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2024年5月に「DX銘柄2024」が発表されました。
DX銘柄とは、経済産業省と東京証券取引所が共同で実施している取り組みで、東京証券取引所に上場している企業のうち「DX推進に向けた仕組みを構築し、実際に成果を上げている」企業を選定するものです。
※DXについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
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DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?今さら聞けない意味・定義・事例をわかりやすく解説【2024年最新版】
本記事では、「DX銘柄2024」の評価プロセスや選定企業の全体的な特徴、具体的なDX事例を徹底解説します。最後までお読みいただくことで、今年のDX銘柄の傾向を把握できるだけでなく、日本企業がDXを進める上での具体的なヒントを得られるでしょう。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を活用して従来のビジネスモデルや業務プロセスを抜本的に見直し、新たな価値を創出する取り組みです。企業はDXを通じて、単なる効率化にとどまらず、事業の成長や顧客体験の向上、さらには市場競争力の強化を実現します。そのような中で、経済産業省と東京証券取引所が共同で実施している「DX銘柄」は、こうしたDXの取り組みをリードする企業を選定し、広く紹介する制度です。
この取り組みの主な目的は、日本企業全体のDX推進を加速させ、国際的な競争力を高めることにあります。DXが進むことで企業価値が向上し、業界全体の成長が促進され、ひいては日本経済全体の発展に寄与することが期待されています。「DX銘柄」に選ばれた企業は、単に先進的な技術を導入するだけでなく、具体的な成果を挙げることで他社の模範となる存在と見なされています。
2024年版では、過去の評価基準を踏まえつつ、新たに強化された選定プロセスが導入されました。この変更により、従来以上に、DXの本質的な意義に沿った取り組みや、その持続可能性が重視されています。また、選定対象には、デジタル技術を活用して社会課題を解決し、環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からも貢献している企業が多く含まれています。
さらに、2024年版の選定では業界ごとの特性にも注目し、各業界におけるDXのリーダーシップを発揮する企業を評価しています。このことは、業界横断的なDX推進を促す上での重要な指標となり、各企業がDXを通じて得た知見を業界全体に広げることを目指しています。「DX銘柄」は単なる称号ではなく、日本企業が未来に向けて挑戦を続けるための象徴とも言えるでしょう。
2024年度のDX銘柄には、下記の4部門が設けられています。
この中で、トップとなる「DXプラチナ企業2024-2026」に選ばれている企業は2社あります。「DXプラチナ企業銘柄」は、特に優れたDX推進成果を上げ、業界全体の模範としてリーダーシップを発揮する企業を対象とする制度です。この制度は、単なる技術導入や業務効率化を評価するだけではなく、企業のビジョンやDXに向けた持続的な取り組みの実現性、その成果が他企業や業界にどのように影響を及ぼしているかを包括的に評価するものです。
今回の評価では、従来の基準を基にしつつ、新たな視点が加わり、DXの意義をさらに深く掘り下げた内容となっています。例えば下記ポイントも視点として考えられます。
DX推進において、経営層の役割は極めて重要です。評価では、経営陣が単なる方針策定にとどまらず、自ら積極的にDXの推進をリードしているかが問われました。これには、以下の要素が含まれます:
DXは一時的な成功ではなく、持続的な成果を生むための仕組み作りが重要です。2024-2026年版では、特に以下の観点が評価されています:
DXの成果が自社内に留まらず、他企業や業界全体に広がることが、評価の大きなポイントとなっています。この波及効果を生むためには以下の取り組みが必要とされています:
DX銘柄2024の評価プロセスは、DX推進の基盤や成果を持つ企業を公平かつ正確に選定するために、2段階で行われます。このプロセスは、単なる技術導入の有無だけでなく、企業全体のDXに対する姿勢や持続可能な価値創出への取り組みを包括的に評価する仕組みとなっています。
1次評価では、東京証券取引所(プライム、スタンダード、マザーズ)上場会社約3,800社を対象に「DX調査2024」を実施。調査回答いただいた企業344社のうち、東京証券取引所に上場※かつ「DX認定」を取得している企業を対象に、アンケート調査結果及びROE・PBRに基づき、スコアリングを実施し、一定基準以上の企業を、候補企業として選定しています。これはDXの実現可能性を判断するための基礎的な段階であり、主に公開されている財務データや各種報告書、企業の公表情報を基に分析が行われます。
一次評価の評価項目(大分類)
1. ビジョン・ビジネスモデル
2. 戦略
2-①. 組織づくり・人材・企業文化に関する方策
2-②. ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
3. 成果と重要な成果指標
4. ガバナンスシステム
2次評価では、1次評価を通過した企業に対し、より具体的で深い分析が行われます。この段階では、企業のDX推進がどの程度戦略的であり、実際に成果を上げているかが評価の焦点となります。
【参考】
デジタルトランスフォーメーション銘柄2024:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/dxstockreport-202401.pdf
以下の2つのポイントが特に重視され、企業の取り組みの具体性と社会的意義が評価されます。
DX銘柄2024では、企業のDX推進度合いや成果に基づき、異なる特徴を持つ4つの部門が設けられています。それぞれの部門には、DXの進展をリードする企業や、成長の可能性を秘めた企業など、日本企業全体のDXの模範となる存在として位置づけられています。
DX推進において特に顕著な成果を挙げ、かつ持続可能な取り組みを構築している企業が「DXプラチナ企業」として選定されます。この部門の企業は、業界のトップランナーとして、次のような特徴を備えています:
選定された企業は、単なるデジタル技術の導入にとどまらず、経営課題の解決や社会的価値の向上に大きく貢献しており、他企業のロールモデルとしての役割を果たします。
「DXグランプリ企業」は、業界のリーダーとしてDXを積極的に推進し、短期間で目覚ましい成果を上げた企業が対象です。この部門では、特に次のような要素が評価されています:
これらの企業は、他社が模倣しやすい成功事例を提供することで、業界全体のデジタル変革を牽引する存在となっています。
「DX銘柄」は、DXの取り組みを通じて企業価値向上を実現した企業が選定されます。この部門の企業は、次のような特徴を持っています:
「DX銘柄」に選ばれた企業は、組織のデジタル化を加速し、経営の質を向上させた事例として評価されています。
「DX注目企業」は、DXの基盤を整え、今後の成長や推進が期待される企業が対象です。この部門では、次の点が注目されています:
この部門は、まだ成果が顕著でない企業にも焦点を当てることで、未来のDXリーダーを発掘する意義を持っています。
ここからは、DX銘柄2024に選定された企業の一覧を紹介します。選定企業の特徴もあわせて解説するので、これからDX推進の取り組みを始めようとお考えの方は参考にしてください。
証券コード | 法人名 | 業種 |
---|---|---|
6501 | 株式会社日立製作所 | 電気機器 |
7732 | 株式会社トプコン | 精密機器 |
DXプラチナ企業2024-2026は、DX推進において業界の模範となり、持続可能な価値創出と社会課題解決を実現する先進的な企業として2社が選定されました。
証券コード | 法人名 | 業種 |
---|---|---|
5938 | 株式会社LIXIL | 金属製品 |
7011 | 三菱重工業株式会社 | 機械 |
7936 | 株式会社アシックス | その他製品 |
DXグランプリ企業では、業界をリードする目覚ましいDXの成果を挙げた以下の3社が選定されました。
証券コード | 法人名 | 業種 |
---|---|---|
2871 | 株式会社ニチレイ | 食料品 |
3591 | 株式会社ワコールホールディングス | 繊維製品 |
3407 | 旭化成株式会社 | 化学 |
4568 | 第一三共株式会社 | 医薬品 |
5108 | 株式会社ブリヂストン | ゴム製品 |
5201 | AGC株式会社 | ガラス・土石製品 |
5411 | JFEホールディングス株式会社 | 鉄鋼 |
6367 | ダイキン工業株式会社 | 機械 |
6645 | オムロン株式会社 | 電気機器 |
6841 | 横河電機株式会社 | 電気機器 |
7259 | 株式会社アイシン | 輸送用機器 |
9143 | SGホールディングス株式会社 | 陸運業 |
9101 | 日本郵船株式会社 | 海運業 |
9201 | 日本航空株式会社 | 空運業 |
9301 | 三菱倉庫株式会社 | 倉庫・運輸関連業 |
9434 | ソフトバンク株式会社 | 情報・通信業 |
3132 | マクニカホールディングス株式会社 | 卸売業 |
2678 | アスクル株式会社 | 小売業 |
8316 | 株式会社三井住友フィナンシャルグループ | 銀行業 |
8601 | 株式会社大和証券グループ本社 | 証券、商品先物取引業 |
8253 | 株式会社クレディセゾン | その他金融業 |
4544 | H. U. グループホールディングス株式会社 | サービス業 |
DX銘柄には、多くの企業が選定されていますが、その中でも特筆すべき以下の3社を紹介します。
証券コード | 法人名 | 業種 |
---|---|---|
1333 | マルハニチロ株式会社 | 水産・農林業 |
4901 | 富士フイルムホールディングス株式会社 | 化学 |
4507 | 塩野義製薬株式会社 | 医薬品 |
5333 | 日本硝子株式会社 | ガラス・土石製品 |
5711 | 三菱マテリアル株式会社 | 非鉄金属 |
6902 | 株式会社デンソー | 輸送用機器 |
7911 | TOPPANホールディングス株式会社 | その他製品 |
9501 | 東京電力ホールディングス株式会社 | 電気・ガス業 |
9064 | ヤマトホールディングス株式会社 | 陸運業 |
9104 | 株式会社商船三井 | 海運業 |
9233 | アジア航測株式会社 | 空運業 |
4768 | 株式会社大塚商会 | 情報・通信業 |
2768 | 双日株式会社 | 卸売業 |
8174 | 日本瓦斯株式会社 | 小売業 |
8354 | 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ | 銀行業 |
8616 | 東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社 | 証券、商品先物取引業 |
7199 | プレミアグループ株式会社 | その他金融業 |
8439 | 東京センチュリー株式会社 | その他金融業 |
2980 | SREホールディングス株式会社 | 不動産業 |
9216 | ビーウィズ株式会社 | サービス業 |
9715 | トランス・コスモス株式会社 | サービス業 |
DX注目企業には、DXの基盤を整え、将来の成長が期待される企業が多く含まれています。その中でも特筆すべき3社は下記になります。
DX銘柄2024では、日本企業がDX推進において進化を遂げていることが如実に示されており、以下の3つの特徴が特に浮き彫りになりました。これらの特徴は、日本全体のデジタル化の進展や企業の社会的責任への取り組みを映し出しています。
2024年版では、生成AIや機械学習など、先端技術の導入と活用が多くの企業で進んでいることが特徴的です。特に、以下のような分野でAI技術が活用されています:
AI技術の活用は、単なる業務の効率化にとどまらず、競争優位性を確立するための基盤として位置づけられており、選定企業の多くがこの分野で先進的な取り組みを行っています。
2024年版では、DXとESG(環境、社会、ガバナンス)経営を統合した戦略が際立っています。特に以下の点が注目されています:
これらの取り組みは、企業の社会的責任(CSR)を果たすだけでなく、顧客や投資家からの信頼を獲得し、長期的な競争力を高める結果につながっています。
これまでDX推進の主役は大企業が中心でしたが、2024年版では中小企業の台頭が目立つ結果となっています。中小企業は以下のような点で注目されています:
中小企業のDXは、規模や予算の制約を逆手に取り、効率的かつ効果的に技術を活用することで、大企業に匹敵する成果を挙げています。
DX銘柄2024に選定された企業の中には、業界をリードする先進的なDX事例が数多く見られます。特に、DXプラチナ企業2024-2026に選ばれた「株式会社日立製作所」と「株式会社トプコン」は、それぞれの分野でDXを活用し、顕著な成果を挙げています。
日立は、リーマンショック後に大赤字を計上し、会社存続の危機に直面しました。この状況を打破するため、社会イノベーション事業を推進し、グローバル成長を目指す必要性に迫られました。また、多岐にわたる事業運営を効率化しつつ、デジタル技術を活用して社会課題に対応することが求められました。さらに、グローバル展開を支えるためのデジタル人材の確保や育成も喫緊の課題となっていました。
これらの取り組みにより、日立は社会イノベーション事業の海外展開を加速させ、収益性と成長性を大きく向上させました。DXとGXを融合させた取り組みを通じて、生成AIやグリーンエネルギーの活用により新たな価値を提供し、環境課題にも対応しています。また、全社的なデジタル技術の活用により業務効率を改善し、オペレーションコストを最適化しました。DXによる課題解決力の強化を通じて、顧客や社会との信頼関係を深め、競争力の向上を実現しました。これらの成果は、持続可能な社会の実現に向けたリーダー企業としての地位を確立する大きな一歩となっています。
トプコンは長い歴史の中で、「医・食・住」の分野で持続可能な成長を実現し続ける必要がありました。また、顧客ニーズの変化や業界の課題に応えるため、既存技術の進化と新たなデジタル技術の取り入れが求められていました。さらに、グローバル展開における地域ごとの適応や、現場の効率化を進めるための具体的なソリューションの開発も大きな課題となっていました。
これらの取り組みによって、トプコンは「医・食・住」領域における社会的課題を解決し、業界の効率化と省人化を実現しました。特に建設現場でのデジタル化や農業の自動化により、生産性が大幅に向上。医療分野では、眼底画像とAIを活用したスクリーニング検査により、疾患の早期発見に貢献しました。今後も伝統あるベンチャースピリットを基盤に、新しい技術と市場の開拓を進め、持続的な成長を目指します。
DX銘柄2024に選定された企業の中から、ブレインパッドが支援している「ソフトバンク株式会社」のDXプロジェクトについて、概要を紹介します。
ソフトバンク株式会社は、社会インフラのさらなる効率化と高度化を目指し、AIとデータ分析を活用した革新的な取り組みを進めています。その一環として、LPガス業界における配送業務の効率化を実現する新サービス「Routify(ルーティファイ)」を開発し、実装しています。
「Routify」は、LPガス事業者のデータ(検針、車両、配送員、物件情報など)と外部データ(道路情報、天候など)を活用し、AIによってガス残量を予測する配送最適化サービスです。これにより、従来は配送員の勘や経験に頼っていた配送計画が自動化され、専用アプリを通じて効率的な配送ルートを提供。結果として、最小限の移動で均一的なガス残量の容器回収が可能になります。
ブレインパッドは、本プロジェクトの開発パートナーとして、インプット、配送最適化システム、アウトプット(業務アプリケーション)からなる「Routify」のビジネス実装に向けた支援をいたしました。
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2024年のDX銘柄は、日本企業のDX推進状況とその成果を明確に示すと同時に、取り組みの成熟度や現状の課題を浮き彫りにしています。選定された企業の多くは、DXを通じて業務効率化や新たな事業モデルの構築に成功しており、その成果は業界全体に好影響を与えるものです。一方で、未選定企業やDX推進に遅れを取る企業にとっては、成功事例が示す具体的な道筋を学び、自社の課題解決に向けたヒントを得る貴重な機会となっています。企業規模や業界の壁を超え、持続可能な社会の実現と経済成長に向けた歩みを加速させることが、これからのDX推進における重要な課題といえるでしょう。
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