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経済産業省は、民間企業のDX推進の遅れに警鐘を鳴らし、これを加速させるための取り組みを過去数年にわたって続けてきました。新型コロナウイルスの感染拡大がビジネスに多大な影響を与えたことで、経済産業省はDXの実践が新たな事業環境への適応条件そのものになりつつあるとの認識を持つようになっています。
今回は2020年末に公表された経済産業省の資料から、経済産業省は企業のDXを加速させるためにどういった課題があると考え、どのような施策を打ち出していくつもりなのかを読み解きます。
まず DXの本質について知りたい方は、こちらの記事をぜひご一読ください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?今さら聞けない意味・定義・事例をわかりやすく解説【2024年最新版】
2018年に「DXレポート」を公表して以降、経済産業省は企業のDX推進を支援する取り組みを矢継ぎ早に打ち出してきました。まずはそれら取り組みの概要をまとめ、最新資料の位置づけについて整理していきましょう。それぞれの詳細については、以下の記事を確認ください。
【関連】DXを実現できないと転落する「2025年の崖」とは?政府の恐れる巨額の経済損失
【関連】経済産業省「DXレポート第2弾(2020年)」公表に見るコロナ禍での企業変革の重要性
【関連】DXを推進するためのアクションプランは?経産省「DX推進指標」を参考に
2018年のDXレポートでは、「2025年の崖」というキーワードを打ち出して注目を集めました。日本企業のDXが進んでいないことや、その原因として人材不足・既存システムの運用費高騰などを挙げて、国際競争力を失いつつあると警鐘を鳴らしたのです。
既存システムが残存した場合の経済損失額の予測は、2025年以降に毎年約12兆円という巨額なものでした。既存システムが残存することは、ますます企業の体力を損なって新たな投資意欲を失わせ、欧米諸国や中国を始めとした外国との国際競争力が低下することで、莫大な国益の損失につながるとDXレポートでは結論づけました。これが「2025年の崖」の中身です。
また、忘れてはならないのが2018年の時点で毎年約4兆円の損失が生じていると指摘していることです。2025年以降に初めて巨額の損失が生じるのではなく、既に日本は「2025年の崖」から落ちつつあります。2025年以降に備えてDXを進めればよいというわけではなく、一刻も早くDX推進に向けたアクションを起こす必要があることをレポートは示唆しています。
経済産業省は、DXレポートを皮切りに民間企業のDXを促すための施策を次々と打ち出していくことになります。
2019年に入り、経済産業省は「デジタル経営改革のための評価指標(DX推進指標)」を策定しました。この指標は、企業が自らのDX推進度合いを自己診断するための指標であるとともに、DX推進のアクションプランをまとめたガイドブックでもあります。経営幹部、事業部門、DX 部門、IT部門などの関係者による議論を促し、DX推進の認識違いを防ぐことも目的の一つです。
DX推進指標は「DX 推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標」と「DX を実現する上で基盤となる IT システムの構築に関する指標」の2種類から構成されており、それぞれ定性指標・定量指標を持っています。経営層のコミットメントからビジョン設定、体制構築、IT資産の仕分け、進捗管理など、DX推進に必要なアクションプランが列挙されており、企業が自らのプロジェクトを客観的に振り返れるような仕組みになっています。
経済産業省の危機感と取り組みにもかかわらず、日本企業のDXは経済産業省が期待していたほど進展していないというのが実情です。
2020年に発表されたDXレポート第2弾(DXレポート2)では、DX推進指標を活用して自己診断を行った企業の調査結果から、部門横断的なDXを推進していたり持続的な改革に着手していたりする企業はわずか5%程度であることが明らかになりました。大半の企業が未実施か部分的な実施にとどまっており、自己診断を実施していない企業の存在も考慮すると、まだまだDX推進が企業に根付きつつあるとは言えません。
経済産業省は「我が国企業全体における DX 推進はまだ始まったばかりの段階」として、企業に対して努力を求めています。
今回紹介する資料では、上記のような流れを受けて企業の課題を分析し、その解決に向けて求められるアクションを簡単にまとめています。
企業がDX推進に踏み切れない、成果につなげられていない理由はどこにあるのでしょうか。経済産業省は、ITベンダー企業とユーザー企業双方にヒアリングを行って課題感をまとめています。その内容を見ていきましょう。
DXと題した取組を実施している企業は多いものの、本来の意味のDXではなく部分的な業務効率化にとどまるのが中心的であると指摘されています。
たとえば、「既存の業務プロセスにおいて手作業や紙ベースのやり取りが多いために、デジタル技術を活用して効率化を図りたい」といった要望を持つ企業があったとしましょう。こうした課題を解決すること自体は大いに意味のあるものですが、これをDXと呼んでよいのかは難しいところです。既存業務を残すことが前提となって、抜本的な課題解決やサービス改善につながらない可能性もあります。
経済産業省は、「DXは単なるIT導入ではない」「単なる業務効率化ではない」と説明し続けてきましたが、そうした認識が浸透したとは言えない状況です。
DX推進に際して、「DXの目的が分からない(Why)」「どうすればDXになるのかが分からない(What)」「DXの進め方が分からない(How)」といった課題の多さが判明しました。
これは、経営層だけ、事業部門だけ、IT部門だけに限った課題ではありません。経営層は自分の言葉でDXやビジョンについて発信していない、事業部門とIT部門の足並みが揃わない、IT部門は使いたい技術ありきになってしまってビジネスの話にならないなど、複層的な課題を持つことがあるのです。
上記のような課題の根底には、経営層(CIOやCDOを含む)、事業部門、IT部門、そしてITベンダーやコンサルなど外部関係者を含めた各ステークホルダー間の対話不足があると資料では考察しています。
たとえば、ベンダーやコンサルはDXの目的や経営課題についてユーザー企業と対話することが重要と指摘しています。経営層・事業部門・IT部門は、DXの範囲や役割分担について認識を共有させることが重要であると示しています。
こうした点を踏まえて、資料ではステークホルダー間の対話を促すための「対話の中身」について言及しています。
経済産業省は、ワーキンググループを編成してDX推進を促すための「対話の中身」を議論しようとしています。企業の課題を解決する「対話の中身」の概要を紹介します。
まず、経営層のマインドがDXの加速には重要であるとしています。経営層と外部関係者、経営層と事業部門、経営層とIT部門など、対話の中心には常に経営層が存在するからです。経営層がDXについて理解すると、そこからビジョンやDXの目的について社内外に発信・伝達するための有意義な対話が発生します。
DXの重要性が分からない、ビジョンを描けていない、オーナーシップを持たずIT部門に丸投げ(体制を構築していない)、DX推進の号令が具体的な指示に落とし込めていないなど、経営層のマインド不足に起因する課題が数多く指摘されています。対話以前にまずは経営層の意識改革が欠かせません。
DXの進まない要因として、Why・What・Howの理解度不足が挙げられます。これは、各ステークホルダー間で対話が不足し、認識を共有できていないという課題でもあります。
対話のゴールは、Why・What・Howのそれぞれについて認識を共有することです。今回のワーキンググループでは、それぞれを「分かる」状態にする、すなわち各企業が対話できる状態にすることを目指して、対話の中身に関するイメージアップ施策を取りまとめる予定です。
DX加速には、「経営層のマインドと対話が不可欠」というのがワーキンググループの結論でした。それでは、経営層に対してどのような提言を行い、各ステークホルダーはどのような対話を実施すればよいのでしょうか。それぞれの詳細について、後編の記事で説明します。
この記事の続きはこちら
【後編】経済産業省はこれから企業のDXをどう促していくのか?最新資料から読み解く政府の方針
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