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※本記事は、ブレインパッドが運営する人工知能ブログ「+AI」に掲載されている記事の転載版になります。
原材料を調達して製品を生産し、その品が消費者の手元に届くまでの流れを最適化する取り組み、サプライチェーン・マネジメント(以下、SCM)。
SCMは、製造・流通業界にデジタルの仕組みが普及する中、急速に発展した分野の一つです。
そして近年、各社に蓄積された膨大なデータを活用し、AIの仕組みと掛け合わせることで、新たな価値を生み出す取り組みが本格化しています。
今回は、新たな発展が見込まれる「SCM×AI」という分野にフォーカスし、先進事例をご紹介していきます。
2000年以降、組織や企業の枠組みを超えた横断的なSCMシステムが普及を続けてきました。
そして近年、ストレージのクラウド化やセンサー技術、位置情報技術、IoTなどの発達が進む中、サプライチェーン全体から生み出されるデータは極めて膨大な量になっています。
その一方で、多くの企業はそれらのビッグデータを十分に活用できていません。
この背景には、蓄積したデータの存在には気付いていながらも、「どのように活用すれば、更なる売上向上やコスト削減に繋がるのか、わからない」と考える方が多い、という要因があることでしょう。
これまでであれば、リアルタイムで増え続けるデータを前に、打つ手が見つからない、といったケースがほとんどだったかもしれません。
しかし近年、AI関連の技術が発展を続ける中で、データ活用に関する新たな可能性が見出されています。
SCMデータを活用して事業の成果に繋げたケースとしては、主に次のようなものが挙げられます。
製造・流通業界では、ビッグデータの活用によってリードタイムの短縮や遅延防止を図る取り組みが増えています。
例えば、ある米国の配送会社は、配送車に取り付けたセンサーとGPSからドライバーの運転状況などの情報を収集することで、リードタイムの短縮が実現したそうです。
ここで得られたビッグデータを分析し、最適な配送ルートを導くことで、コスト削減や顧客体験の向上にも繋げることができます。
また、AIを自然言語処理に活用して、社内外に点在する情報を元に、各種リスクを事前に把握する取り組みが広まっています。
例えば、各国法規制の変更や自然災害リスクといった、社外で起きた出来事への早期対応は欠かせないでしょう。
また、社内においても、全社的に周知されていないリスクがあれば、迅速な対応及びリカバリーが望まれます。
ここでは、人間が介在するとコミュニケーションに遅延が発生するような事象に対して、AIが膨大な量の自然文をリアルタイム処理することで、社内外に潜在化したリスクの早期発見が行われています。
製造業の現場においては、IoTセンサーやAIを活用した機械設備の監視、予知保全の取り組みによって、工場全体の生産性向上・稼働率低下の抑制を行う取り組みが広まっています。
例えば、これまでは活用できていなかった機械のログデータをIoTセンサーによって収集した後にAIが稼働パフォーマンスを測定。
ここから人間では気付けない異音等を検知することで、異常の早期発見(例:アラートによる通知)に繋がっています。
他にも、機械の故障や不具合を先回りして察知する「予知保全」により、生産ラインの突発的な停止を回避する取り組みも普及しつつあります。
これらの事例は、生産工程の想定外の事態を排除し、稼働率を最大化している象徴的なケースといえるでしょう。
とある大手物流会社の場合、倉庫内作業の改善およびサプライチェーン全体の効率化を目指し、AIを活用した取り組みを実施しているそうです。
これは作業員に名札型ウェアラブルセンサーを着用してもらい、その行動データを収集・分析するというもので、作業が渋滞・停滞している箇所を特定するためのものです。
この取り組みでは、AIが導いた「混雑しがちな棚の周辺の作業時間を分散させる」という解をヒントに、作業員ごとに異なる作業時間を割り振ったところ、従来よりも作業効率が向上したとされています。
この他、工場の製造ラインにおいては、AIの深層学習(ディープラーニング)や画像処理技術を応用した不良品検知の仕組みが活用されています。
ここでは、実際に撮影した食品の動画を教師データとして、AIが良品・不良品を判定するロジックを自ら学習。
目視による検査をAIに切り替えることで、作業員の業務付加軽減や人手不足解消へと繋げています。
AIを活用した需要予測によって、経営判断や意思決定をサポートする事例も急速に増えています。
近年は、サプライチェーンのグローバル化や消費行動の多様化が進むことから、経営者の経験と勘だけに基づいた意思決定は困難と言わざるを得ません。
そこで、過去の販売履歴や顧客の行動データ、各種キャンペーンで取得した顧客データ、天候、季節性などを元に、AI需要予測を行う取り組みが広まっています。
仮に、始めは予測精度が低かったとしても、機械学習の特性を生かして学習を重ねることで、予測誤差率(予測と実績の差異)は最小化することができ、結果的に熟練者と同程度の精度が期待できる、とされています。
あるリゾート会社では、GPSとRFID機能を内蔵したリストバンドを来園者に装着してもらうことで、一人ひとりの行動・購買情報を収集しています。
この仕組みによって、“どの来園者が、いつ、どこで、どのアトラクションを利用しているか“を明らかにすることができ、混雑の解消が実現しているとのことです。
加えて、このリストバンドに人気アトラクションの予約機能を搭載し、利用者の行動を予め把握することで、数億ドル単位のコスト削減にも繋がったとされています。
業務プロセスの最適化のみならず、時々刻々と変わる状況に応じてオペレーションの最適解を導き出す取り組みは、SCMとAIを掛け合わせた事例の最大の特徴と言えるでしょう。
近年は、スマートデバイスやIoT関連のソリューションも多様化していることから、今後も当該分野の更なる発展が見込まれます。
もしも、貴社の社内にSCMデータが眠っているのであれば、今後もSCM×AI分野の注視をお薦めします。
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