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物流業界は現在、人手不足や環境問題といった未曾有の課題に直面しています。これらの課題への対応策として、最新のデジタル技術を活用し、物流システムの根本からの見直しを図る「物流DX」が注目されています。
本記事では、物流DXの基本概念から、業界が直面する課題、さらには実際の成功事例に至るまで、物流業界の未来を切り拓くための重要な情報を詳細に解説します。物流の効率化とコスト削減、そして環境に優しいサステナブルな物流システムの構築を目指す方は、本記事を通してプロジェクト推進のヒントを持ち帰っていただけると幸いです。
物流DXとは、従来の物流システムを見直し、最新の技術を活用して物流業務の効率化、高速化、コスト削減を目指す考え方です。
物流DXの達成により、物流業界全体の生産性向上が期待されるとともに、新たなビジネスモデルの創出やサプライチェーンの最適化(サプライチェーンマネジメント)が実現可能になります。
※サプライチェーンマネジメント(SCM)の意味については、以下の記事で詳しく解説しています。
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?成功事例や必要性・メリットをわかりやすく解説
国土交通省が2021年11月に取りまとめた「最近の物流政策について」によると、物流DXは「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること」を指します。この取り組みにより、他産業に対する物流の優位性が高まり、日本の産業の国際競争力を強化することが期待されているのです。
今日の物流業界は、人手不足や環境問題など、さまざまな社会背景から国内外の市場動向や消費者のニーズの変化に迅速に対応する必要が生じています。物流DXによる機械化やデジタル化の推進は、これらの課題に対応するための重要な手段といえるでしょう。
デジタル技術の導入により、物流プロセスの透明化、リアルタイムでの情報共有、効率的な資源配分などが実現可能になります。これにより、企業は顧客満足度を高めることができるだけでなく、物流コストの削減や配送時間の短縮など、組織の円滑な運営を助けるさまざまなメリットが生まれるのです。
【DXの核心】解説記事
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?今さら聞けない意味・定義・事例をわかりやすく解説【2024年最新版】
物流業界にはさまざまな課題が存在します。
こういった課題に着目することで、物流DXが求められる背景が理解できるようになります。
少子高齢化による生産年齢人口の減少により、物流業界では長らく深刻な人手不足が問題となっています。特にドライバーや倉庫作業員の不足が深刻であり、ピーク時の配送量増加に対応するために十分な人員を確保することが難しい状況です。
また、人手不足や過剰な業務量による長時間労働や重労働が常態化しており、労働環境の改善が急務とされています。これらの課題は、業界全体の生産性低下を招いており、物流DXを通じた自動化や効率化が求められています。
2024年問題とは「働き方改革関連法によって、自動車運転が伴う業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることで生じる課題群」を指します。
トラックドライバーの労働時間制限は、すなわちトラック運送業や物流業における売上や利益の減少につながります。ドライバーの労働時間≒配送業務であり、運送業者の輸送能力は必然的に低下します。
また時間外割増賃金率の引き上げにより、人件費が増加し、利益率がさらに圧迫される可能性も出てきています。
このように、2024年問題は運送業界・物流業界に深刻な影響を及ぼしかねないと危惧されています。
法律に基づいて労働者の健康と安全を確保しつつ、品質を損なわずに配送サービスを提供し続けるという課題に、物流業界全体が直面しているといえるでしょう。
【2024年問題】解説記事
物流2024年問題とは?社会や運送業界への影響と対策法をわかりやすく解説
またブレインパッドでは、数理最適化技術を駆使した配送計画のシミュレーションを行い、トラックドライバーの労働時間制限や配送時間の変更が運送コストに及ぼす影響を具体的に分析しました。
このシミュレーションによって、2024年問題によってトラックドライバーへの諸問題が顕在化した際にも、「荷役時間の短縮」や「荷主側の配送指定時間枠の拡張」などの対策を練ることで悪影響を最小限に抑えられるという予測が明らかになりました。
予測結果を活用することで、最適な配送ルートの作成やトラックドライバーの労働時間の調整などに役立てることが可能になると考えられます。
【数理最適化技術を駆使した配送計画のシミュレーション】
インターネットの普及によってEC(電子商取引)が拡大しており、小口配送の需要が大幅に増加している点も、物流業界における課題のひとつです。
消費者の利便性を追求するECサイトにおいては、少しでも早く商品を受け取りたいユーザ―が多く、迅速な配送が求められます。しかし、小口配送の増加は物流業界にとって高いコストと労力を必要とします。
小口配送の増加に対応するためには、配送ルートの最適化や配送プロセスの効率化が不可欠であり、物流DXの推進が重要な鍵となっています。
世界的に注目を集めている地球温暖化対策としてのカーボンニュートラルへの取り組みは、物流業界にとっても重要な課題です。
カーボンニュートラルとは?2050年に日本が実現を目指す環境目標と進め方
日頃から燃料を大量に消費するトラック運送や航空輸送は、CO2の排出量として大きな割合を占めており、業界全体で環境への負荷を減らすための効果的な対策が求められています。
物流DXによるエコロジー対応の物流システムの構築や、エネルギー効率の高い輸送手段の導入が、環境問題への対応策として注目されています。
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残念ながら、多くの物流企業ではITシステムの老朽化やIT化の遅れが解消されていないのが現実です。「レガシーシステム」と呼ばれる古いシステムではデータのリアルタイム処理や効率的な資源配分が難しく、業務効率が低下する原因となり得ます。
また、デジタル技術の活用が不十分であるために、市場の変化や消費者のニーズに迅速に対応することが難しい点も、古いシステムを利用し続けるデメリットです。物流DXを進めることによって、最新のIT技術を導入し、システムを最適化することは、業界の競争力を高めるためにも重要といえるでしょう。
物流DXを推進することで、現場ではさまざまな改善や変革が期待できます。ここでは、物流DXによって実現できることの中で、特に基本的なものを解説します。
業務のデジタル化による労働環境の改善は、物流DXでも特に注目されることが多いメリットのひとつです。ペーパーレス化や電子化、トラック予約システムの導入、AI活用によるオペレーション効率化などが該当します。
ペーパーレス化・情報のデジタル化・手続きの電子化などの形で従来の紙ベースの業務をデジタル化することにより、データの即時性と正確性が向上して業務の迅速化につながります。
例えば、配送伝票や請求書のデジタル化は、データ入力の手間を省き、ヒューマンエラーの発生リスクを軽減します。また、電子化されたデータは組織内で容易に共有できるようになり、社内外のコミュニケーションも効率化することにつなげられるでしょう。
物流DXの一環として、トラックの配送スケジュールを最適化し、待ち時間の削減や配送効率の向上を図れるトラック予約システムの導入も注目されています。システムのシミュレーション機能を活用して、荷物の積み下ろし時間やルートを事前に計画し、トラックの稼働率を最大限に高められます。
また、リアルタイムでのトラックの位置情報や配送状況の追跡ができるので、より精密な物流管理も実現可能です。これにより、配送遅延のリスク低減や顧客サービスの向上を実現し、物流業界の効率化を促進します。
近年、AI技術の発展が目覚ましく、物流業界においてもオペレーション効率化の重要な要素として注目を集めています。
例えば、AIによる需要予測や在庫管理は、サプライチェーンの最適化に貢献し、AIを活用したルート計画や配送スケジューリングにおいては、輸送コストの削減や配送時間の短縮につながります。
他にも、AIを利用した自動ピッキングシステムにより倉庫内の作業効率を大幅に向上させ、人手不足の解消を図るなどの活用方法が考えられます。
物流DXによる在庫管理効率化は、リアルタイムな在庫データの把握と適正在庫の維持に貢献します。AIなどを取り入れた高度なデータ分析ツールを用いて、需要の変動を予測し、過剰在庫や欠品を防止します。
また、ロボット技術やAIを活用した自動ピッキングシステムを導入することで倉庫内の自動化もでき、人手に依存する作業の効率化と精度の向上が実現します。
【需要予測】解説記事
物流DXによる配送ルートの最適化は、物流業界の効率化とコスト削減に役立ちます。リアルタイムに最適化された配送ルートの活用により、運送効率の大幅な向上が期待できるでしょう。
交通状況や天候、配送先の集中度などの要因を考慮して、最短かつ最も効率的なルートを自動計算することで燃料費の削減も期待でき、物流業界の環境負荷低減にも寄与します。
【配送ルート最適化プロジェクトで起きうる課題】の解説記事
【配送ルート最適化のDX事例】記事
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物流DXは、再配達の削減と効率化にも重要な役割を果たします。メールやチャットアプリ、Webの会員システムなどを通じて配送の事前予告や受け取り方法の選択肢を提供することで、再配達の件数削減につながるでしょう。
無駄な配送回数の削減により、配送ドライバーの労働環境を改善でき、物流業界全体のサービス品質向上にも貢献します。
ドローン配送は、物流業界において将来性が期待されている配送方法のひとつです。ドローンを活用した配送によって、交通渋滞や地形の制約を受けることなく、迅速かつ直接的な配送ルートを通じて顧客のもとへ荷物を届けることができます。
特に過疎地や離島、災害で被害を受けた地域など、従来の配送手段ではアクセスが困難な場所への配送において、ドローンは効果的な解決策となるでしょう。
配送自動化の分野においても、物流DXが効率化の有効な解決策となる可能性があります。主に自動配送ロボや自動運行船、自動運転トラックなどの活用が開始または検討されています。
自動配送ロボット、特に無人搬送車(Automated Guided Vehicle, AGV)は、物流業界における配送自動化の先駆けとなっており、すでに現場で活躍しているものもあります。
自動配送ロボットは、倉庫や工場内での製品の移動をはじめとしたさまざまな作業を自動化し、人間に代わって作業を行います。プログラムされたルートに沿って自動的に動作し、重量物の運搬や正確な位置への配置を行うことで、人間の労働負担の軽減やヒューマンエラーの削減、生産性の向上が期待できます。
自動運航船は、海上物流における物流DXの中でも注目度が高いシステムで、AIやGPSを用いて自動で航路を決定し運航するのが特徴です。
人間の運転士が不要になるため運航コストの削減が期待できるだけでなく、最適なルートを経由することで燃料を節約して環境への影響を低減させる効果もあります。また、あらかじめ指定したルートを自動的に航行することから、ヒューマンエラーの発生が起こりにくく、安全性の向上にもつながります。
自動運転トラックは、陸上物流における配送自動化を実現するために有力視されているシステムです。最先端のセンサー技術やAI・GPS技術などを駆使して、ドライバー不在での運行を可能にします。
自動運転トラックの導入により、長距離のトラック輸送の安全性と効率性が向上します。特にトラックドライバーの疲労や注意散漫による事故リスクの低減が期待されており、24時間連続運行が可能になることから、輸送効率の向上も見込まれます。
人手不足に悩む物流業界において、自動運転トラックの導入により物流業界全体のサービス品質の向上とコスト削減が大いに期待されています。
顧客接点の強化は、顧客満足度とブランドイメージを高めるために欠かせない施策です。デジタル技術の発展に伴って、Webサイト、SNS、モバイルアプリなどを通じた顧客との直接的なコミュニケーションはますます重要になってきました。
例えば、オンラインプラットフォームによる24時間対応可能なカスタマーサポートやAIを活用したチャットボットは、物流DXにおいて多くの企業が導入を検討しているソリューションです。これらの仕組みを導入することで、顧客からの問い合わせに迅速かつ効率的に対応できます。
物流DXによってシステムが整備され、データの蓄積が進むと、デジタルマーケティングにも活用が可能です。デジタルマーケティングの活用は、現代のビジネス戦略において中心的な役割を果たします。
デジタルマーケティングを通じて、企業は消費者の行動や興味・嗜好をリアルタイムで把握し、顧客一人ひとりにパーソナライズされたマーケティング戦略を展開できるようになるのです。
データ分析、SNS、SEO対策、電子メールマーケティングなどさまざまな施策を通じてターゲットに効果的にアプローチすることで、顧客満足度の向上や企業の利益拡大、ブランドイメージの向上につながります。
物流DXをさらに発展させると、物流ロジスティクスやフィジカルインターネットの実現が期待されます。ここでは、基本の物流DXを発展させて実現可能な2つのことを紹介します。
物流DXによる物流ロジスティクスの進化は、サプライチェーン全体の最適化と効率化を実現します。
デジタル技術の活用により、商品の供給から配送までの一連のプロセスがリアルタイムで共有されることで、在庫の管理がより精密にできたり、需要を予測したりすることが可能になるのです。
また、AIや機械学習を活用した分析ツールは、過去の販売実績や季節変動などを踏まえて将来的な需要の変動を正確に捉え、供給過多や不足を未然に防ぐ効果も期待できるでしょう。複数のデジタル技術を組み合わせることで、より効率的かつ高品質なサービスを提供できます。
フィジカルインターネットとは、複数企業間でトラックや倉庫のシェアリングを行い、より効率的な配送を行うための考え方です。「物流システム全体をインターネットのように開かれたグローバルネットワークとして構築する」という概念であり、実現できれば、異なる企業間での資源の共有や連携が容易になります。
人手不足から配送リソースが限られている状況下において、業界全体が協力してリソースを活用することで、業務の効率化を実現できるでしょう。
また、少ないトラック台数で荷物を運ぶことを重視するフィジカルインターネットは、エネルギー消費の削減や環境への影響の低減にも寄与します。
ここからは、物流DXの具体的な取り組み事例を紹介します。他社様のDX事例を参考にすることで、サプライチェーンの最適化を図れる打ち手のヒントが得られるはずです。
を目的として定め、キリンビール様は2021年に「SCM(Supply Chain Management)部」を新設。需給業務における安定供給やコスト最適化の実現を目指し、「需給業務のDXを推進・加速していく」サプライチェーンマネジメント – 通称「MJ(未来の需給をつくる)プロジェクト」を発足されました。
【本事例の解説記事やSCM解説記事】
【DX事例】「未来の需給」をつくる、キリンビール「SCM(サプライチェーンマネジメント)」の挑戦~DOORS -BrainPad DX Conference- 2023 テーマ別 企業DX対談~
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?成功事例や必要性・メリットをわかりやすく解説
パナソニックホールディングス株式会社様は、現場プロセスの改革を支援するためにデータを活用しています。特に「現場プロセスイノベーション」を主力事業としており、その一環として、サプライチェーンマネジメント(SCM)におけるデータ活用にも力を入れています。
サプライチェーンの課題解決には、特定領域と別の領域との関連性を見極めることが欠かせません。仮に物流領域で問題が出ていても、その原因が物流以外にあるケースも少なくないといえます。そのため、AIのようなテクノロジーやデータを使って課題領域を見つけていくことが今後の課題になっています。
【本事例の解説記事】
【前編】パナソニック流「サプライチェーンDX」の現在地と未来~BrainPad DX Conference 2022~実践セミナー_対談
伊藤忠商事株式会社様におけるDXへの取り組みは、サプライチェーン全体の最適化とデータ活用に重点を置いています。2018年からDXとデータ活用戦略の推進に着手し、特に食品サプライチェーンの最適化に注力しています。
同社のDX施策である「流通DX」では、サプライチェーンにおける労働力不足、食品廃棄ロス、SDGsなど、多くの事業者が直面する課題が焦点です。課題解決のためにデータ活用による収益拡大やエネルギー・モビリティの変革にも注力しています。
サプライチェーンのDX推進においては、現場の課題に根本から取り組むことが重要であると考えており、現場のデータが整っていない・使用しづらいケースにも対応し、根本的な問題解決に努めています。
【本事例の解説記事】
未来を見据えた伊藤忠「流通DX」のリアル ~BrainPad DX Conference 2022~
伊藤忠商事が掲げる「次世代商人とDX」 ~DOORS BrainPad DX Conference 2021~ #Key Session
物流業界は人手不足や労働負担の軽減、環境問題など、多くの課題を抱えています。このような背景において、デジタル技術を駆使して従来の運用方法を一新し、効率化を図る「物流DX」は重要です。
従来の物流は多くの部分で人の手に依存していましたが、AIやロボティクスなどの最先端技術を活用した物流DXの推進によって、自動化ができる業務も増えてきました。業界全体の課題解決をするためにも、各企業が現状課題を正しく認識し、解決のための施策を積極的に取り入れていく姿勢が求められています。
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