロットしてみました(表)。
どのサービスも、データ活用基盤として必要な機能を備えていることがわかります。3大クラウドそれぞれのデータ活用基盤における特徴は以下の通りです。
オブジェクトストレージのAmazon S3がデータ活用基盤の中心となっています。すべてのデータをS3にロードしてデータレイクを構築し、Glueで整形します。その後、各種ツールでデータ分析を行うのがAWSでのデータ活用のセオリーです。Athenaを使えば、S3上のデータセットに対して直接SQLでアクセスできます。
Azure全体に言えることですが、誰がどのサービスにアクセスできるかをActive Directoryのアカウントをベースに設定することができます。この簡便性は他のクラウドサービスにないものです。またAzure Data Explorerはフルマネージドサービスであるため簡単に使い始めることができ、SQLより習得が容易なKusto言語で高速なクエリを簡単に実行できます。
GCPのデータ活用基盤として最も特徴的なものは、BigQueryでしょう。自社サービスで大量データを扱っている大量データを分散環境で高速に処理する技術ではGoogleは他社の追随を許しません。BigQueryは数兆件のデータを数秒で検索することができるといいます。またBigQueryはオールラウンドなデータ活用基盤であり、これにデータを入れておけば何でもできるというわかりやすさがあります。サーバーレス方式であるため運用管理の負荷も極めて低くなります。ただし取得したデータ量ではなく、精査したデータ量に対する課金となるためコスト管理が難しい面があります。
データ活用基盤としては、データベースサービスも重要です。3大クラウドのデータベースサービスをまとめました(表)。
RDB1つ取っても、各社それぞれの特徴があります。AWSのAuroraはクラウド環境に最適化されていますし、AzureではオンプレミスのSQL Serverをハイブリッドクラウドに容易に拡張するサービスがあります。Cloud Spannerはサーバーレス方式を採用しており、RDBの構造とNoSQLの拡張性を両立したユニークなデータベースです。
AWS、Azure、GCPの3大クラウドの概要と、それぞれのデータ活用基盤としての特徴を駆け足で見てきました。それぞれ豊富な機能を備えており、1つ1つの機能を掘り下げて解説したいところですが、紙幅の都合で一部の特徴的な機能を除いて名称の羅列となってしまいました。
ですが、これらの機能すべてを熟知するのはなかなか難しいことです。現実問題として、これら多数の機能を組み合わせて、自社にとっての最適解を見つけることは容易ではありません。
クラウドのスペシャリストでも、今回紹介した機能をすべて利用したことがある人はなかなかいないでしょう。したがってお薦めしたいのは、組織としてこれらすべてを経験している会社のコンサルタントに相談することです。もちろんその会社が情報共有に努めているかどうかが相談相手を検討する際の決め手となることでしょう。
データ活用基盤に関連する記事については、こちらも是非ご覧ください。
・DWHをデータ処理基盤として利用する~DXプロジェクトで欠かせない大量データの扱い方~
・企業DX推進に必要な4つの基盤と橋渡し役の存在
(参考)
・Japan IT Market 2018 Top 10 Predictions: デジタルネイティブ企業への変革 – DXエコノミーにおいてイノベーションを飛躍的に拡大せよ, IDC Japan プレスリリース, 2017年12月14日
・バズワードではないDX、3大クラウドベンダーのビッグデータ分析サービス
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