メルマガ登録
前編はこちら
今回のレポートでは、企業が目指すべき方向性について、初めて「デジタル産業」という用語が使用されました。デジタル産業の概要について整理するとともに、企業の垣根を超えたデジタル産業の理想像を経産省がどのように構想しているのかご説明します。
デジタル産業の姿として、以下の5つがレポートには記載されています。
デジタル産業は、DXによって実現される「デジタル社会」に貢献する存在でなければなりません。デジタル社会は、以下の通りです。
このように、デジタル技術によって新たな価値観・サービスモデルが社会全体へ普及することが理想像であり、それをもたらすのがデジタル産業なのです。経産省の提唱するデジタル産業は、利潤追求と社会貢献を高度に両立させた存在といえます。
先に挙げたデジタル産業のビジネスモデルには、いくつかキーワードがあります。
デジタル産業は、顧客への価値を「ネットワーク上のサービス」として提供します。その典型例がクラウドサービスです。サービスの特徴は、相互の組み合わせやアップデートの容易さにあります。つまり、デジタル産業による価値提供は、社会の変化に応じた形で改善が続けられるものであり、一回購入・利用したらそれで終わりといった性質のものではありません。
ネットワーク上のサービス提供によって、顧客の利用状況をデータとしてリアルタイムに捕捉できます。このビッグデータを蓄積・分析することにより、顧客一人ひとりの属性や行動履歴などに応じた価値提供が可能となるのです。
ネットワーク上のサービスは、容易に拡大することができます。対象者が拡大しても労働量はそれほど拡大しないため、労働量に依存しないスケールが可能です。ニーズに応えてスピーディに開発されたサービスをスモールスタートさせ、最終的には世界規模でスケールしていくことすらありえるのです。
ネットワークを介して、顧客や他社と継続的な関係を構築できます。企業は、仮説の形でサービスを市場に投げかけ、顧客の反応に基づいて他社と協力しながら提供価値を継続的にアップデートできます。仮説構築→検証→改善→検証→……というループを迅速にまわすことにより、激しい環境変化に対応します。
データとデジタル技術によって実現するビジネスモデルのひとつが、マルチサイドプラットフォームです。これは、売り手と買い手のようなふたつのグループを結びつけるものであり、レポートではUber社の事例が挙げられています。Uberは、「運転で収入を得たいグループ」と「車で移動したいグループ」をソフトウェアで結びつけるサービスです。運転手やタクシーの車両へ投資する必要がなく、マッチング用のソフトウェア部分に注力することで、グローバルなビジネス展開を実現させました。
ユーザー企業とベンダー企業といった従来型の関係を超える形で、デジタル企業はパートナーシップを再定義する必要があると経産省は考えています。その企業類型として、以下の4つが挙げられています。
あえて分類すれば、「パートナー」が従来のベンダー企業、「提供主体」が従来のユーザー企業に当たります。しかし、どうしても「丸投げ」「責任逃れ」の関係に陥りやすい従来型の関係とは異なり、ここでは「伴走支援」「サービス・価値の提供者」であることが強調されています。
特定の大企業を頂点とするピラミッド型ではなく、多様な価値を結びつけ合うネットワーク型の構造が志向されています。
デジタル産業に関する記述は、やや抽象的でした。しかし、経産省は既に企業のDX促進のために各種の施策を進めています。本レポートでまとめられた各種施策の概要について、最後にご紹介します。
先に挙げたパートナーや価値提供主体としての企業類型は、現在の企業がDXによって目指すべき方向性を定めたものです。単なるITツール・システムの導入で終わってしまい、既存業務やビジネスモデルの変革につながらない「DX」を避けるべく、最終的な目標値を企業類型によって指し示しています。
また、今後「デジタル産業指標(仮)」の策定を掲げています。自社がデジタル産業の企業に該当するか自己判断できるように、定量的・定性的評価軸に基づいた指標が必要とされています。
企業がDXに取り組むに当たって、同じ業界や類似ケースに当たる他社の事例を参考にすることはよくあります。しかしながら、経産省はそうした事例について「変革の道筋のどの段階にあるのか全体感のある解説がなされているものは少ない」と指摘しています。
そこで、今後デジタル産業の姿や企業の変革事例を整理し、抽象化した「DX成功パターン」を明らかにする意向を示しています。このDX成功パターンによって、企業が自社の取り組みレベルを自己評価し、具体的な戦略を定めやすくなる効果が期待されています。
デジタル産業という用語自体は、経産省のなかで使われたことがあります。2021年6月に公表された『半導体・デジタル産業戦略』のなかで、デジタル産業基盤を「データを収集し、伝達し、処理し、記憶し、共有する基盤」と位置づけています。ここでは、クラウド事業者やプラットフォーム事業者、サイバーセキュリティ事業者がデジタル産業として位置づけられており、本レポートよりもやや狭い意味であると考えられます。
本レポートでは、デジタル産業を消費者・企業向けサービスの事業者にまで適用しようとしています。今後は、特にDX施策の文脈でこうしたデジタル産業の定義を活用していくと考えられます。
今回のDXレポート2.1は、経産省が進めてきたDX支援策のなかでも企業のあるべき姿の明確化に焦点を当てた内容となっています。ユーザー企業とベンダー企業、あるいは特定の大企業を頂点としたピラミッド構造になりがちな企業関係を超えて、サービスの提供主体およびそのパートナーとしてネットワーク関係を構築することが想定されています。
企業においてDXを推進する際は、経産省を始めとした政府や関係機関の動向をウォッチしておくとヒントを得られることがあります。ぜひキャッチアップしていただければと思います。
▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント
あなたにオススメの記事
2023.12.01
生成AI(ジェネレーティブAI)とは?ChatGPTとの違いや仕組み・種類・活用事例
2023.09.21
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?今さら聞けない意味・定義を分かりやすく解説【2024年最新】
2023.11.24
【現役社員が解説】データサイエンティストとは?仕事内容やAI・DX時代に必要なスキル
2023.09.08
DX事例26選:6つの業界別に紹介~有名企業はどんなDXをやっている?~【2024年最新版】
2023.08.23
LLM(大規模言語モデル)とは?生成AIとの違いや活用事例・課題
2024.03.22
生成AIの評価指標・ベンチマークとそれらに関連する問題点や限界を解説