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IT投資を「攻め」と「守り」の2種類に分類することがあります。デジタルテクノロジーの発達が業界の構造を揺るがす可能性もある中で、単にITへ割く予算を増やせばよいわけではなく、自社の製品・サービスやビジネスモデルを変革するための効率的な予算配分が求められます。
そこで今回は、IT投資における「攻めのIT」と「守りのIT」について説明したうえで、攻めのITの成功事例をご紹介します。
▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント
IT投資における「攻め」や「守り」という言葉は、近年関係機関の資料などにも用いられるようになっています。まずは両者の定義を確認するとともに、何が「攻め」や「守り」の具体例とされているのか明確にしましょう。
経済産業省と東京証券取引所は、2019年まで「攻めのIT経営銘柄」を共同で選定していました。その背景について、以下のように述べています。
「IT資産の現状を分析・評価することで、従来の社内業務の効率化・利便性の向上を目的とした「守り」のIT投資にとどまることなく、新事業への進出や既存ビジネスの強化など企業価値を向上させる「攻め」のIT投資へとシフトさせていくことが喫緊の課題となっています」
このように、IT投資を攻めと守りに分類する理由として、政府や関係機関が現在の日本企業のIT投資のあり方に対して強い危機感を抱いていることが挙げられます。「DXレポート」と題された別の資料では、現在のIT関連費用の大半が現行ビジネスの運用・維持=ラン・ザ・ビジネス(あるいはランザビジネス)=守りに充てられており、戦略的な投資=バリューアップ=攻めに振り向けられていないとはっきり指摘されているほどです。
IT投資に攻めと守りがあることを意識して、両者のバランス、特に攻めに重点を置くような投資のあり方が求められる、と経済産業省では考えているのです。
関連記事:政府は「DX銘柄」をなぜ選んだのか?DX銘柄2020の内容と選定企業の傾向
電子情報技術産業協会は、IDC Japanと共同で実施した調査において「攻めのIT投資」と「守りのIT投資」の具体例を以下のように挙げています。
<攻めのIT投資>
<守りのIT投資>
決して守りのIT投資が不要なわけではありません。社内業務実行のための基幹システム群(SoR=システム・オブ・レコード)の構築・保守・改善のための投資は欠かせないものであり、これを削減することは困難でしょう。しかし、現行システムが複雑化して守りのIT投資が膨らむと、顧客向けシステム群(SoE=システム・オブ・エンゲージメント)のために割かれるべき攻めのIT投資の余裕がなくなるのです。
DX推進のための費用は、当然ながら攻めのIT投資と考えられます。攻めのIT投資はどのような意味で重要なのか見ていきましょう。
DXは単なるIT導入や既存の業務プロセスのIT化ではなく、AIやビッグデータ活用などによる製品やサービス、ビジネスモデルの変革を指す概念です。前者は守りのIT投資であり、後者は攻めのIT投資であるため、DXを推進するには攻めのIT投資へ資金を振り向ける必要があります。
実際、前述の「攻めのIT経営銘柄」でもDXを推進・実現する企業を高く評価しています。また2020年からは、名称を「DX銘柄」と変更することで、より明確にDXを推進する意向を示しています。
(DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧下さい)
【関連】「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDXとは?意義と推進のポイント
守りのIT投資が全く不要なわけではなく、完全にゼロにできるわけでもありません。企業にとって、ITによる社内のコスト削減や業務効率化などを進めることは重要です。
しかし、経済産業省は「守りばかりでは海外企業に対抗できなくなる」といった強い懸念を抱いています。日本企業がITシステムの構造的な課題を解決できずDXを推進できない場合、2025年以降に最大で毎年12兆円もの経済的な損失が生じる可能性があるとまで述べているのです。これを「2025年の崖」と言います。
グローバルな企業間競争に勝ち抜くためには、攻めのIT投資を通じたDXの実現が欠かせないのです。
【関連】DXを実現できないと転落する「2025年の崖」とは?政府の恐れる巨額の経済損失
近年、世界最大の小売企業であるウォルマートのDX事例が注目を浴びています。Amazonを始めとしたECの攻勢を受けて苦戦を強いられてきた小売業界のトップ企業であるウォルマートは、オンライン=Webサイトやアプリとオフライン=実店舗を組み合わせ、顧客に最も適した形で商品やサービスを販売する「オムニチャネル」によって、売上や利益を伸ばしています。
ウォルマートの事例は、いわゆる「IT企業」以外の業界であってもテクノロジーを取り入れビジネスモデルを刷新することの重要性を示唆していると言えます。ウォルマートほどの巨大企業でも、DX推進によって新たな成長へとつなげることができたのです。
ウォルマートだけではなく、日本でもDX推進によって新たな成長の可能性を模索する企業は増えています。ここでは、「攻めのIT経営銘柄(DX銘柄)」の中から2つご紹介します。
コマツは、2020年の「DX銘柄」の中でもグランプリに選ばれています。DX銘柄評価委員会のコメントでは「日本の製造業のデジタル化の魁的企業」とされており、政府にとって望ましいDXのあり方を実現する模範的な存在と目されていることが分かります。
コマツのDXを具体化したサービスの一つが、工場内や離れた拠点の機械を一括管理しインターネット上で稼働状況を閲覧できる「コムトラックス」と呼ばれるものです。もともとは機械の盗難防止を目的として構築されたサービスですが、現在では部品交換や燃料消費の効率化を顧客へ提案するなどの材料として用いられるようになっています。
また、2019年に発表された中期経営計画では、テクノロジーによって顧客のみならず業界全体や社会全体の課題を解決することにも目を向けた「スマートコントラクション」を掲げており、ドローンによる高精度3次元測量、3D設計データ作成などのサービスを次々に発表しています。
2020年まで、5年連続で「攻めのIT経営銘柄」に選ばれている企業の一つがアサヒです。ウォルマートと同様、アサヒの属する酒類・飲料・食品業界も、テクノロジーの発達による影響で製造過程やマーケティング方法、物流などさまざまな業務プロセスの刷新の可能性が指摘されています。アサヒは、グループ経営理念「Asahi Group Philosophy」に基づき、各事業会社の“稼ぐ力の強化”“新たな成長の源泉獲得”“イノベーション文化醸成”のための成長エンジンとしてDXを位置づけています。
具体的には、DX戦略を「ADX戦略モデル<Asahi Digital Transformation>」として体系化し、10個の戦略テーマを中心にした「ADX戦略マップ」を計画的に実行しています。商品パッケージデザイン案を生成するためのAI技術や、架空の商品棚を再現するVR商品パッケージ開発支援システムの開発などを実現しています。
DX事例については下記記事もぜひご覧ください。
ただITに投資すれば、DX推進や先進的なビジネスモデルを展開できるわけではありません。目指すべきDXのゴール・ビジョンから逆算して現行のIT資産やIT投資先を見直し、守りと攻めの割合がどれくらいになっているのかを評価する必要があります。
攻めが少ないようであれば、IT投資全体のパイを大きくするのか、あるいは振り分け先を見直すのか検討することになるでしょう。攻めの投資もできているのであれば、それがビジネスモデル変革につながっているのか評価することになります。
守りと攻めの概念によって、IT投資を適切に評価しやすくなります。自社の投資評価の参考にしていただければと思います。
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